030_家族旅行かな?
今回は5398文字、かなり読み易いボリュームかと思います。
・・・勿論、ただの偶然。 結果的にそうなっただけですが。
12/23:以下の一文を最後の方に追加しました。 単純に補足。
あと、沢瀬がとても小さな舌打ちをした件。 何かあったの?
鹿原先輩がしつこい程に付き纏ってくるが、生徒会長にだけはなりたくないのだ。
伊藤が忙しく走り回る姿を眺める度に、俺には真似出来ないと考えてしまうから。
あれだけ休み無しに活動を続けるなんて、俺には絶対無理だと考えてしまうから。
だから伊藤・・・俺を口説き落とそうと、幾ら頑張っても絶対に無駄だからな!
「う~ん、美倉が嫌がっているのを判ってはいるんだけどね。 会長の希望も
あるんだけど、それ以上に美倉程の適任者がいないという現実もあるんだよ」
次期会長候補である伊藤の言葉には、確かにと納得出来るものがあったりもする。
何しろ伊藤は押しが弱くて、曲者揃いの帝山高生が素直に従うとは思えないのだ。
伊藤の代わりに、俺が生徒会長になったらどうなるか?
・・・俺独りの力だけだったら、寧ろ伊藤以下だろう。
・・・だが俺には、チート軍団がバックに付いている。
学校運営に強い影響力を持つ母ちゃんに、最強にして最恐であり最凶の女帝沢瀬。
帝山学園三大マッスルモンスターを有する、怪物揃いの柔道部だって味方なんだ。
そして味方の存在だけじゃない。 問題児との関係性迄もが、至って良好とくる。
二大問題児である山田と田辺も、俺の言葉にだったらある程度は従ってくれる筈。
・・・・・・・・・あまりにも適任過ぎる。 と、我ながら思わざるを得ない。
鹿原先輩が俺に目を付けるのも当然だろうと思う。 唯一の問題は俺の体力だけ。
「体力問題に関しては、僕を含めた他のメンバーがフォロー出来るから、美倉には
僕たちには出来ない、僕たちに足りていない処を、任せたいと思っているんだ」
「・・・沢瀬や昂輝じゃ駄目なの?」 「二人には、けんもほろろに断られたよ」
能力面では十分過ぎる二人なんだけど、学校よりも俺の保護優先だからなぁ・・・
「・・・ということを、会長から伝えておいて欲しいと頼まれているんだ」
「OKを貰えとかは?」 「・・・実は、頼まれている。 難しいと答えたけどね」
これなんだよな・・・伊藤も、恐らくは鹿原先輩も、駄目元で俺に次期会長の話を
持ち掛けて来るんだ。 俺にだって伊藤会長をサポートする気は有るというのに。
「二人とも、もうすぐSA休憩よ」 「 「 は~い 」 」 五十嵐の言葉で議論終了。
最近一日一度は行われている、最早日課になりつつある、伊藤からのお誘い話だ。
伊藤も鹿原先輩から頼まれて、断れないのだと思うから仕方なく付き合っている。
「毎日ごめんね、二足の草鞋はキツいだろうから、断ってくれて構わないから」
と、伊藤は言うが、実質休憩部とはいえ映研含めれば三足の草鞋になるからな。
「蒼君、そのまま身体の向きは変えずに、そこのトンボを指差して下さい」
カメラを構える沢瀬に従い、横のトンボを指差す。 何だこの巨大メカトンボは?
すかさずフリップを取り出す沢瀬、そんなもん何処で仕込んだ⁉ てか、読むの?
「えー、ここ兵庫県龍野市は童謡『赤とんぼ』で知られる作家、三木露風の出身地
であり、また醬油や素麵の産地としても有名で淡口醤油発祥の地でもあります」
ふ~ん、成程ねぇ、て、何で俺がこんな説明をさせられてるんだ?
