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27話 強者たちの時間

「『造魂開門──不八(エイト・メイド)(・パレード)』」

「『魔層界巡──名目上(クラウン・レイド)の群像(・ソリトゥス)』」


 ソニアの周りに人形が、道化師の周りには魔物が現れる。


(やはり魔物を使う奴はこの人で間違いない……! この人が……元凶……!!)


「行きなさい、なるべく背後を取り続けて意識を私から逸らすのです」

「ずるっ。その子達は捨て駒かい?」

「なんとでもおっしゃってどうぞ? 私、自分の命が惜しいので」

「味方じゃないの? 本当にその子達が味方なら、その子たちの命も惜しいでしょ」

「ええ。ですが味方だからこそ、私のために動いてくれるのです」

「それは同意するけど、自分は何もしないのは仲間の形としては違和感あるね」


 指示通り、複数の魔物たちがソニアを取り囲む形で陣形を組む。


 『囲エ囲エ。ミンナデ囲エ!』


 わらわらと、声を出しながら囮になる魔物たち。


(簡単な指示だけ……これはリサの報告にあったアルミラージと同等の知性かな。簡易の指示だとこうなるのかな?) 

 

「大体、なんでこの村を2回も襲ったのさ」


 分析を進めながらも、軽口を叩くソニア。


「2回目だと知ってる人間に会いたかったからですが? 貴方ですよね、この村の魔物を殺したのは」


 低級の魔物たちの総攻撃。


(スライムっぽいパエラビットとかいるし…もしかして混ぜたのか? それに加えて純粋にパワーも上がってる。使役した効果って感じ?)

 

 魔物の斬撃、打撃。その全てをソニアはいなす。

 なんならソニアにはまだ喋る余力すらある。


「貴方たちの言う”未確認”でしたっけ? …それは本来この村でも確認される筈だったのに……消した人間がいた。初めのお祭りは派手にしようと、強めの魔物を送った筈だったのに」

「ああ確かに強かったよ」


 そう話しながらも、ソニアは人形と共に魔物を倒し続ける。

 

「だから一度お会いしたかった。この村を滅ぼしたとして、ここにくる冒険者ならその人物の可能性が高いでしょう? 別に来なかったとしても、ここに来る冒険者を殺していればいつか会える訳ですから暇つぶしにはなりますし」 

「強い冒険者と闘いたかった理由は?」

「実験です」


(おとぼけ? ……それともマジ(本気)か?)


 さらに、強化されたA級相当の魔物たちが、ソニアを囲む。


「ひひ、卑怯とか言うなよ? 同時にやるぜお前ら」

「俺らまで出たらもう生きて帰れねぇぜ。女ァ──!!」

「あっそ」

 

 だが、その全てが人形たちに容易く滅ぼされる。


「やはりお強い。もはや彼らでも主戦力にはなり得ませんか。凡俗なA級冒険者程度なら彼らで殺し得るのですがね……」

「魔物を使役する魔法……それも、かなり自由度が利くみたいだね。指示の理解度も高い上に、自我を持たせたり魔物同士の混合や強化による底上げまでできるのか」

「低級なんて貴方の気を引く材料にすらならないか……素晴らしいです……」


 1人つぶやく道化師を呆れた顔でみるソニア。

 

「君は実験って言ってたけど……」

「最近は…特に……混ざり者(キメラ)に夢中でして……」

「……聞いてないし」


(他人の命なんてお構いなしで好き放題やってる分、魔術に対しての理解と拡張がかなり進んでる。この人の魔術をこれ以上成長させるのは防ぎたいけど……)


