7話
やっぱりといったように厘と侺はお互いを見て頷き合う。
ユウも自分たちと一緒でオリジンでありながらチェンジャーに覚醒したのだろう。
どの能力がチェンジャーとして覚醒したのかは、魔法を使いながら確認するしかない。
本当は、魔法の波動を確認する装置はあるのだが、教会に行かないと測定できない。
「実は、俺たちもユウと同じなんだ」
「侺!?」
「大丈夫だ、厘。ユウにはちゃんと話そう」
「…わかった」
「え、それはどういう事…?」
侺は、ユウに同じ声が聞こえた事、
その後、オリジンとしての能力が数段上がったことを伝える。
炎と氷の魔法が覚醒したとは言わず、強力になったとだけ伝えた。
チェンジャーより強い力を持ってはいるが、今まで誰にも見せないようにしてきたため、
一部内容を隠しての説明だったが、ユウは納得してくれた。
「そうなんだ…まさかお前たちも俺と同じ声が聞こえてたとは…」
「あぁ、俺たちは16歳のときだったかな」
侺は厘の言葉に頷く。
最初は力をコントロールするのに苦労したこと、
声が聞こえた事を他の人に話しても信用してもらえなかったことなどを話した上で、
この事は他言しないことを3人で決めた。
「確かに…あの声の事を言っても誰も信じてくれないよな…」
ユウはどの能力が覚醒したか確かめる必要がある。問題はどこで確認するか…。
今日はもう授業も再開できないだろうから、厘と侺、ユウは学園所有の寮に戻ることにした。
ユウとは寮で分かれて、部屋へ戻る。
「厘、ユウは恐らく俺たちと同じ覚醒者だと思う。どの能力が覚醒したのか確認したいが…」
「だな。けどなんで覚醒したんだろう?俺たちはともかく、ユウは…」
「あぁ。”きっかけ”は何もなかった」
「だよな…」
二人が覚醒したのはとある”きっかけ”があったからだ。
それがなく、ユウは覚醒した。
「とりあえず、しばらくは様子を見た方が良さそうだな」
「あぁ」
それにしても、あの悪魔に俺たちの顔と能力を見られたのは間違いない。
また襲ってくるかもしれないから、警戒はしておいた方が良いな。
「厘、学園にシールドを貼る。手伝ってくれ」
「学園に全体にか?まぁその方が安全か…。わかった」
シールドを貼るには対象が大きいため、補助アイテムを利用することにする。
ただ、補助アイテムは破壊されたらシールドの効果が消えてしまうため、
目立たないところに設置して、目隠しの魔法を掛けておく必要がある。
そのため、厘と侺二人掛かりでもかなりの時間が掛かる。
だが、またあの悪魔が来た時に対応できるすべが今の学園にはない。
あのクラスの悪魔が人間に関わることは滅多とないため、存在自体が知られていない。
そもそも亜人の存在自体が世間一般には知られていないのだ。
魔獣などのモンスターは森や海などに生息しているため、
普段からなじみがあるのだが、亜人は人間に紛れ込んでいることが多く、
多くの人は気付かずに接していることが多い。
また、亜人も人間に対して正体を明かさずに生活していることが多い。
今日の悪魔の様な強力な亜人は、異空間に住んでいることが多い。
そのため、めったに人間界で出会うことはないのだ。
「俺たちの存在が知られる可能性があるから…か?」
「いや、たぶんアイツは俺たちがここにいる事は気付いていると思う。
けど、今日の悪魔がまた来た時にこの学園の教師や生徒じゃ歯が立たない」
「それもそっか」
そっか、と厘は天を仰ぐように大きく深呼吸をする。
その姿を侺はじっと眺める。
けど、特に落ち込んだり怒ったりしているような感情が読み取れない事に安堵する。