027_二人の女王様
昔こんなサブタイトルのアニメが有りました。
蛇○の二期に付けられたサブタイトルですが。
一期の方は面白くて好きだったんですけどね。
それにしても、体育祭や文化祭といった学校行事で最大級の
定番イベントを書くとなると、どうしても長くなりますね。
そういうことで・・・なんと1万9千字に達してしまいました。
大体4話分の大ボリュームですから・・・本当に疲れました。
そしてすみません、お読み頂くにも相当なお時間が必要かと。
一体何処が1万文字以下なんだ⁉ って話になりますね。
やはり分割すべきだったか? とか思ってたりします。
個人主義のA組も、文化祭にはかなりやる気を出して臨む。体育祭とは大違いだ。
それは純粋な遊びと競技の差なのかもしれないし、ルールに縛られない自由選択
が生む成果なのかも知れない。ともかくやる気はある。あるから騒然としている。
「最悪・・・美倉抜きで勝負する必要がありそうね」
クラス委員と兼任で帝山祭実行委員も務める五十嵐真由美(17)は、同じ実行委員で
ある藤堂昂輝(17)に、2週間後に迫った帝山祭に対する不安を零したのだが、空気
を読まないリアリストである昂輝は、やはり空気を読まずに淡々と答えてしまう。
「・・・ただの人気投票だろ?」 「ただの人気投票でもよ!!」
本来なら自分に同調して、クラスを鼓舞する立場である筈の藤堂から出た背信発言
に苛立ちを覚えながらも、冷静さを取り戻しては藤堂無視で進める算段を立てる。
美倉に藤堂、そして沢瀬の3人組は極めて優秀でありながら、時折ポンコツ化する
面白トリオであることを、今迄に何度も思い知らされており慣れてしまったのだ。
・・・もう藤堂は人間重機だと割り切って進むしかない。 五十嵐は開き直った。
その上で、美倉の圧倒的ビジュアル抜きで客を集める方法を模索することにした。
それは蒼が検査入院中であると知らされた翌日のこと。 朝のHRでの一幕だった。
◇ ◇ ◇
『・・・それでクラス全員に意見を募ったのだが、解決には至らなかったな』
俺の出欠問題が原因で、2Aの出し物が決まりかねていると昂輝から連絡があった。
既に和風喫茶として生徒会に届け出ているが、今週中なら内容変更が可能なのだ。
「和風喫茶のままじゃ駄目なのか?」 『看板娘が不在となると客足が鈍るだろ?』
「吹屋の菓子なら十分に集客力はあるだろ?」 『昨年以上を目指しているからな』
昨年は執事&メイド喫茶で人気投票学年一位、全体三位という好結果を残した。
それ以上という事は全体一位を目指しているのだろう。 随分とハードルが高い。
「流石にそれは無理じゃね? 去年の洋装を和装に替えただけの焼き直しじゃん」
確かに去年の素人菓子よりグレードアップしているだろうが、それだけでは弱い。
判り易い新鮮味が無いと、俺がいようがいまいが昨年越えは難しいと思うのだが?
「とにかく和菓子の提供は今更変えられないから、和菓子を出す喫茶店に何か
をプラスする方向で検討してみるべきだな・・・例えば・・・ゲームとか?」
菓子は珈琲や紅茶に合う和菓子の宣伝も兼ねるという事で、格安で提供して貰える
ことになっており、既に材料の手配くらい済ませてるだろうから変更は出来ない。
そのことを踏まえた上で、客層迄考慮した結果閃いたのが新旧のゲーム機展示だ。
「新型機は部室に在るものを展示、実際に対戦ゲームで遊んで貰い、客が勝ったら
お代割引、なんてシステムもいいと思う。 旧型機は展示のみ。 ジャンク品なら
そこそこ安く買えるだろうし、姉ちゃんに頼めばかなり多くの数が揃うと思う」
『新旧ゲーム機の展示か・・・それならゲーム文化の歴史紹介として、立派な文化
展示になるし、展示物の紹介とするならゲームセンターではないと言い張れる』
「じゃあこっちは姉ちゃんに頼んどくから、昂輝は五十嵐に説明よろ」
『まだ決まったわけじゃ?』 「無駄を恐れるより躊躇うことを恐れよ、な」
『誰の言葉?』 「俺よ、適当に思い付いた」 『そうか、それじゃあ切るぞ』
◇ ◇ ◇
そんなことがあって2Aの出し物は和風ゲーム喫茶になった。和装は必須とのこと。
夏祭りの浴衣姿を誰かに見られていたようで、少し評判になっていたらしいのだ。
つまり二匹目の泥鰌を狙ったわけではなくて、俺に和服を着せる為の和風喫茶だ。
「そんな縛り迄有って、全体一位を狙おうなんて無理ゲーとは思わなかったの?」
「美倉に目一杯化粧を施して、綺麗に飾り立てればなんとかなると思ったのよ!」
成程、そりゃあ俺が抜けたら行き詰まる筈だわ。 でもさ、同じ女装だったら伊藤
や昂輝のような大男の女装だって、十分なインパクトがあるとかは考えなかった?
「何を言ってるのよ! いくらインパクトがあって受けそうだからといっても、
文化祭如きで、本人たちが望まない女装なんかをさせられるわけないでしょ?」
・・・生真面目な五十嵐らしい至極真っ当な正論だ。 正論だが、俺が望んで女装
をしてるとでも思っているのだろうか? 五十嵐だけでなくクラスの連中もだが。
・・・・・・・・・
・・・まぁ、気にしても仕方ないか。
そんなこんなで俺たちは、帝山祭の前日を迎えることになった。
◇ ◇ ◇
「これは・・・凄い」 なんて言葉を漏らしたのは、生徒ではなく教師の方だった。
年齢的に俺たちよりも教師の方が、此処に並べられている機材に詳しいのだろう。
だから判るのだ。 ここに並べられている機材の価値と、並べられたことの意味が。
それにしても凄い数が揃ったものだ・・・姉ちゃんと母ちゃんには感謝しかない。
しかも全て可動品。 幾ら掛かったか聞いていないが、相当な金額になったと思う。
『まるでゲーム機の博物館です』と江澄さんが驚いていたのだから、その充実度が
知れるというものだ。 ファミコンなんかは俺も知っていたが、マスターシステム
にピピンにカセットビジョンにぴゅう太? チャンネルFにアミガにオデッセイ?
