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033_目の前にある現実

物語の序盤にあたる柔道編がいよいよ山場を迎えます。

・・・てか、柔道なんか殆どやってませんでしたよね?

でも、物語的に多少は意味があるのですよ、柔道編も。


それにしても、蒼の独演パート以外は書くのが大変です。

蒼の言動は考えることなく、すっと書き上がるのですが、

他のキャラの言動・思考はなかなかに難しいものですね。


おまけに少し油断したら、また寝込む羽目になったし。

修学旅行とは殆どいえない長崎旅行・・・忙しかったけれど楽しかった気もする。

色々あったが、色々あった分余計に印象深く、大勢で動いた分余計に思い出深く。


・・・・・・・・・


うん、やっぱり楽しかったんだと思う。 相当に楽しかったから無茶をしたんだ。


・・・・・・・・・


無茶をしたから今病院に居る。 入院してから3日目。 反省開始から3日経った。


自分の身体の弱さも恨めしいが、己の馬鹿さ加減も嫌になる程に恨めしい。

少しばかり楽しかったくらいで、我を忘れてしまってどうするというのだ?


朝5時にホテルを出てから、戻ったら22時だった。 実働17時間、2日分の稼働量。

しかも前日も、その前の日も忙しくしていたのだから、完全にオーバーワークだ。


・・・我ながら無茶をし過ぎたと、反省しきりの3日間。


いい加減に反省する事にも厭きてきた。 いい加減に眠り続ける事にも厭きてきた。


・・・だからそろそろ目を覚ましてくれないか? 情けない俺の身体よ!

もう窮屈なICUで、ふわふわ漂い続けるのは、嫌だって言ってるんだよ!!


・・・外に遊びに行こうにも、紐(?)が繋がっているから部屋から出られないし。

かといって頬を(つね)ったり、引っ(ぱた)いたりしようにも、スカスカと手応えが無いし。


取り留めもなく思案に暮れているうちに、今日も終わろうとしているではないか!


・・・これ、どうやったら戻れたっけ?


確か、前は隣に居た光る人に文句ぶちまけ捲くったら、トン! と、肩を押されて、


( トン! ) そうそう、こんな感じに押されたら・・・背中から・・・!?


ん⁉ おおっ! うおおぉ! 吸い込まれる! 俺の身体に吸い込まれていく!!


《 ドンッ!!! 》 ラッキー! 着地、てか、着体成功!!


不肖、(わたくし)美倉蒼! 只今を以ち幽体離脱状態から3日ぶりの帰還と相成りました。

明日より学園に復帰! 粉骨砕身、粒粒辛苦の覚悟を以って、最後迄戦い抜く所存!




・・・なんて事になる筈もなく、そのまま入院継続中。 現在入院開始から6日目。

つまり見た目上は、意識を回復してから3日目という事だ。 そろそろ退院じゃね?


「あと2日様子を見ましょう」 いつも思うのだが、医者って大概ノリが悪いよね?


「ノリで治療が出来たら、医者も医学も不要ですからね」 うん、主にこういう処。


・・・・・・・・・


俺的には、たっぷり身体を休めたから元気一杯なのだが、身体の方に信用が無い。


何といっても入院に至る過程が悪い。 事故に遭ったわけではなく、ホテルの部屋

で倒れたのだ。 眩暈を覚えて、ブラックアウトした処までは記憶が有るのだが。


気が付いたらICUでふわふわと浮かんでいた。 何故か直ぐに身体に戻れなかった。

というか、身体への戻り方が思い出せなかった。 幽体離脱なんか慣れてるのに?

