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34話 仲間、想い、信頼

「という訳で、なんと私とツカサ、ちゃっかりスノースマイルと徒党を組んでる魔物と戦っちゃってました! ごめん!」

「えー……」


 ソニアがマジ顔で引き攣っていた。


「ソニアには本当に申し訳ないことをしたと思ってるけど、あの状況ではツカサを逃し距離を置く方が危険だと判断した。でも勿論怒ってくれていいよ」

「いやいや! ドミニカがやってくんなきゃ死んでたって!」

「……そうだね、まずはツカサを助けてくれてありがとう。それにまぁ、五体満足で情報を得られたんだから結果オーライだね。ドミニカは傷を負っちゃったけど」

「サントリナのおかげでもう傷も残ってないから大丈夫。ありがとね!」

「あ、いいえ! お役に立てて何よりです!」

「それよりそっちは大丈夫だったの? そっちにも来てたんでしょ?」

「うん」


 ♢


「ソニア?」

「……カンナ、何か来てるよ」

「何?」

「サンドラの警戒網に何かが引っかかった。只者じゃなさそうだから2人で行こう。人形の何人かはこっちの警護につかせる」

「わかった」


 先行するソニアにカンナがついて行く。

 そして。


「……見かけない顔だね。誰?」

「そういうあなた達は人形使いと炎使いね?」

「──!」


 剣戟。

 カンナの一撃は、丸太のように大きな蛇の尻尾で弾かれる。


「ちぃ……!」

「カンナ、こいつ…」

「ああ」


 2人を知っている。つまり。


「スノースマイルの仕える魔物…!」

「その言い方やめて頂戴、私が下みたいじゃない」

「何だお前…」

「うん?」


 下半身が蛇のようなナリで、上半身は人。

 そんな異形にカンナが問う。


「なぜ昼のうちから襲ってこなかった? そして今も、いつまでも敵意を見せず何がしたい」


 一手合わせてから、魔物は距離を取ったまま、動く気配がなかった。

 

「見惚れてるだけよ、貴方達2人に」

「……」

「カンナ、強いよこの魔物」

「……分かってる」


 初手、カンナの一振りを容易に弾いた。


 2人は、己の目の前にいる魔物が、S級格の魔物の力を持っていることに気づいていた。


(カンナと同等……以上? 私も今は文字通り戦力半減してるし……まだ戦力が隠れてたらやばいかも)


「…あっちの守りを薄くしたくない。こっちで戦える子も…多分割れてる。分が悪いね」

「……」


 こう着状態。

 それが少し続いた後、魔物がつぶやく。


「もう大丈夫、好きに動いていいわ」

「……なに?」

「じゃあね」


 俊敏な動きで、2人を後にする魔物。


「……ほんとに消えたね」

「……意味がわからん」

 

 ♢


「私たちは外傷なし」

「さっすが」

「相手は強かったけど、本気でやり合う気なさそうだったしね」

 

 そのやり取りの末、カンナが本題を切り出した。

 

「結局、どうするんだ?」

「あの地属性の魔物、私を殺すつもりでいたみたいだけど、今回の件で考えを改め直すだろうからもう暫くは調査しても無駄なんじゃないかな……スノースマイルも手は組んでいても使役はしてなかったみたいだからあいつは別のところにいそうだし、ここら辺調査しても無駄かも。大人しくギルドの調査を待った方が利口だと思うよ」