・・・・・・・・・
俺には何が何やらさっぱり判らん。 アミガなんか古臭いパソコンにしか見えんし。
五十嵐が5台もゲーム機を持っていて、凄えっ、ゲーム機ってこんなにあるんだ⁉
・・・と驚いていたが、ここにはそれに10倍する数のゲーム機が並べられている。
そんでまた、教師たちが集まるわ集まるわ。 うじゃうじゃぞろぞろわさわさと。
展示品を並べるのに際しても、教師連中が率先してレイアウトを考えたり、展示棚
の準備をしたりしていた。 そんなに貴重な物なの? あっそう、貴重な物なんだ。
・・・・・・・・・
結局2Aの教室じゃあ手狭だからと、展示会場を大会議室に移転することになった。
おまけだったゲーム機展示が・・・いつの間にかメインになってしまったようだ。
でも俺たちは『広くて動き易い!』と、単純に喜んでは喫茶店を営業する気満々。
『喫茶店は構わんが、くれぐれも展示品には傷を付けない様に!』と注意された。
その展示品、俺の所有物なんですけど? はぁ・・・? そんな問題じゃないと?
結局俺は所有者の責任だと云われて、展示物に関する説明をくどくど聞かされた。
「いいか、此処に並んでいる品物は今でこそただの旧い玩具だが、50年100年後に
博物館に展示されることになるだろう品物、謂わば文化財予備軍の山なんだぞ」
等と暑苦しく語り掛けて来るのは数学の細川先生だ。 ゲーム研究部の顧問らしい。
というのも、何処からともなく湧き出てきたゲーム研究部の連中に、アレコレ指示
を出しているからだ。 帝山祭開催期間中のゲーム機管理を、来客への説明込みで
担当してくれるらしい。 報酬として展示終了後に実機で遊ばせて欲しいとのこと。
「約束する、絶対に壊させたりしない! だから一回だけ操作させてくれないか?」
「OK、こちらの指示に従ってくれるなら望むところよ!美倉もそれでいいわね?」
五十嵐がいいというなら俺には異存はない。 というか全部五十嵐にお任せしたい。
だって俺、ゲームには全然興味が無いから、この連中とは全く話が合わないのだ。
五十嵐もそれが解かっているからか? 『 仕方ないわね 』だけで済ませてくれた。
◇ ◇ ◇
「おねえちゃん、おねむなの?」 子供の声で目覚める。 また眠ってしまったか。
帝山祭初日、和風ゲーム喫茶は大成功を収めつつある。 土日を避けた開催の為、
来客は生徒の家族が中心となる。 具体的には学童以下の子供か大学生以上の大人。
最も多いのが生徒の親なのだが、その世代にレトロゲーム機展示が大好評なのだ。
和服での接客や提供物より、展示物に釣られて寄って来る客の方が圧倒的に多い。
展示を見に来たついでに、お茶やお菓子も楽しむか・・・的な状況になっている。
そんな状況だから一番忙しいのは、ヘルプである筈の説明係。 ゲーム研究部軍団。
何か申し訳ない気もするが、本人達が嬉々として説明しているので問題無いかも。
次に忙しいのが対戦接客担当の俺達だ。 五十嵐と伊藤、そして松井が上級担当で
勝てば飲食料金が半額になる。 川本、佐々鬼、藤岡、宮前、宇都宮の5人が中級
担当で勝てば料金2割引き、昂輝ともりもりトリオと蕨野の5人が初級で特典無し。
俺はスーパー初心者クラスで、一番高い和菓子盛合わせアイスクリームを添えて
と抱き合わせ対戦になっている。 ドリンク込みで1500円とかなり強気な価格設定
なのに、何故か一番の人気メニュー化してしまった。 和菓子5個にアイスクリーム
という大ボリュームだから、割安ではあるのだが・・・食事代わりなのだろうか?
それに、そもそも俺との対戦が必要なのか? 菓子だけで十分なのではないのか?
・・・どうでもいいけどさ。 対戦するかしないかは客の任意選択になってるし。
・・・しかしよく考えてみたら、対戦接客担当で忙しいのは俺だけかも知れない。
3箇所ある対戦台のひとつが俺専用になり、常時稼働しているのだ。 他は指名制。
俺一人がずーっと対戦中になっているのだ。 人気有り過ぎだろ、和菓子盛合わせ。
・・・ホント、さっきからずーっと対戦している・・・ように・・・くぅ・・・
・・・・・・・・・肩をゆすられた? ・・・誰? ・・・何で?
・・・・・・・・・誰? このおっさん?
「本当にこの娘は大丈夫なのかい?」 「んっ?」 「大丈夫、いつものことです」
眼鏡を掛けた中年男性が俺を心配げに見つめている。 また眠ってしまったようだ。
「こいつは昔からゲームをさせたら、こんな感じに、すぐに寝てしまうんですよ」
・・・昂輝が説明してくれている。これで何度目だ?コレがそんなに珍しいのか?
ゲームをやり出したらすぐに眠くなることが、そんなに珍しいことなのだろうか?
昂輝の説明に『ああ、成程ね』という表情をみせる客が未だにゼロで、『何で⁉』
と驚かれてばかりだ。 ・・・確かに未だ御同類に遭遇したことは無いが、誰もが
ゲーム好きだという訳でないことは、昂輝や沢瀬の存在からも明らかであるのに?
とはいえ、俺が眠くなることと、それに驚かれていることは紛れもない現実だから
素直に受け入れるしかない。 問題はそれで俺の健康を心配する客がいることだな。
まだ車椅子を使っている身だし、五十嵐から喋り禁止を喰らっていて話せないし。
折角素敵なお姫様に仕上げたのだから、喋って台無しにするなと発言禁止状態だ。
そして、話さなくていいのは楽だからと、俺自身も喜んでその提案を呑んだのだ。
その結果、車椅子から離れられない無口で居眠りばかりの振袖娘爆誕と相成った。
・・・客観的に考えれば、心配されても仕方のない状態かも?
・・・・・・・・・まぁいい、気にしたら負けだ。
それに心配する客より俺の寝顔を見て喜ぶ客の方が多いらしい。話を聞く限りは。
・・・・・・・・・それもやっぱり・・・気にしたら負けだろう。
◇ ◇ ◇
帝山祭2日目、というか最終日。 前日に続き、いや前日以上の大盛況に困惑気味。
前日の口コミやSNSのおかげで、嘗てない程の客が訪れた為菓子の在庫が危うい。
高梁に相談して、店の在庫を急遽確保して貰ったが、追加分は正規の価格になる。
売れば売る程赤字になるが、前日の利益で補填出来る範囲だと追加注文を決める。
それでも菓子の不足が予想された為、和菓子盛合わせの提供時間を11時迄とした。
つまり俺は11時に解放されるという事だ。 別に他を観て回ろうとは思わないが、
映研部室でのんびり過ごしたい。 2時に始まるミス・ミスターコンテストの前に。
「というわけで、もう上がっていいか?」 「わっ⁉ 馬鹿っ! まだ喋るな!!」
何でよ? もう俺の仕事終わったじゃん! 昨日から働き詰めでもう十分じゃん!
