011_お泊り会の最後は恋バナ
今回はかなりな難産でした。
前回を一気に書いた反動で(?)体調を崩したことも関係するのか?
単独のエピソードにならないような、些細なことを色々ぶっこんだ
結果なのか? かなりごちゃごちゃした内容になったと思います。
読み易さを意識しているつもりでしたが、今回は読み辛いかもしれません。
おまけにボリュームもそこそこに膨らんでしまったし。
前後編に別けるにも、別け処が難しいからひとつでいいやと。
そんなこんなで、色々すみませんなエピソードになりました。
「さわやか君を目指しているみたいですが、中身スッカスカな糞ザコですね。
正直これっぽっちも興味を感じません。 キング・オブ・背景モブです」
田辺の丹羽(弟)評は、思わず憐れみを覚える程のものだった。
こいつ、よくクラスメイトをここまで扱き下ろせるものだな。
「女子にはそこそこ受けはいいようですよ。 色々と頑張って気配りしてるみたい
ですし。 偏差値59ってとこでしょうか? でも男子人気は駄目ですね。 誰も
性的対象にみている様子がありません」
男子が丹羽(弟)を性的対象にみないのは寧ろ当たり前に思うが・・・多分男子には
人気が無いと言っているのだろう。 でも女子には気配りがあって人気者なのか。
・・・なんか、俺の知ってる丹羽(弟)とは別人だな。あいつ、最上級生にすら気を
遣ったりはしないぞ。 クラスでは猫を被っているのか? 兄貴の前では悪ぶって
いるのか? どっちが本当のあいつなんだろう? ・・・じゃなくて問題はあいつの
俺に対する接し方だ。 礼儀とか気配りとかいう以前の問題で・・・殆ど変質者?
これは・・・、やはり柔道経験者の男に相談した方が良いのだろうか?
丹羽主将には内緒にしたいから・・・三年生は避けたほうがいいかな?
となると、やはり同じ二年生の誰かになるか・・・
昂輝や中根に相談したら・・・問答無用で丹羽(弟)にヘイトを向けかねないし。
斎藤だといきなり鉄拳制裁とかやりかねない。あいつ、瞬間沸騰型正義感だから。
八鹿と山田は田辺クラスの謎人間だから・・・残るは高梁ただ一人。
んー、何だかなぁ・・・俺の周りって、マジで常識人少なくね?
・・・・・・・・・
対人能力はアレだけど、温厚だし、仲良しだし、口は堅いし、ここは高梁一択な。
◇ ◇ ◇
「姉ちゃん、今日、高梁を泊めるな!」 「あら、あのコミュ障美少女ちゃん?」
打てば響くといった調子で姉ちゃんが反応する。 それだけ、去年の夏合宿時に
出会った印象が強いのだろう。 中根や斎藤、森里辺りもかなりインパクト強め
な筈なのだが、姉ちゃんのお気に入りは高梁だけだ。 BL的視点なのかな?
「うん、コミュ障は変わってないけど、美少女は筋肉美少女に進化したぜ!」
「筋肉美少女? あんたと同じ少女体形だった娘に、まさか・筋肉が付いたの?」
「何とも羨ましいことに1年で背が8cmも伸びて、17kgも筋肉を付けやがった。
もう一年前とは完全に別人だな! ・・・顔以外は」
「・・・17kgって・・・成長期の男子って、凄いのねえ?」
うん、マジで凄いから。 顔以外は普通・・・というか普通より逞しい男子に成長
しくさりやがったからな。 今の姿を見たら、姉ちゃんもきっと驚くぜ!
しかし、俺も一応は成長期の男子なんだが・・・やっぱり食が細いと駄目なのか?
