15話
「おかえりなさい、厘くん、侺くん」
「な…なんであんたが俺たちの部屋にいる!?」
そこには、生徒会長のヨウがいた。
ヨウはこの学園の中の数少ないチェンジャーの内の一人である。
あまり生徒会とは関りがないはずなのに、何故二人の部屋にいるのかがわからない。
「全生徒の部屋を見て回った際に、鍵が開いてたから。ここで待たせてもらったよ」
とても優しそうな顔で柔らかく話をしてくれるが、鍵が開いていたとしても不法侵入である。
そして、二人を待つ理由がわからない。
どう対応すべきか、内心冷や汗をかいていると、あぁと生徒会長が話し出す。
「そんなに緊張しなくてもいいよ!いくら上級生で生徒会長だと言え、ただの一般の生徒だよ」
そう言われるが、この生徒会長何を企んでいるのか分かったものではない。
以前生徒会長に気に入られ、寮で常に共にしていた生徒は、何を思ったのか突然退学届けを出し学園をやめていった。
それが一人、二人ではないのだ。
菫の話によると、去年1年で7人。今年4か月ですでに3人もの生徒がこの学園を去っている。
はじめ仲良くすることに少しの抵抗があるが、特に何も変なことがないと感じると、自分は大丈夫だという心理が働くのか、
その後何も気にすることもなく生徒会長と普通に過ごす人が多いのだ。
だが、特に生徒会長と何かあったわけでもなく、突然なんの前触れもなく辞めていくのだ。
異常である。
そんな生徒会長を前にしたら警戒するなという方が無理なのだ。
「俺たちに何か用ですか?」
「君は…侺くんの方だよね?うん。きれいな瞳。ライトブルーと…エメラルドグリーンかな」
一瞬で距離を詰められ、目元を撫でられる。
反射的に侺はヨウの手を払いのける。
その様子を厘は心配そうに見ていると、ヨウは特に気にした様子もない。
今度は厘の方へ向き直る。
目が合って、一瞬びくりと厘は全身を強張らせる。
いつ移動したのか、急に目の前にヨウが飛び出てきた。
少なくとも厘にはそう見えた。
「厘くん、君もきれいなエメラルドグリーンの瞳を持っているんだね」
凄く優しそうな声を出すことが、より不気味に感じた。
燃えるような真っ赤な赤の瞳も魅力的だという言葉は厘には入ってこなかった。
何だこの人のプレッシャーは…顔は笑っているし、声も優しいのに怖い…。
何だろう…どんどんヨウの指が目に近づいてきている気がする…。
ドクンドクンと鼓動が激しくなる。逃げないと、動かないとヤバイと分かっているのに体が動かない。
ヨウの指が厘の瞳に届く直前に侺が厘の事を強く引き寄せて回避する。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
知らぬ間に息を止めていたのか、厘は床に手をついて洗い呼吸をする。
このプレッシャーは…
「お前、何者だ…?本当に人間か…?」
「ふふふ、侺くんは面白いことを言うなぁ。僕は人間だよ。間違いなく…ね」
最後は少し含みがあるが、自分を人間と言い切った。
ということは人間であることは間違いない。
何故なら、亜人は人に紛れはするが、人間と一緒にされることを嫌う傾向にある。
亜人たちは、人間の事を下等な生物だと認識しているからだ。
自分の事を人間と言い切る亜人はいないのだ。
ヨウは今まで優しそうな顔をしていたのに、急に真顔になる。
「まあいいや。興がそれた。またね」
そう、そっけなく言うと二人の部屋から出て行った。
それを見届けて、侺は部屋の鍵を閉める。
そして深く息をつく。
「厘、大丈夫か?」
息を整えている厘へ向き直り、背中をさする。
少しは落ち着いたみたいで、ベッドに座りなおす。
「侺、ありがと。だいぶ落ち着いた」
「よかった。けどアイツ、厘の瞳を抉ろうとしてた」
「急すぎて何が何だかよくわからないけど、あの人はヤバイ」
進化者であり、かなり強いはずの二人がプレッシャーを感じるほどヨウは力を持っているのだ。
通常のチェンジャ―ではあそこまでの力はないと思っていたのだが…。
あの人は俺たちよりはるかに強い。
そんな奴がこの学園にいるとは思ってもいなかった。
だが、今まで隠していた正体を出したということは、何か目的があるという事で…。
何か嫌な予感がする。
「今すぐどうこうということはないと思うが…目を付けられたとなると、かなり厄介だな」
「うん。とりあえず、明日すぅ姉とユウには注意する様に話をしないとだな」
「あぁ、今日はもう休もう。いろいろあって疲れた」
「だな、侺、お休み」
「お休み、厘」