020_闇取引と煙管計画(キセルプラン)
今回は長くならずに済みましたが、内容が薄い割には結構難産でもありました。
望月旭という蒼たちの担任が考え無しのポンコツで、自らは何もしてくれない。
勝手に暴走する田辺のようなキャラも困るが、何もしないキャラも大変でした。
人の噂も七十五日と謂うが、七十五日では済まない噂や、鎮静化しない噂もある。
そして真実であると認識されてしまう噂まで・・・俺が実は女だという噂がこれ。
或る程度仕方のない胸もあるので、大人しく甘受していたら百合説まで加わった。
『男子と一緒にいればBL、女子と一緒にいれば百合、一種の才能ね』と五十嵐に
笑われる程度で特に実害は無い。 手紙を読むことに結構な時間を割かれる以外は。
これはBL説全盛期には無かったことだ。男が筆不精なのか、女が筆まめなのか?
・・・或いはもっと別の理由があるのか?
「そんなことを聞かれても・・・私には解からないわよぉ」
俺たちよりかは、多少は人生経験豊富だろう担任の望月先生に聞いた結果がコレ。
まぁそんなもんかと思う俺は今、生活指導室で先生と2人仲良くランチタイムだ。
何でそんなことになっているのかといえば、相談があるからと呼び出された為だ。
「あっ、でも恋愛経験が無いってわけじゃないわよ!
BLとか百合とか、そんな特殊な恋愛の経験が無いだけで」
そうか・・・BLとか百合って特殊なんだ? 俺の周りにそれが多いというだけで。
・・・でも何で筆不精か筆まめかの質問が、先生の恋愛経験の話になるのだろう?
・・・・・・・・・ま、いっか、それより何で呼び出されたかなのだが?
「美倉君って本当に少食なのね、それだけで足りるの?」
俺の昼食がカロリーブロックと野菜ジュースであることが主題では無いだろう。
『女子の制服を着ていたら、本当に女子にしか見えないわね?』という第一声も
相談に値する内容ではない。 ひょっとして食べているうちに忘れたのだろうか?
それとも俺が『そのおかげで百合なんて噂まで生まれて面喰ってます』と答えた
ことで、話を切り出すことが難しくなった、そんな性癖絡みの相談だったのかな?
教師が自分の生徒に性癖を相談?・・・なんて普通はしないと思うが?
俺の周りが特殊だからそう思っているだけで、普通はするのだろうか?
・・・・・・・・・
恋愛や性癖に興味の乏しい俺が考えを巡らせた処でどうにもならんな。
「・・・それで、相談って何ですか?」 時間が勿体ないのでストレートに聞く。
「相談って・・・もぐ、あっ! そうそう相談があったのよ、忘れてたわ・もぐ」
・・・本当に忘れてた? あと食べながら話すのは止めた方がいいと思いますよ。
「えっとね、先ずは試験のことなんだけど、私の担当する科目っていつも平均点が
高過ぎるのよ。 簡単にしてるつもりは無いのに。 理由を知ってたりしない?」
「へっ⁉」 ・・・・・・余りにアホな質問に、一瞬呆れた。
・・・この人は生徒になんちゅう質問をしてくるのよ? そりゃあ態々生活指導室
を確保する訳だわ・・・こんなんが学年主任や教頭の耳に入ったらどやされるぞ。
「ほら、美倉君っていつも満点じゃない。 当然試験対策をした結果だと思うのだ
けど私のテストではどんな対策をしているのかな?とか教えて貰えないかな?」
・・・こういうのを何と言うのだろう? 『敵に塩を強請る?』 何処の馬鹿殿よ?
でもこれでも担任なんだよなぁ・・・少しくらい点数稼いでおくか。でもその前に
「何で平均点が高過ぎたら駄目なんですか? やっぱり査定が下がるのですね?」
「そうそう、よく知ってるわね? ボーナスの査定に響くのよ。かなり痛いのよ」
別に知ってたわけじゃない。鎌を掛けただけなのにヤバいくらいにチョロ過ぎる。
とはいえボーナスに響くのか・・・だとしたら聞き流すには忍びないものがある。
「試験絡みの査定詳細を教えてくれたら、平均点の高さの理由をお教えしますよ」
だから取引です。 先生はボーナス減の回避、俺は好奇心の充足、正にWINWIN。
◇ ◇ ◇
取引は見事成立となった。 しかし・・・本当にこの先生は大丈夫なのだろうか?
