第108話 憎悪の念は、誰よりも深く、そして広く
幽閉していた大悪魔デストロメアと悪魔ゴーンが脱出した話は、ノステルリーグ王により各国に連絡が入った。
ただし所在は不明だった。
北西の大森林で、魔物が活性化している事が確認出来たが、小競り合いが少しあるぐらいで、大規模な戦闘にはなっていなかった。
そんなか飛空船の失踪事件が発生した。
神聖国とヘルンを飛ぶ飛空船が、相次いで失踪したのだ。
墜落した形跡が無く、完全に詳細不明であった為、神聖国とヘルンの間の飛空船の運航は取りやめになっていた。
「大悪魔の復活に飛空船の失踪事件なんて・・・急に物騒になったわね」
「本当ですね・・・無事だといいのですが」
とクーリエが読んでした本から顔を上げる。
「そういえば、スコット君はどうしたのでしょうか?」
「ヘルンに帰ったわよ」
「そうですか。マリー様。スコット君を放っておいても問題ないのでしょうか?」
「アスコットに関しては、あの時魂ごと切って焼失させたはずだから、復活ってことはないと思うわよ。記憶があるのが不思議だけど」
記憶がある時点で私も疑った。
でも、確かに魂ごと焼失させたというのも間違いない。
それは確認している。
不安はあるけど、大丈夫だと思っておこう。
ヘルンに戻ってきた。
悪魔アスコットの記憶通りに紙は存在し、中身も確認した。
大した内容では無かったが、黒い騎士の件に関しては、ほぼ完成していると言っていいだろう。
あの時は話をはぐらかしはしたが。
記憶に存在するハーフエルフに会えたのは、偶然だったが最高についていた。
ルーク島ではがっかりしたからな。
人は簡単に人を裏切る醜い生き物だ。
生まれ変わったら、なんて思わなければ良かったと、本気で思う。
悪魔の方が、まだずっと仲間意識があった。
魔物の方が、魔獣のほうが・・・
とにかく目的は達成した。
どうしようか?
黒い騎士を試しておきたい気持ちはあるが・・・
クライネルで前世の仕返しでもするか?
神と仲が良いとは言え、神を呼び出せるはずはないだろう。
250年だ。
ハーフエルフも、もうずいぶんな年だろう。
あのクーリエとかいう娘が気にはなるが、まあいいだろう。
悪魔アスコットとしては、やはり復活は出来なかったわけだが。
もし記憶が無ければ、こんな気持ちにもならなかったのかもしれないな。
さて、ではクライネルに行くとしようか。
全ての醜い人族への鎮魂歌の序章とさせてもらおう。
スコットは港町のブランに生まれた。
家族は仲が良く、決して裕福では無かったが、幸せに暮らしていた。
15歳のある日、突然悪魔アスコットの記憶が呼び起された。
あまりの事に、数日困惑した。
そのうち悪魔アスコットについて、調べ始めていた。
どの本にも書いてあることは、記憶にある事のほんの一部でしかなく、参考にならなかった。
記憶があるとはいっても、悪魔ではなく人族であり、名前はスコットという自分である事は変わりはない。
しばらくすると、気にすることもなくなっていた。
20歳のある日、全てを失った。
信頼していた人に騙され、スコットの家族は財産を全て奪われ、そして殺された。
スコットは絶望した。
記憶にある悪魔は、仲間意識が強かった。
人はなんて醜いんだと、どうして人に生まれ変わりたいなどと願ったのか。
スコットは、自身から全てを奪った人を惨殺した。
しかし、気持ちが晴れることは無かった。
騙されたという他人の話も聞いてはいたが、それはどの種族でも起こりうる事だ。
スコットの憎悪の念は、誰よりも深く、そして広く、全ての人族に向けられてしまったのだ。
深い憎悪を持つスコットではあったが、自身は一般的な魔導士より、魔力が多いと言われている程度であり、決して強くはない。
なので、悪魔アスコットの記憶にある、黒い騎士の召喚方法を求めたのだった。