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010_こっちがメインなんだぜ

今回はパワフルな問題児の出番がありません。

おかげで、全く迷走せず、あっさりと纏まりました。

作者としても凄く楽に、一気に書き上げることが出来ました。

「よし、10分休憩! 休みながらでいいから、乱れた道着は直しておけよ」


3年生の丹羽主将の掛け声に合わせて一斉に解散、各人が休憩に入る。

壁にもたれて脚を伸ばす者もいれば、ごろりと横になる者もいる。 俺は後者だ。

大の字になり、トレーニングに悲鳴を上げる身体を少しでも休ませる。


一年は皆が俺と同じ状態だが、二年,三年でここまでへばっているのは俺だけだ。

情けないとは思うが、無理をすれば怪我に繋がるので、休憩時間は最大限に休む。

そして、基礎トレーニングが終了した時点での自分の状態を確認する。


うん、浮遊感も無ければ、逆に身体を変に重く感じることも無い。 脈拍も正常。

つまりは絶好調! ・・・とまではいかないだろうが、まぁ快調だ。


昂輝なんかは絶好調な時は疲労を感じないというが、意味が解からない。

おかしな薬でもやっていない限り、人体は動かせば疲労を感じて当然な筈。

多分、肉体のキャパが大きいから、多少の運動による疲労程度は無視出来る

のだろう。 全くもって羨ましいことだ。


「美倉君、具合が悪かったりはしない?」


仰向けになっている俺の顔を覗き込んできたのは、女子部の鹿原先輩だ。


「大丈夫ですよ」 「それじゃあ、今日もお願いね!」


そう言って俺の口にレモンシャーベットを放り込み、にこりと微笑んでから

女子陣営に戻っていく先輩。 ちなみにこのシャーベットは酒辺のお手製で

女子部限定配布だ。 男子部は部で一括購入しているスポドリしかない。


それで鹿原先輩にお願いされたのは、女子部の助っ人兼コーチ。

今年に入ってからよく頼まれるが、特に断る理由もないので引き受けている。

というか、男子部にはちょっと苦手な1年がいるから、寧ろ便乗に近い。


柔道部の練習は基本男女共通のメニューで、道場内で場所を分けているだけ。

柔軟、すりあげ(すりあげ式腕立て伏せ)、腹筋、背筋、スクワット等からなる

基礎トレーニング40分に、休憩10分、打ち込み25分、乱取り25分、最後に

柔軟5分の計105分の後に礼を行うのが、帝山学園高校柔道部の平日メニュー。


土曜日は参加したことないけど、打ち込みと乱取りが増えるのと、個別指導と

いう別メニューが追加されるらしい。 部全員で対象個人の得手不得手、癖と

いった特徴を指摘して、全員で弱点の補強策を話し合うらしい。


俺が参加したら、筋力不足、体力不足、打たれ弱いと、散々なことになりそうだ。


補強策・・・何がある? 心当たりは手を尽くしたが?