食といえば、高梁は洋食派だった。 なら俺たちが作るよりもケータリングだな。
でも、取り敢えずは・・・食べたいものとアレルギーを確認。 スマホを出して、
『おう! 俺! 俺! お前さ・・・・・・』
◇ ◇ ◇
「あ・あの・おじゃまま・します」
おどおど、というか恐る恐るに挨拶をする高梁に・・・
「あらぁー! 寛佳ちゃん、相っ変わらず、可愛いわぁ♡」
といいながら、いきなり抱き着くセクハラ姉ちゃん。 その程度で止めたげて。
高梁・・・顔、真っ赤・・・目、ぐるんぐるんになってるから。 限界が近そう。
『あわわわ・・・』とか、言ってるから。 下手すりゃ、泡を吹きかねないから。
「あら⁉」 「わわわわわわ・・・」 「どうした? 姉ちゃん、何かあった?」
「本当に逞しくなってるわね」 「だろ? こいつ筋肉第一形態に変化したんだぜ」
姉ちゃんが、抱き着いて初めて判ったと言わんばかりに、その変化に驚いている。
そう、高梁は着痩せするから、ぱっと見は手足と首が一回り太くなっただけだが、
隠れた処、胸や腹筋ががっちり厚みを増してやがるんだ! この、裏切り者めが!
なんて言ってる暇はないな。 姉ちゃん、離れて、離れて、コーナーに下がって。
カウントを数える代わりに、高梁を優しく抱きしめて頭を撫でてやる。よしよし。
今、姉ちゃんに教育的指導をしてやるからな・・・と思ったら姉ちゃん蹲ってた。
何かわなわな震えてるけど大丈夫か? それに鼻血まで・・・本当に大丈夫なの?
まぁ、笑顔でてぇてぇズとか呟く余裕があるようだから、多分大丈夫なのだろう。
そんな些細な事故に遭遇したものの、俺は人生三人目の男友達を自宅に招待した。
ところで高梁、何で姉ちゃん相手にそこまで緊張するの? 去年会ってるじゃん?
「・・・あのぉ・・・おっ・・いが・・・」
あぁ、おっぱいか・・・あれは・・・数を熟して慣れるしかないな。まぁ頑張れ。
でも確かにあのおっぱいは強大過ぎるな! 仕方ない、先ず隗より始めよ。 という
ことで手頃な俺のおっぱいから始めよう。 晩飯食ったら、風呂は一緒に入ろうぜ!
◇ ◇ ◇
ということで、高梁と二人で風呂に入っています。
昂輝には中学時代から避けられるようになったので、久々の男同士の入浴になる。
ちなみに高梁とは男の娘用更衣処組の仲なので、胸は膨らみ始めから見せていた。
だから今更驚かれたりはしない筈なのに・・・
「あわわわわ! ちょっと美倉ぁ、いきなり何をするのさ⁉」
「何って?・・・女のおっぱいに慣れるトレーニングだが?」
ちょっと顔をおっぱいで挟んだだけなのに狼狽え始めた。 何でだ⁉
「そういうHなことは、夫婦か恋人限定でしてよ!」
いや、別にHとは思わんが? でもまぁ、何なら今だけ恋人同士になるか?
・・・てかお前、その・・・ひょっとして?
「ソレ、大きくなってるよな? ひょっとして俺のおっぱいに興奮したの?」
随分と御立派に起立成されてた。 しっかし、こいつ、首から下は完全に男だな。
しかも結構逞しい。 男の娘はもはや顔だけか・・・何か負けた気がして悔しい。
これが常から2倍以上食べる成果だというのか? さっきなんか3倍は食ってた。
「するよ! 美倉って凄い美人だし! おっぱいは凄く綺麗で柔らかいし!!」
褒められてるのか、キレられてるのか判らん。 だがしかし、これはチャンスだ。
「何がチャンスなのさ⁉」 「大きくなったソレの匂いを嗅いでいいか?」
何を言っているんだと、言わんばかりの驚愕の表情をみせる高梁寛佳16歳。
俺、そんなに変なことを言ったか? おかしなお願いをしたか? 匂いだけだぞ?
