第12話 話すのが道理じゃな
シーサーペントの脅威がないことが確認できた後、船は領都ウィンストンの港に停泊した。
港は悲惨な状況ではあったが、英雄リズ達の活躍もあり、街に関しては被害がなかった。
領主に面会を希望するエレノアの為に、アルーノとグライバは約束の取り付けに領主館に向かった。
明日、面会が可能という連絡を受けたのはその日の夕方であった。
シーサーペント討伐の功績を経て白金級冒険者となったリズ・ルーク・マリーの3人は冒険者ギルドの酒場で盛大に祝われていた。
リズとルークは子供であった為、保護者たるマリーの権限でそうそうに屋敷に帰ることとなった。
宴は主役が居なくとも朝まで続くのは、どこの世界も同じであるようだ。
翌朝、ラリーは困っていた。
昨日のノステルリーグ王族の面会依頼についてだ。
だいぶ大事だ。
しかも、強い光を放ったノステルリーグ王家の紋章が刻まれた短刀を見せられてしまっては、もはや断ることは出来ない。
時間もなく報告も出来なければ判断も仰げない。
反逆者としてお尋ね者になっている王子を捕縛して恩を売るべきか、それともかくまうべきか。
シーサーペントをいともたやすく倒してしまう一行を捕縛できるのか?
無理だな。
のらりくらりとやり過ごそう。
大きくため息をつき、時計に目をやる。
「時間だな」
玄関まで出向き、王子一行を待ち受ける。
王子一行の到着後、貴族特有の口上を述べる。
応接室に案内し、お茶を淹れてもてなす。
あとはのらりくらり作戦で対応すれば完璧だ。
「ラリー伯爵。この度は急な面会の申し出で大変申し訳なく思う」とアルーノは口を開く。
「いえいえ。それでご用件はどういった内容なのでしょうか?」
「それについてはこちらのご令嬢からお話があります。今回の面会のご依頼はご令嬢の希望です。王族の力を使った強制的な依頼になってしまったことについてはお詫びさせていただきます」
お尋ね者になっている身だ、姿は隠しておきたかっただろうに。
この女の子の為に危険を冒してまで王族の身分を利用するとは、余程の事があるのか。
などと考えていると女の子が妙な口調で口を開いた。
「わしの名はエレノア。ラルヴィック魔王国の魔王エレノアじゃ」
魔王?
魔王!
これは真実なら本当に一大事だ。
直にあった貴族は、王国内では私が初めてではないだろうか?
「どうした?ああ、証拠を示せという事じゃな?ドロシー!」
ドロシーはラルヴィック魔王国の紋章の入った短刀を机に置く。
「どうぞ、お確かめください」
短刀が強く光を放っている。
近くに当主がいるという査証だ。
それに、一昨日のシーサーペントの群れを一蹴した力を考えれば、目の前にいるリズと変わらない年齢の女の子が魔王であることを疑う方が無理がある。
「失礼致しました。魔王エレノア様。改めまして、私がブランデデ王国ウィンストン領の領主ラリー・ウィンストンと申します」
「ラリー殿。失礼を承知で単刀直入に用件を伝えさせて頂く。あまり時間もないのでな」
「構いません。ご用件をお伺い致します」
「わしら一行がこの地に来た事。来ている事を伏せて欲しいのじゃ」
まあ、知らなかった事にしておいた方が、私としては楽だが。
「それと、シーサーペントを討伐した3人をお借りしたい。もちろん街の守りの要ではあると思う。じゃから代わりにわしの軍を駐屯させる」
「この2点が用件じゃ。もしラリー殿に不利益があれば補填もするし、何かあれば我が魔王国が全面的に協力することを約束する。いかがかのう?」
マリー達を?
どんな理由で協力しろというのか。
「お話は分かりました。この地に魔王様一行がお越しになったことは伏せておきます。おそらく姿を変えておられるのでしょうし」
「あとはマリー達3人についてですが、本人たちが了承すれば私としては異論はありません。駐屯頂く軍については、多少の相談や調整が必要かと思いますが」
そう言うとラリーは執事に、マリー達を連れてくる様に指示を出した。
「あと、目的をお聞かせ頂けますか?魔王復活の噂は大陸中に広がっています。勇者召喚が成功したという話も聞きました。わざわざ魔王様自身が出向かれた事には深い理由があると考えます」
「そうじゃな・・・信じてもらえるかは別として、多大な協力をして頂くのじゃから、話すのが道理じゃな」