第113話 堕天使の力
立派な一軒家の扉を開ける。
中には、見たことのない大柄な種族の大男が座って寛いでいた。
「何者だ。お前達は?」
「それはこちらのセリフよ」
「堕天使・・・」
クーリエは、一言そうつぶやく。
「ほう?良く知っているな。そうだ、私は堕天使となった者だ」
「その堕天使さんが、野盗を使って人を攫っていたってわけ?」
「その通りだ」
「一体何を企んでいるのかしら?」
「そこに遺跡があるだろう?あそこには転移門と呼ばれる、世界を渡る事の出来る門だ。それで神の世界に帰りたいのだ」
「神の世界に帰って、何をする気ですか!?」
クーリエが叫んだ。
「むろん、神を殺し錫杖を奪う為だ。そして私が神になる!」
あまりにも現実離れした内容に頭の処理はついていかないが、堕天使が神を殺せるものなのかしら?
「堕天使となったあなたには、神に対抗する力があるとは思えませんが・・・」
クーリエは天使の翼を広げた。
「天使か・・・なるほど、力を解放したわけか。では、私の力を試してみるといい!」
堕天使が振るった大剣からの剣圧で、私達は後ろに吹き飛ばされる。
「くっ・・・この力は一体・・・」
クーリエが苦しそうに言葉を発する。
「脆弱な・・・」
堕天使はそう言い放つと、クーリエに向かって一気に距離を詰め、大剣を振り下ろしてきた。
私はクーリエに向かって風の魔法を放ちクーリエを吹き飛ばし、大剣の一撃から守る。
私自身も堕天使から距離を取り、クーリエに近づき身構えた。
「マリー様、ありがとうございます」
「クーリエ。逃げるわよ。勝ち目は無いわ」
「・・・そうですね。悔しいですが、堕天使があんな力を持っているとは・・・」
堕天使は大剣を引き上げ、こちらを見る。
「かかってこないのか・・・それともかかって来れないのか・・・」
堕天使は大剣を片手に構えながら、こちらに近づいてくる。
クーリエの土の魔法と私の風の魔法で砂塵をまき散らし、簡易的な目くらましを作り、私達は後ろに見えていた森に一目散で走っていった。
しばらく走って後ろを振り返る。
追ってきてはいない様だ。
鬱蒼とした茂みの中に身を潜めて、少し休憩をする事にした。
「追っては来ていない様ですが、あの力は一体・・・それに、どうやって奈落の底からこちらの世界に渡って来たのでしょう?」
クーリエによると、堕天使として堕とされた場合、天使でいた頃より力は半分以下ぐらいにまでなってしまうそうだ。
そして堕とされた奈落の底では、上位の悪魔達によって襲われ消滅させられるらしい。
「経験したことは無いのですが、奈落の底は悪魔の世界の様で、それはそれは恐ろしい所だそうです」
「その恐ろしい奈落の底で力を付けたって事になるわけか・・・だいぶ厄介じゃない?」
「はい。あの力が本気かどうかは別として、ちょっと無理そうです」
どうして、こう私の前には化け物ばかりが現れるのか・・・