「倉敷に着いたら、美観地区でも撮りましょうね ♡ 」 「・・・別にいいけどさ」
例の如く沢瀬の目的不明な趣味だった。 しかし、昂輝は相変わらずよく食べる。
たこ焼きやコロッケ程度なら解からんでもないが、20分の休憩でかつ飯は凄くね?
よく見りゃ中根も斎藤も丼物を喰ってるが・・・斎藤なんかラーメンもセットだ。
「お前ら、あと2時間もしたら昼食だって判ってるのか?」「まだ2時間もある!」
・・・判っていたらしい。 運動部男子って凄いわ。 てか、俺もそうだけどさ。
よし! 俺も筋肉を付ける為だ!! 男らしく食ってやる!! がっつりとな!!
「・・・それで、何でソフトクリームなのよ?」
主成分が牛乳じゃん! たんぱく質じゃん! 甘くてカロリーたっぷりじゃん!!
「蒼君こそ、今そんなものを食べて、後で昼食を食べることが出来るのですか?」
「いいんだよ、どうせ肉なんだろうから」 「えびめしとデミカツのセットだよ」
伊藤が昼のメニューを知っていた。 流石は生徒会。 それで、えびめしって何?
「エビ入りのドライカレー、元々は東京で生れたらしいけど今や岡山名物だって」
何で東京で生れた料理が、岡山名物になっているのかは判らないけど、カレーか?
・・・デミカツは味が想像付くから要らないけど、えびめしは少し食べたいかも?
カレーって、到底一口では纏められないくらいにバリエーションが豊富だからな!
うん、えびめし、楽しみ・・・とっ! わんこ発見!
わんこの後を追おうとしたら、昂輝に捕まり肩に乗せられた。 おーっ! 絶景!
昂輝より50cmは視点が高いから身長240cmの巨人視点だ。 これはいい、最高だ!
「いいぞ、昂輝! このままあのわんこを追って!」 「駄目だ。 バスに乗るぞ」
バスに乗せられたので寝ることにする。
◇ ◇ ◇
倉敷に着いたら起こされた。 昼飯? 要らねーわ。 このまま寝るぞ。
気が付いたらレストランで座らされていた。 要らないって云ったのに。
「美倉、えびめしだよ」 テーブルの上には料理が載ったお皿が4つ。
それと両持ち手のスープカップも4つ、サラダボウルもやっぱり4つ。
「後でデザートもあるから」 伊藤が吐き出す止めの言葉。 きっつ!
「・・・昂輝、かつ飯の影響は?」 「問題無い」 「僕も多少はOKだよ」
ということなので、えびめしとサラダだけを食べることにしたのだが・・・。
「・・・黒い」 えびめしが想像と全く違っていた。 真っ黒。 本当にカレー?
食べてみたらカレー風味の真っ黒なスパイシー炒飯? 悪くは無いけどえび要る?
寧ろあさりの方が良くね? いや、どうでもいいけどさ。 スパイスにえび完敗?
結論、スパイシーな炒飯にちっこいむきえびは弱い。 大きめのエビフライなら?
「相変わらず、食べないのに味に拘るわね?」 「量を食べないから味に拘るの!」
食事の後は15分程のバス移動で美観地区に到着。 先ずは集合写真撮影、それから
は1時間の自由行動となる。 既に軽い疲労感を覚えている俺は喫茶店に引き籠り。
「いい雰囲気のお店ですね」 「うん、静かで、とてもいい」
更に言えば珈琲が素晴らしく美味しい。 流石は専門店を謳うだけのことはある。
フードメニューはトーストとアイスクリームだけだから、客を極端に選んでいる。
その結果、静かな音楽だけが耳に入るという、落ち着いた雰囲気が保たれている。
こんなお店があったりするから、有名観光地では裏通りこそが注目に値するのだ。
「本当に、失礼な人達でしたね」 沢瀬がまだ少し怒っている。
「・・・あーいうのは何か苦手」 表通りで訳の分からない連中に絡まれたのだ。
いきなり写真を撮って来て名前とか年齢とかを聞かれたり、モデルに興味は無いか
とか聞かれたり・・・写真データは昂輝が消去したし、名刺は目の前で破ってから
返却したけど、何でこんな処であんな連中からスカウトされなきゃならんのか?
