026_ウイルスが怖いのか俺が弱いのか
実は毎回のように校正で言葉を修正しています。それも何度も何度も。
誤字脱字は割と見つけ易いのですが、使っている言葉が適切であるか
どうかの判別が、言葉の選択が、とても難しいものだと感じています。
また、それとは関係なく今回も難産。なかなかに纏め辛い内容でした。
それと予告、次回はある意味覚悟が必要です。( 過去最長になります )
『・・・ブフッ・・・ゴホッゴッ・・・ゴフフ・・・ゲフッ・・・』
中間試験最終日・・・咳が聞こえる。後ろの席の秋津が少し風邪気味なようだ。
ポケットからのど飴を出して振り回し、先生にアピールする。気付いて貰えた。
そのまま後ろ手で秋津に渡す「サンキュ・ゴホッ・・・」いいから飴を舐めろ。
秋津も俺程じゃないが学校を休むことが多い。でも身体が弱いという訳ではない。
バンド活動でよく遠征に行くのだそうだ。 帝山はそういう趣味的事情による休み
も認めてくれる。・・・試験の成績が常に平均点以上をキープ出来ていればだが。
尤も平均点以下であっても休むことは出来るが、学業に不熱心と見做されて試験
で赤点を取ると即、追試のような救済措置無しに、その科目を落とす羽目になる。
つまり学業に不熱心な学生に対しては、サービスなんかしてやらんということだ。
誤解されがちだが、補修も追試も追加課題も生徒に対する無償のサービスなのだ。
時間外手当の有無は別問題として、赤点を取った者の為に教師が予定外の時間を
使うことになるのは全くの事実。 そんな手間を掛けさせるのなら、せめて勉強に
対して熱心であってくれ! と願うことは、人間の心理として当然のことだと思う。
・・・そう思うだろ?
それで何が云いたいかというと、秋津は趣味の為に頑張る必要があるということ。
バンド活動による休みを黙認して貰う為に、試験で平均点以上を取る必要があり、
その為には睡眠時間を削ってでも、バイトで疲れた身体に鞭打ってでも試験勉強
をする必要があるということ。そして試験当日には多少風邪気味だろうと休まず
に試験を受けて、学校や教師相手にやる気を見せ付ける必要があるということだ。
・・・試験で赤点を取らなければ済む話なのだが、念には念を入れたいのだろう。
という訳で秋津は、風邪気味なのに無理をしてまで学校に来て試験を受けている。
《 頑張れ~ 》と応援したい気持ちと《 迷惑だなぁ 》と思う気持ちの両方がある。
前者は純粋にプロを目指す気持ちを凄いと感じているから。 見た目が地味なだけ
にかなり狭くなりがちなプロへの道を、自力で頑張っている姿は応援したくなる。
後者は単純に俺の我儘。 免疫力が後期高齢者以下レベルの俺は、病院への出入り
を制限されてしまう程に病気をうつされ易く、その上で簡単に重症化してしまう。
( ・・・間違いなく明日か明後日には寝込むことになるな )
これはもう予想ではなく確信。
記憶をどれだけ遡っても、こんな状況に遭って寝込まずに済んだ試しがないのだ。
今日が試験最終日であったことを、不幸中の幸いだと考えて受け入れるしかない。
最低でも3日、咳が酷くなって気管支炎を発症したら・・・1週間は寝込むかな?
帝山祭迄あと3週間もあるから、10日前後の休みくらいなら問題無いよな。多分。
それ以上寝込むようなら・・・まぁ成る様になるだろう。
そんな風に軽く考えていたが、俺の身体は俺が思っていた以上にポンコツだった。
いや・・・ポンコツになっていたというべきだろう。
そのことを医師から指摘されて、酷く落ち込むことになるのは少し先の話になる。
◇ ◇ ◇
「これなんかどうでしょうか?」「車輪が小さいと安定性に欠けると思いますよ」
「もう全部買っちゃいなさいな。 後は蒼が好みで選ぶでしょ?」
沢瀬と田辺と姉ちゃんが、俺の電動車椅子を選んでいる。俺の希望を完全無視で。
俺としては機動性に優れていて、折畳んだら小さく出来る手動式が好みなのだが、
『身体の負担は極力避けるべきです』という沢瀬のひと言で却下されてしまった。
ところで、どうして車椅子なんかを検討しているのかというと、歩行困難だから。
股関節の痛みが酷くて3分も立っていられないし、座っていてもたまに酷く痛む。
恐らくはウィルスが原因だろうとのこと。 感染性関節炎とかいうらしい。 普通は
高齢者や乳幼児といった、免疫力の弱い年代で発症するものらしいが、俺の免疫力
