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25話 リベンジ

「ヒャハッ!!」

「──!」


 液状に変化する腕が伸びる。

 その標的はツカサだった。それが、逆に幸運だった。

 他の2人は一瞬、本来のサイクロプスの肉体を想像し、変化に気を取られていたからだ。


「っぶな……!」


 液状の腕は、攻撃の瞬間のみ硬い質感へと戻り、鎌のような動きで地面を抉る。

 ただ目の前の変化を受け入れたツカサだけが、不意打ちをかわすことができた。


「よく避けやがる…!」


 サイクロプスの腕がズルリと元の長さに戻っていく。

 

「ツカサ!」

「大丈夫」


 2人がツカサに歩み寄る。そして、そのままサイクロプスを観察する。


「なんだあれ……」

「流動化って感じかしらね」

「威力とリーチの強化って感じだな」

「あと目からビーム出すんでしょ?」

「ああ、気をつけろ。いきなり来たらビックリするぞ」

「一気に押す?」

「うん、それがいいね」


 全員が頷く。

 そして、3人が戦闘の激しさを一段階上げた。


 ただのヒットアンドアウェイではなく、2人同時に攻撃を繰り出したり、1人が強引に攻撃を通していく。

 この攻防の時点で、サイクロプスは以前とは明らかに違う感覚に驚きの声を上げた。


「ぎっ……テメエら! 強くなってんな!?」

「そりゃね…! あんたに不意打ちされたこと、忘れてないっつーの!」


 確かに、3人はそれぞれ成長し続けている。

 だが、それでもまだサイクロプスを圧倒するほどではない。


「しっ!」


 拳の一振りが、ガーベラの頭を掠れる。


「ひぇっ!」

「ガーベラ!」


 ツカサが駆け寄るより早く手を前に出す。


「大丈夫大丈夫。戦法はあくまでこのままで」


 当たったらただでは済まない。

 3人はあくまで数の利を活かしながら、少しずつ戦局を動かし続ける。


「ぬぉおお!!」


 サイクロプスの腹部がどろりと弾け飛び、ツカサに付着──。


「ちぃ!」


 する直前に、壁を張る。だがその壁越しに撃ち込まれる拳が。

 

 ツカサの胸部を突き抜いた。


「…づぁ……!」

「ツカサ!」


 ツカサが倒れそうな所を抱えるリサ。

 そして、大振りで隙を晒す魔物に、ガーベラが一閃。


「ぬぅ!」


 とうとう形勢が大きく動き出す。


「ツカサ! ちょっと聞こえてる…!? 生きてるわよね!?」

「生きてるって。ただ……ぉえ! 一発いいの貰っただけだ……ゴホッ……!」


 胸付近に強い衝撃を受け、激しく揺れたことで一転、視界と脳が真っ暗になった。


 一撃直撃しただけでも本来の動きができなくなるほどの威力なのだ。

 壁越しだったとはいえ、そんな攻撃を受けておいて痛みと激しい眩暈で済んでいるだけマシな方である。


 以前より強くなっても、まだこれだけの差があることは、絶対に認識しておく必要がある。


「ごめ、ん手間かけた…もう動ける!」


 剣を握る右の手を、バレーのサーブのようにフッと上に振る。

 そしてふわりと剣が浮く。


「そら!」


 ツカサは地面を大きく踏み込み、上昇。

 横回転しながら勢いをつけ柄頭を蹴る。

 

 その勢いのついた剣はガーベラに意識を向けていたサイクロプスの背中を突く。


「あっ!?」

「お返し、だ!」

 

 サイクロプスは当然、正面にいるガーベラを無視することはできない。

 必然、ツカサの追撃を受けてしまう。


「て、め……!」


 すると、サイクロプスがコマのようにぐるぐると全力で回転し始める。

 時々、体の形状を変化させ棘のようにすることで3人が接近することを防ぎ始めた。

 

「ツカサ、私が!」


 ツカサの一歩前に出たリサが水の弾丸を打ち込む。

 だが、サイクロプスに弾かれる。


「ダメか……」

「……オェ、酔った」


 すかさずガーベラが剣を振るう。

 しかし、サイクロプスは素早い体の反りでかわした。


 そこにリサが援護射撃を放つ。


「甘いんだよアマテメエ!」

「!」

 

 当たったと思われた水の弾丸は、液状になったサイクロプスの体に溶けながら勢いが殺されていく。


 その一瞬。ツカサが液状になった部分を手刀で切り離した。

  

「な!?」

「あの部分は、固まった後でもくっつけるのか?」


 液状化した部分は、サイクロプスの右脇腹付近。

 

 本体と離れた場合どうなるのか。 

 スライムであれば、くっつくことは可能だが。


「ぎぇえええ!!」


 接合しようとはせず。

 サイクロプスはそのままツカサに襲い掛かる。


「ぐっ……!」


 強烈な蹴りを右手で受け、そのまま建物内部にまで吹き飛ばされていく。


「今の内ィ!!」

「させないっての!」


 2対1。肉体が欠損しバランスを崩したサイクロプスは、2人の剣戟を対応するので精一杯だった。


 そして。


「ジョァアア!!」


 サイクロプスの魔力が迸る。

 身構える2人。

 

 目に籠った豊潤な魔力が、ビームとなって2人を襲う。

 

「リサ!」

「大丈夫よ!」


 事前にツカサから情報を得ていた2人は然程驚きもなく、避けることに成功する。

 

