18話 単独で挑む
「それじゃ行ってらっしゃい。ただし何度も口酸っぱく言うけど」
「命優先でしょ分かってる。そっちも、ツカサをお願いね」
「うん、気をつけてね」
リサ、ガーベラ、マタリーの3人を見送るサントリナとソニア。
「あの子達、特にマタリーは病み上がりだけど……大丈夫かなぁ……」
「きっと大丈夫ですよ、あの子達を信じましょう」
サントリナの言にソニアが首を縦に傾ける。
「それより特訓を始めてからもう随分経ちますけど…どうですか? ツカサの調子は」
「ふっふっふっふっふ〜…」
「……」
サントリナの横でソニアが自慢げに笑い続ける。あまりに長かったので突っ込んだ。
「いや教えてくださいよ」
「知りたい?」
「ぶっ飛ばしますよ」
「ごめん。笑っちゃうくらい順調さ」
「あら、いいじゃないですか」
「思ったとおりカンナと相性がとてもよくてね。彼女の強さに呼応するように成長してるよ」
「あーどっちも素直ですからねえ」
「そうそう。2人とも抑えたらより強く返ってくるバネみたいな子だからさ。一度火がついたら簡単には止まらないの」
「ふふ、想像つきます」
そうこう言ってるうちに、カンナが特訓場から出てきた。
「む、リサたちはクエストに行ったか。マタリーに一言激励の言葉でもかけておこうと思ったが」
「そんなのなくてもやる気満々だったよ」
「そうか、さすがは私の部下だ」
「ギルドメンバーのこと部下っていうのやめなよ……」
「仲間は仲間でも組織関係としては部下と上司だろうが」
「お前の方が変わり者なのだ」と言い放ち、カンナは仰々しく椅子に座る。
「ツカサは?」
「サンドラと特訓中だ」
「お? ツカサより先に根を上げたんだ。珍しい」
「……ッァ!!」
声にならない声をあげる。カンナは眉をピクピクさせながらソニアに物申した。
他にもやることがあって特訓だけやってる奴と一緒にするな、などとは声にも出さないし、一瞬その考えが脳をよぎっただけでも腹が立つ。
カンナは自らの頭部を強く叩いた。
「きゃあ!?」
「何やってんの……?」
「戒めだ聞くな」
分かりやすいカンナの考えを察するソニア。
「ギルドマスターはご多忙だからぁ〜特訓だけで一日を終える人間より疲れてるって感じですかねえ…?」
「聞くなァ!!」
察しはしても配慮はしなかった。
「ソニア……! 貴様は本当に人を苛立たせるのが上手いものだな……! 貴様がモンスターだったら私は迷わず粉々にしていただろう…!」
「こわ……怖すぎて夜も眠れないから、指名手配しとこうかな」
「変わらんなァお前のそのお調子者の頭は……!」
「ほんと仲良いですね……」
「……ふん」
これ以上付き合ってられない、というように吐き捨てた。
「だが認めざるを得ん。奴は体力だけなら私に匹敵するかそれ以上だ」
「そうだねー」
それだけ素の肉体が鍛えられているということだ。
そしてそれはソニアも元から気づいていた。
「しっかり土台を鍛えてきた証拠だね」
「だがそれ以外は全て私が上だ」
「そんな張り合わなくても……A級なんだしそりゃそうでしょ?」
「だが奴はD級だぞ……!」
1つでも自分と同等のものがあることが気に食わないのか。という顔をするソニアにカンナが熱弁する。
「それだけ私が未熟だという話だ……それが許せん…! 張り合わずしてどうする、私がD級同等の体力では示しがつかん! A級ならば、すべての手本にならねばならん……! 出来ないものを無理にしろとは思わんが、お互いに同じものがあって優劣をつけられるのなら、A級は全てにおいて優勢でなければ……!」
「もー落ち着きなって、そんながっつかなくてもあの子すでに余裕でC級はあるから」
「だとしても私はA級だろうが…!」
「いやまーそうなんだけどさ……」
相変わらずの性格だ、と苦笑いをするソニア。
「奴にガッツがあるのはいい、だが、奴がD級、いやC級相当なら私はそれを超えるガッツを持たねばならん……!」
「はいはい頑張ってねー……」
