第109話 ちょっと、何してるの?スコット
クライネルに到着する。
序章の開幕は、あのハーフエルフから始めよう。
屋敷に行き、見慣れた顔に挨拶をし、マリーを呼んで貰う。
「あら、スコット。久しぶりね」
「お久しぶりです」
「どうかしたの?」
「実は、ちょっと試したい事がありまして」
「試したい事?」
そう言って、少し離れた地面に、魔法陣を描き魔力をありったけ込める。
「ちょっと、何してるの?スコット」
魔法陣から黒い騎士が現れた。
上手くいったと、少しホッとする。
さて、始めまようか。
「全ての人族に制裁を・・・マリーさん、あなたが最初です。あなたに恨みは・・・ああ、ありましたね。申し訳ありませんが、死んで頂きます」
黒い騎士に命令を出す。
黒い騎士は、マリーに向かって剣で切り掛かった。
マリーの前に光の防御壁が現れ、黒い騎士の攻撃を防いだ。
「マリー様!」
「ありがとう!クーリエ!スコット!これはどういう事?」
「私に話しかけている場合ですか?」
黒い騎士は執拗にマリーに切り掛かる。
「たしかにね」
黒い騎士とマリー、クーリエが戦っている音に気付き、屋敷の護衛騎士達も続々と参戦してくる。
「スコットを捉えて!」
マリーは護衛騎士達に指示を出す。
クーリエの光のハンマーで黒い騎士はのけぞり、風の魔法の突風で黒い騎士を壁に打ち付けた。
スコットは護衛騎士達を相手に善戦していたが、魔力を込め過ぎたせいか足元が少しおぼつかない。
護衛騎士達は一斉にスコットを捉えに掛かったが、黒い騎士に全員なぎ倒された。
「なるほど・・・召喚者を守るわけね・・・初めて知ったわ」
「?マリー様。黒い騎士の様子が変ですよ?」
クーリエにそう言われて、黒い騎士をよく見てみると、スコットに剣を向けて頭を振っている。
スコットは何か言っている様だが、少し遠くてこちらには聞こえない。
しきりに頭を振る黒い騎士。
少し苦しそうだ。
そして、黒い騎士の剣がスコットを貫いた。
「スコット!!」
「これはどういうことでしょう?」
「クーリエ、来るわよ!」
黒い騎士はスコットから剣を抜き、こちらを向きなおす。
「召喚者の命令に従わなかったということは、暴走でもしているって事かしら?」
「だとすると見境なしなのでは?」
とクーリエのまともな返答後、黒い騎士との戦闘が再開される。
黒い騎士の一撃をかわしながら、風の魔法で応戦するマリーと、光のハンマーを振り回すクーリエ。
少しづつマリーが押され始めるが、クーリエの防御壁の展開が上手く、一進一退の展開が続く。
(暴走しているのなら、見境なくなっているのなら、ここで倒してしまわないと!これ以上、被害を出すわけにはいかない!)
マリーは魔王エレノアを苦しめたという父親の拘束魔法を展開する。
黒い騎士の動きが鈍り、やがて止まる。
クーリエの光のハンマーで横転する黒い騎士、マリーが肌身離さず持つ父親の炎の剣で首を切りに掛かる。
「くっ・・・硬いわね」
そこにクーリエの光のハンマーのダメ押しの一撃を炎の剣に打ち込み、見事首を落とすことが出来た。
黒い騎士は黒い霧となり消えていった。
「はぁー、なんとかなった・・・」
「マリー様ぁ。スコット君は大丈夫だとか言っていませんでしたか?」
こればかりは何とも言えない。
悪魔アスコットは確実に焼失させた。
スコット自体が歪んだとしか考えられない。
「たぶん、スコット自身が歪んだんだと思うのだけど・・・真相は永遠に不明ね・・・」
そう言って、こと切れているスコットを見る。
「そうですね・・・」
クーリエは周りの犠牲になった護衛騎士に目をやる。
その後、ヒューゴ達屋敷の者で、亡くなった護衛騎士達を安置所に運ぶ。
「スコット君はどうしましょうか?」
とヒューゴが聞いてきた。
「一応、灰になるまで全てを燃やしなさい。あの紙と本もね。悪魔アスコットに関係する物は全て排除よ」
「承知しました」
ヒューゴはスコットの遺体を郊外に運び、灰になるまで燃やしに行った。
「マリー様?」
「ああ、大丈夫よ、クーリエ。ごめんね。フィレーネ様からお預かりしているのに、危険な目にあわせちゃって」
「いえ、それは構わなのですが・・・本当に大丈夫ですか?」
「ええ、スコットはどうして歪んでしまったのかしら?全ての人族に制裁を・・・か」
「本当に何があったのでしょうね・・・」
スコット・・・
本当になにがあったの・・・
こうして、スコットによる謎の襲撃は終わった。
スコットが真相を語る前に亡くなってしまった事件は、関係者にものすごい後味の悪さだけを残していた。