7カインside
朝起き、ふたつの部屋を繋ぐドアをそっと開け、眠るリリーの額に唇を落とす。
するとリリーがふにゃ…と笑ってくれるのを見るのが俺の楽しみであり、一日の始まりである。
◇◆◇◆
今日もいつも通り服を着替え、寝ているリリーの部屋をそっと訪ねる。
リリーが寝ているベッドに近づき、寝ているリリーを見ると自然と顔がほころぶ。
リリーが来る前は「表情が筋死んでる」などと言われていることや、「氷の王太子」なんてあだ名がある、と側近のギンに教えてもらった事がある。
笑うことが苦手なので自覚はあったがまさかそんな風に言われているとは…と少しショックを受けた。
けれどリリーと出会ってからは、リリーの前では顔が緩みっぱなしなので、最初は「殿下も笑えたんですね…」なんて心底びっくりされたものだ。
こんな風に笑える事に自分でもびっくりしたと同時に、リリーはやはり俺の大切な人だ、と確信した瞬間でもある。
このままリリーの可愛い寝顔をずっと見ていたいが、ギンが俺を呼びにここへ来て、リリーが起きてしまうのを避けるため、いつものように額に口付けをし、後ろ髪を引かれながら執務室へと向かった―――。
◇◆◇◆
「リリー様は妃教育を終えた後、本を読み「ひとりになりたい」とお部屋に戻りました」
「そうか…報告ご苦労」
そう言うと「失礼します」とリリーの侍女はさがっていった。
こうして毎日リリーの行動を報告させている。何かあった時に対処しやすいから、と言うのが建前で本当はリリーの行動を把握していたいだけだ。
しばらくし、廊下をバタバタと走る音が聞こえた。
「殿下!大変です!」
「何事だ?」
「リリー様が…!部屋から居なくなりました!」
そう聞いた瞬間、俺は一目散に駆け出していた―――。
◇◆◇◆
一足先にリリーの部屋に着いた俺は当たりを見回した。
人の気配が感じられずしん、としている。
いつも通りのリリーの部屋だ。荒らされた形跡もない。―――そこにリリーが居ないだけで。
一体どこに?まるでリリーだけ忽然と居なくなったみたいだ。
あとからバタバタとギン達が駆けてくる。
「リリー様は?」
「…居ない」
「一体どこに…」
そんなこと俺が知りたいくらいだ。
「ひとまずギン達はリリーを見たものが居ないか確認してくれ。俺はこのままここに残り、なにか手がかりが無いか探す」
「かしこまりました」
そう言い、ギン達は部屋を後にした。
1人部屋に残り、手がかりを探す。
が、いつもと変わらないリリーの部屋で手がかりは何も無かった。
せめて手掛かりが1つでもあれば…!そう思ったが、何度探しても何も無い。
このまま部屋にいても埒が明かないので、ギンに話を聞きに部屋を出ようと踵を返した―――ら、ドサッと何かが落ちてき、一緒に倒れ込んた。
一体何だ?と、急いで落ちてきたものを見ると、見覚えのあるの綺麗なワインレッドの髪が見えた。
「リリー!?」
どうしてリリーが上から?色々と疑問は浮かんだが、ひとまず逃がさないためにぎゅっと抱きしめた。
話を聞くとリリーは、テレポートを使い街に行っていた、と教えてくれた。
その後リリーの事は侍女に任せ、俺はギンにリリーが見つかった事と、テレポートが使える事を伝えるため、部屋を後にした。
リリーが居ないと聞いた時は肝が冷えたが…まさかテレポートを使えるとは…。
流石俺のリリーと思うと同時に、その気になればリリーにいつでも逃げられてしまうのでは?と不安が襲う。
これまで以上に甘やかし、俺から離れられないようにしなくてはな?
どうやって甘やかそうか考え、口元がニヤけるのを抑えられずギンに呆れられるのであった――。