は後期高齢者以下らしいのでこんな事態になった。 風邪で歩行困難なんて初めて。
そう風邪。別に怪我をしたわけでなく外傷も無い事から、風邪のウィルスが関節に
入り込んで炎症を起こしているというのが医者の診立てだ。 かなり珍しいらしい。
この症状が珍しいという意味ではなく、風邪による感染ということが珍しいとか。
普通なら怪我や手術といった、患部が外気に晒された状態で感染するのだという。
・・・・・・正直そんなことはどうでもいいが。
問題は寝込んでから10日経っても満足に出歩けない状態であることと、その状態が
いつ迄続くのかという事。 多分数日で歩けるようになるだろう、多分にだろうだ。
2日間検査入院した末に『よく判らん、多分大丈夫でしょ』と云われたに等しい。
数日が数週間や数ヶ月にならないという保証は無い。 感染性関節炎という病名すら
推測に過ぎない。 感染プロセスが有り得ない様なものだから、全く別の病気である
可能性もある。 更にはまだ病名すら無い程の、極稀な症例である可能性すらある。
つまり現時点では判らないことが多過ぎて、今後の予測が全く出来ないという事。
だから現在の状態が長引く可能性迄考えて、車椅子を導入することになったのだ。
◇ ◇ ◇
機種の最終選定に於いて多少は俺の希望も反映されることになった。 俺の希望は
三つ、駆動輪が大きい事、重量が軽い事、それと必要最低限な機能であることだ。
駆動輪の大きさと重量の軽さは手動時の扱い易さに直結するし、多機能を嫌うの
は故障の可能性を最低限に抑えたいから。 機能が増える程に、可動部が増える程
に機械というものは、壊れる可能性のある箇所と壊れる頻度が増えるものなのだ。
ついでに言えば大きくなるし重量増にもなる。 バッテリー消費も激しくなる。
あった方が便利かもしれない? 程度の機能なら省く方が正しい選択といえる。
そして今日がいす丸君初出勤の日、命名は田辺。 誰も車椅子の名前なんて考えて
いなかったから、自動的に田辺案の採用となった。 名前不要論は何故かスルー。
朝になったら痛みが消えていて普通に登校・・・という俺の希望は儚く消えた。
もう少し頑張れよ! 俺の身体。・・・この科白を何度心中で叫んだことだろう。
軽く落ち込む俺の小さな溜息を、田辺は聞き逃さなかった。
「どうしたんです? 気分が優れませんか?」 「いや、来週がちょっと億劫でな」
今日から一週間後、来週の木曜日と金曜日に帝山祭、所謂学園祭が予定されている
のだが、今の身体じゃ何の手伝いも出来ないだろう。 それを思うと少し気が重い。
でもそれを口にしてしまうと、周りが気を遣うだろうから別の理由を挙げてみる。
「ミスコンがなぁ・・・多分ウェディングドレスを着させられると思うんだよ」
「あれ? 沢瀬先輩から聞いてなかったんですか? 確定事項ですよ、それは」
えっ!? ・・・何で俺が聞かされていないことを、田辺が知っているんだ?
上半身を捻って車椅子を押す田辺に顔を向ける。 股関節に激痛が走った。
「 ☆△☆ っ⁉ ・ ちっ ! ・ ちー ・ ちち ・ ちー・・・」
「おしっこですか? 我慢出来ないなら私がのん 「ストップ! それ以上言うな!」
こいつ、俺が止めなければ一体何を言うつもりだったんだ? 大体想像は付くが。
本当に・・・最近大人しくなってきたと思っていたら、いきなり暴走しやがった!
やはり田辺は一瞬の油断も許されない危険物だ。 おかげで眠気も吹っ飛んだわ!
・・・・・・・・・
いや、眠気は痛みで吹っ飛んでたか。 だいぶマシになったがやはり動けば痛い。
本当にこの痛みはあと数日で収まってくれるのだろうか? 何とか来週からは普通
の生活に戻りたいものだが。 まっ、俺が考えてどうにかなるものでもないけどな。
それはそうとして。
「それ・・・ウェディングドレスの件は沢瀬から直接聞いたのか?」
「そうですよ、毎日聞いてたら、仕方なさそうに教えてくれました」
・・・・・・本当にこいつの沢瀬オーラスルースキルは凄いわ。
◇ ◇ ◇
マンション自室から電車に乗るまでは、完全バリアフリーで全く問題は無かった。
電車に乗り込んだら、沢瀬と田辺で車椅子を取り合うという子供じみた諍いが発生
したが、『同じクラスの昂輝が最適だろ』のひと言であっさり終結。 合理性最強。
それにしても、何で親友と妹分が俺を取り合って争うのかな?