「折角のお化粧が、美少女ぶりが残念過ぎるのよ。 上がってもいいけど部室迄
無言を通すこと! いいわね、これは絶対よ! 私も昼過ぎには部室に行くから」
言いたいことがよく解からんが、逆らう理由も無いので黙って部屋を後にする。
直ぐに昂輝がやって来て『俺も解放だ』と言ってくる。 この気遣いが五十嵐だ。
そして、いつの間にかカメラ片手に沢瀬が横に居たりする。 昨日もこんな感じ。
「今日も江澄さんにお任せなの?」 「部室迄は無言じゃないんですか?」
沢瀬の奴・・・どこから聞いていたのだろうか?
「江澄さんは、まだまだ揃えたい機材があるそうなので・・・」
成程、それで部の財布を管理する沢瀬にだけは素直に従うということか。
あまり感心しない関係性だけど、互いに納得しているのなら放置でOK?
それにしても江澄さん、昨日今日と映画上映を切り盛りしてていいのだろうか?
自分のクラス、1Dの催しには参加しなくて構わないのだろうか? 気になるな。
「1Dの出し物って何なの?」 「パンフによると・・・《15歳からのBL》だと」
「・・・観に行きたいですか?」 「・・・いや、行かない」 「俺も嫌だ」
「 「 「 ・・・・・・・・・ 」 」 」
しかし・・・よく生徒会の承認が下りたものだな? R15だからギリセーフなのか?
にやこたがR15に留めさせたのだろうと思うけど、田辺の奴、俺がいない処では
相変わらずの暴走娘という話は本当だったようだ。 それなら江澄さんが逃げ出す
のも当然だろう。 他人から好奇の目で見られることが、何より苦手みたいだし。
そんな内向的な小心者が、大人の男性からBLに関して質問されたらどうなるか?
映研部での活動が、接客のプレッシャーから逃げるいい口実になったという事だ。
上映する映画もそこそこアレだけど、田辺のBL展示よりはずっとマシだろうから。
・・・ひょっとしたら、彼女が漫研をすぐ辞めた理由には田辺も含まれるのかも?
「そういえば、山田から部室に差し入れを置いたと連絡があった」 「差し入れ?」
確か山田は昨日から、中庭の屋台村で焼き芋を売っている。 たった一人で黙々と。
業務用焼き芋器のレンタル料は利益の15%ということになっている。 一応は同じ
映研部なのだからレンタル無料と云ったのだが、きちんと筋を通されてしまった。
その山田からの差し入れ・・・焼き芋かな? いや、それよりも・・・
「山田・・・クラスの出し物はどうしてるんだろ?」
「どうしてるんでしょうねぇ? 気になりますか?」
「2Hは・・・《誰でも出来るサバイバル術公開》か」
山田のサバイバル日記でも公開しているのだろうか? 誰でも出来る?
虫や葉っぱを生食する時点で、かなり間口を狭めていると思うのだが。
「沢瀬のクラスは何をしてるの?」
「バザーですよ。 私は手作りクッキーを出品しています」
成程・・・沢瀬も田辺も山田も自らが主導して、都合のいい出し物を選んだのか。
俺も来年こそは、もう少し楽しめそうな出し物を提案するとするか? 例えば、
「昂輝、来年の展示は世界の戦車プラモ展なんかどうだろう?」 「無理だな」
「蒼君、いつまでも子供じゃないのですから、流石にそれは無いと思いますよ」
・・・・・・二人共容赦がない。 そんなに駄目な提案なのかな? ・・・えっ⁉
「うわっ⁉」 思わぬ人物を見掛けてしまったから、急いで顔を隠すことにする。
「蒼君?」「蒼?」「いいからバリケードになって!」訝しがる2人を壁にする。
大男の昂輝と男子並みの高身長女子沢瀬、この2人を壁にして、更には大きな袖
に隠れてしまえば、俺だと知られる筈は無い! ・・・と、安心していたのだが。
「あぁ・・・蒼ちゃん! その車椅子姿は・・・やはり噂は本当だったんだね」
「・・・何で俺だと判った!?」 変態眼鏡野郎に一発で見抜かれてしまった。
「何で?って、そりゃあいくら髪型を変えても、髪質迄は変えられないでしょ?」
「 「 「 ・・・・・・・・・ 」 」 」
「お前、ひょっとして髪質で誰か見分けられる ( とんでもない変態な ) のか?」
「勿論!・・・と言いたいとこだけど、流石にそれはまだ無理かなぁ。 今の僕に
出来るのは、君のように素晴らしい髪質の持ち主を見分けることくらいですね」
・・・変態過ぎてちょっと引く。 昂輝や沢瀬も驚いて目を丸くしている。
・・・考えてみれば、匂いで誰か特定出来る俺もかなり変かも知れないが。
「・・・ところで噂とは?」 こいつとは初対面でその変態ぶりを解かっていない
昂輝が、聞かなくてもいい事を聞き出そうとする。 どうせ碌でもない噂だろうに。
「酷い男に攫われた挙句に、部屋から逃げ出さない様に膝を壊されたとか・・・」
ほれ見ろ! 田辺が描いたBL漫画そのまんまじゃん! 虚構と現実の区別付けろや!
ちなみにその漫画で俺の膝を壊したのは伊藤。 田辺は何故か伊藤をサイコパスに、
昂輝を性欲ゴリラに描く傾向がある。 BL漫画とはそういうものかも知れないが。
変態眼鏡の漫画脳発言に、2人共驚き顔を呆れ顔に変える。 俺も本当はこいつの
相手なんかしたくないのだが、心配させたまま放置も悪いから病気による一時的な
ものであること、かなり歩ける迄に回復していることを伝えて別れることにする。
「付いてくんな!」「部外者の部室棟への立ち入りはお断りしています」「てさ」
部室迄付いて来る変態を追い払う。 こんな扱いでも笑顔なんだから変態は怖い。
『じゃあ、ミスコンを楽しみに待ってるからね』なんて言いながら去って行った。
・・・誰があの変態に招待状を渡したんだか? ファンに貰ったとか言っていたが。
◇ ◇ ◇
「漫画を描く人って変わり者が多いのかな?」 芋を齧りながら昂輝が独り言ちる。
櫻崎先輩に田辺に変態眼鏡に俺の姉ちゃん、昂輝の知る範囲では全員が変わり者。
俺の知る範囲でも・・・その話はもういいだろう。 芋はかなり美味くなっていた。
このあいだ食べた時から甘みがかなり増している。 これなら売り物になるだろう。
テーブルには焼き芋の他にも沢瀬のクッキーと、豊川のローストビーフサンドが
並んでいる。 姉ちゃんからの差し入れなのだが、映研部員だけじゃ食べ切れない
量なので、クラスの連中やゲーム研に御裾分けだな。 後で昂輝に頼むとしよう。
そんなイベントモードの昼食事情とは関係無しに。
「やっぱジャージは楽だわ!」 俺は振袖を脱ぎ捨て、上下ジャージでリラックス。
日本髪も解いて貰っていつも通りのストレート。 もうこのまま帰って入浴したい。
「駄目よ。 まだミスコンがあるし、5時から打ち上げもやるでしょ?」
「お菓子、完売しそうよ! とか言ってなかった?」 「コンビニで調達するわよ」
俺はミスコンなんか出たくないのに、五十嵐が解放してくれない。 沢瀬は五十嵐
と入れ替わりで出て行った。 自分のクラスや上映会場に顔を出すとか言ってた。
伊藤は生徒会役員として二日連続で休みなく駆け回っているらしい。 南無・・・。
「うわー、今年のミスコン、ノミネート少ねぇー!」 「今頃何を言ってんのよ?」
仕方ないからとパンフレットを確認したら、例年なら10人前後になるノミネートが
俺と1年生2人の3人しかいない。 ミスター部門も去年と同数の8人で、昂輝と伊藤
以外は知らない。 3年生と2年生が共に2人ずつで1年生から4人の計8人だ。少な!
