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20話 最強の一角

「君の仲間、どこにいる?」

「……てめえ」

「……負けを認めたら教えてくれるのかな」


 はぁ、とソニアはため息をついた。

 それは相手が流暢に会話できるほどの知能を持った魔物であったこと、そして自らの嫌な予感が当たっていたことからである。


「未確認の出現した位置はね……グレロという盗賊に襲撃された村から始まり…サイクロプスの報告があった村、リサたちが襲われた村、そして今この村ソムオまで、綺麗に線で結んだら、星になるんだよね。偶々なのかな? それとも遊び? まさかとは思ったけど、今回ツカサに同行しといて良かったよ、ホント」


 余裕のある表情の内側に、確かに怒りが含まれていた。


「君にソムオを襲えと指示したのは誰だ? 人間だろ?」

「知らねーなー…」

「指示されてたのは確定ね。じゃあやっぱり線で結べるのは偶然じゃないと考えた方が良さそうだね。指示してた人は遊びでそんなことやったのかな」

「さぁなァ!」

「!」


 ミチミチと筋肉の詰まった足。ワルウルフは地面を蹴り上げ、ソニアに接近する。


 そしてそのまま強靭な爪を振るう。

 ソニアは両の手を前に出し防いだが、かすり傷がついた。

 

「!……いて」

「お? 動揺した?」

「……ワルウルフ。二足歩行の狼型モンスターの筈なんだけど…私の知ってるワルウルフより殺傷力が増してるね」

「ガンダだよ、ガンダって呼べ」

「仲間の名前教えてくれたらね」

 

 そう言いながらお互いに拳を打ち合う。

 だが2人の攻防はほぼ互角。つまりソニアの不利ということだ。

 なぜなら、ガンダはソニアの後ろにいる人形、サンドラまで意識を向けている。

 つまり今の戦闘ではガンダが僅かに余力を残している状態で均衡を保っているのだ。


「そいつは無理!」

「そっか」


(仲間が大事って感じでもなし。指示者…上位者がいるので間違いなさそうだけど)


 ソニアは、ツカサたちがサイクロプスに襲われていた時、もう1人、少なくともサイクロプスと同格以上の存在を感知していた。


「サイクロプス、君の仲間だろ」

「あ〜? あー」


 単語を聞き脳みそにそのワードを検索したのち、該当した。

 そんな顔をしたガンダ。明らかに心当たりがある反応だった。


「……はぁ、最低でも3体いるのか……」

 

 想像したくもない。サイクロプス、ワルウルフ。

 そしてこれらをまとめている第三者。


「よそ見してんなよ!」


 思考を整理している最中、一際キレのある拳がソニアの頬をかすめた。

 

「おっと」

「お前俺に勝てると思ってんのか?」

「…私と君は互角くらいじゃないかな」

「能天気な上目も腐ってんなテメエ!」


 瞬発力を上げる風の魔法。それが上乗せされた強靭な蹴りは、サンドラによって防がれた。

 

「──ただ、私は1人じゃない」


 そのままサンドラはガンダの足を掴み、空いた左の腕を空にかざす。

 

「『火の舞(アルマフエーゴ)』」

 

 演舞のように炎がサンドラの掌の上で踊る。

 そしてそのまま、その舞いをガンダの腹部へと当てた。


「がぁあああああ!!」

 

 足の拘束を引き剥がす。ガンダはそのまま距離を取るが、その足取りは揺れていた。


 腹部のダメージが確かなものだったからだ。

 

「硬いですね…」

「肉体強度が武器のタイプのモンスターだからね。遠距離魔法もあるだろうけどあまり気にしなくていいよ。さっきの魔力放出が全力だろ。大したことない」

「わかりました」


 サンドラの金髪の流麗な長い髪が宙を舞う。その流れそのままにガンダの元へ。


「ガキのくせに……!」


 空から降り下される蹴り、ガンダはそれを防御し抵抗しようとするが、反撃できないほどの威力だった。


 2人の肉弾戦はガンダの防戦一方のまま続く。

 

