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異世界聖剣追走劇「聖剣の『鞘使い』」~勇者様、鞘をお忘れですよ!~  作者: 一文字 心


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試練のダンジョン・クリア報告

 星見の祭壇にして、枢機卿たちが集う会議の場。そこでリブラ枢機卿は微笑んで穴囲たちを出迎えた。



「まずは三人そろっての帰還、おめでとうございます。疲れているところを申し訳ありませんが、試練のダンジョンでの報告を監督者である聖女ルナ、お願いできますか?」


「はい、もちろんです」



 中央に進み出たルナは、小さく息を吸うと試練のダンジョン内での穴囲の活躍を話し始めた。


 一層では、百体近くいたスケルトンを一人で殲滅。


 続く二層では、最初こそ迂闊に罠にかかりかけたものの。機転を利かせて罠を解除することに成功。


 三層の謎解きは、問題を聞くまでもなく正解を導き出すことに成功した。



「ふむ、なかなかの活躍ぶりだな。聞けば、彼は魔法とは無縁の世界からやって来たという。聖女ルナが架空神経を目覚めさせて、日も浅いどころの話ではない」


「確かに、神託を受けた勇者には敵わずとも、勇者代理としての箔は十二分と言ってもいいだろう」



 何人かの枢機卿が、報告の途中だというのに賞賛の弁を述べる。その様子にクロエは不満そうに表情を歪めていた。


 その理由の大半は、あれだけ反対を声高に叫んでいた者が、試練のダンジョンから返って来るなり掌返しをしたからに違いない。



「四層ではレイスに遭遇しました。魔法を聖鞘エトナで弾き、時には己の身体能力で避けて接近。レイスを一撃で討伐することに成功しています」


「……いや、少し待て。レイスは死霊系のアンデッド。物理攻撃は効かぬはずだ」


「聖鞘エトナは、自らの内に魔力を蓄え、魔法を放つことが可能でした。それを踏まえれば、ただの物理攻撃ではなく、魔力の塊で殴られたと考えれば辻褄は合うと思われます。世の中には魔力の塊を放つガンドで、魔物を消し飛ばす『死の一撃』をもたらす者もいると聞きます。それの斬撃と考えれば、レイスと言えども耐えることはできないでしょう」



 ルナやクロエが手助けした部分は無かったことにされているが、それでもおかしな点に気付く枢機卿もいた。しかし、それもルナの機転で枢機卿たちを納得させるに至る。



「そして、五層に関してですが、リブラ枢機卿。一つ、お尋ねしたいことがあります」


「何でしょう?」


「最後の階層では、何が相手か。そして、倒す条件をご存知でしたか?」



 ルナの質問にリブラ枢機卿は表情を変えぬまま、無言で立っていた。それは何も知らないが故の沈黙か、それとも真実を語るつもりがない意志表示か。


 リブラ枢機卿の様子に痺れを切らしたのか、ルナが目を細めた。



「――えぇ、試練のダンジョンの内容は、各枢機卿全員が口伝で知っています。誰が試練のダンジョンに勇者を案内することになっても大丈夫なように、伝えるべき言葉も含めて引継ぎがされているのです。それを伝えたのは――口伝が間違っていなければですが――エトナ様でよろしいですよね?」



 リブラ枢機卿の言葉に、エトナへと視線が集まる。



「あぁ、あのダンジョンをいろいろと弄りまわし終わった後、当時の枢機卿たちに必ず伝えるようにと口酸っぱく聖剣の奴が何度も言ってた。それが長い年月の間、歪まずに伝えられていたことに安心したぞ」


「その言葉を聞き、我々はもちろん、既に天に召された歴代枢機卿も喜んでおられることでしょう」



 リブラ枢機卿が頭を下げると、他の枢機卿たちもそれに倣って頭を下げた。。



「ただし、それはダンジョン内での事件が起こらなかったらの話だ。嬢ちゃん、続きを頼むぜ」


「――リブラ枢機卿のルールの説明にあった抜け道。最終階層で現れるドッペルゲンガー相手には、アナイ以外が攻撃をしても良いということに、彼は気付いていました。結果、アナイの姿を模した存在は、戦うことなく自らの負けを宣言しました」



