第111話 陸が空にある・・・
謎の飛空船は、まっすぐこちらの飛空船に近づいた後、横並びになった。
よく見ると、客船用の飛空船ではなく、戦闘用の飛空船だった。
「あ、あれ戦闘用じゃないの。どういうこと?」
「せ、戦闘用?」
と、クーリエが驚いてこちらを見る。
「そう。砲台が付いているわ」
竜戦争の時に乗ったわね・・・音が大きくてびっくりしたわ。
戦闘用の飛空船の船員は、私達の飛空船に乗り込み甲板でこちらの船員と争っている様だ。
突如として現れた飛空船と争いの音で、客室側はパニックとなっていた。
甲板からの扉が勢い良く開き、
「この船は乗っ取らせてもらった!命が惜しければ、黙って壁際に行きな!」
こんなところにも野盗なんているの?
というか、こいつらが飛空船失踪の犯人なのかしら?
どこで、戦闘用の飛空船なんて手に入れたの?
「歯向かったら、船長を殺す!そうなったら、この船は地面に墜落だ。あとはわかるよなぁ」
と野盗はニヤニヤしながらしゃべっている。
「マリー様、どうします?殺しますか?」
「クーリエ・・・物騒だからやめて。それに今暴れると、他の人達も巻き添えにしてしまうわ・・・ここは大人しくしておきましょう」
「仕方ありませんね・・・」
残念そうね?
そんなに好戦的だったかしら?
それにしても、よく巻き込まれるわね、私は。
野盗達は、乗客の腕を体の後ろに廻して、縄で縛っていく。
乗客の一人が、これからどうなるのかと聞いている。
奴隷は黙っていろ!と殴られた。
奴隷かぁ・・・
野盗っていうのは、本当にどこにでもいるのね。
飛空船が動き出す。
どこに向かっているのかしら?
野盗の飛空船に曳航されては飛行してはいるが、なぜかやけに高度を上げていく。
雲にどんどん近づいて、そして雲を越えた。
そして、目を疑う光景に出くわした。
「陸が空にある・・・」
「本当ですね」
「クーリエは驚かないのね?あなたの世界にあったのかしら?」
「いいえ。神の世界は、あんな感じですよ?」
「あ・・・そう・・・そうなのね」
「はい。こちらの世界でもあるんですねぇ」
飛空船が発明されてからだいぶ経つが、空に陸があるなんて話は聞いたことが無かった。
知らない事って多いわね。
空の陸の地下付近に大きな穴があり、飛空船はその穴に入っていく。
ゴン!という大きな音と、何かにぶつかったかの様な衝撃で、飛空船は停止した。
「おい!順番に並べ!これから降りて貰う!」
そう野盗の1人が大声を出し、甲板の扉が開かれる。
捕らえられた私達は飛空船から降ろされ、この空の陸の地下にある大きな牢に入れられた。
おそらくはこれから吟味され、振り分けでもされるのだろう。
しばらくして野盗の見張りが、
「明日それぞれ持ち場に配属される!今日はおとなしくしておけ!逃げ様なんて考えるんじゃねぇぞ!」
と大声で話した。
「持ち場って、何でしょうね?」
「さあ、労働でもさせられるのかしら」
「どうします?」
「そうね・・・」
捕まって檻に入れられた人数は30人程だ。
飛空船の船長と、1人だけ乗組員と思われる人物がいる。
他の乗組員達は、殺されてしまったという事かしら?
近づいて話しをしてみる。
「あなたは船長さんで間違いないのかしら?」
「はい。申し訳ありません、お客様。こんな事になってしまいまして・・・」
申し訳なさそうに頭を下げる船長だが傷だらけだ。
「クーリエ。治療してあげてくれる?」
「はい。わかりました」
クーリエに治療を任せて、知っている事がないか聞く。
「飛空船の失踪事件は、神殿とヘルンを結ぶ航路だと思っていました。まさか、クライネルとブランの航路で・・・」
「つまり、何も知らないと?」
「はい」
「この空にある陸の事は?」
「初めてです。聞いた事もありません」
手がかりは無しね。
「船長。あの乗ってた飛空船は、無事に動くのかしら?」
「動力部分は無傷なはずですし、降りる時に見ましたが破損も軽微だったと思いますので、飛べるかと思います」
「そう。じゃあ、もう少ししたら私達が暴れるから、皆を連れて飛空船で脱出出来るかしら?」
「え?お客様は?」
「私達の脱出は後で考えるわ。出来るの?出来ないの?どっち?」
船長は少し考えてから、無言で頷いた。
船長の腕の縄を緩める。
「これで少し力を入れれば抜けれると思うわ」
そして船長は乗組員と乗船客に、脱出の件を話しに行った。
「あとは・・・時間を見計らってからとりあえず暴れましょう」
「はい。腕が鳴ります!」
いつからそんなに好戦的になったのかしら?