「それでツカサは? 今はサンドラさんと特訓中なんですよね?」
ソニアが頷き、補足した。
「魔法の特訓中さ」
ソニアの言葉にカンナも耳を傾ける。
「さっき順調だとは言ったけど、魔法の特訓だけはちょっと進捗が悪くてね。まあそもそも、ツカサが魔法を使えるようになった経緯がだいぶ特殊だったから。普通に魔法を使えた人たちとは感覚が違うし、上手くいかなくて当然だよねー」
「そういう物ですか……」
「感覚さえ理解したら、すぐ使えるようになるんだけど、それまでのとっかかりに苦労してるって感じだね。要は感覚派ってやつ」
魔法を使う感覚は、ツカサとは十数年間まるで縁がなかったもの。
いかに感覚派といえど想像もできないものである以上、きっかけを掴むのにも一苦労するのだろう。
「魔法を見たのも使えるようになったのもここ最近なのだろう。であれば当然の状態だ。何ら異常ではない」
「えっ、あっ…知ってらっしゃるんですね」
「カンナは信頼できるから大丈夫。勿論ツカサに許可は取ったし」
「馬鹿正直に許可を出すツカサもツカサだが…まあ安心しろ。知り合いの安全に関わる情報を漏らすような真似はせん」
ふふ、とカンナを見て笑うソニア。そしてその反応を見て舌打ちするカンナ。
「それだけ信頼されてるんだよ」
「そうか」
「ま、まあ大丈夫そうなのは分かりました…」
うんうんと頷くソニア。
「この特訓が終わったら、いよいよ実戦だ」
「ああ、前に仰っていたソニアさんと、っていうあれですか」
「そ。まあこの分だと余裕だね」
「油断はするなよ」
カンナの諫言にソニアが冷静に返す。
「しないよ。誰に言ってんの」
「そうだな、すまん」
お互いの信頼に裏打ちされた会話。その終止符が打たれた時。
「ふぃー疲れた……」
「お」
ツカサとサンドラが稽古場から帰ってきた。
「お疲れ、ツカサ、サンドラちゃん。どうよ進捗は」
ソニアがサンドラに尋ねる。
「とりあえず、目標にしていた魔法の習得は完了したと言っていいでしょう」
「ふっふーん! サンドラさんがこう言ってんだから間違いないだろー!」
「流石だね、よくやってるよホントに」
スッ、とカンナが立ち上がり、歩き出す。
「もう行くの?」
「ああ。私はこいつが無事に終えるのを待っていただけだ。終わらせたんであればもう用済みだろう。私も忙しいからな」
「カンナさん」
ツカサに呼ばれ、カンナが振り返る。
「特訓、付き合っていただいてありがとうございました。俺今回の貴重な経験は必ずこれからに活かします。そんでもって、これからも機会があったらご教示お願いします!」
「……弱い冒険者は信念を押し通せない。だから早く強くなれ、いいな」
「はい!」
サッと消えていったが、口角が上がっていたことを、ソニアは見落とさなかった。
「んじゃ、今日は一旦寝て、明日の朝はクエスト用の準備をしてここにおいで」
「ん?」
「実戦だよ、ツカサ」
肩にポンポンと手を乗せるソニア。そして、笑いながら。
「私が引率する。けど前も言った通り実質キミの単独任務だ。よろしくね」
実質ツカサを試すんだ。という旨の内容を伝えた。
「押忍!」
♢
「おはよー」
「準備バッチリ!」
「うんうん、いい事だ。それじゃサントリナ行ってくるね。フィオナも帰ってくるから、留守はあの子に任せるよ」
「はい、いってらっしゃい」
ツカサとソニアが町を出る。
「ソニアさん、フィオナさんって?」
町を出て、疑問に思っていたことをツカサは尋ねた。
「ギルドのメンバーの1人だよ。長期クエストについててまだ紹介できてないけど。実際に会える時間が作れたら紹介するよ」
「! なるほど、楽しみにしておきますね」
微笑みながら笑うソニア。その後に、クエストの概要を語り出した。
「昨日も言った通り、今回のクエストは文字通り君1人だ」
「うん?」
「今まで周りが支えてくれていた役割も、君が担うことになる」
ぽんっと背中を叩くソニア。