「そうか……」


 仮に魔物と一緒に行動していて、今なお近くにいたんだとしても、すでにこちらの戦力を把握して逃げた可能性の方が高い。


「どちらにせよ一旦私はギルドに戻る。報告もまとめたいし」

「そうだね。うちもそうしようか」

「了解」

「それじゃあ……」

「ソニア」


 話を切り上げようとしたソニアに、ドミニカが語りかける。


「何?」

「本当に君の仲間を守りたいなら、今の方針はやめた方がいい」

「……」

「スノースマイルたちと戦うなら今のやり方じゃダメだ。ツカサもリサもガーベラも、潜在能力(ポテンシャル)はあるけど肝心の実力が足りてない」


 ドミニカはツカサとの一件を思い出していた。


「S級の乱入に対して、ツカサの不意打ちは通ったけど、相手が仲間を慮る魔物じゃなかったらやられていたのはツカサだ」


(まぁ仲間を慮る奴じゃないならそもそも私を襲ってると思うけど……)


 ただ、ドミニカが臨戦体勢にあったためツカサに反撃を行った際の隙を警戒していた。

 反撃でツカサを殺すことは容易くとも、その攻撃の合間にもう1人から自分が手痛い一撃を受ける、ないしは瀕死の仲間がトドメを刺される。


 その可能性があったから攻撃をしなかっただけ。


 あのような極めて優勢、もしくは特異な状況でもない限り、ツカサレベルの実力では助太刀したところで返って悪影響、ないしは足手纏いでしかない。

 

「本気で仲間を生き残らせるつもりなら、君が足引っ張っちゃいけない」

「……うん、でも……」

「…私のギルドでは、私は皆んなを引っ張るのが仕事だ。仲間の誰よりも先に未知の世界に足を突っ込む。それがギルドマスターである私の役割にして、私だけの特権」


 ドミニカが語る。


「ソニア、君の役割はなんだ?」

「……私の……役割」

「一度胸に問うてみるといい。それじゃあ、解散にしよう」

「……ああ、ありがとねドミニカ」


 ♢


「そっか、もうドミニカたちともお別れか。短かったけど、会えて良かった」

「こちらこそ。気持ちのいい人たちばかりで、会えて良かったよ。それにこれで今生のお別れってわけじゃないさ」

「?」


 ツカサの頭を叩きながら、ドミニカが言う。


「これからもちょくちょく情報交換するって話。それにスノースマイルの件に関しては他人事で済まなそうだしね」

「!」


 ツカサとドミニカ、2人で笑みを浮かべる。


「5大ギルドなんて言っても、まだまだ私の知らないことだらけだし、強い奴だらけだ。今度会った時は私もまた成長しているだろう!」

「俺ももっと強くなる。次は俺が借りを返すよ。そんで…」


 お互いに見合う。

 

「ドミニカにすぐ追いついてみせるよ」

「次に会うのが楽しみだよ」


 両者拳を突き出し、互いの拳をかち合わせる。

 

「それじゃ、また会おうね少年!」

「押忍!」


 ドミニカは手を振って、その場を後にした。


 ♢


「さて、ドミニカの報告通りならもう暫くはスノースマイルたちは姿を見せない可能性が高いみたいだけど、どうする?」


 ドミニカの騒動から2日後。

 『阿吽の花』、『麒麟の角』のメンバーが集まっていた。


「……国選の冒険者は調査を続けるのよね」

「そりゃね。でも正直その人たちがクエストを達成するのは厳しいと思うよ。S級格の魔物が少なくとも2体いる。同等級もまだいそうだって話だし」

「……」

 

「ガーベラ、ガーベラ、国選って何。ちょくちょく耳にするけど」


 ツカサがガーベラに耳打ちする。


「国、いや正確に言うと冒険者協会に雇われた冒険者のことだよ。ギルドとして独立的で自由な動きが可能な私たちと違って、

協会からクエスト派遣されたりするの」

「今回の件も同じ感じか。」


 ガーベラが頷く。

 

「そうなるね。未確認の捕獲及び討伐。それに適した人材を送ったって感じかな?」

「ふーん…聞いてる限りじゃギルドの方がいいけどな。同じ冒険者なら自分がやりたいことやれる方がいいと思うけど…」


 ここまで聞いた話ではギルドの方が良さげに聞こえる。

 

