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21話 圧倒的実力差

「『造魂開門──不八(エイト・メイド)(・パレード)』」


 ソニアの声とほぼ同時に、ガンダが首元を狙う。

 その一撃は確実にA級冒険者の喉元にも届き得たほどの、威力を持った一撃。


 だが、1人の人形に、体ごと止められた。


「ロプフェン、お願い」

「承知」

「な、なんで……?」


 ガンダのその問いは、なぜ現れた? なぜ効かなかった?

 どちらの問いだったのか、今となってはわからない。


 渾身の一撃だった。槍のような鋭さを持った一撃だった。

 だが、人形はガンダの攻撃を確かに防ぎ、なおもその肉体に傷すらついはいなかった。それほどまでに、彼女の魔力と肉体は強力だった。

 だが、彼女の力はそれだけではない。

 武器は強力な身体()だけではなかった。


水の槍(ランス)


 右手を液状に変え振動させる。そしてそのまま、腕を振ることでガンダの胸を容易に抉り取った。

 

「ロプフェン、お疲れ様」


 明るい水色の髪を手で払い、もう片方の血のついた手を空に払う。

 そんな少女にソニアが労りの言葉をかけた。

 

「いいえ、お役に立てたのなら光栄です」


 少女は、ソニアの後ろをついて歩く。

 その正体は完全自立型の人形。

 ソニアの魔術、不八(エイト・メイド)(・パレード)は8人それぞれが特化した能力を持つ、魂を持った人形たちである。

 彼女は、その8人の人形の中の1人、ロプフェンと呼ばれる少女をギルドの護衛から呼び出し召喚したのであった。


「ソニア様は私含め、8人の人形を保有しそれらを駆使して戦うのです。ロプフェンは水の属性に特化した魔法を使います。ちなみに私は火です」

「ほえー……」

「ですが簡単な魔法なら他の魔法も使えますよ。ブイ」

「すげー」

「ソニア様がすごいのです。だから、必然私もすごいです」

「ははは」

「……できれば手札を見せたくなかったけどね」

 

 パンパンと手を払いながら、ソニアが言う。


「本当は私とサンドラだけで片付けたかったんだけど、万全を期してギルド(うち)にいる子を呼んだんだ」

「へえ〜便利ですねソニアさんの魔法」

「つ、か、さ」

「はい」


 嬉しそうな顔のソニアはゆらゆらとツカサに近づく。

 そして彼の頭に手を乗せた。


「強化、できてたじゃんか」

「…? ……あ」


 以前の特訓で言われていたことの1つ。

 無意識に魔力で体を強化する。それはツカサが習得しなければならない課題の1つだったが、奇しくもこの一戦で習得できていることにソニアは気づけたのだ。


「頑張ってる、それは私もサンドラちゃんもよく見てるから。これからもその調子でね」

「は、はい!」

 

 頭を撫でられ続けることに照れたのか、ツカサは少し高い声で元気よく返事をした。

 

「ソムオのクエストも達成したみたいだし万々歳だね。もっとも……まだ親玉は潰せてないけど」


 ソニアはガンダを釣りの餌にし、あわよくばもう1体討伐しておくぐらいの気概があったのだが、ついぞ誰も助っ人には来なかった。

 

「……ツカサの護衛に1人使ったとはいえ、私がサンドラロプフェン、2人の手を借りなければならないくらいの相手がまだ徒党を組んでる。ツカサ、ここで満足してる暇はないよ」

「は、はい!」

「実戦特訓、実戦特訓。休む暇なんてないから、しっかりついてきてね?」

「押忍!」


 C級クエストの単独達成、そして敵勢力の一体を討伐。

 良いことだらけだが、不穏な事実は消えない。


 だがそれでも、今回の村での出来事は、確実に得るものの方が多かった。


 ♢


「いやー討伐されちゃいましたね」

「そうなのか? 流石に遠くて見えん」


 サイクロプスと、道化師がソムオの村からはるか遠くの場所で喋っていた。

 

「冒険者に先手を打たれて死にました。ですが死に方はそこそこ面白かったですよ。最後の最後で与えた思考より怠惰な本能を優先させたのも評価点の1つですねぇ。貴方と真逆」

