第117話 ヴァーベナル世界に生きた英雄達の物語が少しづつ積もっていく
その後、大悪魔デストロメアは役目は終わっただろうから静かに暮らさせてくれと、帰っていった。
私達は、残りの野盗を締め上げつつ、攫われた人達を解放して回った。
幸い飛空船は2隻あり、野盗と見張り、その他で振り分けて、空の陸から脱出してもらった。
私達は定員オーバーで乗れず居残りだ。
戻った人達がここを伝えてくれるから、そのうち助けは来るだろう。
堕天使が居住していた立派な家に入って休憩をとる。
「これ、立派過ぎて普通に住めますね」
「本当よね。何か珍しい物でもないかしら?」
2人であちこち詮索していると、クーリエが大発見をした。
「マリー様!見てください!」
と興奮気味に見せてきた本の内容によると、
雲の上は天気が変わらない。
雲の下は天気が変わる。
全ては雲次第。
という記述があった。
「これって・・・つまり?」
「つまり、雲の上を飛べば嵐を越えられるって事ですよ!英雄アキーラ達は、きっとこうやって西の大陸に辿り着いたんですよ!」
ああ!なるほど!
あ250年前よ?
飛空船まだないわよ?
「でも飛空船が開発される以前の話よね?英雄アキーラの物語って」
「そうですよ。ただ、竜の王シーラ様の娘ノーラ様が、英雄アキーラとともに渡っているんです」
「竜の王シーラ・・・ああ、あの白い竜か・・・」
「お会いした事があるんですか?」
「ええ・・・まあ・・・」
「英雄アキーラは、他世界からの召喚の勇者です。この世界には無い知識を持っていたとしても不思議はありません」
「なるほどね」
「さあ、マリー様!私達も目指しましょう!西の大陸へ!」
どうやらクーリエが熱くなりすぎて、勢いがついてしまっている。
これは、冷ませそうにないわね。
「クーリエ。一旦帰りましょう。それから考えることにしましょう。それでいい?」
「はい、よろこんで!」
「・・・」
翌日、ブランデデ王国の大艦隊が、空の陸にやってきた。
最初に脱出した船長がブランに降り立ち、ブランデデ王国に助けを求めたとの事だった。
「ご無事でなによりです。マリー様」
「あら、私を知っているの?」
「それはそれは、ご先祖リアム・ノースガードがお世話になった英雄であり女王様ですから」
「そう。あまりおおげさなのは好きじゃないの。そっとしておいてくれると助かるんだけど」
「承知しました。クライネルまでお送りすればよろしいですね?」
「ええ。お願いするわ」
そして、私達は無事クライネルに降り立ち、領主の屋敷に顔を出した後、お母さんの家に帰ることにした。
もちろん、大悪魔デストロメアについては秘密にしたままだ。
私達はお母さんの家に付き、四隅の結界を回収し、お墓に祈りを捧げる。
気を抜いたからか、目の前がぐらつき、そして真っ黒になった。
目を覚ました時、私はベッドの上で横たわっていた。
祈りを捧げた後の記憶は無い。
倒れてしまったという事だろう。
クーリエには心配を掛けてしまったかもしれない。
ノックの音が響き扉が開く。
「お目覚めですか?ご気分は?」
クーリエが心配そうに聞いてくる。
「ええ。大丈夫よ。どれくらい寝ていたのかしら?」
「2時間ぐらいでしょうか。大丈夫な様でホッとしました」
「いろいろありましたから、しばらくは安静にしておいた方が良いかと思います」
「そうね。そうしようかしら」
そして私は再び眠りについた。
どれくらい寝ただろう? もう午後だった。
お腹は空いているものの食欲は無かったので、水だけを補給して過ごすことにした。
2日程たったある日、突然胸が苦しくなり、立つことも座る事もままならなくなり、とうとう寝たきり状態になった。
というよりは、動きたくても動けないのだ。
そうか、これが寿命なのか。
そう感じさせる程に気弱にもなっていた。
もう、苦しくて声もうまく出せないわ。
「マリー様!マリー様!」
クーリエの声が聞こえる。
「クー・・・リエ・・・」
私は声を振り絞って声を出す。
そしてまた意識を失った。
3日後、再び目を覚ました時、私はもう動く事も出来なかった。
かろうじて目を動かすことはできるが、相変わらず声は出ない。
寿命による死って、こんなにも一気にくるものなのね・・・初めて知ったわ・・・当然だけど。
翌日、クーリエが呼んだのかヒューゴ、リズ、ルーク、ラーナ、そして最愛の息子ユーノが来てくれていた。
何か言ってくれている、ごめんなさい、もう、何も聞こえないみたい・・・
そして、夢を見た。
リズとルーク、なつかしい。
無邪気に笑って駆け寄ってきてくれた。
そして、あの時の様に一緒に旅に出る。
面倒事のない素敵な旅へ・・・
そうして、マリーは生涯を終えた。
英雄にしてエルフの元女王でウィンストン王国家の娘のマリー・ウィンストンは、愛する母と妹と弟の横に埋葬された。
エルフの国、ウィンストン国では国葬が開かれた。
もちろん遺体は無い。
クライネルの領主館でも葬いが行われていた。
「マリー様・・・」
クーリエは翼を広げ天使として祈りを捧げた。
そして、クーリエはそのまま光に包まれ消えた。
・・・ 私は今、雲の上にいる。
そう、雲の上だ。
下には薄く白い雲が広がっていて、その向こうに大陸が見える。
上を見ると真っ青な空がどこまでも広がっている。
この世界は私の世界では無いけれど、私が最も愛した世界ヴァーベナル。
世界はどこまでも広く、驚きに満ちている。
いつか、またここで旅が出来たら・・・
こうして、ヴァーベナル世界に生きた英雄達の物語が少しづつ積もっていく。
これから先も。