「でも安定してお金が貰えるし、実力が認められれば国から冒険許可が貰えるんだよ。そうなればギルドの冒険者と活動範囲はそう変わらないし、何より雇われている分のお金が支給されるから下手したらギルド所属より儲かるって訳」


 つまり、仕事を探す手間を省けて安定した報酬が貰いたいなら国選の方がいい、というわけだ。

 

「なるほどな……でも決まったクエスト、例えば薬草を取り続けたいって人とか、目的が冒険以外ですでにある人は国選にならない方がいいのか?」

「そう…だね。でも薬草を取り続けたい人とかいないでしょ」

「それはそうか……」

 

 コソコソ話をが終わり、少しの無言の時間が流れた後。

 リサはため息をついてから、観念したような笑みと声色で。


「今回は諦めるわ。明らかに長引くことが分かっていて皆んなを巻き込めないもの」

「……そっか」

「でも、また居場所が分かったら行きたいし、あいつの使役する魔物の目撃情報がでたら、それも討伐したい」

「ん、分かった。その旨もドミニカに話しておく。カンナはどうする?」

「リサの言う方針で構わん。やれるなら今すぐ片をつけたいが、捕まえるのは容易ではないだろう」

「そうだね」


 パン。と、ソニアが胸の前で両手を合わせた。


「それじゃ、私たちの方針は決定。『今まで通りクエストをこなしつつ、スノースマイルに繋がりそうなクエストが見つかったらみんなでそこに注力する』これでいいね?」


 皆が頷く。


「そんじゃこの会議は解散!」


 ♢


「……」

 

 マタリー、ブライアの2人と話しながら共に外に出ていく『阿吽の花』の4人を見送るソニア。

 

「おい」

「ん。なんか報告忘れとかあったっけ?」


 カンナが後ろから声をかける。

 

「リサがスノースマイルを目標にしているのは変わらんだろう」

「え、あ、うん」

「敵は強いぞ。ドミニカの言っていたことも覚えているだろう」

「……そうだね」


 2体の魔物に襲われた時、ドミニカは敗北を予期したという。


『魔物が仲間想いで助けに入ったからなんとかなったけど、犠牲覚悟に連戦を仕掛けてきたら勝敗は分からなかったよ』


「私たちも当然強くならねばならん。奴らと戦うなら、成長は避けては通れないぞ」


 カンナの言葉に、頷くしかなかった。 


「……お互い、大変だな」

「──」

 

 珍しい労いの言葉に、一瞬本気で驚くソニア。


「天地でも踊るのかな? 今日は」

「殺すぞ……!」


 ♢


「これで分かりましたよね、人間の強さ」

「……」


 返事をしない死に体の魔物を見て、クスクスと笑い声を抑えられない道化師。


「ええい黙れ!! 認めてやる! だからその気色の悪い笑い声をやめろ! イライラする!!」

「はいはい。貴方がたも、それでよろしいですか?」

「ええ。貴方の言うとおりだったわね」


 1体を除き、全ての魔物たちからの不満なし。


「それでは暫くは、魔導具収集、仲間の勧誘、そして可能であれば戦力を削る」

「異論なしよ」


 蛇のような姿の女性が同意を口にする。

 

「ではそのように」

「動くときは報告したほうがいいかしらね」

「まぁ好きにしたければそれでもいいですよ。ただフォローは致しませんので」

「冷たっ」

「先の話し合いで申し上げたとおり、私は少々お時間を頂きたいので」


 杖をコツンと鳴らし、幕を閉じる。


「それでは──解散といたしましょう」

 


 ギルドの建物。その屋根に寝転がるソニア。

 彼女は、物思いに耽っていた。


「徒党を組んだ魔物たちはドミニカを倒しうるくらいに強かった。…私たちも、もっと強くなる必要がある……」


 ただ、強くなるにはたくさんの危機を乗り越え、難題の壁を打ち破っていく必要がある。

 できることに挑むだけでは駄目なのだ。


 時には、死を覚悟しなければならないこともある。

 