「ふぅん…?」

「次の狙いも恐らく読まれてしまいましたし、少し場所を変えますか。同じ人が来ては意味がないので。彼は多分そのまま居残るでしょうけど……まぁ強いのでいいでしょう」

「はいはい」


 二体の声が闇夜に消えていく。


 ♢


 クエスト達成から数日、ツカサは再び特訓を受けていた。

 

「何? もうC級を単独で終えたのか」

「うん。でもまあB級は単独ではまだ無理だってわかってるから、ツカサには暫くは単独ではC級、私か他の子達同伴でB級のクエストをこなしてもらう。もうツカサには伝えたよ」


 ツカサと終えたクエストの報告。だがカンナはあまり表情を変えなかった。

 

「そうか」

「あんまり驚かないね?」


 報告するソニアの疑問に、カンナがようやく笑う。


「いつも特訓に付き合わされてるのは誰だと思っている」

「それもそっか」

「あの……ボコボコにしながら喋んないで……」

 

 ぐでーんと地べたに顔をつけながらぶっ倒れ、お尻を上に突き出すツカサ。


「おい、それよりもお前魔法の出が遅いぞ。疲れてるのか」

「ぅ……ごめんなさい。いや、疲れてなくてもあんなものです…」


 クエストの時に出した魔力の壁。

 激しい特訓の末、ようやくできるようにはなったのだが。

 

 ツカサはそれを発動するために一瞬タメを必要としながらも、出現させられるのも一瞬という悲惨な出来の具合だった。


「ま、それでも魔法を形にできてんのは偉いよ」

「おいすぐに甘やかすな。調子に乗る」

「そんな子じゃないよ、ね」


 へへへへ、と笑うツカサに「前言撤回」と述べるソニア。


「…地の壁を作れるのは分かった、だがやはりまだ火と水は無理なのだな?」

「はい。地の壁もすぐに消えちゃいます……」

「壁の硬度自体はそこそこなんだけどね」

「ふむ…」

 

 ツカサは地べたに寝そべりながら自分の右腕をじっと見つめる。

 

 魔力の壁は、強化とは全く違う魔力操作の感覚を要する。

 ツカサにはそれを定着させるだけの練度と時間が全く足りていなかった。


(……ま、私の特訓のやり方だと特に慣れない感覚で苦戦するだろうしね)

 

「なーんかしっくり来ないんだよな…他の2つの壁を作る感覚って。……特に火は」

「そか。なら地属性を重点的に固めてこ」

「そんな適当でいいんですか?」


 ポケ〜っとした顔で告げるソニアに心配の声を漏らす。

 

「魔法はフィーリングが大事な要素の1つだから。”しっくりくる”っていうのはかなり大事な要素だよ」

「そうなんですか……」

「ソニア様、次は私が」

「うん、サンドラちゃんお願いね」

「押忍!」


 休憩も終わり、再び組み手に入る。その2人を横目に、カンナがソニアに問いをかけた。


「アドバイスしなくていいのか? 魔力の使い方を」


 その問いに、ソニアは一瞬の間があったのちに答えた。


「オド花を食べて魔法が使えるようになった人の話なんてあの子以外に聞いたある? 私は初めてだったよ。ただでさえ前例のないイレギュラーな出自のあの子に、魔力という特殊性の高い存在の組み合わせ」


 ツカサの背景は、ギルドマスターのソニアでさえ、前例を知らないケースである。


「ヘタに私が口出しすれば全部が崩れる可能性がある。私の覚えてきたやり方を教えても逆効果だよ。あの子のやり方を見て臨機応変に対応していくのが一番なんだって」


 カンナは反論することもなく話を聞いていた。


「それにカンナも心当たりがあるでしょ? 自分と他人が魔法を使う意識や感覚は違うって。人によって魔力の感覚や認識は違うんだよ」

「そうだな。それは強化1つとってもそうだ。……だがお前、赤子同然のあいつにどうやって魔法を教えた?」

「私の魔術()の1人に魔力操作に長けた子がいる。その子に私とツカサのパスを繋げてもらって私があの子の体で魔法を使ったんだ」


 さながら子供の手を握りながらおにぎりの作り方を教えるように、人形の1人を仲介させ、ツカサの身体で実際に魔法を放つ。それが一番の近道だとソニアは考えていた。

 