「何で⁉ 何でこんなに少ないの?」
「何で?って、女子は女王が健在だからで、男子は去年の1位と2位が健在だから」
「・・・そういうもんなの?」
「当然よ。 誰だって引き立て役なんか御免でしょ?」
・・・・・・・・・引き立て役か・・・引き立て役ねぇ。
鹿原先輩には鹿原先輩の良さが、五十嵐には五十嵐の良さがあるのになぁ。
たまたま俺の良さがいいと思う、そんな連中が多いというだけなのになぁ。
これが男子である俺の考えと、女子である鹿原先輩や五十嵐の考えの違いかなぁ?
・・・・・・・・・んっ⁉ 男子である・・・、女子である・・・あれっ?
今、五十嵐の奴・・・もの凄くナチュラルに、俺のことを女子扱いしなかったか?
五十嵐に文句を言ってやろうと思ったら、美味そうにサンドイッチを喰っていた。
・・・・・・・・・
・・・まぁ、気にしても仕方ないか。
男か女かなんて、生きるか死ぬかに比べたら、ホント些細な問題だから。
ミスコンの控室には1時半に行けばいいから、あと1時間は昼寝が出来る。
・・・その・1時間の方が・・・・・・すぅ。
「藤堂? どうしたのよ? さっきからずっと美倉の寝顔ばかり見てるけど?」
「・・・よく寝るなと思って」 「美倉っていつだってそうでしょ?」
「昔は・・・高校に入る前はここまでじゃなかった」 「そうなの?」
「 ・・・・・・あぁ 」
◇ ◇ ◇
目が覚めたらミスコンの控室に居た。 セコンドを務めてくれる五十嵐に聞いたら、
昂輝が寝ている俺を車椅子に乗せてくれたのだそうだ。 またもお姫様抱っこ案件。
「誰がセコンドなのよ? メイクアップアーティストと言って欲しいわね」
「似たようなもんじゃん?」 「似たようなものなわけないでしょうが!」
とまぁ・・・この辺りまでは、いつも通りの、極日常的なやり取りだったのだが。
「沢瀬は何処?」 「もう少ししたら来るわよ」 「ふ~ん、珍しいね」
沢瀬がいなかった。本当に珍しい。俺の飾り付けを他人に任せきりにするなんて、
今迄に無かったことだと記憶する。 沢瀬を怒らせるようなこと、何かしたっけ?
・・・・・・・・・
いや、クラス展示や映画上映絡みで忙しいのだろう。 多分それで遅れているのだ。
「そろそろ前説が始まるわよ。 その後にミスターコンテスト、次がミスコンで美倉
はトリだから、あと45分くらいかしら。 化粧したり着替えたりには十分よね」
・・・45分か、長いな。 もう全員ノーメイク&ジャージ姿で統一出来ないかな?
そんで全員並んで行進するだけ。それなら結果発表込みでも15分で済むんじゃね?
「・・・牛や豚の競売じゃないんだから」 「・・・そうか、確かにそうだな」
『さあ、皆様お待たせしました。 帝山名物M2、ミス・ミスターコンテストが今年
も開催と相成りました。実況は放送部の私、小林晶とゲスト解説は同人百合漫画
の大家、美女を描かせたら右に出る者はいないと迄謂われる薫坂智詩先生です』
「えぇ⁉」 聞こえて来た実況放送に驚いた。 まさかの変態眼鏡がゲスト解説だ!
「いきなりどうしたのよ?」 俺の声に驚いた五十嵐に、変態眼鏡を軽く説明する。
『薫坂先生、本日は遠い処までお越し頂き有難う御座います。 これから約一時間
ミスミスコンテストにお付き合い頂くことになりますが、宜しくお願いします』
『こちらこそ、宜しくお願いします』
「そんなに変態って感じはしないけど?」 「変態眼鏡は一見普通なんだよ」
『ところで先生は百合漫画の大家とお聞きしますが、単に女性が好きということ
なんでしょうか? それとも女性同士の恋愛の方がお好きなのでしょうか?』
『いきなり突っ込んだ質問から入ってきますね。 またどうしてそんな質問から?』
『女性がお好きということなら私なんかはどうかと思いまして? 現役JKですよ』
『おぉ! これは素敵なお言葉を頂きました。 ですが僕は貴女のような素敵な女性
は、やはり素敵な女性と女性同士で愛を育むべきと、そう考えているのですよ』
「・・・これ、本気で言ってるのかしら?」 「百%本気だと思う。 そんな変態」
「誰がこんなのをゲストなんかに呼んだの⁉」 「ファンに招待されたらしいよ」
『あちゃ~、またイケメンに振られてしまいました。 私の何処がいけないのか?
いや、素敵な女性と云われたのだから喜んでもいいのかな? ともあれ薫坂先生
は女性同士の恋愛がお好きという事ですが、これから始まるミスターコンテスト
をどうお考えですか? 何かコメントを頂けたりは出来ませんでしょうか?』
『正直申し上げて興味が有りません。 時間の無駄だからじゃんけんで順位決めを
すればいいと思っています。 あとは観客の為に芸のひとつでも披露するとか?』
「 「 ( 男の )扱いが酷い・・・ 」 」
「何というか・・・って、こんなことしてられないわね。 先ずは着替えるわよ」
「うぅ・・・流石にこれは嫌だなぁ」 遂にウェディングドレスを着る時が来た。
◇ ◇ ◇
ミスターコンテストは順調に進行しているようだ。 変態眼鏡の天然気味な暴言を
実況の小林先輩が、上手にボケに変化させては突っ込みを入れて笑いにしている。
小林先輩・・・女子アナ志望らしいが、お笑いを選んだ方がいいのかも知れない。
ミスターコンテストに合わせる様に、俺の花嫁化も順調に進んでしまっている。
『どうよ?』と鏡を見せ付けられたら、思わず顏を背けてしまいたくなる程に。
「う~ん、似合うだろうとは思っていたけどさ・・・似合い過ぎて逆に引くわね」
「う~・・・引くぐらいなら見るなよ! 俺だって見たくも見られたくもないよ!」
誠に遺憾ながら、五十嵐の発言には全面的に同意せざるを得ない現実が存在する。
眼前に置かれた姿見に映る絶世の美女が・・・他の誰あろう俺なのだという現実。
何で男なのに・・・これ程までに・花嫁姿が似合うんだよ!!