・・・暫しの沈黙の後、高梁が溜息交じりに言葉を吐き出した。
「どうしてコレの匂いを嗅ぎたいのか? その・・・理由に依るけど」
「実は、俺自身も色々調べた結果、それはないだろうと思っているのだが・・・」
姉ちゃんたちが出している薄い本に、大きくなったソレの匂いを嗅ぐことで気分
が昂ぶり、Hな衝動が抑えられなくなるという描写が度々現れる。つまりは媚薬。
大きくなったソレの匂いには、本当に媚薬成分が含まれているのか?
「それが知りたいんだ」
高梁にはものすっごく大きな溜息を吐かれ、昂輝や伊藤に頼んでくれと言われた。
モノの匂いを嗅がれるのが嫌なのだろう・・・やはり高梁は繊細な奴だと思った。
◇ ◇ ◇
「もっふふ、高梁との初夜だぜ!」「初夜の使い方がおかしい!間違いだから!」
俺のボケにしっかりとツッコむ高梁・・・こいつ、俺となら普通に話せるんだよ。
大男が苦手っぽいけど、昂輝や八鹿とはそこそこ普通に話せるようになってるし。
女子でも鹿原先輩と酒辺は苦手にしなくなった。入学時とは全くの別人になった。
だから、卒業時にはもっともっと別人になっていることだろう。 見た目同様に。
いい方向に、本人が望む方向に変化し続ける高梁・・・少し眩しく少し羨ましい。
てっ、友達を羨んでどうする⁉ 男が羨んでいいのは見事な筋肉だけだ!!
気を取り直して、見ろこのパジャマ! 姉ちゃんチョイスの、スッゴイエロいの!
「・・・何というか、ホント、凄いね?」 「だろ? ネグリジェよりエロいんよ」
ピンクのシルクというだけでも結構エロいのに、デザインが・・・更にエロい。
前のカットが開き過ぎて、少しずらせばすぐにポロリよ。 ブラしてないから。
下なんかはパンツが半分以上見えてるし、というか、どう頑張っても隠せない。
おまけにそのパンツが、微妙にセクシー系の女物だし。
「そのパンツもお姉さんが?」「うんにゃ、これはブラとセットで沢瀬が選んだ」
セットじゃない買い方もあるみたいだけど、面倒だから俺は全部沢瀬に任せてる。
結果全部セットになり、たまに沢瀬のチェックが入るから変な組み合わせはNG。
「・・・美倉も大変だね」 「慣れたらそうでもないぞ、肌触りだけはいいし」
本当に、これしき屁でも何でもない。 パンツも吃驚するくらいによく伸びるし。
姉ちゃんには面倒を掛けてばかり、女装くらいで喜んで貰えるなら安いものだぜ。
・・・と、そんなことより本日のお題、略して本題だけど、先攻後攻どっちする?
「先攻後攻って・・・美倉らしいけど・・・先ずは言い出しっぺからね」
・・・そうやって俺と高梁のピロートーク、ではなくお悩み相談会が始まった。
俺の悩みは丹羽(弟)の件で、高梁の悩みはまだ具体的には聞いてない。先攻は俺。
「俺の悩みは・・・」 そこで声が止まった。 向かい合う高梁と目が合ったから。
今は殆ど顔だけ見えている状態だから完全美少女、本当に可愛い。そして思った。
ひょっとしたら、こいつの悩みも俺と同じじゃね? と。
「美倉の悩みは丹羽(弟)のことだよね?」 「やはりお前も⁉」 「僕は違うけど」
違ったか・・・だけど俺の悩みはお見通しだったようだ。 何でバレた?
「二年は皆気付いてるよ、美倉が相当嫌がっていることくらい」 「えっ⁉」
「だって、美倉って練習中は笑うこと無かったもん」 「そうなのか?」
「自分で気付いてなかったんだ? そうだよ。 練習中は真剣そのもので笑わない、
それが美倉。でも最近は丹羽(弟)に笑うようになったから、皆不思議がってた」
「それで? どうして俺が嫌がっていると?」
「藤堂が言ったんだ。美倉は相当に我慢していると。そんな時に見せる顔だと」
なんと・・・俺にそんな癖があったとは? つまりバレバレだったと?