 戦わずして勝つ。その事実に枢機卿たちは驚愕する者、感心する者、気に入らないと険しい顔になる者、反応はさまざまだった。しかし、ルナが放った次の言葉は、そんな彼らの表情を凍り付かせた。



「ただ殺されるためだけの存在に憤っていたアナイでしたが、いきなり首に毒が塗られた暗器が刺さりました。この意味がおわかりですか?」



 枢機卿たちはもちろん、控えていた護衛騎士たちもざわめき立つ。


 そんなことをしたのは誰か。犯人は捕まったのか。ダンジョンの入り口を封鎖していた騎士たちは何をしていたのか。


 口々に疑問や罵倒が飛び交い始める。そんな中、リブラ枢機卿だけは静かに周囲を見渡した。



「静粛に。ここは星神様も見ておられるかもしれない神聖な場。各々、言いたいことはあるやもしれぬが、場を汚すような言葉は特に慎むべきだと思われる。もうすぐ、星神様の神託が得られるかもしれない時間ですし、落ち着いて話をしましょう」



 鋭く言い放たれた言葉に、数秒で静寂が訪れた。一拍置き、リブラ枢機卿はルナに続きを話すよう促した。



「彼を含めて、私たちがここに戻ってきていることからもわかるように、暗殺者三名はドッペルゲンガーが勇者の試練を汚したと判断して、力を解放し、一瞬で無力化しました。彼らは私が治癒魔法を施したので、全員生きています。現在、黒騎士隊によって、牢に繋がれていることでしょう」


「……先程から聞いていれば、おかしなことを。皆の者、騙されてはならん。この聖女ルナは嘘をついているぞ!」



 唐突に枢機卿の一人が輪を乱して一歩前に出る。その行為にリブラ枢機卿は眉をひそめつつも、穏やかな声で呼びかけた。



「キャンサー枢機卿。急にどうされたのですか?」


「リブラ枢機卿。わからぬか? 暗殺者の毒が塗られた針が刺さったと言っていたのだぞ? 聖女ルナは解毒魔法が使えない。では、いったいどうやって彼が生き残ったのか?」



 キャンサー枢機卿は、すぐ隣にいる穴囲を指差した。そこには椅子に座り、疲れた表情で成り行きを見守る穴囲がいた。穴囲は指を差されて、失礼な奴だ、と思いつつもキャンサー枢機卿の話に耳を傾ける。



「簡単な話だ。暗殺者などいない。そもそも、入口は騎士たちが固めていたから中に入ることは不可能。そこの小僧を連れ出して聖鞘をどうするつもりだったかは知らんが、話を盛りすぎたな」



(このおっさん、誰と戦ってんだ? 必死しすぎだろ……まぁ、こっちからすれば好都合だから良いけどさ)



 穴囲が訝し気に見ていると、視線に気付いたのかキャンサー枢機卿は笑みを浮かべる。そして、周囲の枢機卿たちに呼びかけた。



「この試練のダンジョンの攻略は無効だ。監督者であった聖女ルナが偽りを述べた以上、本当にクリアできたか疑義が生じた。この場で交わした神聖な契約をそのような状態で成立させるわけにはいかん!」


「言わせておけば良い気になって――」



 穴囲の隣でクロエが拳を握りしめる。怒りのあまりに震える腕が身に纏った鎧を鳴らした。それを横目で見つつ、穴囲は呼びかけた。



「えっと、キャンサーさんでしたっけ?」


「キャンサー枢機卿だ。あと、それは役職名だ。私の名前ではない。――で、何だね?」


「あなたの言っていることは()()()()。世界を救う大切な旅だ。そこに少しでも疑いが残るのならば、潔白が証明されない限り、許可をすべきではないって言うのは、俺でも理解できる」


「ほう。若者だが、随分と理解が早いな。それならば、自分が聖鞘を持つに相応しくないことも理解できているはずだ。君が聖鞘を拒めば、いかに聖鞘とはいえ無理強いは出来まい。後は私たちが上手く――」