「難易度としてはD級の上位ぐらいのクエストだけど、クエストにおいて大事なことのひとつを今回初めて学ぶことになると思うから、頑張ってね」
「はい」
♢
街から出発して数日、2人は小さな農村に到着した。
「こんにちは」
「ああこんにちは。今回の件を依頼した、この村、『ソムオ』の村長のガスです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします!」
その後、2人の間に少しの沈黙が流れた後、ツカサから切り出した。
「あっ……えっと…今回の依頼について詳しく話していただけますか?」
「は、はい」
そうだ、今回は説明を聞くのも、対応するのも全て自分だ。
自主性を持たなければならない、とツカサは己の心臓を今一度叩き直した。
「ポテンツァモールが村の畑を荒らしていましてね…大体気づいた時には食い散らかされてて困っているのです」
「ポテンツァモール…ってあのモグラみたいな奴ですよね」
以前リサとクエストに行った時に遭遇したことがある。モグラのような見た目だが、腕力はバカにならない。それこそ冒険者でもない限り近づかないのが吉だろう。
「誰か怪我人とかは出ましたか?」
「臆病な性格のようで積極的に襲われることはないのですが…以前村の1人が奴に気づいた時にクワで攻撃して返り討ちに遭いました…若者の彼がそうなるんなら、と冒険者に依頼させていただきました」
「分かりました」
ふぅ、とため息をついてから、ツカサは村長に言う。
「実際に目撃した人の話を聞かせてください。情報がもっと欲しいです」
「分かりました。目撃した者たちを集めます」
ガスは視線をソニアに逸らす。
「えっと、貴方も冒険者ですよね…?」
「私は彼の所属するギルドのマスターです。今回は引率で来ただけですので、実質的には彼1人でのクエスト攻略になります」
「そ、そうですか……」
そう言うと、ガスはお辞儀し「ここで少しお待ちください」と言ってから村の方へと踵を返した。
「不安なんだよ」
「え?」
「私たちと違い彼らにとってはモグラ型の魔物一匹討伐するのでさえ一苦労だ。そんな中で冒険者に前を歩いてもらえないのはきっと怖いよ。君も、最初に盗賊に会ったときはそうだったろ?」
ツカサは生唾を飲む。
そんな状況を、たった1人で何とかする必要があるのだ。
できるだろうか、自分に。
リサのようなシビアさを、ブライアのような頼もしさを持つことが。
「……いや、出来なくったって俺は俺らしく精一杯やるしかないよな」
♢
「こちらが冒険者のツカサさんだ」
「よろしくお願いします」
ツカサはガスに案内され、皆が集まった建物で挨拶する。
「何級なんですか?」
「D級です」
「え……」
「D級か…」
数人の村人が声を漏らす。
ツカサは不安そうな視線を自覚しながらも、堂々とした態度で発言する。
「不安にさせて申し訳ないです。でも、必ずこのクエストは達成してみせます」
「頼りにしています、ツカサさん」
ガスはツカサに励ましの言葉をかけ、目撃者たちを呼び寄せた。
「こちらにいるのがポテンツァモールの被害者です。話しますか?」
「もちろんです」
目撃者たちの話を聞く中で、ツカサは自分が果たすべき役割を再確認していった。
不安を感じさせないようになるべく前向きな言葉を選び、解決策を伝えた。
「これならポテンツァモールを捕獲して、討伐できると思います」
そして皆に必要な道具を提案していると。
「でた、ガスさん出たよ!」
「怪我人は?」
「へ? あんた誰さ」
40代ほどの女性が慌ててガスに声をかける。
「冒険者さんだ。この人に説明してくれ」
「うちの畑が荒らされたんだよ、まだモグラもいる!」
「案内してください」
♢
女性の案内で目的地に辿り着く。
するとモグラはすでに食事を終え、逃亡する最中だった。
「ぐっ!」
一気に地面を蹴り、腹を狙う。
「ギャゥ!」
拳と爪がぶつかり合う。
だが弾かれたのはツカサの拳。
「ち……」
その隙に、モグラは逃げ切ったのだった。
「……クソ……」