・・・そのせいで、皆の貴重な時間を、20分も浪費させてしまったではないか!
正式に、美倉の名で抗議してやろうかと、一瞬でも考えてしまったではないか!
二人して愚痴を零していたら、目の前にお菓子が置かれた。 和菓子っぽい?
「前の通りを左に少し行った、藍屋さんの人気商品なんですよ。
近所の誼で頼まれましてね、宜しければお召し上がりください」
渋いマスターの優しい口調。 無意味な愚痴を零していた自分が恥ずかしくなる。
それにしてもこのマスターもいい身体をしている。 ボディビルで造った身体では
なくて鍛えることで造られた身体だ。 ラグビーか格闘技の経験者だろうか?
「蒼君・・・あまり他人をジロジロ見てはいけませんよ」
「うん、確かに失礼だったな」 「・・・というか、変な誤解を生みますので」
誤解? 沢瀬がよく解からないことを言ってくるが、マスターは見られていたこと
を気にしていないようで、優しく微笑んでくれた。 俺もにっこりと笑顔で返す。
何故かアイスクリーム迄サービスされた。
「あそこまで過剰なサービスをして・・・あのお店は大丈夫なのだろうか?」
600円の珈琲に、750円のアイスクリームをサービスはおかしくないだろうか?
店内もゆったりとした空間設計で、採算的に無理が有る様な気がしてならない。
「大丈夫だと思いますよ。 多分は私たち、というか蒼君限定でしょうから」
また沢瀬がよく解からないことを言っているが、お菓子が美味しかったので藍屋に
寄ってみる。 姉ちゃんたちへの土産と、沢瀬や五十嵐たちの車内でおやつ用だ。
駐車場で再開した五十嵐たちにお菓子を渡し、ここから先は俺だけ別行動になる。
筈なのに・・・何で沢瀬迄付いて来るんだ? もうすぐバスが発車する時間だぞ。
「修学旅行は、此処で早退すると決めていましたので」 ・・・お前なぁ。
「長崎まで蒼君一人というのは危険過ぎると云ったら、全員に納得頂けましたよ」
・・・子供じゃないんだから、と主張したいところだが・・・小学生時代に前科が
あるから強く反論出来ない。 MSSが付いているのは沢瀬や昂輝にも秘密だしな。
倉敷駅まで、約500mの道程は退屈だった。 何で日本の都市設計は、これ程迄に
似たり寄ったりなのか? と、文句を言いたくなる。 多分は都市設計そのものが、
全く為されていないのだろう。 必要なものを空いた処に配置した、ただの結果。
自然災害大国の施政者が考える都市設計ではない。 というか、施政者視点抜きで
建築物を乱立させた結果、災害の度に機能停止する脆弱な都市ばかりが造られた。
経済優先の政治ではなく、経済に支配された政治となってしまった結果がこれだ。
残念ながら都市の計画性という意味では、日本は明治時代以降退化し続けている。
・・・この国で先ず必要なのは、事業所と人口の分散。 問題は如何にそれらを、
スムースに実現させるかということだが・・・『 あーおっ先ぱぁーいっ!! 』
代わり映えの無い都市に辟易していたら、聞き慣れたソプラノボイスが耳に入る。
「何でお前がここに居るんだ?」 「師匠から、蒼先輩一人じゃ不安だからと!」
俺が姉ちゃんから、田辺より危なっかしいと思われている件。
あと、沢瀬がとても小さな舌打ちをした件。 何かあったの?