1人暮らしと聞くし、簡単に詐欺や悪質セールスマンに騙されるような気がする。
だからと言って俺が干渉出来る事では無いから、自己責任で凌いで貰うしかない。
それで肝心の査定基準なのだが、目標平均点は60点で目標±5点以内だと5%の
プラス査定になる。 更に±5点以内はゼロ査定で、それ以上それ以下だと5%の
マイナス査定になる。 ということは中間と期末で、最大10%のプラスとマイナス
が発生することになる・・・ボーナスの一割減は確かに痛いだろうな。少し同情。
そして交換した情報は望月先生のポンコツぶりを如実に示すものだが、本人が気
付いていないので良しとしよう。 後で気付いて落ち込んでもその時はその時だ。
何とこの先生、授業中に『ここは大切だから』とか『ここ重要ね』といった具合に
強調した処は全てテスト問題に反映され、そこを押さえるだけで60点は取れる。
ちな、これは五十嵐からの情報な。 国語だけは比較的マシなので得意なのかと
訊ねた結果の答えだ。 だから強調する回数を減らせば平均点は下がると伝えた。
・・・これで五十嵐の国語の点数が下がることも確定かな?
しかし学生の本分は勉強なのだから、手を抜かずに勉強すればいいだけなのだ。
サービス問題が減って赤点になるとしても、それは本人の努力不足でしかない。
というわけで、五十嵐の点数ダウン問題も気にする必要は無いから本日は解散。
「ちょっと待って! もうひとつあるのよ」
出来なかった。 ・・・あと15分しかないけど、時間的に大丈夫なのだろうか?
「こっちは直ぐ済むと思うから・・・修学旅行の話なの」
・・・修学旅行と聞いて大体の予想は付いた。 2学期早々に配布されたしおりを
見て俺は直ぐに不参加を決めたのだが、女王の肩書は想像以上に重く学校側から
全力で慰留された結果、参加可能条件を学校側に提出、検討して貰っていたのだ。
速攻で俺には無理だと参加を諦めた修学旅行の日程は次のようなもの。
1日目:7:00大阪出発→倉敷観光→宮島観光&宿泊
2日目:7:00厳島神社参拝→8:00出発→下関&門司観光→博多観光&宿泊
3日目:8:00出発→大宰府天満宮参拝→吉野ケ里&御船山観光→長崎宿泊
4日目:終日長崎観光(自由行動)&宿泊(連泊)
5日目:7:00出発→大阪へ(長崎→大阪は移動だけで約9時間休憩込み11時間)
いくら移動中はバスで寝ていられるとはいえ、俺には絶対に無理なスケジュール。
2日目にはグロッキー状態、3日目は下手すりゃ病院のベッドで寝る羽目になる。
好き嫌いでも無ければ我儘でも無い。俺の身体が耐えられないだけのことなのだ。
・・・それなのに帝山学園のシンボルなのだからと、参加を要請されてしまった。
俺が示した参加条件は、初日から長崎に先行して4日目の自由行動のみの参加。
宿泊は全て自腹で同じホテルのスイート泊。 多分姉ちゃんも同宿すると思う。
5日目は体調次第で合流の是非を決定、と・・・かなり我儘な内容を提示した。
・・・我儘ではあるが、俺が参加するには必須といえる内容なのだ。
仮に学校側から拒否されても、その場合は当初の予定通り期間中は欠席して個人
での長崎観光と称して自由行動に合流するつもりなのだが・・・どうなったかな?
