第7話 君はいつもお金で困っているね
船で4日目の昼頃にエスタシング島のサーグゥインという港街に到着した。
さて、魔王国のある島に来たものの、いつ魔王が復活するかも定かではない。
情報を集める必要があるな。
とりあえずの生活のために、冒険者ギルドに行ってみたいが、ここにもあるのかな?
などと考えていると、老騎士に「どうしましたか?」と聞かれた。
アルーノは初めて来たらしく、物珍しそうにキョロキョロとあたりを見回していた。
「あ・・いえ・・・」
とまごついていると、
「ジル様はエスタシング島に何をする為に来たかったのでしょうか?」
と一番答えにくい質問が老騎士から飛んできた。
「前に両親と来たことがあったので、来てみたかっただけなんです」
そうですか、と老騎士は答え、その後は何も聞いてくることはなかった。
「アル様、そろそろいいですか?」と老騎士はアルーノに声を掛ける。
身を隠す立場上、”殿下”や”アルーノ”という呼び名は良くないという事で、アルという呼び名にすることを上陸前に決めていた。
「ああ、そうだね。ごめんごめん」
「ジルはこのあとはどうするんだい?」
「しばらくはエスタシング島に留まることになるので、冒険者ギルドに登録をして仕事を探そうかと思います」
「えらいね、しっかりしてるよね?本当に10歳?」
すいません。言えません。
「私たちは服装を変えてしばらく街に留まろうと思うよ。情報集めも必要だし」
「そうですね。ここが安全なのかもわかりかねますが、アル様のご意見には賛成です」と老騎士が言う。
「また縁があったら会おう!ジル!元気でね!」
「アル様も元気で!」
アルでいいよと言いながら、2人は去っていった。
あるかどうか不安だったが冒険者ギルドはあった。
登録して仕事をこなし、日銭を稼ぐ。
10日くらい経っただろうか?
魔王が現れたという噂が流れた。
魔王城はラルヴィックという街にある。
港町サーグゥインからは南東に見える山の向こうにあるという。
道は整備されており、お金を払えば馬車で運んでくれるらしい。
復活が早くないか?と思ったが、前回魔王が現れたのは50年程前だったそうだ。
転移の際に時間も操作されたのだろうか。
ともかく、約束は果たさなければならない。
さっそく馬車の料金を確認する。
ラルヴィック金貨5枚!
足りない!
ラルヴィック銀貨で8枚しかない!
仕事で稼ぐか、歩いて行くか。
どうしよう?と途方に暮れて港から海を見ていると、聞きなれた声で名前を呼ばれた。
振り返ると、アルが「ひさしぶりだね」と言ってきた。
「アル様、お久しぶりです。ご無事な様でなによりです」
「ありがとう。幸いこの辺りには追ってはいないようだよ。まあ、そこそこ遠い場所だし、普通なら隣国のブランデデ王国に隠れていると思うだろうしね」
後ろに老騎士もおり、軽く会釈をしていた。
「元気・・・なさそうだね?何かあったかい?」
「いやあ、馬車に乗ろうと思って料金を見たらラルヴィック金貨5枚って書いてあって途方に暮れてました」
「なるほどね、いい値段だね」
「そうなんです。どうしても必要なんですけどラルヴィック銀貨8枚しかなくて・・・稼ぐか歩いて行くかで葛藤もしていました」
「あははは!君はいつもお金で困っているね」
「ちょうど私達もそろそろ移動しようかと考えていたところだよ。一緒に行くならお金、出してあげるよ」
ああ、神様!ではなく魔王様!!なんと幸運なのでしょう。
「いいんですか?」
老騎士が「ジル様、お気になさらず。ジル様は恩人なのですから、困った時に手を差し伸べるのは当然のことでございます」
「そうそう、気にしないで。じゃあ、明日出発しようか。朝に馬車乗り場で待ち合わせだよ」
アルーノは右手を挙げて去っていく。
老騎士もお辞儀をして去っていった。