29話 5大ギルド
「そこっ!」
ガーベラの剣が魔物を一刀両断する。
声を上げる間もなく、魔物は倒れ伏した。
「ツカサ、大丈夫だった?」
「無問題! ガーベラが一撃でやってくれたからな」
「よかったよかった〜」
ツカサとガーベラ、2人だけで行うクエストは、比較的容易だった。
「……まぁ、やっぱあれ聞いた後だと変な感じなっちゃうよね…正直」
「……うん」
♢
「スノースマイルという男の使役した魔物から情報を聞き出そうと思ったが…その魔物はついぞ私の質問を答えることはなかった」
「スノースマイルの魔物を探しても効果は薄い。つまり私たちは、別のギルドのこれからの働きに期待するしかないって感じだね」
カンナとソニアが他の者たちに話す。
「当然、奴ら全員を壊滅するつもりではあるが、他のギルドも動き始めた以上、我々が先陣を切る必要はない、というのが私たちの答えだ」
「S級案件な時点で5大ギルドのどれか1つは動くだろうからね」
はてな? という顔をするツカサにガーベラが補足した。
「この国に沢山あるギルドの中でも、特に力を持ったギルドのことだよ。私でも聞いたことあるくらいには有名だし、難しいクエストもいっぱい達成してるみたい」
「へぇ……」
「そんなのいいわ。それよりもソニア……」
ツカサとガーベラはリサの重苦しい雰囲気を感じとり、頬に脂汗を浮かべる。
「先陣を切る必要はない……って本気で言ってるの?」
「……本気だよ」
明らかに怒りを持っている。
リサはそれを一切隠すことなくソニアに向けた。
「リスクがあるのは分かってる。ソニアくらい強いんでしょ。だから乗り込むのが自殺行為。それは…分かるわ。でも、魔物も相手にしないっていうのは納得できない」
リサが言葉を捲し立てていく。
「魔物から直接情報が出なくたって、戦力が減らせるのは間違いないし、スノースマイルが近くにいる場所の方が情報を得やすいでしょ。それに、たまたまその個体が口が堅い奴だったかもしれないじゃない」
「でもそれは意味のないリスクじゃんか。別に情報なら近くにいなくてもちゃんと入ってくる」
「──全部終わってからじゃ遅いのよ!」
怒声。一瞬ソニアがビクついた。
「…協会からこのギルドに情報が届くまで少し時間差がある。その間にもう終わってたら? 5大ギルドが終わらせてたら……私は顔も見れないまま、話もできないまま復讐を終えることになる」
仲間たちを死地に向かわせるつもりはない。スノースマイルの元に今すぐ殴り込みに行けなくても、我慢できる。
だが、自分と関係のない場所で復讐の全てが終わる。
それだけは納得できなかった。
「……こうやって話しているのは、皆んなに嘘ついて黙って1人で行きたくないから。でも、ソニアの言葉を受け入れられるほど私は強くない」
リサの中にも、譲れないものがある。
「……ふぅ。一旦お開きにしよう。リサ、君の気持ちはよく分かる。だけど、今のまま君に単独で行かせる訳にもいかないから、少しだけ待っててほしい。なるべく早く決断するから待っててくれないかな?」
「……分かったわ」
「……私も同席するべきか?」
「勿論。共同で進めてたクエストだからね。ツカサとガーベラも、それでいいかい?」
「あ…はい」
「俺も、大丈夫です」
そして。
♢
お互いにやることもなし、2人でクエストに出ていた。
「…先日の俺とソニアさんの言い合いと同じ雰囲気だったな」
「ああいう時なんて言って入ればいいかも分からないよねー」
「その空気で一発目に出る奴におっ、て思うんだよな〜」
「ふふ、ちょっと分かるかも」
お互いに感想を言い合う。
だが、すでに2人とも、聞きたい言葉は決まっていた。
それを切り出したのは。
「……リサの言葉、ツカサはどう思った?」
ガーベラだった。
「……」
ツカサとガーベラは、少しの沈黙の時間を過ごした。
そして、ゆっくりと本音を溢す。
「…どっちの言いたいことも分かるって、思ったよ」
「……」
「リスクの少ない選択を取るギルドマスターとしての気持ちも、自分の人生の目的が知らないところで他人が終わらせそうだからリスクを取ってでも動きたい冒険者としての気持ちも…間違ってるわけじゃ、ないと思う……」
「まぁ……ね」
「……リサは、きっとソニアさんが止めても行く。あいつはどんなに無茶なことでも、危険があっても…心でやるべきだって思ったことはやる人間だと思う」
今までのリサの振る舞いから、どんな人間なのか、全部を知ったとは思わないが、それでもどういう人間性を持っているのかはそれなりに理解できているはずだ。
「リサが行くならガーベラも行くよな」
「うん」
それはそうだ。今更驚きもない。2人の絆は見えなくとも感じられる程に、強い。
「……俺は……」
だが、敵だって強い。
絆があっても、理不尽な力に圧殺されることなんておかしくも何ともない。
「……今まで、リスクを取ったことがなかった」
「アマリアさんの村が警戒区域に入ってるって知った時、怖かった」
「良い人たちが、俺が好きだって思ってる人たちが殺されるのは嫌で、実際にそれが現実的に起こり得ると思ったからだ」
結果、リサの助言もあり誰も死ぬことはなかった。
今回は。
「でもリサは、理不尽が現実だったんだろ。それでも、まだ立ち上がり続けてる。凄い人だ」
そんなの、絶望したって仕方ない。誰も責められない。
でも、リサは前を向くために立ち上がり、進み続けている。
「……ずっと今までやってこれたのは目的を果たすため、だろ?」
リサにはすでに数えきれない程の恩がある。
助ける理由も、義理もある。
「……だったら、やっぱり助けたい。リサがちゃんと、目的を達成して、笑えるようになってほしい」
「…うん」
♢
「俺たちも、リサを助けたい」
「……2人の気持ちは分かったよ」
ソニアが、重苦しい声で言う。
「……リサの目的は知ってる。それこそ君がもっと小さい時から」
だからこそ、ソニア自身リサを止めようとするのは辛いだろう。
それでも彼女の口から発せられたのは。
「……でも、だからこそ、やっぱり慎重に動こう」
リサにとっては喜べない言葉だった。
「……そう」
ソニアの言葉を聞いてすぐ、リサを中心に重苦しい雰囲気が流れる。
「……」
そして、少しの間の後。
「ん? なんだ。冒険者の集いとは思えないほどの辛気臭い雰囲気だな」
第三者の到来で、その空気が変わったのであった。
「!? だ、誰だ……!?」
「ああ、すまない。ソニア・レゲルカディアがいるということは…本当にここで間違いないのか……では自己紹介から始めるべきかな?」
そばに居合わせ驚いているツカサの頭を2回ほど叩いたのちに、女性が高らかに宣言した。
「『韋駄天の鉾』のギルドマスター、ドミニカ・ブルーネット。気軽にドミニカちゃん、と呼んでくれていいよ」
次回投稿は25日の21時すぎになります