昂輝は「 (はっきりさせないからだ) 」と小声で囁いてくるが、
既にはっきりさせているではないか。親友と妹分だと明確に。
・・・・・・俺にはそれ以上の存在を作る気が無いのだから。
◇ ◇ ◇
学園前駅に着いたら、雨天用校舎直結通路部でエレベーターの設置工事中だった。
母ちゃんか姉ちゃんが金を出したのだろう。 かなりのものを造っているようだ。
工事の様子を横目に東改札を出ると、路地一本を挟んだところが学園だ。 正門迄
20mだから本当に近い。 正門から校舎迄の80mを足しても僅か100mしかない。
その僅かな距離の間に、クラスメイトや柔道部の連中から何度も声を掛けられた。
それ程に車椅子のインパクトは大きい。 俺だって知り合いがいきなり車椅子姿
で現れたら、何があったのか気になるからな・・・質問攻めも無理は無いと思う。
他人の目には見えない痛みとか苦しみなんかと違って、車椅子というアイテムは
誰の目にも見えるモノだから、簡単に使用者の不調がイメージ出来るのだろう。
つまり可視化されたことにより、体調不良のイメージ伝達が円滑に行われたのだ。
この効果は健康面で特に優れた者や、思考が最高水準に簡略化された者、即ち単純
健康馬鹿になる程に強く認められるようになる。 具体的には筋肉や斎藤らへん。
鬱陶しくなる程に付き纏われたが、沢瀬オーラで追い払われた。 流石影の女王。
そんな人の壁を除けば、学園内もバリアフリー化が進んでいて車椅子で困ること
は無かった。 4階建ての校舎はリング状に繋がっている為、エレベーターが1基
しかなくても何処にでも行ける構造になっているからだ。 問題は体育館くらい?
ともかくそうして教室に着いたら、俺の顔を見るや否や五十嵐が駆け寄って来た。
「まだ歩けないんだ・・・本当に大丈夫なの?」「多分な。医者はそう言ってる」
ある程度は事情を知っている五十嵐が、心配げに話しかけて来るから安心させる。
クラスがざわついていないのは、昂輝がしっかり説明してくれていたからだろう。
「それで早速なんだが席替えをして貰えないか? 俺は窓側の一番後に移動したい」
クラス委員の昂輝と五十嵐に提案する。二人共発言の意図に直ぐ気付いてくれた。
車椅子が邪魔にならない位置が、そこでしかないことは誰の目にも明白だからだ。
何事にも細やかな気遣いが出来る五十嵐にしては、珍しく後手の対応となった。
それだけ心配を掛けていたのだと思うと、少し心苦しくなるが顔には出さない。
こういうことは互いにスルーが、気付かないふりを通すことが一番だろうから。
◇ ◇ ◇
気が付けば放課後だった。 困ったことに車椅子の椅子部分の出来が良過ぎるのだ。
・・・そういう理由で眠くなる。 先生に対する礼儀として、出来るだけ眠らない
ように心掛けているが耐えられなかった。 まさか車椅子に迄副作用があったとは。
「先生たち・・・もの凄く心配そうに見ていたわよ」
まだ本調子ではないと思われたのか? それとも薬の副作用とでも思われたのか?
どちらにせよ誤解させてしまったことには違いない。 明日からは注意しないと。
「本当に・・・大丈夫なんだよね?」 「・・・うん、多分だけどな」
五十嵐が念を入れて来るが他に答え様が無い。 でも明らかに眠気と疲労感が強い。
「ひょっとしたら薬の副作用とか?」 「抗生物質しか飲んでないから・・・」
俺は基本的に薬が駄目だ。 どんな薬でも副作用で苦しむから滅多に処方されない。
でも今回は別、悪化させたら関節が破壊されて動かなくなるから、副作用を覚悟の
上で薬の投与となったのだ。 そして抗生物質の副作用に眠気なんかは無い。
抗生物質の副作用は主に消化器系の不調だが、それは軽い下痢として現れている。
他にもアレルギー反応や血液凝固障害等があるが、前者は免疫力が糞ザコな俺には
無縁なものだし、今の処後者の兆候は確認出来ていないから、問題は消化器だけ。
軽い下痢だけ。腹の状態を考慮して食事量を抑えているから、それで済んでいる。
・・・・・・・・・
・・・食事量を抑えている状態で、軽い下痢が続いている?
・・・・・・ふむ、栄養状態に問題があるかも知れないな。
副作用による下痢が栄養不足という副反応に繋がったのか?
副作用からの副反応という・・・似たもの連続コンボ攻撃。
・・・なかなかやってくれるじゃないか、ウィルス風情が!
・・・いや違うな、俺の不注意だ。 てか医者の不注意かも?
・・・取り敢えず今日から毎日点滴が必要になるという事だ。
病院への出入りを制限:普段は往診して貰い、そうでない時は裏口からの出入り。
とにかく他の患者との接触を避ける必要がある為です。
作者は医者から極力病院には出入りするなと注意されて
いるだけに留まっています。 3日安静にしても快方に
向かわないか、悪化するようなら来いと云われています。
多分にだろうだ:本当にこれが一番厄介です。まだまだ人体は謎だらけという事。
医者がお手上げなら、患者は諦めて開き直るしかないのが現実。
感染性関節炎:作者も風邪から発症しましたが、こんなのは初めてだと医者に
云われました。かなり珍しいようですね。1週間歩行困難でした。
割と癖になるようで、何度も再発してますが何故か痛みは控えめ。
薬が駄目:作者もどんな薬でも副作用に苦しめられます。漢方薬でさえ副作用で
苦しむ為、医者から『貴方には怖くて薬の処方が出来ない』との言葉
でお手上げ宣言を喰らう始末。結果病院には行けない、薬は飲めない。
一見病院には行かない、薬は飲まないな超健康体に見えてしまう病弱。
超健康人間に似て非なる病弱人間な作者。毎月の保険料が何か虚しい。