「それで皆が丹羽(弟)のセクハラに気付いた。意識して見れば本当に酷いレベル」
「中根も斎藤も今すぐ止めさせるべきだと憤慨してたけど、藤堂が止めていた。
美倉から相談を受けるまでは手を出すなと。 納得するまで考えさせてやれと」
「皆、心配して美倉を見ていた。 早く相談して欲しいと思っていた。
だから嬉しかった。 一番に、僕に相談してくれたことが嬉しかったんだ」
美少女の笑顔が眩しい。 前髪をピンで留めたら普段と全く別人だな、こいつ。
でも、それだからコミュ障のお前が、二つ返事でお泊り会をOKしてくれたのか。
・・・・・・・・・こいつにも、他の連中にも随分と気を遣わせていたようだな。
・・・そんだけ俺は、余裕を無くしていたということか。
・・・それにしても昂輝の野郎、こんな処に迄過保護ガードを発動させやがって。
借りが増えるばかりじゃねーか! ・・・今度おっぱいでも揉ませてやろうかな?
でも今は丹羽(弟)問題が優先。 悪いな昂輝、おっぱいサービスは検討しておく。
・・・・・・・・・
それで問題の丹羽(弟)だが、誰もが退部は免れないと考えているようだった。
「あの性格だからね、反省どころか行為を認めようとせずに不貞腐れる
だけだと、二年の意見は一致しているよ。 宮川先輩もそう考えている」
「主将はまだ?」 「気付いてないみたい。 佐川の指導に付きっきりだから」
佐川は一年生で一番小柄で一番体力不足、つまり去年の俺と高梁と森里ポジ。
俺も高梁も丹羽先輩の特別指導のおかげで、柔道を辞めずに続けてこられた。
もし丹羽(弟)問題が表に出れば、丹羽先輩は責任を取って部を辞するだろう。
「その点に関しては気にするなと、寧ろ知らせずに内々に処理する方が問題だと
宮川先輩が言ってたよ。 丹羽先輩はそういう人だからと・・・宮川先輩だけど
丹羽先輩に付き合って辞めると言ってる。 『ずっと一緒だったから、最後まで
一緒、とことん付き合ってやる』って、丹羽先輩のことは俺に任せろって」
「やっぱり、そうなるか・・・でも、もし俺が我慢し続けたとしたら?」
「美倉のことだから当然判るよね? それこそが最悪の選択だってことくらい」
高梁の質問に、俺は危惧している未来予想を伝えることにする。
「中根や斎藤の我慢が限界を超える。 一番才能が有って身体にも恵まれている奴
が一番不真面目だと、他の一年に悪影響を及ぼし世代交代時の懸念材料になる」
「それだけじゃないよ。 最近は女子部の鹿原先輩にも執着しだしているから女子
部員からも疎まれ始めているんだ。 あいつが残ったら男子部と女子部の関係が
おかしくなりかねない。 藤堂と中根はそこまで危惧してるみたい」
高梁の言葉に驚いた・・・あいつ、鹿原先輩にまで⁉ 何なの? ハーレム狙いか?
あいつ、そこまで見境無しの馬鹿なのか? もうあいつを残して先輩も辞めないで
済む道は残されていないというのか? 兄弟揃って退部確定か?
