49話
厘も侺も自分たちの力を過信していたわけではない。
キールとレインの力も借りて、全力で魔法を放った。
それでも倒せないとなると、撤退するしかない。
「厘、逃げるぞ。東の街には地下を通じて南の街へ来るように手紙を飛ばした」
「うん、わかった」
逃げると決めたのはいいが、どうやって逃げる?
転移魔法を展開する時間はなさそうだ。
「魔王様の邪魔をするものは全て殺します」
悪魔が距離を詰めてくる。
とっさにかわすが、爪が腕を切り裂く。
「侺!」
「大丈夫だ、警戒を怠るな!」
駆け寄ろうとする厘を諫めて悪魔との距離をとる。
悪魔の動きは速いが、ギリギリ捕らえられないほどではない。
このままでは厘たちの方が先に疲弊してしまう。
そう思うのだが、相手の悪魔に手も足も出ない。
悪魔の攻撃を避けるのが精いっぱいで、魔法を放ったところでまともに当てられない。
既に避けきれなくなってきており全身に切り傷が出来上がっていた。
いい加減回復魔法をと思ったところの一瞬の隙を狙われる。
侺の左腹に悪魔の爪が深く刺さっている。
「うっ…!」
「侺!!!」
「厘、避けろ!」
厘が駆け寄ってくるのを悪魔がとらえている。
避けたら侺に当たる。
反射的に避けそうになるのをこらえて少しでもかわして被害が少なくなるように軌道修正する。
それでも厘の右腹に悪魔の爪が貫通する。
「あなた方、すばしっこいですね。せっかく楽に死なせて差し上げようとしているのに」
「厘!」
反射的に厘の怪我に回復魔法を施す。
その様子をみて悪魔が感心する。
「へぇ、完璧な回復魔法ですね。傷まできれいさっぱり直してしまうとは」
「無口な悪魔かと思ったけど他のやつらと一緒でよく喋るんだな」
「他の方をあまり存じ上げませんが、お話しするのは嫌いではないですよ」
「そうか。でも悪魔と話す趣味はない」
悪魔が攻撃を緩めた一瞬の隙を付いて距離をとる。
それも気付かれていたみたいで一気に距離を詰められる。
「逃がしませんよ」
攻撃が再開される。いくら回復魔法を施したところで、疲弊感は貯まっていく。
このままだとやられるのは時間の問題だ。
どうにか逃げるか倒すかしないといけないが、全く逃げれる気も倒せる気もしない。
厘だけでも逃がしたいが、それは厘がさせてくれないだろう。
だがこのまま二人ともやられるわけにはいかない。
「厘、聞いてくれ。俺が回復魔法を掛けながらアイツの攻撃を受けて、軌道を逸らす」
実際に悪魔の攻撃の軌道を今までより東の方向へ進めていく。
その様子に厘も攻撃を避けながら頷く。
「タイミングを合わせて、俺が軌道を逸らしたら厘は反対方向へ進んでくれ」
「え、それって俺だけ逃げろってこと!?」
「違う、すぅ姉たちを呼んできて欲しい」
「でもその間、侺が一人になっちゃう」
「このままここで二人ともやられるよりは、すぅ姉たちを呼んできた方が勝率が上がるんだ」
「わかるよ、分かるけど、いやだ」
「厘、頼む。俺よりお前の方が転移魔法を素早く展開できるだろ?2,3分だけの話だ」
「~っ!!!わかったよ!すぐにすぅ姉連れてくるから待ってろ!!」
「助かる。ありがとな、厘」
厘はすぐに転移魔法を展開する。
厘を守るように悪魔と厘の間に入りこむ。
「逃がしませんよ」
あきらかに厘を狙った攻撃をしたことで、侺に余裕が出来る。
そのすきを狙って全力の氷魔法を悪魔へ打ち込む。
「厘、今だ!」
「わかった!」
厘は展開した転移魔法陣へと入っていった。
菫とヨウを連れて数分で戻ってくるはずだ。その数分を、持たせないといけない。
侺は全魔力を防御に振り分けることにした。
「アイスシールド」
氷龍が侺の周りにうごめいており、悪魔の攻撃を防いでいる。
思ったより消耗が激しく、氷龍の動きも悪くなる。
「くそっ、このままじゃ氷龍もやられる!」
-ごめん、僕も力を渡してるんだけど…あの悪魔かなり強い-
「レイン、ありがとう。もう少しだけ耐えればすぅ姉たちが来てくれるはずだ」
そしたら、4人で力を合わせたら悪魔を倒せるはずだ。
そう考えながら防御魔法を展開していたのだが、1分も持たなかった。
「嘘だろ…まずい、レイン、逃げろ!」
「今、誰と話しましたか?」
悪魔が攻撃を緩めずに質問をしてくる。
ほぼ魔力を使い切った侺には攻撃をすべて避けきれるほどの体力も残っていなかった。
「くっ…!」
「避けるので精いっぱいで声も出ませんか…。仕方ないですね。そろそろ殺してあげましょう」
悪魔が一気に侺との間合いを詰める。
嘘だろ?まさか、手加減されていたなんて…すぅ姉たちが来ても勝てるかどうか…。
そこで侺の思考が途切れた。
赤く染まりながら倒れている侺を見下ろして悪魔はため息をつく。
「はぁ…あっけないですねぇ。もう少し楽しませてくれるかと思ったのに」
悪魔は侺を担ぐと、魔王城がそびえたつ方向へ飛んで行った。