 おそらく今までもひたすら自分の力と向き合い続けていたのだ。

 そしてその力は、とうとうS級(強者)に試せる域まで到達した。


「私が今やりたい実験は主に2つあります」

「……あん? 急に何?」

「1つ目は目下ここではない場所で試行中です。当然こちらは混ざり者(キメラ)関連。そして2つ目。私、強い冒険者と闘いたいと言いましたね?」


 明確に雰囲気が変わる。

 道化師は、様子見をやめたのだ。

 ソニアも軽口を叩くことを辞め、警戒を増して様子を伺う。


「2つ目は──私の実力の実験です。今どこまでやれるのか知りたくてですね」

「…そのためにここまでやるなんて、イカれてるよ君」

「おや、褒めていただけるなんて想定外でした」

「……怒ってんだよ。ほんと好き勝手やってからに…」


 ようやく本番。そう言わんばかりに、道化師が放った新たな刺客は格が違った。


 S級モンスター(災厄の頂点)


 

 剛毛の獅子のような出で立ち。体躯は四足歩行の状態ですでに人間を大きく上回っている。


 強靭な筋肉も、それを覆う魔力も、並大抵の者では挑むことすら敵わない。


(拳を交えなくても分かる。私より強い)


 その怪物が繰り出した火球は、洞窟ごと破壊できるほどの代物だったが。

 

「──でもね」

「……!!」


 ロプフェン。水属性に秀でた人形の少女が水の壁で相殺。

 そして。

 サンドラの炎の槍が、その魔物を肉片へと変えた。

 

()()()より弱い」

「……バカな」


 2人の人形は、道化師の操る魔物(ソレ)とは次元の違う連携と力を見せた。


 その様子は、さながら生きている人間のように。

  

「……さて。次はどうする?」

イカれておいで(お互い様)ですね」

「そう?」 


 杖をクルクルと回転させ、道化師は笑う。

 そして、尋ねた。

 

「お名前、お伺いしても?」

「ソニア。ソニア・レゲルカディア」

「ハズヴァルム・フォン・スノースマイル。スノースマイルとお呼びください」


 自己紹介の後、先に動いたのはスノースマイル。


「貴方たちは陽動です。なるべく彼女の周りにいる人形を削りなさい。動きを制限し、隙を作るのです」


「陽動陽動」

「削レ削レ!」

 

「おー怖」

『ソニア様』


 複数の人形たちが、信頼を置く名前を呼ぶ。

 それに対しソニアも即座に応えた。

 

「守りは任せるよ」

「はい」

 

(奴は……魔物をかなり自由度高く操り、しかも強化と変化や融合まで幅広い応用ができる……)


──だけな訳がないよね。


 スノーホワイトという人物が狡猾、卑怯な思考を持ち合わせている人間であることは先のやり取りでも明白。

 そんな人間は、大っぴらに己の力の全てを見せないはずだ。


 そもそも、今対峙している人間の底がこれならば、A級冒険者を完封したというのに違和感がある。

かなりの実力を持つ人間を逃す間もなく殺して、かつ証拠を残させないだけの実力があるのだからまだ、奥の手が2つか3つあってもおかしくない。


(派遣された人たちはS級モンスターにやられたのかもしれないけど…それでも…私はいまだにこの胸の違和感が拭えない。奴の余裕が消えていないのも含め、必ず何か手札を残してる)


しかも、狡賢く繊細なタイプであれば、先に見せるのは信頼度の低い魔法である可能性がはるかに高い。

真に己を守る術は誰にも知られたくないだろうから。


つまり。

奴の奥の手は、瞬発力に限って言えば、魔物操術を上回る威力の魔法であってもなんら不思議はない。


「とくれば……」


 ソニアが人形たちに指示する。

 

「全部まとめて削ってやるさ、新たな手札を見せざるを得ない状況までね。ミサイラ、あれをやろう。他の子はフォロー」

「はい」

『お任せください』


 人形の1人が魔法を発動する為の時間を、他の全員で作る。


「命を賭けて止めなさい」


 数十の低級魔物が魔力を迸らせながら特攻していく。


「オラヤメロ!」

「突ッ込メ!」

 