「何ガァ大丈夫だって!!?」


 それでも、サイクロプスのアイビームは(はや)く、真っ当に対処してもカウンターに転じることは不可能。


 このまま攻めに回り優位に進める。


「……あ?」


 その筈だった。

 そう思い込んでいたサイクロプスの両足に、鋭利な傷が入る。


「今!」


 動けない一瞬。

 リサとガーベラの渾身の二撃が入る。


「テメエら……3人じゃねえな……!」


「──気づくのが遅いのよ」

 

 サイクロプスの予測は正しかった。己の魔力の光線の能力も、敵の能力もそこまでズレた考察はしていなかった。


 致命的だったのは、3人だけが自分の敵だと思い込んだこと。

 人間を心底舐めていたこと。


「ぅぅぅぅうう……!!!!」

 

 捨て鉢ではない。だが、リスクの高い手段。

 魔物は一気に魔力を放出させた。

 リサとガーベラをより一層確実に葬るためである。


 敵は2人だけではない。それをわかっていても、真っ先に片付けねば敗北するとサイクロプスは踏んだ。


「気張りなさいガーベラ!」

「そっちこそ!」


 最高潮にギアの上がったサイクロプス。

 2人は精一杯応戦するが、どちらも負傷してしまう。


「っ……!」

「ぐ…!」

 

 2人がピンチになれば、先ほど妨害した者が気配を表す。

 

 リスクを負った作戦だったが、サイクロプスの思惑通り、冒険者の1人が、姿を見せた。


「ぬぅん!!」

「!?」

 

 大剣。図体のでかい男が振り回すそれを片手で防ぐ。

 だが、サイクロプスが想定していた人物ではない。


「テメエ……よく顔出せたなおい!!」

「あの時ぶりだなサイクロプス……!」

 

 援護していたのは、ブライアとマタリーだった。


 ♢


「ブライア、マタリーお前たちはツカサたちの方へ行け。私はあちらへ行く」

「1人ですか!?」

「心配するな。お前たちはやるべきことをやれ」

「ツカサたちの元へ……」

「ああ、ソニアが言うには、相手はあのサイクロプスだ」

「!」

「奴か……」

 

 2人の目の色が変わる。


「私が消し炭にしたい気持ちもあったが、あっちから来ている魔物の方が危険らしいのでな。あのデカ筋肉はお前たちに任せる」


 そして、右手を正面に出して強気に言う。


「自らの屈辱を晴らせるチャンスなんだ、キッチリ仕留めて来い!」


 ♢


「俺の一撃を、受けてみろ!!」

「効かねえよテメエのゴミみたいな攻撃!!」


 互いの一撃がぶつかり弾かれる。


「あ!?」

「ふん……! 弱ってるんじゃあないか!?」


 お互いに仰け反る。それは実質、サイクロプスのみが不利になったということだ。


「『風の刃(アルトゥール)』」


 無人の建物から、マタリーがサイクロプスを攻撃する。

 仮に位置がバレたとしても、マタリーはすぐさま建物を移ることで逃げることができる。


 この状況、サイクロプスは狩られる側である。


「ツァ……!」


 以前とは違う。

 力も状況も、気持ちも。


「『水弾の雨(アクアリスタ)』」


 リサの水弾の全てが、サイクロプスに直撃する。


「…て、め……!」


 相手を弱者だと決めつけ、何の対策も取らずにいた者が、今なお怒りと悔しさと闘志を燃やし続けている者たちに足元を掬われるのは、至極当然だ。


「!」

  

 それでも、魔物(強者)としてのプライド、その地力の強さが、ブライアに襲いかかる。


「ぬぅぅおおおお!!」

「死ねやぁあああ!!」


 リサとガーベラ、マタリーも。

 その誰もが致命的攻撃を与えることはできない距離にいる。


 サイクロプスは考えていた。

 後隙に攻撃を受けてもいい。確実にブライアを殺す、と。


 サイクロプスは──失念していた。


「──!?」


 その男。そしてその男が持つ怒り。

 そして、彼が持つ力は、己の体に深くダメージを与えたことを。


 

 ツカサが、拳を構えサイクロプスの背後に立つ。

 

「──オラァ!!」


 魔物の勘か、知恵を与えられたが故の気付きか、サイクロプスはツカサの存在を即察知し、背後の彼に向けて裏拳を放つ。


 だが。


「──前言ったよな」


 男は拳を完全に見切り紙一重で避ける。

 

 そして、振り抜かれた後の胸めがけ、魔力を集中させた拳を撃ち込む。


 その一撃は、サイクロプスが万全でも持て余すほどだった。

 

「肉弾戦は俺の土俵だって」


 こうして、サイクロプスに敗北した者たちは、前回の雪辱を果たしたのだった。

 

【読んでくださった方へ】

評価とブックマーク登録をして下さった方も、まだの方も読んでいただきありがとうございました。

まだ入れていない方も、今回のお話を機にぜひ入れていただけましたら、とても嬉しいです。

未評価の方もお気軽に、ぜひよろしくお願いします~!


また投稿に関して、昼の12時〜13時すぎを意識して投稿しているのですが、平日はもしかしたら午後21時すぎ投稿になるかもしれません。その場合は改めて報告いたします。


最後に、いつも定期的に見返しにきてくださっている方々もいつもありがとうございます。とても励みになっています!


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