「フッ、私の化粧テクに掛かればこんなもんよ!」 「うっさい! 黙れ!!」
今の俺は我ながらヤバい。 メンタルレベルなんか初めて女装させられた小5の時
と同レベルじゃないかと思う。 あんまり揶揄ったらマジ泣きしてやるかんな!!
「あっ、ミスター部門は終わっちゃったみたいね」 うわっ、話を逸らしやがった。
「それじゃあ、蒼君の出番も近いという事ですね」 うわっ⁉ 吃驚した。 沢瀬だ。
出場者控室という名のパーテーションで区切られた一角。 声が聞こえて来た方向
を向いたら・・・漆黒のドレスを纏った妖艶な美女が、俺を見つめて立っていた。
その美女は、暫くの間俺を見つめ続けた後に、五十嵐に向けて右手を突き出した。
「五十嵐さん! グッジョブです!!」 「でしょ! 我ながらいい出来だと思うわ」
その美女は沢瀬だった。でもいつもの沢瀬じゃない。大きな縁の伊達眼鏡を外し、
前髪を上げて整った顔を晒し、少し派手めな化粧を施し、纏めた髪を解いていた。
地味の皮を被った陰キャモードの沢瀬ではなく、本気を出した女王モードの沢瀬。
闇を染めたかの様な黒き衣に身を包み、獰猛な覇気を纏った姿は正に蛮族の女王!
「沢瀬・・・その恰好は?」 「女王の登場には特別な演出が必要かと思いまして」
いや、お前の方が女王じゃん! と言いそうになったが笑顔が怖くて言えなかった。
この笑顔は何かを腹蔵している時の笑顔だ。 絶対に何かをやらかすつもりだろう。
それにこの漆黒のドレス・・・どこかで見たような気がする? 何処だっけか??
・・・このおっぱいを強調するような、煽情的な胸の辺りの大胆なカットとレース
を組み合わせたデザインは何処かで・・・割と最近に見た記憶があるような???
「元々は白だったのですよ」 「・・・ああっ! 2着目の!」 「はい、正解です」
「黒く染めちゃったんだ?」 「はい、2人共白だと少しぼやけちゃうかと思って」
一点の曇りも無い笑顔で沢瀬はそう言った。 絶対に言葉通りではない時の笑顔だ。
俺が白で沢瀬が黒・・・普通に考えたら、俺を沢瀬色に染め上げてやる宣言だな。
・・・・・・怖いから気付かなかったことにしよう。 2人共白ってぼやけるよね!
それに沢瀬は黒が無茶苦茶似合うし。 はっきり言って似合い過ぎててカッコいい!
俺も漆黒のドレスの方が良かったな。 絶対白のドレスよりはカッコいい筈だから!
「五十嵐、俺に黒い服って似合うと思うか?」
「・・・う~ん、ちょっと背伸びをしてるって感じがするかな?」
「・・・沢瀬はどう思う?」 「蒼君には明るい色や、淡い色の方が似合いますよ」
・・・多分、白のドレスより黒のドレスの方が、カッコいい筈だろうと思うから。
「あっ! 集計が終わって結果が出るみたいよ」 「ふ~ん」 「そうですか」
「・・・2人共、関心無さ過ぎじゃない? 藤堂や伊藤が気にならないの?」
「昂輝も伊藤もどうでもいい、面倒なだけって言ってたし」 「そうですよね」
「・・・ホントにあんたら3人は揃いも揃って・・・て、1位2位は去年と同じで
3位が1年C組の片桐って子か・・・どんな子か2人は知ってる? 筈は無いか」
五十嵐が溜息交じりに聞いて来る。 3人というのは幼馴染トリオのことだろう。
俺達3人が揃いも揃って何だというの?・・・まぁ別に何だって構わないけどさ。
それより1Cの片桐?知ってるわけないじゃん!えっ⁉ 沢瀬は知ってるの?何で?
「・・・蒼君、夏休み前に片桐君から告白されてましたよ」
あっ、そうなんだ。 確かに何人かに告白されたけど・・・正直誰も覚えてないわ。
「まっ、仕方ないよね?」 「そうですね」 「そんなわけ・・・あるかぁ!!」
何故か五十嵐に怒られた。
◇ ◇ ◇
『さて、いよいよ薫坂先生お待ちかねのミス部門開始となりますが、何といっても
今年の注目は40年ぶりに輩出された7代目女王美倉蒼さん。 1年の時を経てその
美貌に益々磨きをかけたと評判の彼女に、1年生2人がどこまで迫ることが出来る
のか? 絶対的存在である女王を相手に、果敢に挑む彼女たちの実力は如何に?
・・・といった処だと思いますが、薫坂先生はどのようにお考えでしょうか?』
『そうですね、概ね小林さんの仰る通りだと考えますが、僕としては他の方々にも
自分自身にもっと自信を持って頂きたいと考えています。 この学園の門を潜って
驚かされたことは、本当に素敵な女子が多いという事です。 それなのにミスコン
を辞退された方が多いと聞かされた時には、思わず天を仰いでしまいましたよ』
『え~と、つまりは、出場者が少な過ぎる・・・と、仰っているのでしょうか?』
『その通りです。 今回出場の3名、その素晴らしさは疑う余地のないものですが、
彼女たちに負けない魅力の持ち主を、学園で何人もこの目にしているのですよ。
例えば小林さん、貴女もそのうちの一人です。 貴方もミスコンに出た方がいい』
『えっ⁉ 本当ですか? そういうことなら早速飛び入り参加を 『落ち着け、晶!』
『止めるな! 田中! 私にも女王の可能性が『絶対無理だから! 成績を考えろ!』
「・・・何なの? この寸劇は?」 「田辺ちゃんが遅れているそうですよ。展示に
来られた客とのBL論議で熱くなり過ぎたと、仁宮さんからメールが入ってます」
・・・田辺はやはり相変わらずか。 まぁそれが田辺だが。 それにしても変態眼鏡
の奴、やけに小林先輩を推すなぁ。 今度はお笑い系女子を狙っているのだろうか?
まぁ、それならそれで構わんが。 付き纏われなくなるなら寧ろ大歓迎なんだがな。
・・・・・・・・・
それで・・・と、ミスコン出場者は、俺と田辺と安城メイ? ハーフなのかな?
