31話 調査に出た一行
「正面から挑めば全員返り討ち。よくて何人か道連れが関の山です」
「そんなに? 流石に盛ってない?」
上半身はヒト、だが下半身は蛇のような女性が道化師に問いかける。
「嘘だと思うのであれば突撃しても構いませんよ。他の方達の信頼が厚くなるだけですし」
「……まぁ続けなさいよ」
女性の方を一瞥してから、また再び眼前の魔物に顔を向き直す道化師。
「貴方たちの主張は、『弱肉強食の掟を世に知らしめたい』という話でしょう? 」
「そうだ。魔物である筈の我々と人間であるヒトども。その関係性は本来揺るがぬモノであるはずなのに、なぜか奴らが冒険者側としてこの世で横行している矛盾」
弱肉強食に従うのであれば、本来人間など、楯突くことすら愚かである。
「狩る狩られる。力なき者たちは力ある者に負ける。そんな当然の関係性を誤認した愚か者どもを今一度滅ぼすことで、この世の誤っている今の理を、正しい摂理へと導き直す」
その魔物は、己の中に沸々と湧き上がる怒りを言葉に乗せる。
「ヒトと魔物。どちらの摂理が世の理として正しいのか、それを分からせる」
「それで言うなら、今全勢力でやり合っても負けるのは貴方たちですよ」
「だからお前を容認してやっているのだろうが」
魔物の声に笑って反応する道化師。
「とりあえず言えることとして、今すぐ攻めるのは愚策である、という事です。先ほど言った通り馬鹿正直に攻めるだけでは多少の犠牲を出すだけで終わりですし」
「ではどうする」
「単純な事ですよ。魔物の貴方様ならもう分かっててもおかしくないのでは? 優秀な魔物ですし。低俗な人間じゃないんですから」
「茶化すなさっさと言え!」
「勝てる戦力にすれば良いのです」
キョトン、とした顔の魔物。
「お互いに闘い合って勝てる力があればいいのですから、それを産む、ないしは相手を私たちが勝てるぐらいまでに力を落とせばいい。私に心当たりがあります。というか、それに関してはもう少々お時間を頂きたい」
「ならば、私も自由に動く。今も貴様を狙っている者もいるのだろう? そいつらを消してやる。代わりに貴様の所持していたあの魔導具を貰う。あれは本来自然にあるべきものだ、人間が持っていることが我慢ならん」
「……ええ、いいですが…火中の栗を拾う行為ですよ。 強大な力を持ったギルドの人間たちが動くはずですから、S級も当然いるでしょう。下手したら殺されます」
「舐めるな。仮に魔法使い全員と戦った場合死ぬとしても、たかが一党の人間どもに負けるはずがあるまい」
「……まぁ、お任せしますとも。貴方が今私を追っているギルドの全員を潰した場合、お望み通りあれはお渡しします」
そう言うと、道化師は女性の方に振り向く。
「貴方がたは?」
「私は観戦するわ。貴方の言うことが本当かどうかも分かるだろうし。動くのはそれからでいいでしょ」
女性が言い、後ろの魔物たちも頷く。
「わかりました、それでは」
道化師は杖で地面を鳴らし、笑った。
♢
「やっほ。どう調子は」
ドミニカが『阿吽の花』を訪れてから数日後、皆はスノースマイルの使役する魔物たちの討伐に向けて拠点を構えていた。
「とても助かってるよ」
「本当にね……」
ドミニカ率いる『韋駄天の鉾』に同行したツカサたちは、ドミニカの引き連れていたメンバーの1人により仮の拠点に滞在していた。
「私たちはこういうのできないからね。感謝してもし足りないくらいだよ」
「後で部下に言っとくよ」
「それで、もう動いているのかしら」
「ああ先鋒の隊は動いてるが、まだ何の情報も入ってきてないね。んで、入ってきた情報が魔物だった場合は、そっちに丸投げでいいのね?」
