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24話 魔徒

「うちの部下も動いてる。村は大丈夫だ。あとは非常時に備えるぞ」

「分かってる、やってるよ」


 カンナとソニアは、村に魔物が現れても動じずにいた。


 ♢


「カンナ」

「なんだ、まだ何かあるのか?」


 ツカサたちの意見を承諾し、アマリアのいる村に行くことを決めたあと、2人きりの場になったタイミングでソニアがカンナに声をかけた。


「さっきの、捕獲隊になった国選冒険者の件だけど」

「全員消えたというやつだろう? それが何だ」

「やっぱり魔徒だよね」

「……まぁA級冒険者がなすすべなくやられたなら、そうなんだろうな」

「さっきも言ったけど、もう他のギルドも動き出す」

「そうだな」


 なるべくなら、他のギルドから情報を得てからアマリアの村に警護に行きたかった。

 だが、時間がない。


「カンナが言った通り、冒険にリスクはつきものだ」

「……」

「私が本気を出すことになったら、その間は君に『阿吽の花』の子達を任せたい」

「そんなこと言われなくても分かってる」

「……君がいてくれて良かったよ、カンナ」


 ♢

 

 そして現在。アマリアの宿でソニアとカンナが臨戦体制を取りつつも、人形で周辺の索敵をしていた。

 

「ツカサたちの相手は……C級相当の群れだ。苦戦もなく戦えてる」

「分かった。引き続き観測しろ。A級相当のモンスターが出たら私がすぐに動けるようにな」

「……カンナ。これ狙いはなんだと思う?」


 ソニアは唐突にカンナに尋ねた。


 特に何かがあるでもない村を急襲。

 これに何の意味があるのだろうか。

 

「サイクロプスの時と同じなら、戦力を炙り出すためだろう。最初に雑魚を散らして出すことで、冒険者も複数人炙り出す。そして本命の強力な魔物で半壊させる。こんなところじゃないか?」

「そうじゃなくて、なんで村を襲うのってこと」


 一瞬考えたあと、カンナは言う。


「ツカサが言うには、サイクロプスは人間狩りを楽しんでいたらしいし……何も考えてないんじゃないか? 沢山の人間を滅ぼせるから冒険者のいない村や規模の小さな村を狙うのであって」


 ソニアの報告で、襲撃された村を線で結べば星の軌跡になる、とは聞いていたが、カンナはそこに何かがあると考えなかった。

 

「労せずして襲える村を探していたら星で結べる丁度いい村があった……というのもありえるだろ」

「まぁね。今まで未確認に襲撃された村も、私が『ソムオ』でやり合った魔物も、本能にしたがって動くそこらの魔物とやってることは同じだし」

「ああ。魔物使いが魔物に指示して襲撃したにしては、普通の魔物の襲撃とやり方が変わらん」


 未確認の魔徒が魔物たちに知能を与えたのだとして、結局そこいらの魔物同然の行動を取らせるのは何故だ。

 

「S級相当の実力者が、使役した魔物にただ村を襲撃させる意味はなんだろうね」

「……それ自体に意味がないという可能性は?」

「ありえる。何かの実験をしたかっただけで、襲うこと自体に意味はなく、どこでも良かったから適当に線を引いて該当した村を襲った。それは可能性としてはある」

「というか、そもそもその線を引く、という点で言えばこの村は襲撃されていないだろ」


 ソニアは頷く。


「それは襲撃される前に私が潰したからだよ」


『そういえばソニアさん結構留守にしてること多いな』

『まああの人くらいの人材そういないからね。協会に呼ばれてることも多いんでしょ』


 サイクロプスの村に行く前、ツカサとリサはそう話していたが。

 その時の留守の内容こそが、アマリアの村の周辺捜査だった。

 

「……お前知ってたのか?」

「いや未確認と関わりがあるかは知らなかったよ。ただリサがこの村周辺の違和感を感じ取ってたんで個人的に調べてただけ。そしたらいたのさ、喋れる魔物がね」


 カンナはそれを踏まえた上で、ソニアに問う。


「では実質ここを襲うのは二度目……二周目に入ったということか。何か意図があるのか?」

「さぁね。ただ……相手の狙いが一切分からない以上、後手に回らざるを得ないのは間違いないから、私たちの地力が問われることになる」


 だからこそ、本当は他のギルドに目的を調査して欲しかった。

 結果は派遣した冒険者たちの全滅。

 ソニアは、冒険をしすぎているこの状況に、危険を感じるのと同時に己の中の、センサーのようなものが研ぎ澄まされているのを感じていた。


「本当、何かあったら任せるからね、カンナ」


 ♢


「壁!」

「やってる!」 


 逃げ遅れた村民をガバッと覆い、壁を張ることで魔物の攻撃を防ぐ。


「はっ!」


 攻撃の後隙をガーベラが狩る。


「あっありがとう!」


 そのまま男は走っていく。

 