「ところで、五十嵐はこの安城メイって娘のこと知ってる?」 「えっ⁉」
「どうして私でなく五十嵐さんに聞くのです?」「沢瀬も他人に興味ないだろ?」
「確かにそれ程興味はありませんけど・・・蒼君よりはマシだと思ってますよ?」
「ちょっと待って! 2人共安城メイちゃんのこと知らないの⁉」
「 「 ? 」 」
「新人アイドルユニットの中では、№1とも謂われている《グリュー》のメイン
を務める黒アリス、安城メイちゃんのことを、2人共、本当に知らないの!?」
「全く」 「存じませんねぇ」 「・・・・・・本当に、この3人組はぁぁ!!」
「昂輝抜きで3人組って言われてもなあ、ちょっと待ってろ、確認してみるから」
「昂輝、俺だけど、《グリュー》って知ってる?」『あ?《ドリュー2》なら?』
「うん、五十嵐の認識で間違いなかった!」「・・・《ドリュー2》って何よ?」
「さあ? 本人に聞けば?」 「・・・ホント! あんた達、一匹狼トリオは!」
・・・五十嵐は、何故かたまに荒れることがある。
『・・・仕方ないから今年は諦めて、留年して来年の女王を目指すことにします。
ということで、ミスコン中継再開に合わせるかのように現れたエントリー№1番
ピンク脳の妖精、1年D組田辺瑠香さんの登場です! 皆さん、はい、拍手ぅ!』
《《《《 ウワアアアアアァァァァァァ 》》》》
「あっ、ミスコンが始まったみたいですよ」「仁宮さんが推薦人か」「手綱ね!」
多分五十嵐の推測で間違いない。 BL論議で興奮状態にある田辺にフリートーク
を許すなんて余りにも危険。 爆弾発言を食い止める為に仁宮さんが付いたのだ。
《《《《 ウワアアアアアアアアァァァァァァァァ 》》》》
そして仁宮さんのおかげで悲劇は食い止められ、無事に№2さんの登場となった。
え~と・・・この娘の名前は何てったっけかな?とにかく特大の喚声が起こった。
「もう№2さんの優勝でいいんじゃね?」当然ながら、俺にはやる気が全く無い。
「そろそろ出番ですよ。歩けますか?」そして沢瀬は、俺の言葉を聞く気が無い。
「・・・これぐらい大丈夫。自分で歩く」諦めて、沢瀬の手を取り覚悟を決める。
『・・・さあ、いよいよこの時がやって来ました。 2年D組の女ターザン、体育祭
の女帝沢瀬由佳理女史に連行されて登場するのは、いじけモードの眠り姫、我ら
が帝山学園高校の象徴、40年の時を経て爆誕した令和の女王、美倉ァ蒼様ァ!!
ご来場の皆さま、盛大な拍手を以って陛下をお迎えしようではありませんか!』
《《《《 ウワアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ 》》》》
・・・小林先輩、人をいじるのも、場を盛り上げるのも上手いなぁ。
いじられた沢瀬も、面白そうに微笑んでいる。やっぱ芸人向きだわ。
「さあ、参りましょうか? 眠り姫様」「そんなこと言ったら、ホントに寝るぞ」
「別に構いませんよ。文字通りにお姫様抱っこで、会場までお連れしますから」
沢瀬にはその能力がある。 流石にそれは避けたいので、素直に従うことにする。
控室から袖までを歩く、その少しの間にも会場のボルテージが上がり続けていく。
何が面白いのだろう? そんな考えが浮かんでしまった。
小林先輩の言葉通りに、いじけモードが発動したようだ。
俺はお祭り騒ぎも賑わう場所も嫌いだ。 音が苦手な以上に雰囲気が苦手だから。
そこで楽しそうに過ごす人々、その活力を、元気を妬ましいと感じてしまうから。
どれだけ努力しても手に入らないそれらを、切望する自分に気付いてしまうから。
去年は沢瀬に背中を押されて前に進んだ。 今年は手を引かれて前に進んでいる。
だから俺は前に進めている。 沢瀬がいなければ、逃げ出したくなるこの場所で。
「聞こえてますか? 凄い喚声ですよね」 「・・・五月蠅い位に聞こえてるよ」
沢瀬が判り切ったことを聞いて来る。 俺は条件反射的に応えてしまう。
「この声は蒼君を呼んでいるのですよ」 「・・・嫌になる程に解かっているよ」
沢瀬が判り切ったことを話して来る。 俺は条件反射的に応えてしまう。
「だから此処が蒼君の居場所なんです。 堂々と、自由気儘に振舞えばいいんです」
沢瀬が振り向きざまに俺に語り掛けて来る。 判り切ったことを語り掛けて来る。
目を背けるなと。 目を背けても何にもならないと。 逃げるなと。 前に進めと。
そして再び前を向き、「行きますよ」と言って歩き始める。
・・・昂輝だけじゃない。 沢瀬もイケメン過ぎる。
・・・俺も早くイケメンに成りたいものだ。
◇ ◇ ◇
沢瀬が姿を現すだけで、会場の雰囲気が一変した。 ざわめきが静寂へと変わる。
( …誰? ) ( あんな美人、帝山に居たっけ ) ( なんと美しい ) ( 素敵なお姉様 )
耳を澄ませば沢瀬への称賛が聞こえて来る。 地味の皮を脱ぎ捨てた沢瀬への驚き。
ミスコン会場にいる全員の目が、黒きドレスを纏った妖艶な美女に釘付けとなる。
そして、彼女を捉えていた目が繋がれた手を、白きドレスの可憐な美女を捉えた。
黒きドレスの美女を遥かに超える、その完璧な造形に誰もが心を鷲掴みにされる。
黒と白、妖艶と可憐、そのコントラストの鮮やかさに、美しさに世界は絶句した。
2人の登場で・・・会場から全ての音が消えた。 まるで時が止まったかのように。
・・・やっぱり引かれたのかな?
・・・やっぱり男にウェディングドレスは、無理が有り過ぎだったのかな?
自分ではかなり似合ってんじゃね! とか思っていたけど、冷静に考えたら無いな。
いや、絶対に無いわ! あるわけないだろ! 何でイケると思った沢瀬に五十嵐!
・・・それと俺。 男だぞ! 男が純白のウェディングドレス? 有り得ないだろ!
・・・せめて黒なら?いや、ドレス自体が駄目だろうな? 肌の露出に身体の線に。
男にオフショルダーのプリンセスラインなんか着せてどうするんだよ! 誰得だよ!
・・・似合っていると思ったけどさ。
俺ってファッションセンス無いからさ。 五十嵐の言葉を鵜吞みにしちゃたんだよ。
五十嵐も沢瀬も人間だから、失敗したって当然なんだよ。 今迄が良過ぎたんだよ。
去年は首から下を完全ガードしてたからイケたんだよ。 きっと、多分、恐らくは?
・・・とにかく結果が全てなんだよ。
・・・まぁ、引かれてしまったものは仕方ない。
てか、よく考えたら、寧ろ引かれて好都合なのかもしれない?
来年はミスコンとか女王とか関係無く、のんびり過ごせる様になるかもしれない。
・・・悪くないな。 いや、いい! 更にはもっと筋肉を付けてミスター部門進出!