・・・・・・・・・


まぁいい、今は身体を休めることが優先だ。


・・・・・・・・・


それしても静かだ。 道場は冷暖房完備だから締め切っているし、防音もばっちり。

休憩中は誰も無駄口を利かない。 掛け声や畳を叩く音が無ければ、本当に静かだ。


この道場の広さも、その静かさをより一層のものにしている。


本当にここはデカい。 高校の柔道場としては桁外れのレベルで、公式サイズの

試合場が六面用意されている。これは大学を含め、学校の柔道場としは日本最大

の規模になる。 だから男子部,女子部で分け合っても、余裕はたっぷりとある。

百人の部員数を誇る大学と同じ広さの道場を、僅か22人で使っているのだから。


男子部員14人、女子部員8人の計22人。 男子が女子の半分という帝山学園

で、唯一男子部員数が女子部員数を上回っている部活が、この柔道部だ。

ちなみに男子部員14人はバスケ部と並んで、全部活中最多だったりもする。

もっとも、他校で最大になり易い野球部やサッカー部が無いからでもあるが。


ともあれ、帝山学園に於いては柔道場内だけが男女比逆転となっている。



「美倉先輩・・・やっと来たと思ったら今日も女子部ですか?」


俺の苦手な後輩、丹羽主将の弟、何で苦手かというと、


「俺、今日こそ寝技の天才の妙技を伝授して貰いたいと思ってたんですよ!」


これだ。 寝技といっては俺に密着したがる処が苦手。

縦四方固めの練習で、少し硬くなった股間を押し当てられた時にはぞっとした。


「俺に教えて欲しけりゃ、先ずは昂輝や中根を超えてからだ」


この逃げ口上、昂輝も中根も承認済み。寧ろお前は相手をするなと云われている。


「いや、あんな力任せじゃなくて、本物の技というやつを 「いい加減にしろ!」


鈍い音がした。 丹羽(弟)、丹羽先輩に殴られたようだ。


「美倉、すまん。 弟が迷惑を掛けた」 「いえ、別に気にしてませんし」


目を瞑っていても、丹羽先輩がどんな表情をしているか? は、想像できる。


・・・丹羽先輩も苦労するよなぁ。


・・・あんなのが弟で。 しかも同じ学校に通っていて、同じ部活だなんて。


・・・何で聖人君子の様な先輩の弟があんなのなのか?  不思議だ?


もっと不思議なのは、痴漢は全然平気なのに、何で丹羽(弟)は気持ち悪いと感じて

しまうのか? ということだな。 目が合っているか、いないかの差なのだろうか?

・・・でも俺が目を瞑っていても、あいつに話し掛けられるだけで気持ち悪い。


・・・・・・・・・


そういや、丹羽(弟)は田辺と同じクラスだったな!


後で田辺に丹羽(弟)のことを聞いてみることにしよう。


不思議解明のヒントが得られるかもしれない。


よし! これで丹羽(弟)苦手問題は解決の糸口が見えて来た。


それでは気持ちを入れ替えて、女子部で後半開始とするか!




   ◇ ◇ ◇




えぇ~っ⁉ 女子部(こっち)でも寝技の指導ですと⁉



打ち込みが終わった後、次は乱取りと思っていたら予想外、寝技指南の御依頼。


「猿石先生をして天才と言わしめ、高校生相手なら無双確実とも評価される

 美倉君の寝技の妙技を、いくらかでも体得出来れば、うちも一気にレベル

 アップが可能になると思っているの。 是非協力して欲しいのよ」


・・・実は同じ言葉を猿石先生から云われ、男子部で寝技指導と称した寝技限定の

乱取りを行っているが・・・俺の無双が続いているだけで、何処が指導なのやら?


「・・・という状態なんで、協力になるかどうか?」


元五輪強化選手の猿石筆頭顧問(五段)に、やたらと高く評価されている俺の寝技。

・・・実は俺自身、何で寝技だと無双出来ているのかが、全く解かっていない。

何で自分が強いのか? がまるで解からない。 ただ周りが弱いと感じるだけで。


「それは問題無いわ。 猿石先生から男子部全員の寝技が変わった。 いやらしい、

 厳しい寝技になったと聞いているから、同じことをして貰えればいいのよ」


そういうことなら・・・と言いたいところだけど。


「いや、それでも俺、男だから・・・寝技は嫌がられると思うのだけど?」


「美倉君、性別以外は女子でしょ? 女子部(うち)は誰も嫌がらないわよ」


性別以外は女子・・・これまた斬新な表現を頂いてしまった。


・・・しかも真顔で。

作者も蒼同様に体力作りと護身術獲得の為だけに、柔道部員でしたが最初から

寝技は無双状態でした。理由は不明で、ただ周りを弱いと感じるだけでした。

周りが隙だらけにみえて、実際に隙だらけで、相手をいいように扱えてました。

あくまでも寝技に限定でしたが。練習では使用禁止、試合の場でのみ使えと

言われてましたが、顧問の命に背き試合では寝技を殆ど使いませんでした。

(相手が崩れて、仕方なしに寝技の状態に陥った時のみ、寝技を使いました)

理由は時間が掛かって疲れるから。身体を鍛える為だけに入部した作者は

試合に全く興味がなく、出来れば選手に選ばれたくなく、秒単位で勝てる相手

なら秒で勝ち、そうでない相手なら抵抗することなく秒で負けていました。

秒で勝つか、秒で負けるか、ようするに一番楽な形の試合を求めていました。

だって、折角の日曜日が試合で潰れるなんて、嫌で嫌で仕方なかったのです。

ちなみにそれでも勝率は7割超え、高校柔道って実力格差が大きいのですよ。


今思えば、立っている状態は、それだけで疲労を感じ頭がぼーっとした状態で、

寝た状態は楽だから頭がすっきりして相手が良く見えていたのかも知れません。

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