「その感覚を頼りに……というわけか。だが、さっきの説明を聞くにそれは……」

「うん。魔法に限ってはこのやり方は、悪手になり得る強引なやり方だからもうしない。さっきも言ったけど、魔法に対しての肌感覚は人によって違う。同じ練習をし続けたら下手をすれば強化すら出来なくなる可能性だってあるしね」


 普通の魔法が使える者と違いツカサはさらに特殊な背景がある。

 前例のない魔法習得者、そして強引な魔法の伝達・特訓。

 2重で危険な綱を渡っているのだ。

 

「あいつ、魔力を知覚してまもないらしいしな」

「うん私たちみたいに魔力とお友達、くらい慣れてるならともかく、0からやるんだって子に私たちの先入観をなるべく植え付けたくないんだよね」


 ある程度魔力操作感覚に親しみがあるレベルの冒険者ならば、仮に自分の知らない魔法の教えを請うても、『こんな感じかな?』という”なんとなく”のイメージで使い方を理解できる場合がある。

 

 それこそ楽器やスポーツのように。

 慣れていれば側からやってる様を見て、そのやり方を見様見真似で真似しても、適性と経験によって精度に大小差があれど同じ術・技が使えたりもする。

 

 だが、それに対して取り組み始めたばかりのど素人が同じやり方を模倣すれば、いつまで経っても上手くはならないし、下手をすればその感覚が基礎を習得する上で足を引っ張ることになることもある。魔法も人体で扱う以上、その基本は変わらないのだ。


「何事も基礎が肝要。それは魔法とて変わらんぞ」

「そうだね。だから今回みたいな緊急時以外はこのやり方はしない」


 魔法はそれだけ奥深く、自由なものなのだ。

 それは、ソニアだけでなくカンナもよく実感していた。

 今回は特例だ。

 

「……」

「まさか、心配してる? 嘘でしょ? カンナそういう子じゃないじゃん」

「貴様が私の何を知ってるんだ!?」

「うおっ。こわいよ〜?…いきなり叫ぶじゃん」

「茶化すからだバカ」


 カッと怒りをむき出しにするが、すぐに冷静になるカンナ。

 そういう可愛らしい対応をするからからかわれるということには気づかない。


「……私の場合、今の力のほとんどが独学で身につけたものだ」

「知ってる」


 カンナは部下の顔を思い出す。そして、共に訓練していた記憶も蘇らせた。


「……部下たちがB級になる前は、よく魔法の特訓を共にしたが……奴らも感覚派よりで『訳わからん』と腑抜けた事を抜かしていた」

「そう」

「最終的には彼ら自身の感覚で、彼らに合った魔法を身につけていた。経験が、魔力に慣れ親しんだ生来の感覚が功を奏したのだ」

「よかったじゃんか」


 カンナはツカサを見つめていた。

 

「あいつはそうじゃないだろう。魔力の知覚も、得意不得意も、新たな魔法の習得も、すべて今手探りで探してる最中だ。私たちが手足をどう使おうか考えているのとはワケがちがう、あいつは手足をどうやって動かすかも同時に考えているようなものだ」


 すべてをこなすには、かなりの熱量と経験。そしてその土壌を支えるセンスがいる。


 そしてカンナは、ツカサが全てをこなせる人間であると感じていた。

 

「才ある者が、下手な先駆者に惑わされてその才を潰された。なんていう話、私は好かん」

「うん」


 カンナはツカサとサンドラの特訓を見て、それを深く痛感させた。

 

「……守れよ」

「分かってる」


 カンナの言葉にソニアが深く頷く。

 

「彼がああやってドンドン魔力と仲良くなれば、いつかは他の魔法を使えるようになる」


 リスクもあったが、最低限の門は開くことが出来た。

 あとはツカサがどれだけ力を得て門をこじ開けていくかだ。


「人の数だけ魔法の道があると言ってもいい。私が教えてあげられるのはあくまで基礎の基礎まで。応用、つまりツカサ自身の個性になるものはあの子自身で磨いてもらうしかない」

「ふっ、楽しみだな」

「そうだね」


 2人の師匠はツカサを穏やかな目で見ていた。


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