16話
翌日からヨウとのかくれんぼが始まった。
やたらと二人の行く先々にヨウの気配を感じたのだ。
ある時は、教室の厘の席で他のクラスメイト達と談笑していた。
ある時は、放課後の寮への帰り道で待ち伏せしながら、帰宅する人たちの声を掛けたりかけられたりしていた。
そんな感じで、ヨウは二人に会いに来ていたのだが、何とか回避していた。
それでも、全てを回避できるわけでもなく対応を余儀なくされたこともあった。
そのたびに何かと理由を付けて早々に退散するようにしていた。
また寮の自室に来れたら嫌だなと思っていたが、幸い来ることはなかった。
それに対して二人は、かなりホットしていた。
あの日のあのプレッシャーが忘れられず、ヨウに会うたびに身体が強張るのだ。
現状ではヨウと戦っても勝てる見込みがない。それもあり、時間を見つけては二人は訓練を行っていた。
そんなかくれんぼが続いていた、とある日、食堂に行くとヨウがすでにユウの隣に座っていた。
「厘!侺!おはよう!」
入口に佇む二人を見つけて、ユウが手を挙げて大声で二人を呼ぶ。
一瞬ユウに笑顔で手を振りかけて、隣にいるヨウを見つけて躊躇する。
躊躇したが、ユウとばっちり目が合ってしまったのとあんなに大声で呼ばれたら無視するわけにはいかず、
仕方なく、ユウとヨウのいる机へ向かう。
ユウには生徒会長には気を付けろと言っていたのだが…。
人懐っこい性格のせいか、かなり打ち解けているように見える。
「おはようございます」
「厘くん、侺くん、おはよう」
「ユウもおはよう」
「おう!」
一通り挨拶をすますと、二人は朝食を選びに行く。
「どうしよう、俺あの人と話すの苦手…」
「今はユウもいるから避けようがない。いつも通り厘はあまり喋るな。俺が対応する」
「うん…ごめん。ありがとう」
普段コミュ力高いのだが、苦手な相手にはとことん対応力が低くなる厘なのである。
対して、侺は普段から誰に対しても一定の距離を保っているので、臨機応変に対応できる。
そしてユウは…
「へぇ!生徒会長物知り!すげぇ!」
「ふふっ、ユウくんと話してると自分が特別になったように勘違いしてしまうね」
誰とでも仲良くなれるのだ。
食事を持って席へ向かうと、ユウとヨウが楽しそうに話している声が聞こえてきた。
とてもあの噂の様な心配など何もないような普通の会話。
普段から感じてはいたが、寮の自室に来た時とは全く別人である。
チェンジャーなのに驕っていない人というのが今までの印象だ。
通常、チェンジャーは特別視されるため、自分は特別なのだと傲慢な態度をとる人も少なくない。
少なくないのだが、学園にいる3名のチェンジャーはみな驕っていない。
というのも、生徒会長であるヨウが3人の中で一番力が強いのにもかかわらず、
全く驕っていないので、傲慢な態度をとることが出来ないのだ。
それもあり、謎の退学劇を繰り広げても、周りから慕われているのだ。
厘や侺も昨夜の事がなければ、特に気にすることもなかったかもしれない。
だが、あのプレッシャー。確実に本性を隠している。
様子を伺いつつ、席につく。
「「頂きます」」
手を合わせて食事の挨拶をする。
そんな二人を見てヨウが視線をこちらに向けてくる。
「ゆっくり食べて。食べ終わったらお話ししよう」
厘はぎこちなく、侺はゆっくりと頷く。
そんな二人をみて満足そうにうなずくと、ユウに向き直る。
「ユウくんは、二人と仲が良いのかな?」
「ん?あぁ、この学園に入ってから友達になったんだけど、仲良くしてる」
とても気さくに話をする。ユウには敬語や丁寧語を話すという概念がないのか…。
ヨウはそんな感じでユウと二人の仲を聞いている。
そのうち二人はどんな人なのかなどの質問になり、ユウも思ったままに答えているため、
聞いているこっちが少し恥ずかしくなってきた。
早急に食べ終えて話を終えさせないと、ユウによる褒め殺しに居たたまれなくなる。
基本的にユウは人の良い所ばかりを見るのだ。
「「ごちそうさまでした」」
素早く食べ終えると食事終了の挨拶をする。
すると、ユウとの会話を中断し、二人の方へ向き直る。
「早かったね?二人とも、早食いなのかな?」
違う。ユウに根掘り葉掘り聞くやつがいるから早く食べ終えて阻止するためだ。
「いえ、普段はもう少し時間をかけて食事をするのですが、今日はお待たせしている人が居ましたので…」
「僕?ゆっくり食べてって言ったんだけどなぁ。ふふっ二人も僕とお話ししたかったのかな?」
「あまりお待たせするのは悪いかなと考えた次第です」
「今度からは気にしなくていいからね?早食いは身体に悪いし」
まずは場所を変えてゆっくり話そうと言われたので、食器を片付ける。
食堂のシェフさんたちにご馳走様と美味しかったですを言うのは忘れずに伝える。
学園が休みとはいえ、ヨウは生徒会長として、チェンジャーとしてやる事は多いとは思うのだが、
何故こんなところで俺たちと話をしているのだろうという疑問を持ちつつ、
中庭のベンチに4人で座る。
「それで、要件は何ですか?」
「侺くんは結論を急ぐタイプだね。まずはゆっくりお話ししようよ?やっとゆっくり話が出来そうだしね」
ね?と、極上の笑顔で言われる。女子生徒がいたら間違いなく高速で頷くか、悶絶するだろう。
あいにく、侺は女子ではないので一切の効果はない。
「生徒会長は役職もさることながら、学園でたった数名のチェンジャー筆頭ですから」
忙しいでしょう?と暗ににおわせながら言う。
それに対してはふふっと笑うのみで返答はない。
結論を先に言う気はないようだ。
「さっき、ユウくんには聞いたんだけど、二人はどこの出身なのかな?」
思った以上にただの雑談をする気でいるみたいだ。
目的が分からない以上、うかつにすべてを話すつもりはない。
「ここから南にいったところです」
「ふむ。ここはヴェヌディアの北に位置する場所だからねぇ」
困ったような表情を浮かべるが、事前に調べていたのか、地名を当てられる。
「ラルク・ウムグ、だよね?」
侺は一瞬驚くが、すぐに平静を装う。が、厘が動揺しているのが隣にいて伝わってくる。
ヨウとは反対方向にいるため、侺で隠れていることを祈る。
調べていたならわざわざ聞く必要はなんだ?
真意がわからなくて警戒心が強くなる。
「そんなに警戒しないでよ、本当にただ仲良くなりたいだけなんだ」
「その言葉をどうしたら信じられるんです?あなたの周りでは不可解なことが多すぎる」
「ねぇ、君たちは知っているかな?オリジンも魔法の練習をしたらかなり強くなれるんだよ」
侺の質問には答えずに急に話し出す。
何言っているんだこいつ…。と思う侺とは反対側でユウが声を上げる。
「マジっすか!?え、どうやって?」
ユウはその話が気になったようだ。
今までオリジンとしての力が弱くてコンプレックスを持っていたのも影響しているのかもしれない。
「うん、少し特殊な訓練をするんだ」