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036_予想外の決着(後編)

本話にて柔道編終了となります。 本当に分割して良かった。

分割しなかったら、またアホ長く、読むのが疲れる処でした。

「・・・どうやら、俺たちは一番肝心なことを見落としていたのかも知れないな」


大阪府高校柔道選手権大会の男子部門決勝、二勝二敗のイーブンで迎えた大将戦。

つまりは蒼の引退試合で、試合開始早々に総監督である猿石が零した一言だった。


「見落としていた一番肝心なこと・・・それは一体どういったことでしょうか?」


皆が絶対の信頼を置く猿石の言葉に、不安を感じた部員一同を代表して主将の中根

が質問をする。 何といってもこの試合は、この場の全員にとってかけがいのない

大切な一戦なのだから、僅かばかりの不安要素ですらも気になって仕方ないのだ。


心配げに訊ねてくる中根に、猿石は小さく顎を動かすことで試合を見る様に促す。


神坂(みさか)の様子を見るんだ。 そして、お前が初めて美倉に出会った時のことを思い

 出してみるんだ・・・俺は、初めて美倉を見た時のことを思い出してしまった。

 恥ずかしながらいい年をして、あいつの美しさに見とれてしまい、あいつの言葉

 を聞き漏らしてしまったものだ。 教師として有るまじき行為だと猛省したぞ」


「 「 「 あぁっ⁉ 」 」 」 中根だけではない。 斎藤や高梁迄もが声を漏らす。


そして蒼と対峙する神坂の様子を(うかが)い、確信する。 過去の自分たちと同じだと。

蒼の現実離れした美貌を目の当たりにして、完全に魂を抜かれてしまっていると。


「あいつの・・・美倉の最も恐ろしい初見殺しの武器は、速さでも対応力でも技の

 キレでも無くて、あの美貌・・・顔面こそが美倉の持つ初見殺しの最終兵器だ」



「 「 「 「 「 「 ・・・・・・・ 」 」 」 」 」 」



あまりにもアレな内容だが、此処の誰もが猿石の言葉を認めるより他はなかった。




   ◇ ◇ ◇




『始め』の掛け声の後も最強君はその場にボーっと・・・突っ立ったままで居る。

流石にコレは油断では無いと思った。 油断では無く困惑しているのだと思った。


恐らくは俺を女子の様な見た目の男子ではなく、本物の女子だと思っているのだ。

そして勝ち負け以前に、試合そのものにどう対処すべきか自問自答しているのだ。


・・・多分は審判さんもそんな感じ。 目を丸くして、俺の顔をガン見している。


まぁ男子の大会、それも決勝戦で、しかも大将戦で女子が出てきたら戸惑うわな。


・・・本当は女子じゃないのに。 なんて云っても仕方ないのは身に沁みている。


でも何故か、観客だけは固まってないんだよな? 寧ろ盛り上がっているくらい?

・・・予想外過ぎる展開を楽しんでいるのかな? 当事者以外はそんなものかも?


・・・・・・・・・


でも、何時までもこうやって睨めっこばかり・・・なんてわけにはいかないよな。


・・・俺は最強君に向かって、ゆっくりと近付いていった。




   ◇ ◇ ◇




流石は日本最強、組合う迄の緩さとは打って変わって、組んでからの動きは速い!

何万回・・・いやそれ以上だろう反復の成果。 技が身体に沁み込んでいるのだ。


だがその動きの速さも、掛けてくる技も予測済みなんだよな。 当然反応出来る。

強力な引き手に(さき)んじて、しゃがみ込もうとする最強君の正面に回り込んでいく。


回り込ませまいとする吊り手対策は、試合前に済ませてあるから抵抗を感じない。


吊り手の力を逃がす為に、最初から帯を緩く締めていたのだ。 帯を強く締めると

腰が(くび)れてしまって恰好悪い・・・なんて理由では決してない! 吊り手対策だ!


・・・だから折角の強力な吊り手も、俺の道着を(はだ)けさせる効果しかないのだ!!


・・・・・・・・・


背負い投げに入った前(かが)みの体勢で、相手に正面に回り込まれたらどうなるのか?