・・・迄は多分、いや到底無理だろうけど、この失敗は女物一本化に絶賛進行中
だった俺の服装事情に、貴重な一石を投じる切っ掛けになるのではなかろうか?
ひょっとしたら、長年の夢だったジャージ生活への道が開けたのかもしれない。
・・・これが試合に負けて勝負に勝ったというやつだな。 フフフッ、やったね!
俺は心も足も軽やかに、呆れて言葉を失っている司会の牧村先輩の前へと進んだ。
◇ ◇ ◇
退場口である下手の袖には、フィナーレ待ちのミスター達が呆れ面を晒している。
舞台上には合計7人。 田辺と仁宮さんに№2さんと推薦人さん。そして俺達と司会
の牧村先輩。 観客席の最前列に実況席が設けられ、左右にはカメラマンが居る。
あとは観客がいっぱい。 そしてみんな無言。 どうしたものか? 何が出来る?
本来なら牧村先輩か小林先輩が、進行役を務めてくれる筈なんだが、2人共無言。
沢瀬は周りを睥睨した後に目を閉じてしまった。 その口元に微笑を浮かべ乍ら。
そんな重苦しい沈黙を破ってくれたのは、やはりというか、流石の田辺だった。
「蒼先輩! 素敵です! 可憐過ぎて押し倒したいという感情を抑え切れません!」
「はっ⁉ 駄目よ! 瑠果ちゃん! 抑えて!!」「放して下さい、にわちゃん!!」
嗚呼、やはり興奮状態の田辺は危険だ。 常識力と学力以外は極めてハイスペック
な田辺を抑えることなど仁宮さんには無理だろう。 俺は田辺に拘束魔法を使った。
「田辺、大人しくしないと破門だぞ」 「はっ⁉ 破門!!」 「 「はもん?」 」
一瞬にして田辺を鎮静化させた謎の魔法に、牧村先輩と仁宮さんの2人が疑問の声
を上げる。 「蒼先輩、ごめんなさい、破門は勘弁して下さい」 田辺は鎮火した。
「・・・蒼君、今のは?」 「姉ちゃんが俺に激甘なの、沢瀬は知ってるだろ?」
そんな姉ちゃんは、俺が頼めば可愛い弟子でも簡単に破門する。それだけのこと。
沢瀬は俺の言葉を暫く推し量った後に「それなら問題はありませんね」と言った。
間違いなく含みを持たせた言葉だろうが、深読みの必要を感じなかったので放置。
寧ろ気になっているのは田辺の俺に対する高評価。 引いてたんじゃなかったの?
◇ ◇ ◇
《《《《 ウワアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ 》》》》
静寂の後は喚声の嵐。 大絶賛の雨霰状態だ。 引かれていた訳ではないらしい。
今になって思えば、引かれて酷評された方が俺としては良かったんだよな。
頑張ってくれた五十嵐や沢瀬には、申し訳なくて口には出来ないことだが。
観客の声がある程度収まるのを待ってから、俺たちへのインタビューが始まった。
実況席で小林先輩と変態が、熱弁を交わしているようだが邪魔という程ではない。
牧村先輩は去年も司会をされてたし、A組でもあるから顔見知りといってもいい。
小林先輩の様に、隙あらば笑いを捻じ込もうとしたりしないから話し易くもある。
その牧村先輩が、珍しく変化球から、本筋には関係無いだろう話から入って来た。
「先ずは沢瀬さんに質問なのですが、美倉さんと対を成すようなドレス姿にどの様
な意味が込められているものかと、会場に居る全員が強い関心を抱いています。
差し支えない範囲だけで構いませんので、お聞かせ頂けないものでしょうか?」
・・・当然の反応だと思う。 実を言うと、俺も非常に気になっている処だ。
「ただの演出ですよ」 沢瀬は笑顔を湛えたまま、はっきりとした口調で答える。
「演出というのは、一体どういった意味でしょうか?」「今からお見せしますね」
そう言って沢瀬は、繋いだままだった俺の右手を大きく後ろに振り回した。
その勢いで俺は沢瀬の方を向き、沢瀬は俺の方を向く。 互いに正対する。
更に呆気にとられた俺の背中に手を回し、抱き抱える形で俺にキスをした。
強く、圧し掛かるような姿勢になって、深く、貪る様なキスを強いて来た。
そして俺、いきなり大きく振り回されたもんで、軽い眩暈を起こしてしまった。
そんでどうなったか? 沢瀬にしなだりかかってしまったんだよ! 弱弱しくな。
何処の病弱なお姫様ムーブ? って感じな。 此処の病弱な俺様ムーブだよ!!
そんでもって会場は大受け! 嘗てない程の爆受け!! 空前絶後の超受け!!!
変態眼鏡なんか立ち上がって、涙を流しながら意味不明な呪文を繰り返してたし。
・・・とどめは沢瀬のひと言。 無茶苦茶力強い言霊バリバリな衝撃発言。
『蒼君には私が居ます。 そのことをこの場の全ての魂に刻み込む為の演出ですよ』
その圧倒的な意思表明に、会場に居る全ての人たちが飲み込まれた。・・・凄い。
凄過ぎて引いた・・・ あーっ、うん、でも沢瀬らしいと云えば沢瀬らしいけどな。
だが女王様モードの沢瀬に免疫のない、この場の面々は誰もが唖然としたままだ。
あの田辺までもが呆けている様に見える。・・・何で? お前、免疫あるでしょ?
「誰かと思ってたら・・・沢瀬先輩でしたか? 今日は随分とお綺麗ですね?」
「そうですか? 嬉しいですね。 田辺ちゃんもいつも通り可愛らしいですよ」
・・・まさかの認識不具合だった。 あいつ、沢瀬を眼鏡で認識していたのか?
でも偶然とはいえファインプレイ。 場の空気が軽くなって周りも全員再起動。
「えっと、ありがとうございます。 推薦人の沢瀬さんからのメッセージでした。
それでは次に、美倉さんからも会場の皆さんへのメッセージをお願いします」
牧村先輩は去年もこんな感じだったな。 あの時の俺は少しばかりテンパってて、
『不本意だあぁ!!』なんて叫んでしまったけど、今年は違う。 余裕が有るから
思っていることをそのままに、云いたいことを過不足無くに伝えることが出来る。
「 どうでもいいから、こんな面倒な事はとっとと終わらせて早く解散しようぜ 」
フッ・・・云いたいことを、言ってやったぜ。
《《《《 ・・・・・・・・・ 》》》》
《《《《 ウワアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ 》》》》
・・・・・・何故か受けてしまった。 何でだ?
