57話
「んん…」
厘が夜中に目を覚ます。
起き上がって隣のベッドを見る。
「侺…よかった」
侺のベッドの横にある椅子に座り、侺の様子を伺う。
やっぱり、傷もきれいになっているし、血の気もいい。
あの悪魔と戦った時に出来た切り傷すらきれいになくなっている。
「手当…してくれたんだ…」
あの人は。魔王は侺を返してくれた。そして俺たちをこの港まで帰してくれた。
「今はまだその時じゃない…か」
「んん…」
「侺?侺!」
「…厘?」
侺がうっすらと目を開ける。
少し視線を彷徨わせた後厘を見てふっと笑う。
「なんで泣きそうなんだよ?」
厘の頭を撫でながら侺が言う。
厘は侺に抱き着き声を上げて泣く。
「うわぁぁぁん!だって…侺、血が、居なくなるし…俺、ホントにどうしたらいいかわかんなくて…」
侺はやさしく厘の背中を撫でながら悪かったと呟く。
厘が落ち着くまでしばらくそのまま厘の背中を撫で続ける。
落ち着いてきたのかすすり泣きも聞こえなくなり、厘が身体を起こす。
「落ち着いたか?」
「うん…侺、無事でよかった」
「あぁ。傷もきれいに直してくれたんだな。ありがとう」
「それは、俺じゃない。あにきが…」
「!?それはどういうことだ?それと、さっき言ってた居なくなったって…?」
侺は悪魔に連れ去られた際気を失っており、さらに魔王に眠らされていたため今まで自分がどこにいたかわかっていなかった。
厘は何があったか説明する。そして、その話を聞いて侺は考え込む。
侺は、眠っている間夢を見ていた。
小さい頃の姿で厘と兄と菫と3人で遊んでいたときの事、転んでけがをした侺の手当をしてくれた兄が耳元でささやいた。
『君は、厘の所に帰さないとね。そして俺を殺しに来てくれ』
その言葉を聞いた瞬間、闇に覆われて再び深い眠りについた気がする。
厘の話を聞いて、魔王城に連れ去られて魔王に治療されたという事を確信した。
そしてメッセージもきちんと記憶に残るように操作されていたことに憤る。
「侺?」
突然黙り込んだ侺を心配して顔を覗き込む。
次の瞬間には大丈夫だといつも通りに戻っていた。
「厘、今のままじゃ魔王どころか配下の悪魔すら倒せない」
「侺…魔王と戦うの…?」
「今のままだとモンスターが増える一方なんだ。魔物の王は、この世界に存在してはいけない」
「そうだけど…それでも、何か違う方法はないかな?俺らでモンスターを殲滅するとか…」
「厘、それが無理だってこと、理解しているんだろ?魔王は討伐しないといけない」
「それは、俺たちがやらなきゃダメなこと…?」
「あいつを他の誰かに殺されてもいいのか?」
「……」
「厘、俺があいつを殺すよ。それがアイツから受け取ったメッセージだ」
厘が顔を上げる。
「どういうこと…?」
「あいつは、俺に、魔王を殺しに来いと言った」
厘が息をのむ。
魔王は、二人の兄は二人の性格をよく把握していた。
だからこそ、厘ではなく侺に、俺を殺しに来いと言ったのだ。
「厘、そんな泣きそうな顔をするな。兄貴の願いを俺たちが、俺が叶えよう?」
声をかみ殺してなく厘を、落ち着くまで侺はずっと抱きしめていた。
そのうち寝てしまったのか、二人で一つのベッドで寝ている姿を、朝見舞いに来た菫たちに発見された。
菫がその姿をそっと写真に収めたのはまた別のお話。




