23話 迎撃
「行かせてくれ」
「ダメだ。許可できない」
ツカサとソニア。2人のやりとりを、他の者たちが気まずそうに見る。
現在、『阿吽の花』ギルドでは、ギルドマスターであるソニアと、ツカサの間で剣呑な空気が流れていた。
「それを言うなら、俺はソニアさんの言葉に納得できねえよ」
「なら納得できるまで言ってあげようか?」
ソニアの耳に入った情報は、皆をギルドに留めるには十分すぎる物だった。
「未確認の一体を捕獲しに行った冒険者隊の全員が消えた。死んだんじゃない。消息を絶ったんだ」
「そんで、襲撃が予想される村に送られた冒険者も死んだんだってな」
協会からの報告書に書かれていたのはそれだけではなく。
「でも、それから更に調査を進めて犯人の居場所を絞れたって、あの紙には書いてあった」
「だから乗り込もう、は馬鹿野郎だよ」
「直接いる場所に乗り込もうって話じゃない。問題は」
ツカサが見た、協会が危険区域とされていた地域には。
「アマリアさん達がいる村も含まれてたってことだ。さっきも言ったけど、俺は万が一のためにあの村を見ていたいだけだ。危険に突っ込もうって言ってるわけじゃない」
「本当にヤバい奴らがいたらどうすんの? 君がいても何もできずに殺されるよ」
「俺でダメなら、アマリアさん達はもっと確実に殺されるってことじゃないか!」
ツカサは珍しく、ソニアに食い下がっていた。
「ソニアさんが、俺を見殺しにしないでいてくれるのと同じだよ! 俺だってアマリアさんたちを見殺しにできない……!」
「……そう言う気持ちはわかるけど、やっぱりリスクが高すぎるよ」
ソニアの言葉に、ツカサが歯と歯を強く噛み合わせる。
「今回の一件で他のギルドも必ず動き出す。当然国も冒険者を派遣させる。すぐにとは言わないが、君の言うアマリアさんの村も……安全が保障される」
「その派遣される人が来るまで大丈夫じゃないから、その間は俺が見ていたいんだって。徒労ならそれでいいんだ。お願いします」
「……」
リサの違和感は正しかった。
アマリアの村も、今回のクエストの被害を受ける可能性が高い。
「ソニア。私もツカサに同行したい。アマリアさんの村を守れるなら嬉しいし、ようやく仇が見つかるかもしれないもの」
「……む〜……」
眉間を抑え呻き声を出すソニア。
2人の意思が揺れないことが、もうわかりきってるが故である。
「行かせてやればいい」
「……カンナ」
3人の間に、カンナが混ざる。
ソニアは、未確認達が襲うであろう村を守るよう提言した。
結果、国選の冒険者は死亡。
ソニアの推測は正しかった。だが、国が危険度を見誤ったのだ。
そして、ソニアが知人に聞いていた未確認捕獲隊の冒険者チームは、1人の例外もなく、情報を何も残さずに消息を絶った。
相手は、それができるだけの猛者ということだ。
「S級相当にはお前が相手するつもりだろう?」
「……そりゃね」
「ならお前がそいつらに付いていけばいい。なんなら私のギルドも同行してやる」
その言葉でも、ソニアは苦心していた。
「目的も実力もわからん相手だ、ツカサやリサをここに置いてお前が現地に行き確認をする、というのはもはやお前が容認せんだろう。戦力を分けることもしない、そうだな?」
全ての危険区域をソニアの力だけで見張ることは不可能。かといって今の状況で『阿吽の花』の誰も遠くに置きたくない。
「フィオナはどうした?」
「出張中。危険区域と真反対に位置してる場所だからまあ大丈夫。あの子は強いし……」
「戦力としては欲しかったが。まあそれはいい」
カンナが淡々と告げる。
「そのアマリアの村とやらに待機。冒険者が派遣されるか、未確認の位置を確認できた時点で終了。これならどうだ?」
リサとツカサがうんうんと大きく縦に首を振る。
「……」
「ソニア」
カンナはギラギラした瞳でソニアを見る。
「諦めろ、こいつらは歴とした冒険者だ」
「……冒険者……」
「そう、冒険者だ」
己の中にあるソレに、カンナは一切の迷いがなかった。
「自らの理想を捨てられない、そういう奴らの集まりだ。お前だってそうだろう」
ソニアは、カンナの主張を否定しなかった。
「そうだね。私だってそうだ……」
「元々リスクのない冒険などない。だがそれでも私は行く。部下に傷をつけた奴らをこの手で砕く」
その言葉を聞いたが最後。ソニアもうちにある不安と向き合った上で、肯定した。
「……わかった。行こう」
♢
「おーい準備できたぜ〜」
「ええ、助かります」
道化師と魔物が、森の中で語り合う。
「そこそこ時間かけてたけど、ようやくか〜」
「ええ本当にようやく、です。襲撃位置を予測する者も出始めましたからね」
ただ、出向いたその誰もが返り討ちにあった。
いよいよ、力を持ったギルドも目をつけ始める。
「準備は最低限…及第点ですが、そう理想が手元にやって来るとは思いませんとも。だからこそ挑戦する価値があるというもの」
杖を鳴らし、道化師はクツクツと笑う。
「冒険というのは……スリルがあって楽しいですねえ」
♢
「ふふ、また会えて嬉しいわ」
「俺も嬉しいです!」
「ごめんなさい、こんな大人数で押し寄せちゃって」
「気にしないで、スージーも喜んでるから」
アマリア、そしてその娘のスージーの経営する宿に、『阿吽の花』と『麒麟の角』のメンバーが集結する。
「お姉ちゃん膝柔らかくて好き!」
「ありがとーでも他のお姉ちゃんたちも柔らかいでしょ?」
「んーちょっと硬いよ!」
「筋肉は仕方ないでしょ!」
「でも硬いものは硬いもん!」
サントリナは少女の正直な言葉とリサの反応に苦笑いする。
「アマリアさん、村長さんからも話は聞いた?」
ソニアがアマリアに問う。
「はい……この村の近くに危険な人がいるかもしれないんですよね? 盗賊の件もありましたし……村のみんな他人事だとは思っていません」
「警戒心を持ってるのは良い事だ。それに安心して、国からの派遣者……まぁ多分冒険者になると思うけど、その人たちが来るまでは私たちが守るよ」
その言葉を聞き、アマリアは彼女に丁寧にお辞儀をする。
「本当にどうお礼をすれば良いのか……」
「気にしないで良いですよ、それより無事で本当に良かったです!」
ツカサの言葉で笑顔になるアマリア。
「私も、あなたたち2人が元気にしていることが励みになったわ。ありがとね」
頭を撫でられ、ツカサが照れる。
そして一時間後。
「出たぞーー!!」
「モンスターだ!」
村に魔物が出た。
やはり、来ていて良かった。とツカサは安堵した。
「ソニア、お前は全力で周りを警戒しろ。ただの魔物ならこいつたちで事足りる」
「分かってる。現場は任せたけど……命を優先だよ、いいね! それだけは絶対だからね!」
作戦通り。出撃したのがただの魔物であれば『阿吽の花』のメンバーが迎え撃つ。
「ええ!」
「押忍!」
「はい!」
リサ、ツカサ、ガーベラ。その全員が臨戦体制に入り、戦闘地に赴いた。