当然の様に、自身の動きに重力が加わった勢いで、相手に身を預けることになる。


・・・どうぞこのまま、私を投げて下さいな、と、云わんばかりの体勢のままで。


・・・俺は自由な左手を伸ばし、最強君の奥襟を掴んで巴投げの動作に移る。

・・・腕力は要らない。 最強君の動きを、そのまま後方に流すだけで済む。



ただそれだけで、最強君の身体が簡単に、そしてきれいに宙へと浮かび上がった。



そこまでは・・・完全に、対神坂戦シミュレーションA類の展開そのものだった。




   ◇ ◇ ◇




やはり片襟だと一本は無理だった。 最強君は空中で身体を(ひね)って背中から落ちる

ことを防いだ。 結果は技あり、まずまずの、いや、それ以上のアドバンテージだ。


というのも俺の巴投げは、試合を決める技では無くて、状況を造る為の技だから。


俺は巴で投げた勢いのまま、仰向けになった相手の腹に(またが)ることに成功している。


・・・その為の、寝技に繋げる為の、今の状況を造る為の技が俺の巴投げなのだ。


寝技に持ち込むことが俺の勝利確定条件なのだ。 俺は絶対有利になった今の状況

にあってにやりと笑みを浮かべ、俺の下で反撃の機を(うかが)う最強君を煽ってやった。

今更本気になった処で、最早手遅れなんだよ! という思いを、表情に浮かべて。



俺の自信に満ちた笑みを見て・・・最強君が(ひる)むのを、表情が強張るのを感じた。



さぁどうする? 右に回るか、左に回るか? それとも起き上がろうとするのか?

どうやってこの状況から逃れるつもりだ? 抑え込まれないように(あらが)うつもりだ?


・・・どんな抵抗を試みた処で、完全に弾き返してやるがな!!




   ◇ ◇ ◇




『 技あり!』 審判の声がはっきりと聞こえた。 何とか一本負けは避けられた。



・・・俺は、今迄何を考えて・・・何をやっていたんだ⁉



大事な試合の真っ最中に、相手の美しさに見とれてしまい、華奢な外観に油断して

しまい、考えも無しに無防備な体制で技を掛けて、見事に(せん)を取られてしまった。



咄嗟に身体を捻って背中を浮かせたが、一本でもおかしくない投げられ方だった。



・・・だがギリギリ踏み止まった! 踏み止まることが出来た! さぁ反撃だ! 


神坂の目は自分を投げた相手の姿を求め、捉えた。 自身の腹の上に跨っていた。


「 ( (かる)⁉ ) 」 思わず声が出そうになった。

腹に暖かさを感じるだけで、重さは感じない。


女の子って・・・こんなにも軽いんだ? それは神坂にとって新鮮な驚きだった。


普段から100kg超えの、自分より重い相手と好んで練習している神坂にとっては、

公称53kg、この試合時には50kgに迄痩せてしまっていた蒼は驚く程に軽いのだ。


その驚きで、少しだけ集中力が途切れてしまった。 そう、ほんの少しだけだが。


その状態で蒼の姿を見てしまった。 道着の左側が完全に開けてインナーが見えて

しまっている。 蒼の艶めかしい身体のラインがくっきりと浮かび上がっている。

身体にフィットしたシャツの奥に隠された、ブラがうっすら浮かび上がっている。


「 ごふっ!! 」


純情童貞神坂は25000の精神的ダメージを受けた。 純情童貞神坂はフラフラだ。


フラフラの状態で蒼と視線が合ってしまった。 蒼がにこりと笑った。 嬉しさを

隠すのが下手な蒼は、にやりと笑ったつもりでも、にこり顔になってしまうのだ。

獰猛な獣が獲物に見せる笑顔のつもりが、美しい女神の笑顔になってしまうのだ。


「 ごぶっふうっ!!! 」


純情童貞神坂に75000の追加ダメージ。 純情童貞神坂は強く魅了され石化した。




   ◇ ◇ ◇




おかしい? 全く反応が無い? 逃げようとも、抗おうともしない。


・・・・・・・・・


成程な・・・この()に及んでも尚、俺を舐めているということだな?

俺の様な軽量級に抑え込まれた処で、いつでも返せるというのだな?


立ち上がって素早く動き回られるよりも、このまま寝技勝負になった方が楽だと?

俺相手の寝技勝負なんか、俺を知る必要なんか無く、完全に自分が勝つものだと?


本当に、俺を・・・俺の寝技を、舐めてくれるじゃないか?


だったら、教えてやんよ! 体格や腕力だけではない寝技の世界を! 奥深さを!


俺は最強君に跨った姿勢から、そのまま縦四方固めに移った。 抵抗は無かった。


『 抑え込み!』 審判の声が上がった。




   ◇ ◇ ◇




純情童貞神坂は石化状態のままだ。 蒼は追加で抱き着き攻撃を仕掛けた。

完全にオーバーキル。 純情童貞神坂は声を上げる事すら出来なくなった。




   ◇ ◇ ◇




「よりにもよって、縦四方固めとは・・・」 猿石が苦々しく零す。

その呟きを耳にする周りの者も、猿石に対する完全な同意しかない。


・・・本当に、何でよりにもよっての縦四方固めなのかと?