「それで・・・山田が『俺が山で鍛えてやろうか?』とか言い出してる」
山田に鍛えられるのは流石に可哀想なので、俺は丹羽(弟)を諦めることにした。
正直、丹羽(弟)のことはどうでもいいが、丹羽先輩を悲しませたくはなかった。
でも・・・もうどうしようもない処まで来ていたようだ。
・・・・・・・・・
「俺がもう少し早く弟を切り捨てていたら、先輩を巻き込まずに済んだのかな?」
「多分その時期だと、僕たちの方が彼を庇ったと思うから・・・結局は今と同じ
状況になっていたと思う・・・それに、これからも何を起こすか判らないし」
「・・・残った一年はどう思うかな?」
「判らない・・・でも森里の時とは何もかもが違い過ぎるから・・・」
そう森里と丹羽(弟)では何もかもが違い過ぎる。
去年の秋・・・森里が辞めた時は、俺たち一年生全員が大きな喪失感を覚えた。
特に森里とセットで三人娘と呼ばれていた、俺と高梁の二人はより一層大きく。
森里は一年生の中で、いや柔道部で一番小さく非力で才能にも恵まれなかった。
でも誰よりも努力家で、練習熱心だった。 丹羽先輩からまだ危ないから見学で。
と云われていた乱取りにも『是非!』と言って参加し、最強の二人である重量級
の昂輝や中根に挑んでは畳に叩きつけられ、それでもめげることなく挑み続けた。
上級生ですら避けた二人との乱取りに、最弱,最小の森里は積極的であり続けた。
誰もがそのガッツを、努力を称賛した。俺も高梁も森里に勇気付けられたものだ。
その森里が辞めてしまった。 『俺には無理だった』と悲しそうに呟いて。
誰もが引き留めたかった。 でも出来なかった。 皆知っているから。
森里が誰よりも頑張り続けていたことを。それでも全然強くなれなかったことを。
俺や高梁までがどんどん強くなっていく中、森里が独り取り残されていたことを。
誰も気付いてやれなかった。最弱で最強に挑み続けた森里の孤独を。その辛さを。
小さな身体でがむしゃらに挑み続けてきた末に、独り取り残されてしまった絶望。
誰もがそれを解かってしまったから・・・黙って見送ることしか出来なかった。
丹羽(弟)が辞めてしまったら、残される一年生4人はどう感じるだろう。
喪失感に胸を締め付けられるだろうか? 無力感に苛まれるだろうか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、無いな。
丹羽(弟)は体格にも才能にも恵まれているが、それに甘えてあまり努力をしない。
基礎練習での手抜きは目に余る程だし、打ち込みも形ばかりで力が抜けている。
乱取りは強い奴を避けるし、直ぐにトイレ休憩。 積極的なのは俺との寝技だけ。
ホント、森里と丹羽(弟)では何もかもが違い過ぎるわ。 呆れる程に。
・・・・・・・・・
「うー・・・アホ弟めぇ、先輩に迷惑を掛けやがってぇ・・・」
文句というよりただの愚痴、それが思わず口から漏れて出る。
そんな俺に高梁が、宮川先輩からの言葉に続きがあるという。
『二年生に圧倒されっ放しの三年生というものには、結構辛いものがある。
上級生の義務で残ってはいるが、本音を言えば早く楽になりたいんだよ』
「美倉・・・僕も丹羽先輩には特にお世話になった。 多分美倉と同じくらい
先輩が居なくなるのは寂しい。 でも宮川先輩の言葉も事実だろうと思う」
「うん・・・そうだな」
高梁の言う通り・・・何時までも先輩たちに甘えていては駄目だ。
「なぁ、寂しいから抱き着いてもいいか?」 「駄目、胸が当たるでしょ」
「むー・・・じゃあ腕枕で!」 「・・・それくらいならまぁ」 「やた!」
でも、こいつや昂輝になら甘えてもいだろう。 友達だから。
ということで、美少女のものらしからぬ逞しさを持った腕に頭を預ける。
