10話
「ユウ、おつかれ!」
「あぁ、マジで疲れた…のに魔力が切れない、すごいのな!」
覚醒してからというものの、魔力量が半端なく上がった。
オリジンはもともと魔法の力が弱いためか、魔力量自体も多くない。
例えば、1日中水を出し続けることは出来ないのだ。
ユウの場合は1時間水を出し続けたら魔力が切れる程度の力しかなかった。
「それにしてもユウ、お前…」
「おい、厘!笑うなよ!!かっこいいだろ?戦うヒーラー!」
そう、ユウは覚醒した後の一番力が強かった属性が、”光魔法”だったのだ。
通常、光魔法は、回復や身体強化などの支援魔法が主で、戦いの場では後衛的役割なのだ。
だが、ユウはもともと魔法の力が弱かったのもあり、武術を習得しており、武術大会で優勝するほどの腕前なのだ。
それなのに、今回の試し打ちで一番力が強かったのが支援系の光魔法だったことに、驚きと笑が止まらない。
「それはそうと、今まで一番得意だった水じゃなくて光が強くなるなんてことあるんだな」
「そう…だな。俺も風が一番得意だったが、今は氷が一番強い」
「あー、そういえば俺もだ。俺は電気が強かったんだけど、今では火が一番強いからなぁ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、単純な強化ってわけでもないんだな。やっぱり、進化したって感じがするな!」
「進化…進化かぁ。確かに、そっちの方がしっくりくるかも!」
「あぁ、そうだな。そうか、だから文献を探しても見つからなかったのか!?」
確かに、覚醒という言葉は既に使われている。ノーマルが覚醒して魔法が使えるようになるのだ。
盲点だった。覚醒という言葉をいくら調べても知って以上の情報が出てこないわけだ。
今後は進化やそれに類似した言葉も含めて探す必要があるな。
「そっかぁ。これは進化か。確かに、今まで使えてたものが強化されたんだもんな!ユウ、地下神殿といい、センスいいな!」
「いや、厘、お前はセンスの欠片もないじゃないか…」
「そんなことないんだけどなぁ…」
「ユウ、厘に足りないのはセンスじゃなくて語彙力だ」
「ははっ!確かに!」
そんなことを話しながら、昔使っていた家へ向かう。
1晩、そこで過ごすことにしたのだ。
「懐かしいなぁ。少し埃っぽいけど…ここは風魔法でっと。-風の精霊よ、この場を清めたまえ!」
三人で風魔法を駆使し、家中の埃を払う。
電球が切れているため、そこはユウの得意の光魔法で照らしてもらうことにした。
「にしても、便利だな。魔法の力がこんなに活躍したの、初めてだ」
ユウはもともとの力が弱いため、めったに魔法を使用しなかったらしい。
喉が渇いた時に、水を出して飲むくらいだったようだ。
料理するのにも、実は魔法はかなり役に立つのだ。
食材を水魔法で洗い、風魔法で切ることができる。
火魔法で焼いたり、煮たり、蒸したりと、いろいろなことが可能なのだ。
さらに、厘たちは10歳の時に両親を事故で亡くしてからずっと二人で暮らして生活してきたため、
一通りの生活スキルは身についているし、ちょうど進化後という事で困らなかったのだ。
「実は、お風呂も一瞬で準備出来るんだ。こうやって火魔法で水を温めながら湯船にそそぐだけで熱々のお風呂が出来上がり!」
「っておい、厘!それじゃ熱湯じゃないか!」
「ん?このくらい熱くないと湯冷めするぞ?」
「そうだよな、だったらユウは俺の方の風呂に入ればいい」
そういって侺の入れた湯船を見ると、流氷の如く氷が所狭しと浮いていた。
「お前ら両極端すぎるだろう!!」
「何を言っている。お湯になんて浸かったら溶けてしまうぞ。氷風呂の方が良いだろ?」
「いやいや、そんな冷たい風呂に入ったら凍え死ぬって。やっぱり灼熱風呂に限るだろ!」
「こいつら…」
ユウはあきらめて、自分用の湯船を土魔法で作製し、ちょうどいい湯加減のお湯を入れて入ることにした。
そうして、湯船を3個並べてそれぞれの湯(一人冷水だが)に浸かって、今日の疲れを癒したのだった。
疲れを癒した後は、課題をやるという事で、厘は二人に見られながら無事に課題を進めていくことが出来たとかできなかったとか…。
のちに、厘は言った。ユウはバカぽいのにめちゃくちゃ頭いいし、説明が丁寧で分かりやすかった、と。
帰りの道のりも特に問題なく、無事に寮へ戻ることができた。
「ありがとな、何から何まで世話になった」
「いや、こちらこそ。俺たちにも気づきがあった。また何かあったら教えてくれ」
「おう、じゃあまた明日な!」
それぞれ寮の部屋へ戻る。明日からはまた普通の学園生活が始まると思っていた。