恐らく神坂は蒼のことを、完全に女子だと勘違いしている。

それも人間離れした美貌を持った、飛び切りの美少女だと。


その美少女に、覆い被さる様な姿勢で、優しく抱き着かれたらどうなるか?


それも、思春期真っ盛りの高校男子が! ・・・当然の如く腑抜けになる。


「美倉の寝技は柔らかい。 その柔らかさが本当に厄介だったのだが・・・

 まさか相手を強く魅了して、戦意を完全に奪うという効果迄あったとは?」



そう、蒼の寝技は力で締め上げて固めるのではなく、柔らかく包むようにして、

相手に反撃の機会を与えた上で、反撃の初動を弾くという技術型の寝技なのだ。


全ては蒼の腕力の無さが生んだ技なのだが、学生レベルでは先ずお目には掛かる

ことが出来ない、極めて厄介な、返すタイミングが非常に掴み辛い代物なのだ。


実際に、学生時代は寝技を得意としていた猿石ですら、返せた試しがない程だ。



しかし目の前の試合では、それとは異なる威力で、相手を完全に抑え込んでいる。

優しくそして柔らかく包むように抱き着くことで、相手の戦意を奪い去っている。



「命名するなら美人四方・・・いや、神美貌固めといった処か?」 猿石は呟く。



上四方(かみしほう)固めではなく神美貌(かみびぼう)固め・・・上手い命名だ!)と、斎藤はそう思った。

斎藤以外の者は( いや、今は上手く言わなくてもいいのでは?)と、そう思った。




   ◇ ◇ ◇




抑え込み開始より

20秒経過(有効) : おかしい? 一向に動く気配がない? どしたの?

           顔を覗き込んでみる。 ひょっとして寝てるのか?

           一応は起きてるよな? 何で逃げようとしないの? 


25秒経過(技あり): ・・・ええぇーっ!!! 何でじっとしてるのよ⁉


『 技あり! 合わせて一本! 』 そして決着が付いた。 一応は蒼の完勝である。




《《《《 ウワアアアアアアァァァァァ 》》》》 会場内が大喚声に包まれた。




『大変だ! 神坂君が高校生相手に敗れた! あと一つ残して100連勝ならず! 