「ああ」
カンナが頷く。
「んじゃ、そういうことで、なんかあったらいつでも言って。私はギルドの方に戻るよ」
ドミニカがサッとその場を後にする。
「思ったよりすぐには出ないわね」
「そりゃそう。でもここなら確実に他のギルドより情報が入ってくるのは早いよ」
「だが、協会からの情報だとそもそもここ数日は何の音沙汰もないらしいが」
「そこねえ」
ソニアとカンナは協会からの情報を受け、現在被害が出ていないことを知っていた。
「私としては逆に不審すぎないって感じなんだけど……?」
「そうだな。何か企んでると考えていいだろう」
「それでもドミニカは決行してくれたし、ほんと感謝しかないよ」
尚更情報が欲しいときに危険を承知で真っ先に飛び込む。
それこそが5大ギルドたる所以なのだろうとソニアは痛感する。
「ソニアさんはめちゃくちゃ優しい感じだもんな」
「そうですよー私は過保護ですよー」
「いやそこまでは言ってないんだけど」
「みんなの成長の機会を妨げる毒ギルドマスターですよー」
「毒ギルドマスター!?」
「よく自己分析できてるな」
「ごはっ!」
カンナの一撃がソニアに鋭く入る。
「…そこまで傷つくな、半分冗談だ」
「いやカンナが言うと冗談っぽく聞こえないし、半分なのね…」
「実際お前は過保護すぎだ」
今回も例に漏れず、ソニアは入念に入念を重ねている。
サントリナの護衛は勿論のこと、他のメンバーたちにも1人ずつ護衛の人形を用意している。
「こいつらが伸ばせる時に伸ばしていかないと、いざ本当に危険が訪れた時に地力が足りなくて死ぬぞ」
「まぁ……ね」
クエスト。
それは冒険者が幾度も数をこなしていくモノだが、中には命を賭けねばならないクエストもある。
自分と相手。互いの一挙手一投足が互いの生死を決める極限状態での戦闘で得られる経験は、冒険者を成長させる。
「でもまだ皆んな若いし、ツカサなんて入ったばっかだしさ…」
「お前……相手がそれを考慮すると思ってるのか」
「してくれない、かなぁ……?」
「するわけないだろうが!」
「ひっ」
当然、生死を賭けた戦いに限らずとも、ほんの少しの閃きやキッカケが冒険者として花開く要因になることもあるが、それにはやはり元となる土台が必要である。
ソニアの過保護すぎるやり方では、安全は保証されても強さは保証されない。
「……今回は見逃してよ、この状況で私が万全でいないのは流石に怖いって」
ふぅ、とカンナがため息をつく。
「お前の場合次もまた次もそう言いそうだからな」
「うぐぐ…反省してまーす…」
話半分に聞いていたツカサが、カンナに問う。
「カンナさんは結構好きにやらせてるんですか?」
「本人が望み、苦戦するとしても達成できる目標なら私は止めん」
「へぇ…」
「言っておくが、ソニアが1から10まで間違っていると断ずるつもりはない。程度によってはギルドメンバーを守らねばならん時もある。ただ、こいつの場合それが行き過ぎで肝心の成長の機会まで奪っているのが問題だ」
「へい反省しております……」
せっかくの成長の機会を妨げるのは、冒険者としては勿体無い。
カンナの言うことも尤もである、とツカサは考えた。
「確かに俺も魔徒とかサイクロプスとやった一戦はものすごく得るものがあったしな…」
敵との戦いもそこそこ経験した筈のツカサだが、一番自分が伸びたのは、カンナの言うとおり死にかけたグレロとサイクロプスの2戦だった。
「……むむぅ、最近の子は勇気ありすぎなんだよねえ」
「冒険者なんて大なり小なりそうだろう」
そして、鐘の音が鳴った。
「──来たか」
「皆んなは待機。私が確認してくる」
「押忍!」