「ソニア様私が。『火の舞(アルマフエーゴ)』」


 サンドラの両の手から放たれる炎が、魔物たちと踊るように空を舞う。

 その煌めく炎は容易く低級魔物を蹴散らした。


「離レロッ燃エル!!」

「ヤベエヤベエ」


「彼らごとお願いしますね」

「アイヨッ!」


 中級ドラゴン。

 その魔物が吐き出す強化された炎はサンドラの火を覆い尽くす。


「ロプフェン」

「お任せください」


 さらにそれを掻き消すように、水の壁を展開する。


「その2体はもう見ました。これは彼女らでは無理ですよ?」


 次点の敵はゴーレムの群れ。

 それらが同時に強化された拳をソニアにぶつけた。


「テラーナ」

「はーい大丈夫でーす!」


 地属性に長けた少女が、地面をドームのような形に変えることで一撃を防ぎきる。


「セファーラ」

「既にやっております」

 

 その語尾と同時に、ゴーレムがスパスパと切り裂かれていく。

 十中八九、風に長けた少女の魔法だ。


「防御も十全。止めるのは容易ではない、と。……いいでしょう、ならば……」


 今のソニアを崩すことは容易ではない。

 

「今度はこっちの番。──行くよミサイラ」

「はい。無事に準備できました」


 ミサイラと呼ばれた少女が、全身にみなぎる魔力を両の手の平から放出する。


「また機会があれば会おうね。道化師さん」


 その極大の光弾は、スノースマイルを狙ってのものだったが、あまりの破壊力ゆえに洞窟そのものを崩壊させた。


「──!!」


 轟音と共に、洞窟が消えた。

 仄暗い闇のフィールドだったはずの戦場が、一気に青空まで見えた快活な場へと変貌する。


「ふ〜……」

 

 服の汚れを払うソニア。

 そんな彼女の上空からガラガラと小さな石の粒が落石する。


「ソニア様」

「大丈夫、ありがとサンドラ」

「私も服の汚れをお払いしますわ」

「うんうんありがとねセファーラ」


 落石を破壊する人形たち。

 そして、それらの落石が地面に落ちた衝撃で舞いあげた砂煙が薄くなり、その者の姿が見える。


「……流石に面食らいました。貴方の強さは想像以上ですよ、本当に」


 道化は、いまだ健在だった。

 

「……いやぁあれを喰らって無事かぁ。私たちもそこそこやるもんだと自負してたんだけどね」


(──どう耐えた? 何をした? なんで生きてる?)


 ミサイラ。遠距離戦に特化した少女の魔法の一撃は、スノースマイルを逃さなかった筈。


 だが現に、道化師は、道化らしくクツクツと愉快に明るく笑いながら、ソニアの前に姿を現していた。


(やはりまだ見せてない札があったな。それも屈指の防御札か)

 

 厄介だが当然と言えば当然。

 ソニアの目の前にいる道化師は、今までの人生で、我を通し好き放題生きることが許されただけの力があるのだ。


 一方的な勝利など、到底甘かった。


「ふぅ……」


 不八(エイト・メイド)(・パレード)。8人の人形それぞれが独立した魂を持ち、自律思考を持った完全自立型の人形。

 

 魔力も8人それぞれ独自に有しており、人形の誰かが魔法を使っても魔力消費は術者に及ばず、魔法を使用した人形の魔力を消費する。

 所謂、超効率的魔術である。


 数多ある操術の中、もっと言えば人形操術の中でも、ソニアの持つソレ(魔術)は他の人間の持つ魔法よりも、かなり優れた魔法であった。


「……火、水、風、土。そして……放出……ですかね? それぞれが1つの分野に長けた5体の魔術人形という所でしょうか。残りの人形はまだイマイチ特徴を掴みきれておりませんが」

「体っていうな体って。ちゃんと皆んな心があるんだよ」

「それは失礼。ところで分析は正しかったですか?」


 だが、もし仮に人形の魔力が切れた場合。

 魔力切れした人形に魔法を使わせた場合の魔力消費は、()()負担である。



 ──ミサイラ、サンドラ、ロプフェンは既に魔力切れだ。

 