 相手は何と、《リズ》のCMで注目を集めている女神、彼女の名前は美倉蒼!』

『確か帝山の女王って、入学以来ずっと首位をキープしてないと駄目なんじゃ?』

『文武の両道に女神の美貌迄が加わって、まさかの三刀流⁉』

『狡い! どんだけ神様に愛されているのよ⁉』

『確か美倉って・・・まさか、あの美倉じゃないよな?』

『 『 『 『 『 ・・・・・・・・・ 』 』 』 』 』


『 『 『 『 『 ( こうしてはいられない! 早速取材を!! ) 』 』 』 』 』




   ◇ ◇ ◇




絶対王者のまさかの敗北。 しかも試合時間が1分にも満たないという一本負け。

その完膚無き迄の負けっぷりに加えて、絶対王者を破った少女の圧倒的な美しさ。

共にそのインパクトは絶大。 一瞬の沈黙の後、会場は喚声と歓声の大嵐となった。

神坂が負けたことによる喚声と、帝山優勝を祝う歓声とで会場内は騒然となった。


そんな観客席や取材陣の騒動とは裏腹に、帝山柔道部一同は静寂に包まれていた。

不可思議な結末に、首を(かし)(なが)ら陣営に戻った蒼を、微妙な面持ちで迎える一同。


「・・・なんか思ってたんと違う?」 という蒼の感想は無理もないものだろう。


「それでも一応は、取り敢えずは日本王者に勝ったんだ。 よくやった!!」

と素直過ぎる微妙な評価を下す猿石の笑顔は、何処かしら引き()ったものだった。

そのあまりな反応に、中根ですら『他に言いようが無いのか?』と思ったものだ。


だがそれでも帝山陣営は一応勝者。 勝者だから最低限の喜びと余裕が存在した。


しかし敗北した大阪東洋陣営にはそんなものは無い。 何とも言えない微妙な空気

だけが陣営を包み込んでいた。 絶対エースの敗北と『アレはどうしようもない』

というチーム全員からの共感。 『あんな相手に勝てるわけが無い!』チーム童貞

の心は一つになったが、一つになったことが逆に虚しかった。 空気が重かった。


そんな笑顔無き二つの学校の礼を以って、大阪府高校柔道選手権大会は終了した。


・・・その雰囲気は、まるで葬式の様にも感じられた。 と、後に関係者は語った。




   ◇ ◇ ◇




付き纏う取材陣を沢瀬オーラ(覇王の波動)で蹴散らした後、柔道部と映研部による引退&祝勝会

が行われた。 場所は帝山生徒が頻繁に使用するという学校近くのファミレスだ。


茜という極太のスポンサーを得た会食だから、予算は青天井。 さぞ賑やかなもの

になるかと思えば、意外に落ち着いている。 というのも主役が至って静かだから。


会食の主役である蒼が、昂輝から奪った制服を頭からすっぽり被って、眠っている

かの様に、大人しく座ったまま動こうとしないのだ。 時折上半身を揺らすので、

起きているだろうとは推測出来るのだが。 飲食どころか口を利こうともしない。


蒼の奇行子(きこうし)ぶりには慣れた面々だが、初めて見るパターンなので色々と推察する。


例えば中根や斎藤は考える。 『万感の思いを胸に、溢れ出る涙を隠す為だろう』

これが鹿原や田辺の場合は、 『直ぐ紙袋に入りたがる猫みたい。可愛過ぎる!』

となり、五十嵐や伊藤だと、 『また意味不明な行動を始めたよ!この謎生物は』


・・・とかなる。 蒼を知る者の殆どが主流派の五十嵐・伊藤派閥に属する。

でもにやこたは鹿原・田辺派閥だったりする。 この二人も少し危ないかも?


何にせよ、これらの派閥集団は蒼との付き合いが短い為、蒼を理解出来ていない。


そして蒼研究の熟練者である沢瀬と昂輝でさえ、完全には蒼を理解出来ていない。

『多分、眠くなってきたからぐずり出したのだろう?』 程度の認識だったりする。


・・・・・・実態はもっと変態的な、且つ実利的な行動なのである。


( すーはー、すーはー、 ・・・やっぱり昂輝の匂いは、落ち着くなぁ・・・ )


まさかのアロマセラピーだ。 神坂戦での不完全燃焼感による、もやもやとした胸

(つか)えを、昂輝の匂いを嗅ぐことで癒していたのだ。 そんなこと誰が判ろうか!