 目標に向かう道中で、まだ手が届いてすらいないのに死ぬことだって、当然あるわけで。

 

『こいつらが伸ばせる時に伸ばしていかないと、いざ本当に危険が訪れた時に地力が足りなくて死ぬぞ』

 

「……そうだね。本当にその通りだった。甘かったのは私だ……」


 ツカサとドミニカが今回襲われたけれど、たまたまドミニカがいたからなんとかなった。ただそれだけだ。


 ソニアは、初めてツカサと会った時のことを脳裏に思い起こしていた。


『だからこそ我儘を通せるくらい強くなってね、それこそ私くらいに』


「それにしたって、早すぎだよ」


 成長させるにしても、もっとゆっくり伸ばしていくつもりだった。

 それが、こんなに早く覚悟を迫られるなんて。


『ソニア、君の役割はなんだ?』

 

 みんなのクエストを陰で見守ること? 1人に1人人形をつけること?


 敵を見つけ出せるまで1人で探すこと?

 

 ──私の役割は……。


「……うん」


 ♢

 

「皆んなに、話したいことがある」


 リサ、ツカサ、ガーベラ、サントリナを椅子に座らせ、真面目な声色で話し始めた。


「これから『阿吽の花』は危険なクエストにも挑んでいくことになる。もしかしたら、大怪我を負うことだってあり得る。時には助けなしで、君たちだけで危機を乗り越えなければならない時もあると思う」


 ──皆の持っている力を信じて、最大限成長できる環境に送り出してあげること。それがギルドマスターである私の役割。


「自分の力だけでどうにかしなきゃいけない場面っていうのはすごく怖くて不安だ。当事者である皆んなは当然そうだし、見守る立場の私だって、そんな場所に送り出すのは怖い」

 

 ──私も、もう変わらないといけない。


「でももう安全第一で舵を進めないのも事実。それでも、皆んなは『阿吽の花』にいることを選ぶ?」

「勿論ですよ」


 サントリナが笑顔で頷く。


「当然でしょ」

「私も、ここ以外考えられないですし」


 リサ、ガーベラも同じく。

 

「ツカサは?」

「……俺が今こうして元気で生きていられるのは、このギルドがあったからだ」


 拳をソニアに向けて笑う。


「どうなったって最後までついてくよ。俺はソニアさんを信じる」

「……ありがとう」


 ──私も、皆んなを信じるよ。

 

 

「それじゃあ……ツカサ、ガーベラ。これから暫く君たちにはB級中位〜上位のものに行ってもらう。ツカサにはまだ荷が重いと思うけど、頑張って乗り越えるんだよ」

「はい!」

「押忍!」

「ただ、さっき危機を乗り越えるとは言ったけど、命最優先なのは変わらないから、いいね?」

『了解!』

 

 一回大きく頷き、ソニアはリサの方へと向き直す。

 

「リサ、私は自分が相手より強くなくたって、仲間と一緒にいて勝てるならそれでいいと思ってた」

「ええ」

「でも、それは相手がそうじゃない場合に限っての話だった。相手も同じような考えで来るなら、相手が力を持った集団なら、自分自身も強い必要がある」

「分かってる」

「うん。だから、君は私と特訓だ」

「!」


 心当たりがあるのか、リサは一瞬驚いた後、すぐに納得の表情を浮かべた。

 

「君の場合、2人と一緒にクエストに行くよりも手っ取り早く強くなれる土台がある。自分でも分かってるよね?」

「……魔術、よね」

「うん。君の魔術の鍵を1つこじ開ける。そしてその力を使いこなせるように、私と特訓しよう。最低1つ、理想は3つ使いこなせるようになること、いいね」

「了解!」


 ソニアの考え方を皮切りに、『阿吽の花』が再出発を果たしたのであった。 


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