4話 ギルド
「着いたー!!」
「着いちゃった〜……」
数日かけての長い旅だったが、無事にリサのギルドがあるという町に戻ることができた。
「おお…人が多いな」
「まあギルドがあるし冒険者もいるからねこの町は」
そう言いながらギルドまで歩いていると。
「リサ?」
「あの…ちょっと、心の準備の為にも用を足してくるわ。ここで待ってて!」
ギルドに近づくにつれどんどん眉間にシワが寄っていくことには気づいていたが、どうやらリサ的にはギルドに帰るのが本当にまずいのかもしれない。
なんてことをツカサが考えていると。
「迷子?」
「え?」
周りをキョロキョロと見回していたからか、女性がツカサに尋ねた。
「いや、えと…」
「探してる場所の名前とか分かる?」
「場所っていうか、ギルドを探してるんです。この辺の」
それを聞くと女性は一瞬かたまってから。
「じゃあうち来る?」
笑いながら、そう言った。
「お誘いはありがたいですけど、知り合いにここまで連れてきてもらってて…その人のギルドに入るんです。俺は迷子というか…いや、道はわからないけどその人待ちです」
「なーんだ残念。でもうちも良いところだよ? …アットホーム的な感じで」
「へえ、どんな感じ…」
「あら、サントリナじゃない」
戻ってきたリサの声に、女性が驚くような反応をした。
「…リサ!? えっ…おかえり! マスター怒ってたよ!」
「ただいま。知ってるわよ、情報送ったの私なんだし…」
「やっぱ殺されちゃうのか? リサ……」
「殺されないわよ!」
2人のやり取りのあと、サントリナと呼ばれた女性がリサに尋ねた。
「もしかして探してるギルドって……うち!?」
「リサ、この方はリサのギルドの人なのか?」
「そうよ」
「じゃあそうです」
「わー! 珍しい! よろしくね! 私サントリナ・イズリリーフ。サントリナで良いからね!」
「わっわっ」
勢いよく握手をするサントリナに、少し照れくさそうにしながらツカサも挨拶を返した。
「俺ツカサです。よろしくお願いします」
「はいはい、挨拶はそのへんにしてソニアの所に行きましょ」
「あ、そ、そうね! 登録もしなきゃ!」
3人はギルドに向かって歩いていく。その途中、ツカサが1つの疑問をリサにぶつけた。
「サントリナさん、めちゃくちゃ喜んでたな…もしかして、リサのギルドに新しく誰かが入るのって珍しいのか…? それとも何人入っても毎回あれだけ喜んでくれるのか?」
「どちらかというと前者よ。冒険者の方から入らせてくれってパターン、うちだとごく稀なのよ。理由は色々あるけど…」
「へぇ…?」
よくわからない、というように首を傾げるツカサ。それに対し、実際に体験すれば分かる、とリサはつげる。
「ツカサ、言っておくけど登録せずに一旦様子を見ることだってできるのよ? いいの? 本当にうちで登録をして」
「前も言ったろ、俺は力になりたいんだって。それに、他のギルドの人がみんなリサみたいないい奴って保証はないだろ? サントリナさんもいい人で、俺リサのいるギルドが好きになれそうだしむしろこっちからお願いしたいくらいだ」
「そ」
照れの含んだそっけない反応にツカサはくすりと笑った。そして。
「いよいよ…ご対面ね」
「明らかに顔が強張ってるな……」
「そりゃ今から怒られに行くんだからね…」
リサは、顔を一度両手で叩くと、思い切りドアを開けた。
「ソニア、ただいま」
「おかえりリサ」
「……う」
ソニアと呼ばれる女性は、ドアを開けた玄関で、ドンと待ち構えていた。
いきなり剣呑な雰囲気が流れ始めたことに、ツカサは気まずそうな顔をした。
「…詳しい話は後でするけど、反省するべきことは分かってるよね」
「ええ、ごめんなさい」
リサの謝罪を聞き、大人びた風体の彼女は抱擁した。
「無事に帰ってきてくれて良かった」
「うん…」
そして、ハグを終えると、サントリナが口を挟む。
「マスターマスター、横からですけど」
「お?」
「マスター! 新人さんが来ましたよ!」
「ど、どうも! ツカサです!」
「キミがリサの言ってた…なるほど、よろしくね」
「はい!」