「サンドラちゃんそのまま抑えておいて」

「御意」


 ソニアの右手を起点に、周囲に尋常ではない風の波が生じる。


「そのままぶつけてあげる」

「まっ……」

 

 その一撃、ガンダには避けようもない。なぜなら正面ではサンドラがその四肢をどこにも動かせないように常に攻撃を精密かつ高速で続けているからだ。


 無論どうすることもできず、台風の目はガンダの背中を切り裂いた。

 

「あばばばば!!」


 ギュルリと乱回転し、木々に埋まるガンダ。

 彼の胴体には魔法が直撃し、ボロボロにこそなってはいたが、A級上位格ないしS級相当のモンスターとしての格が、最低限のプライドと肉体の形を維持していた。


「もう勝てないのは分かるよね。君の仲間についての情報くれない?」

「……うるさい」

「……言い方が悪かったか、プライドを傷つけたね。ごめん、そんなつもりじゃなく本当に情報を教えてくれれば……」

「殺す!!」


 飄々とした態度にムカつきを抑えられず、拳に魔力をありったけ貯めた。


 それに合わせサンドラとリサも警戒する。

 そこに、冒険者が1人。運悪く居合わせる。


「ソニアさん…?」

「!!? ツカサ!?」


 魔法の余波が届いたのか、戦闘音が村まで響いたのか、はたまたタダの勘か。

 

 ソニアの想定していないツカサの乱入。彼女の思考が明らかに揺れ、硬直した。

 そしてまた、それを最大の好機としてガンダは捉える。


「そこだァア!!」

「!」


 魔力を最大まで圧縮した放出。ただの魔力の塊だが、ツカサに放たれたそれは、ツカサを殺すには充分すぎる程の威力で。


(──あ、死んだ)



 防御の体勢をとったツカサでも、そう実感していた。

 そこで、ガンダにとって最大の好機は消滅する。

 

「お前、私の前で」


 ガンダの放った魔力は、地面からの防御壁で封じられた。

 ソニアとサンドラの魔法だ。


「──私の仲間を殺せると思ってるのか?」


 事実よりも深く、もう完全に眠れる獅子を起こしてしまったのだと、ガンダは痛感した。


「あ、あ……」


 ガンダは今更になって気づく。

 目の前の冒険者はA級格以上の魔物(自分)を殺せる冒険者だったのだと。


「あの、サンドラさん……」

「私が密着して防衛いたします、ソニア様の後ろへ行きましょう」

「あ、はい……」


 2人を自分の背後に置き、ソニアは殺意を抱いたままガンダを睨みつける。


「魔物、お前を(討伐)するわけだけど、最後に一言聞いておく。仲間の情報を残す気はあるか?」

「ぅ、ぅぅおおお……!!」


 及び腰になる体。だが、ガンダは最後の最後で、自らの本能に身を委ねた。


 全身の筋肉を張り巡らせ、ソニアの首を最速で千切る。

 その一点に全てをかける為、体を縮こまらせた。


「……答えは分かったよ。それじゃあ、お前を殺すね」


 ソニアは捌くのではなく、あえて上から潰すことにした。

 そしてそのやりとりをすぐ近く、真後ろで眺める2人。


「ツカサ様、よく見ておいてください」

「は、はい…でもさっきのだけでも凄さが分かりますよ……やっぱカンナさんもそうだけど、A級って尋常じゃないくらい強いですね…俺さっき死ぬの覚悟しましたもん」

「違いますよツカサ様」

「……え?」 

「ソニア様は」


 サンドラがツカサに顔を向け、その十全で強大な事実を告げる。


「──S級です」

 

「さて、魔物。お前は今から私の能力の一端を見ることになるわけだが」

「ぅぅ……!」

「それを光栄に思い、そして誇るといい。魔物が私の魔術を見られるなんてそうない経験だよ」


 その後、ソニアは何かを呟いて──唱えた。


「『造魂開門──不八(エイト・メイド)(・パレード)』」


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