「へへへ、筋肉枕、よきよき」 「ホント、美倉の筋肉フェチは何なの?」
憧れだぞ。 当然だろ? ところで高梁の悩みって何? 俺の悩みは終わりよ。
切捨てるって決めたら、すっごく楽になった。 痴漢と同じ扱いでいいから。
身内にセクハラされるってのが嫌だったんよ。 凄く気持ちが悪かったんよ。
「・・・僕の悩みは」 「ズバリ、恋の悩み!」 「な・何で判るのぉ⁉」
「うん、殆どは当てずっぽうだけど? 話す前に、少し顔を赤らめたし?」
「う・・・」 「あと、乙女の悩みの定番らしいし?」 「美倉が言うな!」
「ホイホイ、恋のお悩み云ったんさい?」 「ううう・・・」
・・・・・・・・・
「実は、中学卒業時に八鹿に告白されてたんだけど・・・ずっと保留してたんだ。
でも何時迄も保留のままというのも酷な気がして・・・どうしたらいいのか?」
「男同志という事に抵抗があるの?」 「それも少しはあるけど・・・」
「単純に性別の問題だけじゃない別要素があると?」 「・・・うん」
「ふむ?・・・悩むくらいなら、いっそ俺と付き合う? お試しで? 丁度仲良く
ベッドなわけだから、今からHしてみる? いやしよう。 俺に興奮したろ?」
「えええぇ!! いきなり何を言いだすの⁉」 「うん、先ずはキスからな!」
そして腕枕をされていた状態から起き上がり、えいっと高梁を仰向けに転がして
その腹の上に跨る。 寝技じゃお前に勝ち目はねえぜ! と言わんばかりの早業な。
「ちょ・ちょっよよっと・・・ほ・ホ・ホンキ⁉ 本気なの⁉ みくらぁ!!!」
「高梁・・・いや、寛佳ぁ、お前にこのパジャマの、エロ機能を見せてやるぜ!」
と言って、俺はパジャマの胸の辺り、両方の下襟を両手で掴んで一気に開く。
このパジャマ、何を考えてるのか脱がし易さ重視で作られていて、簡単に釦を
外すことが出来る。 穴に引っ掛からないよう団栗みたいな流線形状の釦なのよ。
〔突然だが説明しよう。蒼は悪ふざけモードに入ると何処に隠していた?と思う
程の謎の演技力を発揮するのだ! 今の蒼は妖艶な美女そのものと云えるのだ〕
つまり今の俺、パンツ半見えでパンツより上は丸出しな、殆ど変態痴女ルック。
童貞にはさぞエロかろう? という予想通りにあわあわするしかない寛佳ちゃん。
可愛いな!何か今の俺、沢瀬になってない?今なら百合の気持ちが解かるかも?
「・・・キスの経験は?」 「にゃ・にゃいよ!」 「じゃあファーストキスね」
そう言って、ゆっくりと顔を近付けていくと高梁は真っ赤な顔のまま目を閉じた。
身を任せるといった風でなく、前を見たくない! 現実逃避したい! そんな感じ。
ふむ? そうきたか? ならこうだ。 と、顔をギリギリまで寄せて・・・
「キスの前に質問だ。 お前、今、頭の中で誰の姿が浮かんだ? 」 「えっ⁉」
高梁は閉じていた目を大きく開いて驚愕の表情をみせる。 ビンゴだったようだ。
「脳裏に浮かんだ相手がお前の、忖度なんか無い本物の恋の相手だ」 「あっ⁉」
「八鹿だった?」 「・・・違う」 「じゃあ俺だ!」 「もっと違うよ!」
「・・・八鹿は確かにいい奴だが、忖度で付き合うってのは失礼だろ?」
「そうだね。 何だろね? 何でこんな簡単なことに気付かなかったんだろ?」
高梁の恋の相手が誰かは判らないけど、こいつなりに納得出来たようで万々歳。
眠くなってきたから、早く片付けようと一芝居打った甲斐があったというもの。
「ということで、そろそろ寝ようぜ!」 「うん、そうだね、でも」 「?」
「あの美倉から、こんなにいい回答を貰えるとは、思ってもみなかったよ。
だって、美倉の恋愛感性のポンコツぶりは、凄・・スコシと有名だから!」
「・・・・・・何で?」 何でそんなことで有名なの? アノって何なの?
