54話
魔王は実務を終え、自室に戻る。
ベッドに横たわっている侺を見て、近づく。
「君は、厘の所に帰さないとね。そして俺をーーーーー」
仮面を被って、侺をそっと持ち上げる。
そして、窓から飛び立つ。
下級悪魔たちがジャウザに侵入しようとしている人間たちと戦っているという報告は受けていたため、
侺を連れて現場へ向かう。
「魔王様!?」
「魔王様!!」
「…。船ボロボロじゃないか」
「魔王様、すみません!!大砲を放って撃退しようとしたのですが、逆に大砲を撃たれて損害を受けました」
「そんなことはどうでもいい。俺は人間たちに用事があるから、一時戦闘をやめよ」
「ははっ!承りました!私どももお供いたします」
「必要ない」
言い放つと魔王は人間が乗っている船へと飛び立った。
「魔王様の連れていたお方は?」
「人間だったような気がするけど…?」
「とりあえず、魔王様の言うとおりにするぞ」
「全軍、進軍中止!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
菫はいち早く、悪魔たちの船から何者かが飛来しているのに気づく。
他の悪魔とは一線を画す、存在。
菫の索敵、探知では測り切れない存在だが、菫の本能が告げていた。
「厘!」
「すぅ姉?どうしたの?」
初めてに近い菫の大きな声に厘は驚いて菫に近寄る。
「魔王が…こちらに向かっています」
「え?」
「魔王だって!?」
「マジかよ!もう真打登場かよ!」
ヨウは戦闘準備に入り、ユウは頭を抱えているが、強化魔法を施している。
菫と厘はただ、魔王が到着するのを待つ。
しばらくすると、一人の青年が人を抱えて飛んでくるのが見えてきた。
今までの悪魔の襲撃の際は猛スピードで突っ込んできていたが、今回はゆっくりとこちらに近づいて来ている。
「菫さん、厘くん、来るよ。準備はいい?」
ヨウが聞くが、厘は飛来する人物を見て息をのむ。
「侺!!!!」
「え?」
よく目を凝らしてみると、魔王らしき仮面を被った人が侺を抱えているのが見えた。
ただならぬ雰囲気を醸し出している菫と、侺しか目に入っていない厘を見てこれはまずいと感じたのか、ヨウは魔法発動のため呪文を唱え始める。
そんなヨウを菫が制止する。
「ヨウさん、すみません。侺がいるのでやめて下さい」
ヨウ自身も侺の存在が気になっていたからすんなり受け入れた。
そして、気付いたら侺を抱えた魔王が厘たちのいる船の甲板に降りて来ていた。
「侺!」
「厘くん、ダメだ!」
「ヨウさん、大丈夫です」
厘を制止しようとしたヨウをまたも菫が止める。
そこで初めて菫を見てヨウはハッとする。
今まで見たことないほど菫からは怒りが見て取れた。そして隙なく警戒している。
菫さん…と言いかけてやめる。今は厘と侺の方を確認して何かあればすぐに動けるように準備する。
「侺!侺!」
「大丈夫、少し眠ってもらっているだけだよ」
甲板にゆっくりと降ろされた侺を厘は抱き寄せる。
上から聞こえた声に気付き、顔を上げる。
仮面をはめた男性が空に浮かんでいる。
髪は肩より少し長めのストレートで黒髪、センター分けで耳には厘と侺と同じデザインの赤と青のピアス。
仮面で顔を隠しているが、隙間から除く緑色の瞳が厘と侺のピアスの色をしているのが分かる。
この人が眠っているだけというのなら大丈夫のだろう。あんなに血の池が出来ていたのに、傷もなければ血色もいい。
「なんで?侺を返してくれたの?」
魔王に問いかける。
すると魔王は悲しそうに笑う。
「だって、君たちはいつも2人でいたじゃないか。離れ離れにするのはかわいそうだなと思って…」
その言葉を聞いて菫が言葉を発する。
「あなたの意思で侺をさらったわけではないのですね?」
菫は魔王を真っすぐに見て質問をするが、魔王は菫を見ることもなく、侺の方に視線を向ける。
「あぁ、部下が勝手にやったことだ。すまない」
魔王が菫の方を見向きもしないことに菫は更に怒りを覚える。
「そっか、よかった」
「厘…あなたまさか…いえ、なんでもありません」
魔王はちらりと菫を見る。ヨウがその視線に気づき様子を伺っていると、なぜか殺意どころか好意を向けられているように感じた。
菫は魔王の視線に気づかず、厘の方を心配そうに見ている。
魔王はすぐに目線を逸らし、ヨウを一瞬視界にとらえてすぐに厘の方へ視線を戻した。
「相変わらず優しい子だね。今回は戻りなさい。今はまだその時じゃないよ」