慣れてる筈なのに・・・何故か身体への戻り方が思い出せない状態になっていた。


つまり原因不明で倒れた上に、意識不明の重体。 そんな状態が3日も続いたのだ。


・・・これでは、心配するなという方が無理な話だ。


・・・姉ちゃんと母ちゃんにも思いっ切り心配を掛けさせたし、多分は泣かせた。


・・・・・・・・・


何とかしたいと思っていても、何とも出来ない状態が続いているのが俺の身体だ。


・・・せめて、医者の指示だけは、最低限守る様にするしかない。


「・・・そこは最大限守るべきなのでは?」

「そんなことしたら学校行けないじゃん! 一生入院してろってなるじゃん!」


意識が戻ってから面会が許可されるようになった。 1日3名が上限だが。

3名の内、2名は姉ちゃんと母ちゃんで固定されているから、実質1日1名。


一昨日が沢瀬で、昨日が田辺、そして今日は昂輝が見舞いに来ている。

昨日の田辺もそうだったが、昂輝もスマホで俺との会話を録音している。


「まるで取り調べを受けている気分だな」 「すまん、嫌なら止める」


田辺の時もだが、見舞いに来たくても制限で来れない連中への配慮だから断ること

は出来ない。 病院が特例で認めてくれた処置を、何か気分的に嫌では断れない。


沢瀬なんかいつもの大型カメラを構えていたくらいだからな。 何で許可された?


・・・・・・・・・


沢瀬は、ここの医師たちからも恐れられてるからな・・・許可なんか要らないか?


「いつ頃退院出来そうなんだ?」 「ん? 未確定だけど明後日には判りそう?」

「疑問形か?」 「未来予知なんか出来ないからね」 「そうか・・・そうだな」


昂輝との会話は楽だ。 必要最低限な事しか話さないし、感情を露わにもしない。

だからお互いに気を遣わなくていいし、意味の無い罪悪感に(さいな)まれることも無い。


・・・兎にも角にも、泣かれることが一番辛いから、泣かない昂輝と沢瀬は楽だ。


・・・・・・・・・


「随分と私物が増えたな」 昂輝が病室を見回した後、呆れた様に小さく零した。

「欲しい物は遠慮なくポチってるからな!」 俺専用の病室だから好き放題だぜ。


今もボリュームを落としているとはいえ、100インチモニターがしっかり稼働中。


「ニコラス・ケイジか・・・お前、こいつが好きだったか?」

「うんにゃ、華が無いから好きじゃない。 でも主演作品はどれも面白いから」

「確かにな、でもこれは観たことが無い」 「一緒に観る?」

「いや、時間的に無理」 「部室に並べとくから、好きな時に観ればいいよね」

「あぁ、そうする。 そろそろ時間だけど、明日は五十嵐が来たいと言っていた」

「あいつは心配性だからなぁ・・・」 「仕方ない、まだお前に慣れてないから」


五十嵐はとてもいい奴なんだけど、直ぐに感傷的になるところがあるんだよなぁ。


・・・本当に、泣かれさえしなければいいんだけど。




   ◇ ◇ ◇




3日も意識不明だったというのに・・・実にあっけらかんとしたものだった。

命を落としかけたところで、蒼はやはり蒼だった。 呆れ、そして安心した。

病室でへらへら笑いながら、俺に菓子や果物を押付けて来る蒼にほっとした。


解かっている筈なのに、まるで何も知らないかのような、自然な笑顔だった。



・・・・・・意外と先に逝く者に限ってそんなものだったりする。



・・・本当に恐れと悲しみに苛まれるのは、残される家族の方だ。



蒼の事だ、当然にそれも理解しているだろう。 それでもあいつは笑っていた。


喜怒哀楽を素直に見せる蒼だが、こんな時だけは自分を押し殺して笑顔を保つ。



それだけが自分に出来る、残る相手への唯一の思い遣りだと理解しているから。




本当に、あいつにまで泣かれてしまったら、俺も我慢が出来なくなっただろう。


あいつが最も嫌がっている・・・あいつの前で涙を見せることになっただろう。


・・・・・・・・・


そうならずに済んだ・・・ただそれだけが幸いだ。



しかし、忘れかけていた、暫くぶりの凶事だった。


・・・今回で3度目・・・いや、4度目になるのか?