「教職員会議の結果、美倉君の希望はほぼ認められましたよ。 ほぼというのは
1点だけ、倉敷での集合写真撮影には参加して欲しいのよ? 出来るかしら?」
「それくらいなら問題ありませんよ。 色々とお気遣い頂き有難うございます。
それで倉敷までの移動手段は後日の、最悪当日の決定でも構いませんか?」
「それは当日連絡でもいいという事になっています。 じゃあこれで決まりね」
今度こそは本当に終わりだろうと思って席を立つと、更に声を掛けられた。
「今度試験問題を作る時には、美倉君に監修をお願いしてもいいいかな?」
・・・・・・「 ( ああっ!? ) 」・・・・・・
・・・本当に呆れた。 思わず『正気ですか?』と声に出てしまった。
「えっ⁉ と・・・ごめんなさいね、面倒なら別にいいから」
・・・面倒とか・・・そんな、謝って済む様な問題ではないと思うのだが?
・・・・・・・・・
何にせよ、この人は試験の問題作りを面倒な作業と認識していることは理解した。
人としても、教師としても、かなり駄目であることも、思い知らされてしまった。
ホント・・・俺の周りって、おかしな奴が多いよなぁ。 ・・・教師を含めても。
◇ ◇ ◇
教室に戻った時点で、休憩時間はまだ5分を残していた。 というか残り5分。
55分間も掛けるような内容の話では無かったなと思い、その原因を探ってみる。
望月先生がポンコツだから無駄に時間を浪費した。 という結論にしか至らない。
しかしこの評価は問題が有り過ぎる。 一応は年上で一応は教師なのだから、もう
少し長所にも目を向けて評価の上方修正を試みるべきだろう・・・さて、長所は?
気さくで人当たりが良くて親しみ易くて生徒に人気・・・短所に比べて少ないな?
「美倉ぁ、結構時間掛かったみたいだけど、旭ちゃんの用事って何だったの?」
「あぁ修学旅行の件でちょっとな、後は殆ど雑談だった・・・ところで五十嵐は
望月先生の長所って何だと思う? 親しみ易さとか人当たりの良さ以外で?」
丁度いいタイミングで話し掛けて来た五十嵐に確認してみる。 陰キャ男子
で胸がある俺とは真逆である、胸無し陽キャ女子の意見はどうなんだろうか?
「旭ちゃん? テストは簡単だし、授業を聞いてなくても小言だけで済むし、
宿題出したこと忘れるし、付き合い易くて扱い易いいい先生だと思うよ」
・・・あっか~ん! 五十嵐にも完全に舐められてるじゃん!!
やっぱり・・・俺の周りってこんなん多いわ。 何でなの?
2学期早々に:しおりの配布は早過ぎると思うでしょうが訳があります。帝山学園
の修学旅行はバス移動が基本だからです。バスを選ぶ理由は建前が
道中の風景の移り変わりを見て、都市部と地方部の格差をその目
に刻み付けることと、物流の基本である陸送の大変さを実感させ
ることです。本音が自由な校風に慣れ過ぎた生徒が公共交通内で
奔放過ぎる振舞に及ばないようにする為です。だから新幹線とか
飛行機ではなくバス移動を選ぶのですが、バスだと酔ってしまう
生徒が出る為、前以てそんな生徒には別途電車に依る移動を申告
させる必要があるのです。だから早めの旅行行程明示となります。
胸がある俺 :胸がある=女に見える、胸が無い=男に見えるという蒼視点は
ナチュラルに失礼なのですが、本人は至って無自覚という怖さ。
作者も修学旅行は大変だったという思い出しかありません。 家族旅行なんか出来る
経済状態じゃなかったので、単純に旅行というだけで嬉しかったのですが、楽しめ
るのは初日だけ。2日目からは体力切れで、ただの苦行でしかありませんでした。
皆に付いていくだけで必死、周りをみる余裕等無く、見えるのは級友の背中のみ。
何処に行ったのかは覚えていても、どんな処だったのかはまるで覚えていません。
そんな状態・・・身体が弱いと健康な人の遊びにすら同行出来ないのが現実です。
ちなみに修学旅行で行った場所は全て、社会人になってから個人で旅行しました。
1箇所ずつゆっくりと、何年も掛けてのぶつ切りな行き直し旅行になりましたが。