「元気な子みたいで嬉しいなぁ」
「ふふ、そうですね!」
ツカサは差し伸べられた手に勢いよく握り返した。
「もうギルドに登録するのは決めてるの? それとも様子見に来た感じ?」
「マスターさんが良ければ、俺は入りたいです」
「分かった」
女性が笑顔で答える。そして、どこからか取り出した暖かそうな服をリサに被せる。
「リサ、今はゆっくり休んでおきな。私はツカサと話してくる」
「ええ。…それじゃツカサも」
一瞬気まずそうな顔をしながら、リサは胸の前に拳をあげた。
「?」
「ほら、行くよツカサ」
「あ、はい!」
がんばれ、というニュアンスな気がするが、なぜそれを今したのだろうか。
そして、ソニアと呼ばれる女性の背中を追っていると、彼女の方から喋り出した。
「さっきはごめんね、いきなりあんなところ見せちゃって」
「いえ…でも」
ビックリしたはしたが、ツカサはむしろ別のところに驚いていた。
「すごい剣幕だったから…俺はてっきり」
「ビンタでもするかもって?」
気まずそうにツカサは首をゆっくりと縦に振る。
「あ、叩くわけじゃないんだって方に驚きました…」
「あの場においては、痛みを与える説教なんてなんの意味もないからね。あの子はちゃんと危険だって分かってて行動してるし」
リサの行いは、きちんと判断した上での行動だという。
「だからこそ…どっかでちゃんと自分の身を大事にして欲しいんだけどなあ…今回も危なかっかしいことばかりしてたみたいだし」
「え…」
自分の身を優先、というのはリサがツカサに言っていたことだ。
だからてっきりギルドの教えなのだと思っていたが、どうやら守ってはいないらしい。
「やっぱり危ないことだったんですか?」
「相手に魔法を使える奴がいて、味方に魔法を使えない一般人がいる。加えて人数不利。しかも闘う前から準備不足。そんな状況で闘えなんて私は死んでも教えないよ」
不満を漏らすような声色で、淡々と告げる。
「まぁでも、あの子は理不尽が許せなかったんだろうね」
「……俺も同じでした」
「うん、だから今度から気をつけなさい。奇跡は何度も起こらないからね」
当然だ。勝率の低い賭けを選び続けていたら、いつか負ける。そして命に指がかかった選択での負けは、下手したら死ぬということだ。
「気をつけます」
「ふふ。……それ、リサや死んでいった冒険者の人たちと同じ反応だよ」
「え……」
何回も忠告をして、何回もそのリアクションが帰ってきた、と。遠くを見つめるような眼差しで告げる。
「いざとなったら自分の命より自分の気持ちを優先させる人だね」
「うむむ……」
「でも、ツカサがギルドに入ってくれるなら、ツカサはもう私の仲間だから。私の目が届く範囲では無茶はさせないよ。だからこそ我儘を通せるくらい強くなってね、それこそ私くらいに」
「は、はい!」
「というわけで…」
「? ──!?」
ゆっくりと立ち上がる彼女に違和感を覚えたツカサだが、判断はすでに遅く、後ろからの攻撃をモロに喰らう。
「あだぁ!?」
吹き飛びながらも、受け身をとり冷静に立ち上がる。
「お、やるね。初日稽古恒例の不意打ちに受け身を取ったのは君が2人目だよ」
「多いのか少ないのか分からん…! ていうかいきなりこれって何なんです!?」
彼女の背後から、2人の人形が現れる。
「さっきも言った通り、私の仲間はできる限り死なせたくない。だから、私がキミを半殺しにして最低限まともに闘えるくらいまでにはするよ。あ、ちなみにこれ強制だから」
指をポキポキと鳴らしながら、笑顔でツカサに近づいて。
「よろしくね? ツカサ」
平静のまま、戦闘体制に入った。
そしてこの時ツカサは、リサがギルドの話をした時変にぼかしていた理由を察した。彼女はこのしごきがあることを知っていたのだ。
「へ、平伏いたします……! い、一旦落ち着こう! ね!? ソニアさん!」
「頭を下げるのは勝手だけど、ちゃんとかかと落としするからいい感じに頭を垂れてね」
「ぎゃあああああああ!!」
逃げるツカサと追いかけるソニア。かくして、ツカサは冒険者としての一歩を歩み始めたのだった。