「だけど、あなたは二つ勘違いをしている」



 なんだと、と言わんばかりにキャンサー枢機卿の顔が歪んだ。穴囲は自身に注目が集まり、心臓が早鐘を打ち始めるのを感じながら、人差し指を立てる。



「一つ目。この話をキャンサーさんが覆す大前提は、『ダンジョン攻略を監督するルナが嘘をついているから』ですよね?」


「あぁ、その通りだ。嘘をついている以上、他の報告も信用はできない。至って普通の反応の筈だ」


「他の皆さんにもお聞きしたいのですが、ルナが解毒魔法を使えないのは本当ですか?」



 穴囲の問いかけに迷いながらも何人かの枢機卿が頷いた。その中にはリブラ枢機卿も含まれていた。



「どうだ、私以外の枢機卿がそれを認めている。つまり、聖女ルナが嘘をついたのは明白だ。これを否定することはできない」


「――そうか。じゃあ、残念だったな。どうやら、俺たちと枢機卿の皆さんとでは、住んでいる時間軸が少しズレているらしい。ルナ、準備は良いか?」


「えぇ、いつでも」



 穴囲の呼びかけにルナは力強く頷き、クロエを除く他の者は何が始まるのかと穴囲に注目した。


 そんな穴囲はポケットから両手を取り出すと、右手を左手に叩きつける。その手には暗殺者が使っていた針が握られていた。



「ま、まさか……!?」



 穴囲が床に投げ捨てた物を見て、キャンサー枢機卿は蒼褪める。



「そう。そのまさか、ってやつ。ルナは解毒魔法が使えるようになった。それを証明すれば、今度は、キャンサーさんの、前提が――」


「アナイ殿、あとしばらくお待ちください」



 言い切る前に穴居が椅子から崩れ落ちそうになる。とっさにクロエが穴囲を支えて、キャンサー枢機卿ともう一人、近くにいた枢機卿に声をかけた。



「キャンサー枢機卿、ジェミニ枢機卿。お手数ですが、本当に毒が体に回っているか見ていただけますか?」


「う、うむ。よいじゃろう」



 目の前で崩れ落ちた穴囲が心配だったのだろう。すぐにジェミニ枢機卿が駆け付けて、穴囲の瞳を観察しながら片手で脈を計り始めた。



「速攻性の麻痺毒。致死性は薄そうじゃな。恐らくは獲物を捕らえるための神経毒――アラクネあたりと見た。お主はどう見る」


「……同意見だ」


 

神官の頂点に立つには、人々を救う為の光魔法を極める必要がある。それは医学的な分野においても、他よりも抜きん出た知識が必要だ。当然、この場において間違った診断をしようものなら、無能の烙印と共にその地位を追放されかねない。



「では、ルナ様。麻痺毒に侵されたアナイ殿を」


「えぇ、わかってる。『汝等、宵闇に誘われる者を救うため、天に満ちる光を束ね、この者を蝕む毒を取り除きたまえ』」



 白く淡い光が穴囲の体を包む。数秒後、穴囲の指が小さく動いた。やがて、支えるクロエの腕に手をかけ、立ち上がる穴囲の姿に周囲から感嘆の声と拍手が巻き起こる。


 その渦中にあったルナは頬を赤く染めるのだが、そんな彼女に穴囲は申し訳なさそうに声をかけた。



「……悪い。傷も治してもらっていいか?」



 差し出した手は、深くはないものの、まだ傷口から出血をし続けていた。ルナは慌てて、治癒魔法をかけて穴囲の手を癒す。



「ごめんなさい。私のために」


「いや、いいよ。これでルナがみんなに認められる形になったからさ。それに、これだけ緊張する場でやれたんだ。これから先も失敗することはないだろ」



 傷の塞がった穴囲の手をルナが両手で包み込む。自分とは異なる温かい感触にくすぐったさを感じながら、穴囲はルナの背後で睨んでいるキャンサーに視線を向けた。



「さて、もう一つ理由を言ってなかった――とは言っても、理由と言うよりは、()()()()()()()()()



 そう告げた穴囲は、まだ痺れが残る手でエトナを持ち上げた。

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