・・・・・・・・・
姉ちゃんは、俺に過保護だから仕方ないが・・・田辺とは倉敷駅で合流となった。
俺はてっきり、姉ちゃんと一緒に飛行機で長崎に行くものだと思っていたのだが。
ちなみに1年生の田辺が長崎に行くのは、一人だけ留守番は嫌だとごねたからだ。
そして姉ちゃんが出した課題を、中間試験で赤点無しを見事にクリアしたからだ。
「これでは修学旅行ではなくて、殆ど家族旅行ですね」「はい!家族旅行です!」
うん、二人の言う通り、確かにこれは家族旅行だな。
明後日の夜まで、四人で楽しく過ごすとしよう。
◇ ◇ ◇
「あー・・・例の企画にぴったりな、というかあの企画には、あの娘しかいない!
と思わされるような、もの凄く魅力的な娘だったのに・・・やっぱ無理かな?」
撮影用機材が詰め込まれたミニバンの助手席、缶ビール片手に男がボヤいている。
「滋さん、いい加減に諦めたらどうですか? 名刺を目の前で破られたんですよ。
ありゃあどう見たって、交渉の余地無し! てっ感じだったじゃないですか?」
「うっせーわっ! だったら岩見よ! お前、アレ以上の娘を発掘出来るとでも?」
「ちょっ、それとこれとは話が違うでしょうが⁉ 俺は相手がはっきり意思を示し
ていると言ってるだけでしょ! 思いっきり、はっきりと断られたでしょ!!」
助手席でビールを飲んでいる中年男が滋さんで、運転している若者は岩見という。
二人は制作中のCMロケで倉敷を訪れた際に、偶然に蒼と出会い、別件の大型企画
に最適なモデルと判断してスカウトを試みたが、全く相手にされなかったのだ。
しかも別の仕事とはいえ、目の前で別の娘にスカウトを仕掛ける二人を見て機嫌を
損ねたモデルの為に、グリーン車のチケットを手配したりと踏んだり蹴ったりだ。
スカウトを断られること等日常茶飯事と言っていい。 ただ別のモデルの目の前で
それを行った事がヤバい。 小さな事務所にとってモデルから嫌われるということ
は死活問題なのだ。 そんなタブーを冒しながらも、未だに逃がした魚への執着を
捨て切れられない上司に、一人で運転させられている岩見は少しイラついたのだ。
「滋さんの気持ちは解からなくもないっすけどね。 あれだけの美人なんだから。
でも完璧に、一部の隙も無い程に断られたんだから諦めるしかないでしょう?」
「うっせーっ! 俺だって理屈じゃ判ってるんだよ! しかしなぁ、理屈じゃない処
がどうしても収まってくれないから、こうやって酒を飲んで管巻いてんだよ!」
「ならビールくらいで酔わないでよぉ~、横で運転してる身にもなって欲しいわ」
「うっせーっ! 俺は少しのアルコールで酔える、最新エコなおっさんなんだぞ!」
「はいはい、わかりましたよ、滋さんは最新( の困ったヘタレおっさん )っす」
「うん、解かればいいんだよ、解かれば、しかし、あの娘、何とかならんかなぁ」
( あー・・・どうにも止まらんな、コレは、マジで酒飲まなきゃいい人なのに )
等と、前席で男二人がネバーエンディングな無駄話に興じている時、二列目席では
妙齢の女性が独りでカメラのデータを見つめていた。 昂輝に消されたミラーレス
一眼のデータではなくて、隠し持っていたコンパクトカメラのデータだ。
「・・・この制服は、確か・・・」
最強にして :蒼・・・どんだけ沢瀬を怖がるんだか?
過去にどんだけ説教されているんだか?
沢瀬の圧を発する笑顔が想像されます。
寧ろあさりの方が :作者のえびめし実食時の感想です。
藍屋さん :喫茶店を含め架空のお店です。 でも倉敷美観地区はいい処ですよ。
自然災害大国:蒼は普段からこんな具合に、社会や世界の事ばかり考えています。
そんなわけで、自分の事や周りの人間にはあまり気が回りません。
ましてや恋愛問題なんかには、欠片程の関心すら持っていません。