◇ ◇ ◇
「えっ、と・・・ありがとうございました・てっ、えっ」 「どいて!」
牧村先輩を押し退けて、№2さんが俺の前に立つ。 五十嵐の話では清純そうな
見掛けに反して、腹黒で暴力的な言動から黒アリスの異名を持つアイドルさんだ。
「初めまして美倉先輩、私のことは御存知ですか?」 「№2さん…」 「…っ⁉」
目の前の結構派手な女の子、身長は俺より少しだけ高いが、胸は似たようなもの。
五十嵐を疑うわけではないが、この娘からは全く清純さを感じることが出来ない。
ただ黒いだけ。 今も何故か俺を睨みつけているし。 清純さはお仕事時間限定か?
確かに美人かも知んないけど、美貌なら沢瀬の方が上。 腹黒さも沢瀬の方が上。
全体的に沢瀬をスケールダウンさせたような印象を受ける。 これがアイドルか。
それで、その黒アイドルさんが俺に何の用なのだろうか? 先輩に挨拶しただけ?
て、雰囲気じゃない。 両手で俺の肩を掴み、顔がもの凄く近い。 頭突き攻撃か?
攻撃のタイミングを計っているのか? 狙いを定めているのか? 真剣な表情だ。
顔を赤く染めて、うっすらと汗まで滲ませている。 そこまで緊張しなくても…。
「た・・・体育祭!」
・・・多田井臭い? 多田井って誰? 多田井が臭いのと俺に何の関係が?
「体育祭の記録映像を観てから・・・ずっとロックオンしてました! 好き!!」
いきなりに№2さんが動いた! 来るか⁉・・・ん? 唇が重なる感覚? 本日2度目。
《《《《 ウワアアアアアアアアァァァァァァァァ 》》》》
隙を突いての攻撃かと思えば、狙いが逸れてただのキス。何やってんだ、こいつ?
狙いが逸れるにも程がある。目が悪いのだろうか?それにずっと録音してただと?
・・・盗聴か? 目が悪くて、多田井が臭いと八つ当たりしてくる盗聴マニアさん?
う~ん・・・いくら何でも無茶苦茶過ぎるな。 もう少し情報を整理して考えるか。
体育祭の記録映像に、俺と多田井さんの2ショット映像が入っていたので以降盗聴
を繰り返し、多田井さんが臭い原因を俺だと推測した上で、攻撃したが失敗した。
・・・駄目だ。 情報を整理したら、間抜けな変人さんの奇行になってしまった。
・・・・・・・・・
多分はただの誤解だ。誤解を完全に解くには論理を展開するだけじゃ駄目だろう。
俺が多田井さんと無関係だと証明する必要と、臭い原因を突き止める必要がある。
先ずは多田井さんを探し出し、それからじっくりと3人で話し合う必要があるな。
全てはそれからだ。・・・なんだろう? №2さんが沢瀬にも食って掛かっている。
『貴女には負けません』なんて言ってるけど、山猫が虎に勝てると思ってるのか?
何の勝ち負けを競おうとしているのか判らないが、残念な娘であるのは解かった。
なるべく彼女には関わらない様に注意して、多田井さん探しを行うことにしよう。
・・・全く、面倒なことだ。 ん? いつの間にか田辺が側に居た。 どうした?
「ずるいです」 「ずるい?」 「2人だけずるいです。 私もキスしたいです」
「はぁっ」 思わず溜息が出る。 沢瀬のはともかく、№2さんのはただの事故だ。
しかもキス如きで、ずるいも何もないだろう? 仕方ないので田辺にもキスをする。
《《《《 ウワアアアアアアアアァァァァァァァァ 》》》》
田辺にキスをしていたら会場が湧いた。 何かあったのだろうか?と周りを見回す。
原因はすぐに判った。 沢瀬オーラが放たれていたのだ。 №2さんが怒らせたのか?
会場に目をやるふりをして目を逸らす。 沢瀬の視線を感じるのは気のせいだろう。
今日の俺はまだ、沢瀬に睨まれるようなことをしていない筈だ。 多分間違いない!
「あの~、美倉さん?」 牧村先輩が何かを云いたそうにしているので、先を促す。
「私も、美倉さんにキスしていいかな?」 「はぁ?・・・別に構いませんよ?」
「 「 「 構いませんよじゃありません!!! 絶対に駄目です!!! 」 」 」
何故か沢瀬に怒られた。 不思議なことに田辺や№2さんにまで怒られた。
「何でかな? 伊藤はどう思う?」 フィナーレで隣に並んだ伊藤に聞いてみる。
「・・・沢瀬も大変なんだねぇ」 思いっきり話を逸らされた。 溜息交じりに。
ミス・ミスターコンテストは、特に何事も無い平穏の中、静かに幕を下ろした。
◇ ◇ ◇
打ち上げは大会議室ではなく、教室で行われた。 展示物の安全を優先したのだ。
打ち上げの真っ最中に、伊藤にキスをされた。
場所はトイレ。 ・・・伊藤はヤバい奴だった。
無駄を恐れる…:似たような言葉を調べてみたら、あの神様・松下幸之助さんが
『失敗を恐れるより、何もしないことを恐れよ』と仰ってました。
また、本田宗一郎さんも似たような言葉を残していました。
もりもりトリオ :森内、杜坂、守部の女子3人組。 いつも3人一緒とかではなく、
苗字でもりが3人続くから、周りにトリオ呼びされているだけ。
1位2位は去年と同じ:1位が伊藤で2位が昂輝、顔は寧ろ昂輝が上ですが、昂輝は
不愛想過ぎるし、筋肉質過ぎる処がマイナス評価なんです。
ちなみにミスコン2位は鹿原先輩で3位が五十嵐でした。
絶対無理だから :女王に選ばれる条件は以下の二つ。
首席入学以降全ての試験で首席を維持すること。
ミスコンで50%以上の得票、且つ2位以下にWスコア以上。
首席から陥落、もしくはミスコンで2位以下になれば退位。
但し、過去に退位例はありません。
蒼の母も姉も鹿原先輩もWスコア以上の条件に阻まれました。
ドリュー2 :昔の変り種カメラ。 調べたら面白いと思います。 凄く凝ってます。
頭突き攻撃か? :色々あって蒼もお疲れだったんでしょうね、多分ですが。
伊藤はヤバい奴 :次話にて詳細が判りますが・・・伊藤は別にヤバくない。
安城メイ(№2さん) に関して
本名 安城皐月、1年F組、サバゲとFPSと可愛い女の子が大好きな元気レズッ娘。
芸能科が無い、しかも大阪の帝山学園への入学理由はパンフレットの表紙を飾った
蒼とお友達になる為。 蒼に対する関心の切っ掛けこそ容姿でしたが、障害物競争
で披露した忍者のような身のこなしで、蒼にガチ惚れしてしまったポンコツです。
本当は暴走型ではないのですが、沢瀬の宣言にパニくったあまりに、自分でも訳の
分からない行動に出てしまったようです。 暫く自己嫌悪と不安感に苛まれるかも?
ちなみに芸能活動は順調で、その為に出番が凄く少ないキャラになります。
尚、蒼の№2さん呼びはエントリーナンバーが2番だからです。




