第115話 命のやり取りは目的ではないわ
大悪魔デストロメアとは戦わなくなったとはいえ、この空の陸から脱出するにはどうすればいいのかしら?
飛空船はおそらく堕天使達のところにはあるだろうけど・・・
「大悪魔デストロメア。この空の陸から脱出するには、どうすればいいのかしら?」
「飛空船を使うしか手は無さそうだが、堕天使のところにある訳だろう・・・戦わずして奪取するのは難しそうだが」
戦わずしてか・・・ さっきの事を考えると、戦わないというのは無理そうね。
なら、戦って勝たないと飛空船は手に入りそうもないわね。
考え込んでいる私を見て大悪魔デストロメアが提案する。
「だいぶ疲れた顔をしているな。あそこでよければゆっくり休むと良い」
大悪魔デストロメアの言葉に今は甘えておこう。
宣誓もしているし襲ってくることもないだろう。
何より魔力が膨大なだけで、実力は無いらしいし。
「ありがたく休ませてもらうわ・・・」
「そうすると良い」
大悪魔デストロメアは、そう言い残すと奥に消えていった。
私はクーリエを促して、大悪魔デストロメアの指定した場所で寝ることにした。
見た目は横穴だが、中はとても広い空間だ。
光の魔法の明かりが心地よい明るさで眠りを誘う。
牢の中よりは居心地が良いわね。
そうして私達は、眠りについた。
どれほど眠ったのか、横穴の中では朝なのかも分からない。
ただ、良い香りがして目覚めた。
大悪魔のデストロメアが朝食を用意していた。
「起きたのか。朝食だ」
大悪魔デストロメアは、それぞれに個別に分けてくれた。
私は、大悪魔デストロメアの向かい側に座って、出された食事に手を付けた。
スープにサラダが付いていて、どれも美味しい。
クーリエも起きてきて、大悪魔デストロメアにお礼を言った後、私の横に座った。
「さて、昨日の話からすると、我が静かに暮らす為には、その堕天使をどうにかせねばならんという事だな?」
「私達が帰る為にも飛空船は必要だしね」
「そうだったな」
「あの遺跡の転移門が世界を渡る門だと言っていたわ。あの門が動いて堕天使を渡らせれば、話は終わると思うんだけど」
「転移門か・・・作動させる方法は我は知らぬが、堕天使は知っているのか?」
「どうかしら?でも知っているから、人を攫って作業させているのだと思うのだけど・・・」
「ふむ。であれば、堕天使と交渉するのはどか?」
「交渉?ですか?」
とクーリエがいぶかしげに聞く。
「そうだ。堕天使の目的は神の世界に移動する事、貴様達の目的は地上に帰る事、我の目的は静かに暮らす事だ」
「そうね、その通りよ。命のやり取りは目的ではないわ」
「我は世界を渡る事が出来る。我が堕天使を渡らせてしまえば、全て解決するだろう?」
「その、貴方の世界渡りは確実に神の世界に渡れるものなのですか?」
「いや、こればかりは渡ってみないと分からないのでな。ただ、結果だけを考えれば、この世界から堕天使の排除は可能だ」
クーリエは黙って考え込んだ。
「他の世界に押し付ける形になりますね・・・」
「そうだな。だが、作動するかどうかも分からない遺跡に頼るよりは、あっさりと終わると思うが?」
たしかに、大悪魔デストロメアの言う通りだ。
しかし、他の世界に渡ってしまう恐れがある以上、他世界の天使であるクーリエとしては判断に困るものとなるだろう。
「まあ、貴様達の目的が果たされる方法ではある。試してみて損は無いと思うが?」
大悪魔デストロメアの提案に乗ってみるのもいいかもしれない。
「・・・そうかも知れないわね。クーリエ、私としては一考の余地があると思うけど?」
「そうですね・・・堕天使さえ居なくなれば、攫われた人も助かるでしょうし、今後飛空船の失踪というのも無くなる可能性はあります・・・それに・・・このままここに居ても埒があきませんし」
「決まりだな」
と言うわけで、堕天使を大悪魔デストロメアが渡らせる方法を取る事にした。