(幸いにもミサイラは遠距離に長けた(タイプ)。スノースマイルの攻撃が届かない位置に逃しておいても、私の魔術の仕様は気づかれない筈)


 サンドラとロプフェンはS級モンスターを倒すために己の魔力のほぼ全てを費やしており、他の魔法の為の魔力消費は全てソニア自身が賄っていたのであった。


「……どうだろうね。そっちこそ指示や強化、融合なんかもしたりして応用効いてるじゃんか。ひょっとしてまだ手札があったり……なんて」


 魔物操術は応用が効くが、それは召喚してからの話。

 今の今までスノースマイルは自分の身の回りにしか魔物を召喚できてはいなかった。

   

(私の後ろに召喚できるなら、最初から面倒な指示は出してない。召喚後の応用範囲が広い分、召喚自体は簡単なものになってるんだ)


 『行きなさい、なるべく背後を取り続けて意識を私から逸らすのです』

 


 ──それが、逆にフェイクだったとしたら?


(……いや、ミサイラに魔弾を発射させた時こそが最大の好機だったのに、不意打ちしなかった以上、やはり召喚できる範囲は彼の周り限定だ)

 

「まだ見せてない何かがあるんだろう。じゃないと、さっきの攻撃を受けておいてその程度の怪我で済むはずがない」


 見せていないS級魔物か。はたまた別の魔法か。それとも、魔術(魔物操術)の応用か。


 ──未だ底が知れない。

 

「……ええ、そうですね。バレてしまっては致し方ない」

「ハハッ、本当バケモノだね。バケモノを従えるにはバケモノじゃないと無理ってことか」

「……何?」

「君みたいな性分のやつが大人しく自分から手札を開くのは何か理由がある時だろ。まだ奥の手も隠してるね。あ、言わなくていいよ。分かるから」


 ミスリードだろうがなんだろうが、どうでもいい。

 とにかく手札を見せてくれるならそれは有難い。

 

 ソニアの言は、あわよくばもう1つ、手札を見たいがための煽りでしかなかった。

 

「……私、貴方のことが好きになってきました。その強さは嫌いですが、人間としては中々醜い。トータルで好き寄りです」

「そ。私は言うまでもなく──嫌いだよ」


 ソニアは指に溜めた魔力の弾を、半ば不意打ち気味に発射する。

 道化師は手から召喚したD級魔物で飄々(ひょうひょう)と魔弾を相殺。


「どちらにせよ、バレているなら見せても構いませんとも」

「……んん?」


 死ぬ寸前のD級魔物をソニアに向ける。


「『嘲笑絶命響(スカフ・デス・エコー)』」


 スノースマイルは、握っていた魔物をソニアに投げつけた。


「ソニア様ッ!」


 サンドラが盾として、ソニアの眼前に立つ。

 そして、投げつけられた魔物が爆発した。


「──自爆か!!」

「正解です」


 嘲笑絶命響(スカフ・デス・エコー)

 スノースマイルの魔術の応用である。

 

 魔物の魔力を一気に爆発させることで、瞬間的なダメージを大幅に上げ、相手を攻撃する自爆攻撃。

 

 これなら、例えA級弱の魔物の自爆でも、スノースマイルが強化さえすれば、A級冒険者に通用するレベルの攻撃手段になり、ソニアは周りの雑魚を無視できなくなる。


 『低級なんて貴方の気を引く材料にすらならないか……素晴らしいです……』

 

「……大した道化師っぷりだなおい!」


 スノースマイルの言葉に違和感を感じていなかった自分と、相手のひょうきんっぷりに怒りを覚えるソニア。

 

(でも納得行った! あいつはさっきのミサイラの攻撃に対して、すぐ横にいた中級ドラゴンとA級相当の魔物何体かを自爆させて相殺させたんだ……!)