「あの人で最後みたいね」

「反対側から魔物が来たらカンナさんが対応してくれるんだよな? 俺たちはこのまま待機か」

「うん。ただ何かあったら人形の誰かが教えに来てくれるはず。魔徒だったらソニア本人が来るわ」

「まと?」


 おうむ返しするツカサ。


「魔法が使える叛徒。要は危険度が段違いな賊徒ってこと」

「グレロとかもそうか?」

「ええ。あれは魔徒の中では全然可愛い部類だけどね」


 リサの脳裏に、盗賊の頭領の姿がよぎる。


「……話してたら、ね」

「だね」


 ゆったりと歩く影。

 そのシルエットに、リサとツカサには心当たりが合った。


「もしかしてあれが……」

「ああ、筋肉野郎。サイクロプスだ」


 のそのそと歩く影が徐々に姿をあらわにしていく。

 

「お、お前らあん時の……久しぶりだな?」


「この村に何の用がある?」

「知らねえよ。俺は言われた通りやってるだけだ」


 ツカサの問いに飄々と答えるサイクロプス。

 

「貴方に聞きたいことがある」

「ん〜?」

 

 リサは、以前聞けなかった質問を、ここでする。


「貴方に指示してるのは、道化師のような服を着た人間?」

「……知り合いか?」

「──よかった」


 ようやく、前に進める。

 

「やるわよ、ツカサ、ガーベラ」

「ああ」

「え、ええ…」


 リサの振る舞いに、少なからず動揺がある2人。

 ツカサは顔にこそ出さなかったが、リサの胸に怒りがこもっていることには気づいていた。


 この魔物を辿った本元に、おそらくリサの復讐の相手がいるのだろう。


 そう、いてしまった。

 相手は格上も格上だ。

 

(リサ……相手がソニアさんくらい強かったら、どうするんだ……?)


 その思考を全て、一度消す。

 まずは。


「ぶっ飛ばす……!」

「やってみろクソガキ!」


 ♢


「現れた……! ツカサたちのいる方角だ」

「わかった」

「待てカンナッ!」


 カンナの迅速な行動をソニアが制止する。


「反対側からも来てる。そっちの方がやばいよ。任せるね」

「……わかった」


 カンナは告げる。


「あの筋肉には、うちのを行かせる。私は単独で反対方向のを討伐()る。それでいいな?」

「うん。それと、もうこっからは私は指示出せないと思うからこの村での指示判断はカンナに任せるね」

「承知した」


 そしてカンナは宿を出てすぐに仲間を探す。

 ソニアはというと。


「……見つけた。……絶対に潰してやるね、黒幕の人」


 そう言うと、無言で村を出る。

 その瞳には、闘志が宿っていた。


 ♢


「ちぃ!」


 三体一。サイクロプスとの戦いは、前回とは違う様相を呈していた。


「お前剣使ってなかっただろ!? イメチェンか!?」

「そうだよ、衣替えだよ」

「服は変わってねーだろうがよ!」


 ツカサは剣を携えていた。

 その剣は、荷物を落としたおじいさんに貰ったお礼の剣。


 中身自体は、魔力が籠もっているだけのシンプルな魔導具。

 だが、今の彼が使う武器として、それは必須の条件だった。

 

 なぜならツカサはまだ、物に魔力を込められない。

 故に、下手な道具を使えばむしろ威力が下がってしまうこともある訳だ。

 


「しゃらくせえ〜……」


「お互いこう着状態だね……」

「そりゃ3人でヒットアンドアウェイだしな。あっちから動かない限りはこのままだろ」


 だが、ただのこう着状態ではない。

 確実に、一撃一撃がサイクロプスの身体に入っている。


 状況が大きく変化していないだけで、ダメージはサイクロプス側が受け続けている状態。


 加えて、3人はお互いフォローし合える距離感を保ちつつ、リスクを最低限に抑えている。

 このまま戦い続ければ、勝つのはツカサたちだろう。


 だが、当然そのまま都合よく事が進む筈もなく。

 

「馴染んでねえんだよなぁ〜」


 サイクロプスは形をゴソゴソと変えていく。


「──この力!」

 

 その右手は、スライムのように液状化していた。


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