・・・蒼が何日も意識を回復させなかったことは。




・・・それなのに、茜さんがあれ程に怯える姿を見たのは初めてだ。


弱弱しく肩を震わせて、涙を流し続ける茜さんを見たのは初めてだ。


・・・多分はずっと、俺たち子どもには見せなかっただけだろうが。



茜さんは・・・彼女は初めて、俺に、ひとりの女性としての姿を晒してくれた。


今迄はただの憧れだった存在が、不意に護りたいと願う女性に思えてしまった。


・・・思わず抱き締めてしまった。 拒絶されるかも? 等と考える間もなく。

気が付いたら彼女を、声を殺して泣き続ける茜さんを抱き締めてしまっていた。


抱き締めてしまってから初めて、(かぐわ)しい香りで自分の行為に気付いてしまった。

彼女から漂う甘美な香りで、自分の仕出かしに気付き、そして驚いてしまった。


・・・・・・・・・


彼女は俺の腕から逃れようともせずに、それどころか驚いた素振りさえ見せずに

・・・俺の腕の中で、大人しく泣き続けていた。 俺に身体を預ける様にして。


・・・・・・・・・


沢瀬には無論の事、あの蒼に迄気付かれている、茜さんへの、憧れにも似た想い。

そんな俺の気持ちを、機微(きび)(さと)い茜さんが気付いていない筈は無いと思っている。


・・・俺は、彼女に受け入れられている。 と考えてもいいのだろうか?


可愛い弟の友人として、だけではなくて一人の男として。 人間として。

そして彼女の横に立つ資格が有る、対等の存在として認められていると。


そんなことを考えても・・・自惚れてしまっても、構わないのだろうか?



・・・・・・あぁ、それにしても。



・・・本当にあの美人姉弟の二人ときたら、揃って俺の心を搔き乱してくれる。




   ◇ ◇ ◇




見舞いに行った日から4日目の月曜日、蒼は何事も無かったかのように登校した。

どうやら本人はいつもの通りと、風邪で休んだ時と同じ感覚で考えていたようだ。


だけれども、それが当然かの如くに、学校中が大騒ぎで蒼を迎えることになった。

あまりの騒々しさに蒼は目を白黒させていたが、まぁこれは無理の無い事だった。


先ずいくら箝口令を布いた処で、救急車に乗せられる姿を、救急隊員に緊急処置を

施される様を、多くの生徒に目撃されたことで重症であることが周知されたこと。


次にあのCMの15秒バージョンが、TV放送開始の1箇月も前からネット配信されて

おり、世界での総再生回数が5千万回を超えるという、驚異的な状態であること。


あとは単純に蒼の人気、上級生は勿論の事、下級生に迄庇護対象として愛されると

いう、蒼に言わせれば『勘弁してくれ!』な、愛されオーラを撒き散らす謎体質。


・・・・・・・・・


・・・本当に、蒼は愛されている。 よく『美人は3日で飽きる』というが、蒼は

例外だろう。 容姿に注目するのは最初だけで、知れば知る程に中身に魅了される。


我儘なくせに誠実で、理知的なくせにかなり天然で、冷淡なくせに人情味がある。

そんな矛盾を抱えた、直ぐに落ち込む陰キャなくせに、人懐っこい上に愛らしい。


そして何よりも強い。 どんな状況でも諦めずに前を向く強さこそが蒼の魅力だ。




   ◇ ◇ ◇




「多分今週一杯は休むかな?」 「でも、本当に元気そうだったから大丈夫だよ」


斎藤と高梁が蒼の話をしている・・・本当に高梁も変わったものだ。 この2人が

1年生の指導役を担当するなんて、一年前の高梁からは想像出来なかっただろう。


斎藤は陽気さと面倒見の良さで、高梁は人当たりの良さと優し気な外見で人気だ。

その人気者の2人が、1年生から訊ねられては、今日の蒼の様子を話聞かせている。


沢瀬が不満を零した程に、今日の昼休憩中蒼を独占したのがこの2人だ。

一応は、高梁の隣に八鹿も居たのだが、本当に居たというだけだった。


・・・・・・・・・


・・・高梁も八鹿も、知らないのだろうか?