 

 それなら確かにミサイラの渾身の一撃であっても相殺されて何ら不思議はない。

 

「一気に畳み掛けなさい」

「サンドラ、プロフェン! 奴が自爆に選ぶ魔物は必ず一度奴自身が接触する! そいつらは魔法でやって!」

「! よくもまあ見てらっしゃる……!」


 ドラゴンも、今の低級も、全て一度手で触れている。

 それをソニアは見落とさなかった。

 

「これでもS級なんでね!」

「ではこう致します」

「!」


 スノースマイルは、新たに出現させる魔物たちを、全て手のひらから放出、顕現させる。


「一度に出せる数は限られますが……これでもう分かりませんよね?」

「ああいいよ──それなら物量差はでないから、ね!!」


 強化した知性を持った魔物、混ざり合った魔物、自爆することで威力を底上げする魔物。


 ──全て対応してやる。


「ギェエ!!」


 捌いて捌いて捌き続けて。

 とうとう、魔物の一撃がソニアの体に直撃した。


「……ッ……!」 

「ようやくまともに傷が入りましたね」


 ソニアは手札を悟られぬ為に、4つの属性と遠距離に長けた人形を除いた、残り3人の人形たちには得意な魔法の使用を避けさせていた。それが故に、他の人形たちは属性不利を押し付けられ、長所を出せない3人はジリ貧になり、ソニアに攻撃が通るようになって行く。

 

(でも、ダメ……! あっちが奥の手切らない限り……私からは先に手札を見せちゃいけない……!)


 魔物のストックが無制限だとしたら、手の札を枯らした場合圧倒的に不利になるからだ。

 だから、現在見せている能力だけで乗り切りたい。


 当然その隙を突かれ、魔物の攻撃を浴び続けてしまう。


「っぁ……サンドラ、そっち任せた…! やばい攻撃以外は私が自分で受ける! 魔法も巻き込んでいいからジャンジャン使って!」


 自分が魔力の担保をしなければならないことを悟られないように、あえて大技を使っていいと発言することで婉曲に伝える。

 おかげで道化師に悟られることはないが、それでも戦局の不利は対して変わらない。

 結局、手数で負けているのだから。


「はい!」


 亀のような甲羅をつけたドラゴンや、牛のようなツノをした四足歩行の猿。


 A級相当の強化された魔物群。

 そのどれもが人形たちに対応を迫ってくる。


 当然、穴もできる。


「ぐっ……!」


 5人の人形だけでは、完全に守り切ることは困難なのは目に見えている。それでも、ソニアはこの不利な状況を続けていた。


(でもこれでいい、多少の攻撃は受けても良い。ただし隙が生まれたら絶対に逃さない……!)


 5人の人形は、魔物の隙を逃さず仕留め続けている。

 そうしてキッチリ攻撃を行なっている中でも、なおもソニアの近くで自爆することだけは許さなかった。


「凄まじい連携の練度ですね……これでも通りませんか……」

「お互い消耗線向きの能力だろ。こんなんでへばっちゃいないよね?」


 傷を払い、ソニアは笑う。


「……いや、正直かなりきついですねぇ」

「──」


 あ、そうか。と腑に落ちたような表情をするソニア。

 

「ま、ずっと1人で戦ってたらそりゃきついだろうね」

「……?」

「分かってないか」


 彼女はハハッ、と笑いながら、スノースマイルに語る。


「だって指示するのも、結局全部君1人だろ。私と君とじゃ似てるようで根本的に考え方が違う」


 自分が最強である必要はない、それぞれの分野で最強の仲間がいるならそれで良いからだ。

 ソニアはそう割り切っていた。だから己の使える魔法もそれほど多くなく、魔術を伸ばすことに多くの時間を費やしたのだ。


「私は、私が最強じゃなくたっていい。けど、君の魔術(ソレ)は君が最強であるための力だろ」

 

 1人で勝つための力。それこそがスノーホワイトの力。

 人形と魔物という違いがあれど、同じ操術。

 されどここまで在り方が違う。

 

「誰かに助けてもらえるわけでもないなら、その力は1人で使うには重すぎるよ」


 強化も、指示も、何もかも自らがしなければならない。

 それは、戦闘が長引くほど重りとなって自らに降りかかる。

 

