第18話 勇者と聖女と魔王と肉壁×2
エレノアの使い魔の素晴らしい演技と演出により、勇者一行はこちらの待つ廃村に向かっていた。
「すばらしい仕事じゃった!」とエレノアは賞賛していた。
内容はともかく目的は達成している。
程なく勇者が現れた。
エレノアは「よく来たな勇者。名は何という?」
「アキーラだ、魔王エレノア。どうしてこんなところにいる?」
「細かいことはどうでもいいじゃろ?掛かってこい!勇者!」
マリアンヌが「あ、あの、本当に魔王なのですか?10歳くらいの女の子にしか見えませんけど?」
当然の反応だ。
「マリアンヌ、あれは姿が違っても魔王エレノアだ」とアキーラが言う。
「じゃあ、簡単な仕事だな?」と王都で雇った2人はまっすぐ突っ込んでいく。
(バカな・・・嘗めすぎだ)
雇われた2人は魔王エレノアに触れることもなく、心臓を貫かれて絶命した。
「わしも嘗められたものよのう?勇者よ」
「マリアンヌ。死にたくなければ、隠れて居ろ!」
アキーラはマリアンヌにそう告げ、単身で魔王エレノアに切り込む。
その太刀筋を見てエレノアが「見たことのある太刀筋じゃな、独特じゃ」と言うなり全てをかわし、勇者アキーラに向けて右手から衝撃波を放つ。
その攻撃を呼んでいた勇者アキーラは体をひねりながら左に避ける。
「ほう?やるではないか?」
アキーラは素直に話す。
「今の状況では避けるので精一杯だ。一旦撤退させてもらいたい。それと聞きたいことがある」
「撤退は認められんが、質問には答えてやろう」
「お前は魔王エレノアで間違いないのか?」
「そうじゃ」
「魔王は代々エレノアという名前なのか?」
「質問の意味が分からんな。詳しく話して見せよ」
エレノアは、この勇者から今までの勇者とは違う何か特別なものを感じ、対話を続けることを選んだ。
「僕は以前お前を、魔王エレノアを討伐している。この世界で何年前の事なのかは分からない。姿は違うが以前の魔王エレノアと同じ感じがする。だとするとお前は何回目だ?」
エレノアにとってはまさかの質問だった。
「さあな・・・回数などいちいち数えておらんからな・・・」
「そうか・・・僕は魔王エレノアを討伐した後、危険な存在とされ守ったはずの人達に殺された。そして別の人生を歩んでいたが、またここに勇者として召喚されてしまった」
「・・・」エレノアが黙って聞いている。
「このまま魔王エレノアを討伐すれば、また危険な存在として殺される運命にあるだろう。僕は今回は魔王エレノアを討伐した後、すぐに姿を消して静かに暮らそうと考えた。しかし、お前も・・・魔王は僕より過酷な死の恐怖を何度も経験しているんだな・・・」
「魔王がどんな悪さをしたのか、前回も今回も一切聞かない。であれば剣を向ける理由なんてない!死の恐怖は皆一緒だ。一度経験している僕ならそれが理解できる!あなたは数えきれない死の恐怖を経験しているなんて・・・なんだ!この世界は!」
勇者は吐き捨てるように言った。
「勇者よ。貴様は貴様の勇者としての責任を放棄したと見なして良いのか?」
「ああ・・・僕はこのまま姿を消して、どこかで静かに暮らすことにするよ。こんな理不尽なことは繰り返す意味はない。勇者が死ななければ、新たな勇者の召喚は不可能だと神殿で聞いた。僕が生きている限り魔王は安泰だろう」
ふむっとエレノアが姿を元に戻し、空を見た。
「その姿、僕の知っている魔王エレノアだ。そうだ、魔王エレノア。なぜ、ここに居るんだ?」
・・・エレノアは答えない。迷っている様にも見える。
その時、空に大きな穴が開き神々しい光が降り注ぎ始めた。