2人が俺と蒼の次にネタにされていることを?


まぁ、知ってどうなるものでもないから、態々(わざわざ)教えてやることもないだろうが。


蒼も『程々にしとけよ』と、漫研の連中に注意をしていたようだし。


・・・・・・・・・


・・・それにしても、蒼が登校したというだけで道場内の雰囲気が明るくなった。


女子部の連中も含め休憩中の話題は専ら蒼の話だ。 口々に語る声が全て明るい。

男子も女子も、柔道部全員が蒼の復帰を、元気に登校して来たことを喜んでいる。


中根も蒼に『お前は笑顔が一番怖い』と云われ、少し落ち込んでから封印していた

笑顔を隠そうともせず、女子部の一年生から怯えられている。 本当に不憫な奴だ。


・・・だが、山田だけは笑顔を見せていない。


賑わう道場の中で、俺と山田の2人だけが、押し黙ったまま思案に耽っている。


・・・・・・・・・


動物並みに勘の鋭い山田だからこそ、蒼の僅かばかりの異変に勘付いたのだろう。


俺と沢瀬にしか気付けない様な、蒼の笑顔の晴れやか過ぎる程に澄んだ明るさに。


・・・・・・その、まるで空気の様な透明感に。 凪いだ湖面の様な穏やかさに。


あれは大切な何かを、諦めてしまった者の、捨て去ってしまった者の笑顔だった。


・・・・・・・・・


だから俺と山田だけが、こうして押し黙ったままに、ただ思案に暮れているのだ。




   ◇ ◇ ◇




男子部の猿石先生と女子部の望月先生の2人共が、練習の場に姿を見せていない。

臨時の職員会議が有ったりすると発生する事態だ。 滅多に無いが、全く無いわけ

ではないので、そういった場合のルールに従い、乱取りを中止することになった。


そして、解散の確認の為に、中根が職員室に行こうという段になって、ようやくに

上下ジャージ姿の猿石顧問が道場にやって来た。 制服姿のままの蒼を伴って。



( ・・・とうとう、この時がやって来たか。 )



練習終わりの礼で、猿石先生の横に並んで正座した蒼を見た時。


目を閉じて、静かに正座する蒼の、姿勢の美しさに感動した時。


俺は・・・いや、ここに居る全員が・・・蒼の退部を確信した。


・・・・・・・・・


誰もが無言だった。 やはり誰もが気付いていたのだ。


蒼の休む日が、寝込む頻度が、増し続けていたことを。


遠からず、この日が訪れることになっただろうことを。


・・・・・・・・・


そして、蒼が閉じていた目を開いた時、目が合った瞬間にはっきりと感じた。


六限目を終えた時の蒼ではなかった。 澄んだ、穏やかな笑顔ではなかった。


真夜中の泉の様に凪いでいた瞳が、ぎらぎらと、激しい光を放っていたのだ。


先程迄は僅かに口角を上げていただけの口が、獰猛な笑みを湛えていたのだ。


( ・・・蒼・・・お前・・・この僅かな時間で・・・一体何があったと⁉ )


( ・・・一体何をやらかそうというのだ!!!? )

紐(?)が :説明不能ですが、幽体離脱経験者なら解かると思います。


光る人 :正体不明。 作者もこの人に雲の中みたいな処から戻された事が有る。


どれも面白い:知っている限りは外れ無し。 ちなみに病室で視聴を想定したのは

      《 ロード・オブ・ウォー 》個人的にニコラス主演作品で一番好き。


・・・あれ? ひょっとしたら、一部の描写がオカルト的になってない?

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