「それだけたくさん話を聞いてくれる奴らがいるのに、指示しないと誰も助けてくれないっていうのは……悲しいね」

「──貴方はやはり嫌いだ」

「……」

 

 それを理解したスノースマイルは、魔物たちを一気に放出した。


「何の真似……」

「特攻しなさい」


 指示と同時に、道化師は逃亡を図る。


「此度は実験。これ以上は殺し合いにしかならない故、一旦お開きということで」


 物量で攻めるというより、ただの時間稼ぎだ。

 不意打ちのためでもなく、本当に逃げるつもりでいる。


「放出の人形はすでに魔力を使ったのでしょう。他の者たちの攻撃であれば捌けますから気にする必要もなし。実験、楽しかったですよ」

「……最後までしてやられたな……」

  

 その言葉を聞き、スノースマイルは口角を上げる。

  

「──って言っとけば油断してくれる?」


 ソニアの後ろから、人形の1人が最前線に出る。

 その人形の名は、ミサイラ。


「…まさか」


 スノースマイルの近くに魔物はいない。今、この瞬間の攻撃には魔物の爆発による相殺は不可能だ。

 

 眼前にいる魔物たち全てを吹き飛ばせるならば、道化師が他の魔法を使わないのであれば、攻撃は通る。

 

「やれ、ミサイラ」


 再度、極大の魔弾が放たれる。

 その一撃は、山に沿うように軌道を変え、山の頂上を抉るほどの威力のまま、空で弾けた。

 

「ふぅ……逃げれたとしても、手痛いダメージは負っただろ」


 ──お互いに。


 と、息を吐きながら地面に座り込むソニア。


「ソニア様」


 容態を確認しようとサンドラがソニアに近づく。だが、ソニアはそれを制止して告げた。


「あーサンドラ、大丈夫。他の子達も村に行ってそれぞれ出来ることやって。もう魔物はここにはいないから私のことは二の次だよ。そら、行った行った。……あ、念のためプロフェンだけここにいて」


 魔力切れを起こしたミサイラの魔力はソニアが補填していた。

 そう、魔力切れの人形が魔法を使った場合、術者が魔力消費を担う必要がある。


 逆にいえばそれは、ソニアの魔力が切れない限りはいくら人形が魔力を切らしたとしても、必要な場面で必要な魔法を使うことは可能であるということだ。

 

 だがスノースマイルは、『魔力切れを起こしたから放出に長けた人形を下げた』のだと推察した。


 それが、結果的に大ダメージを受けた要因だった。

 

「でも手札1つ切っちゃったな……よかったかな……」


 いや、間違っていないはずだ。

 姿は見えないが、間違いなく痛手を負ったと見ていい。


「あとの削りは他のギルドに任せよう……」

 

 敵がまだ手に負える範疇であって良かった、とソニアは心の底から安堵した。

 

 もし仮に、道化師がS級魔物の軍隊を所持していたら確実に負けていた。


(……しんど……久しぶりにギリギリの闘いだったな……)


 どさり。と体を後ろに倒し、地面に寝そべる。


「ソニア様」

「いや大丈夫。プロフェン、周りを見といてくれる? しばらく私は動けないから」

「……かしこまりました」

 

 勝利に浸る余裕もなく、ソニアは体を休ませたのだった。

 

 ♢


「やられた……さすがはS級……一筋縄ではいきませんねぇ…」


 よろよろ、とスノースマイルは歩くが。

 とうとう地面に前のめりになって倒れる。

 

「……っふっふっふ……本当、面白くて、殺意の湧く相手でしたね。……収穫もありましたし……あ、いや損失の方がデカかったですが」


 地面に這いつくばりながら、周りにいる低級の魔物たちに語りかける。


 『誰かに助けてもらえるわけでもないなら、その力は1人で使うには重すぎるよ』


 ソニアの言葉を脳裏で反芻しながら、周りの返事をしない魔物たちを見やる。


 そして、道化師は目を瞑った。

 

「……1人、ね」

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