俺、自慢じゃ無いけど、むっちゃモテてますけど⁉ 男からも女からも!
何故かだいたい女としてだけど・・・それがポンコツと云われる由縁か?
でも経験値だけは十分にありますけど? ある筈ですけど? 多分あるよ?
・・・もう、どうでもいいけどさ。 じゃ、お休み。
◇ ◇ ◇
その頃茜は・・・ 「うちの弟・・・アホ可愛過ぎる・・・」
と、浴室と蒼の寝室の隠しカメラで撮られた映像に悶絶していた。
もちろん蒼はそんなことを知る由も無い。
何時も茜にするように、頭を高梁の胸に押し付けて甘えるように眠っていた。
可愛らしい寝息を立てて。 たまに「ん・うふぅ・ぅん」とか、声を漏らして。
「・・・これは・・・藤堂が同衾を嫌がるのも当然だよぉ・・・理性が、
理性が野生に変わりたがって・・・抑えるのが、本当に・大変だあぁ!!!」
あまりにも可愛らしい蒼の寝顔に、崩壊寸前にまで理性を攻撃されている高梁。
その高梁の叫びにも似た呟きが、蒼を目覚めさせることは無かった。
◇ ◇ ◇
後日、昂輝と伊藤に嗅がせてくれと頼んだが断られた。 零された溜息と共に。
横で聞いていた沢瀬と五十嵐には、無茶苦茶怒られた。 滾々とそして諄々と。
田辺だけが『それは男の娘だけが嗅ぎ分け、男の娘だけが反応するB臭です』
そう言った田辺も俺と並んで正座、長い説教となった。
説教されながらも、思い返されるのは姉ちゃんの言葉。
『その時になれば解かるわよ』
・・・今はまだ、その時ではないのだろう。
丹羽博義(弟)は別に友達がいないわけではありません。 ですが親友はいません。
長い付き合いになれば、自然と判って来る博義の自分勝手過ぎる言動故です。
何故彼がそうなったかというと、お人好しで貧乏くじばかり引かされる兄を見て。
『こいつみたいな負け組にはならん!』と勝ち組の条件である自身の考えを貫く
という姿勢を崩そうとしないのです。本当の勝ち組の条件は、自身の考えを貫く
強さ(実力)を持っていることなのですが、自身考えを貫くこと、それ自体が強さ
だと勘違いしてしまっているのです。努力の重要性に気付いていない頓珍漢です。
ちなみに兄の名前は丹羽明慶、あきよしとひろよしで戦国兄弟と呼ばれています。
筋肉第一形態:すみません、作者にも意味不明です。
食が細い:消化器系が弱くてすぐお腹を壊します。
呼吸器系も循環器系も弱いのですが・・・つまりは全滅?
ちなみに作者は、消化器系はまだマシです。 他人より少し少食な程度。
循環器系も無理がたたって、心臓が少し弱くなっている程度なだけ。
蒼の思考力に比べて低い会話能力は、周りが蒼を甘やかしてきた結果です。
特に茜や沢瀬は、『そこがまた可愛い!』と思っている節があります。
昂輝は自身が《 意味が通じりゃ、それでいい 》と考えていますので。
蒼に男友達が少ない理由:①沢瀬が追い払う ②昂輝の圧が強い ③蒼が避ける
蒼は意外にも、性的対象としてだけみられることには敏感に反応、嫌悪します。
蒼の対人問題は親愛の情と恋愛感情の違いに鈍い、というか頓着しない事です。
そして上記三点以外にも理由が、④蒼の周りには変な奴が多い ⑤近寄りがたい
ソレの匂いを:蒼の試験無双の原動力は飽くなき知識欲。 たまにそれが暴走。
筋肉フェチ:単純思考な蒼にとって、逞しい筋肉は健康の象徴なのです。
経験値だけは十分:想われるだけでは経験とは言わない・・・と思います。