・・・・・・・・・


ちなみに蒼の話では、昂輝は白檀(びゃくだん)の香りとのこと。 それなら落ち着くのも道理。

とはいえ、やはり変態的ではなかろうか? 多分、世間の常識に照らしてみれば。


・・・そんな些細なことを、気にする様な蒼ではないが。


蒼は世間体や周囲の空気等を、気にしたりはしないのだ。


その蒼に、世間体や空気を気にする五十嵐が問い掛ける。

折角の祝勝会なのだ。 賑やかに終わらせようと考えて、

とにかく盛上げようと、主役に喋らせようと思ったのだ。


「美倉はさぁ、藤堂との約束はどうするの? 望みに応えてくれるらしいけど?」


物欲は乏しいが義理堅い美倉の事だ。 何とかリクエストを(ひね)り出してくれる筈。

美倉が悩むなら、周りがアレコレと考えてくれる筈。 その過程で場が賑わう筈。


・・・そういった展開を考えての発言だった。


そんな五十嵐らしい気配りを、蒼の天然が軽く駆逐することになった発言がコレ。


「じゃあ・・・今日は昂輝と一緒の夜を過ごしたい。 昂輝の香りに包まれたい!」



『 『 『 『 『 ( ・・・ えっ ・・・ ) 』 』 』 』 』



・・・・・・・・・



『 『 『 『 『 ええええぇぇっ!!!!! 』 』 』 』 』



・・・・・・災害級の大事故(だいじこ)が発生した。




   ◇ ◇ ◇




蒼の発言に他意は無い。


純粋に白檀の香りに包まれて、癒され乍ら眠りたいという思いを吐露しただけだ。

ただ白檀の香りという大前提が、蒼を除く余人には理解出来ないだけの事なのだ。

BL脳ならざる、田辺を除く余人でさえ、BL展開を想像してしまうだけの事なのだ。


この場でBL展開を想像しなかったのは、蒼をよく知る昂輝と沢瀬の二人だけ。


二人は考える『蒼(君)は久しぶりに俺(藤堂君)と一緒に寝たいだけなのだ』と。


二人共に正鵠を得ているが、(もたら)される結果は昂輝と沢瀬では大きく違ってくる。


沢瀬は他人事だと聞き流せるが、昂輝はそれが出来ない。 当事者になるから。

しかも下地は十二分にある。 噂だけなら昂輝と蒼はラブラブカップルなのだ。

その噂を確実に過熱させるだろう蒼の発言に、流石の昂輝(ぼくねんじん)も浮足立ってしまう。


昂輝は蒼程極端なマイペース人間では無い。 少しは他人の目を気にしたりもする。

だから全員からの視線が痛いのだ。 特ににやこたが放つ射殺すような視線が痛い。


そして五十嵐、自分の発言がとんでもない事態を引き起こしてしまったと大焦り。


それらを見て沢瀬が助け船を出す。 正直昂輝独りなら放置しただろうが、五十嵐

は放置出来ないと考えたのだ。 沢瀬にとって五十嵐は蒼の次に大事な友人だから。


「蒼君は久しぶりに、三人仲良く川の字になって眠りたいのですよね?」


優しい口調ながら、蒼にだけは判る圧が籠められていた。 蒼は身震いを覚えた。

本当は昂輝と二人だけで眠りたかった蒼だが、沢瀬の言葉には従うしかないのだ。


「・・・うん、三人で一緒に眠りたい」 蒼の言葉に、昂輝と五十嵐は安堵した。



『 『 『 『 『 ・・・あぁ、そういうことね 』 』 』 』 』



普通の高校生なら考え難い、男女と男の娘による川の字就寝。

だが他ならぬ蒼の事だ。 十分にあり得ると誰もが納得した。



沢瀬の機転でこの場は丸く収まることになり、その後はそれなりに盛り上がった。



ただ、昂輝のBL疑惑が晴れることだけは無かった。

興奮した田辺が延々と昂輝&蒼談義を続けた為だ。




   ◇ ◇ ◇




まさかこんなことになるなんて、あの時は考えもしなかった。

だが絶対に望みに応えると、宣言した以上は応えるしかない。


幸いにも沢瀬を含めての川の字だ。 蒼と二人きりでないことは本当に助かった。

何と言っても目の毒過ぎる蒼のパジャマ姿・・・てかネグリジェだよな? それ?


「お前、普段からそんなのを着て寝てるのか?」 「うんにゃ、沢瀬が居る時だけ」


そうか・・・このエロさは沢瀬の好みという事か。 似合い過ぎていてヤバいな。

いや本当にヤバ過ぎてヤバ過ぎてヤバ過ぎる。 二人だったら絶対に理性が死ぬ。


「蒼君に藤堂君も、そろそろ寝ることにしませんか?」 「おう、寝るぞぉ!」


沢瀬のネグリジェもかなりエロい。 俺だけ完全に場違いって感じだ、狙ったな?

まぁ俺だけ野暮ったいパジャマ姿なんてことはどうでもいいが。 寝れば一緒だ。



・・・・・・・・・



蒼を挟んで沢瀬と川の字になるなんか、小学生の時以来だ。 大体5年ぶりかな?


蒼は相変わらずの寝つきの良さだな。 でも昔と違って抱き付いては来ないんだ?


・・・・・・・・・


昔からこんな寝相だったか? こんな身体を丸めるような? 自身を(いだ)くような?


・・・・・・・・・


「・・・藤堂君? どうしたのですか? 眠れないのですか?」

「すまない、布団をはぐるが構わないか?」 「・・・はい?」


俺は改めて蒼の寝姿を確認し、沢瀬に質問した『 いつもこんな姿勢なのか?』と。


「・・・姿勢ですか?」 「 手だ。 いつも胸に手を当てて寝ているのか?」

「 そうですね・・・大体いつも胸に手を当てていますね」 「・・・そうか」


胸に手を当てて眠る、胸が・・・心臓が痛むからだ。 だからドクターストップか。



・・・やはり、蒼に柔道は無理だったという事か。



「・・・藤堂君?」 「悪かった・・・もう寝るか。 電気を消すぞ」

「藤堂君・・・気にしてもどうにもなりませんよ?」 「解かってる」



・・・やはり、沢瀬も気が付いていたという事か。



・・・・・・・・・



「蒼君への悪戯は厳禁ですからね?」 「・・・解かってる、心配するな」



冗談か・・・沢瀬に気を遣わせてしまったようだな。



その夜、俺たちは本当に久しぶりに、三人で川の字になって眠った。

何か、柔道の試合がRPGみたいになってしまった。 中盤まで真面(まとも)だったのに?


抱き着き攻撃 :柔道・縦四方固めで検索して下さい。


縦四方固めとは:マウント状態から一番移行し易い寝技だからです。


抑え込み時間についても、国際ルールではなく講道館ルールとしました。


チーム童貞 :強い柔道部はね、大体がね、こんなもんなんですよ。 華が無い!

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