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17話 贅沢で稀な特訓

「お前に魔法を教えてやることになった。よろしく頼む」

「カンナさん。さっきぶりですね」

「ああ。どっかのバカに連れ戻されてな」

「ごめんごめん、でも協力は惜しまないんだろ?」

「ふん」


 それ自体は否定するつもりがないのか、カンナも静観する。


「それで魔法を教えるって…」

「うん、キミには最低限の魔法の知識を身につけてもらって魔法を使えるようになってもらう」


 ソニアの言葉にサンドラが合いの手を入れる。


「幸いツカサ様の魔力属性はすでに精査済みです。私たち2人での特訓の際に様々な小細工を弄しておりました。その件について今謝罪をさせてください」

「ううん、大丈夫。それより魔力属性って?」

「キミの魔力の型みたいなものさ。火・地・水・風の4つに分類されていてそれぞれの属性によって得意な魔法の傾向や方向性が違うんだよ」


 リサの水の弾丸、マタリーの風の斬撃など。

 すでに魔法を見ていたツカサにとっては、さして驚きもなかった。


「ほ〜ん、そんで俺の属性は?」


 ツカサの問いに、ニッとソニアが笑う。


「水、地。そして……火──珍しい3重属性だよ」

「ほう……?」


 ソニアの言葉にカンナが反応した。


「3つ?」

「そう、3つだ。これらの属性と適性のある傾向の魔法を覚えるのが、キミが強くなる近道…とされているわけだけど、その前に1つ確認しておきたい」

「ん?」

「キミ、今なんの魔法が使える?」

「へ?」


 ソニアの問いに戸惑いながらも、ツカサが答える。


「え……っと……強化…? ですよね? ソニアさんとサンドラさんが俺に教えてたの」

「そうだね。強化の魔法。それも自分にかける初歩の魔法。それ以外に使える魔法は?」

「ない……」

「わかった」

「な、何が?」


 決して無駄な問答でないことは、カンナが真面目に聞いていることから分かる。だが、意図は分からない。


「たまにいるんだよね。誰から教わったわけでもなく、全容を理解しているわけでもないのに、魔法を使える者が」

「……」


 口を開け、ポカーンとしているツカサ。


「『身体に魔法の術式があらかじめ刻まれている』かのように自然に使いこなして見えることから、魔法術式──魔術なんて呼ばれてるんだけど、まあそれはいいよ。使えないなら関係ないし」

 

 首を鳴らしながら、ソニアはサンドラにボールを渡す。


「兎に角、私から教わった魔法以外に何も使える自覚はないんだよね?」

「あ、はい」


 淡々と答えたツカサの言葉に、ゆったりと噛み締めるようにソニアが頷いてから、笑った。


「うん。それならそれでいいさ」

「魔術…があったらやっぱりそれを伸ばすのがいいんですか?」

「そうだね。自分の素質に合った魔法を伸ばすのが一番望ましいんだから、魔力適正を調べて、手探りで魔法を伸ばすよりも、元から相性がいい魔法だってわかり切ってる魔術が使えるならそれを伸ばすのが手っ取り早いんだよね」

「そっか……」


 成長速度、効率の良さで言えば当然魔術に軍配が上がる。

 それは先ほどの説明通りすでに得意な魔法がわかり切っているからだ。自分の体によく馴染む魔法がわかっているのであればそれを伸ばすに越したことはない。


 だが。


「羨んでもないものはない! ならばそんなものに頼らずとも、お前自身で得意な魔法を見つけ、強くなればいいだけの話だ!」


 急な激励にツカサが驚く。

 だが、ソニアは言いたいことを言ってくれた、とでも言うように微笑んでいた。


「その通りだ。別に気にすることでもなんでもないよ。そんじゃ、サンドラ」

「はい」


 ソニアがサンドラと少し距離を空ける。


「?」

「よく見ててツカサ」


 サンドラの持つボールに、魔力が込められる。

 

「ではソニア様行きますね」

「うん」


 ソニアに向けて、投球。


「”壁”」


 だが、ボールはソニアの前に出現した土の壁によって防がれる。


「おお……!」

「飛び道具に対しての防御手段。キミにはまず初めにこれを覚えてもらう」

「よろしくお願いいたしますツカサ様」


 お互いにお辞儀する。


「他にも覚えてもらうものはあるけど、やることは変わらない。魔法の勉強と練習。そしてカンナとの戦闘。この特訓を繰り返してもらう」

「A級以上の冒険者2人に手解きをしてもらうなんてこと、そうないぞお前。しっかり物にするんだな」


 サンドラ、ソニア、カンナの気迫。それを一心に受けても、怯えることなくツカサは応える。

 

「──押忍!」

 

 ♢


「俺は、引き際を見誤った。そしてお前たちまで危険に晒した」

「貴方だけの所為じゃないわよ」

「そうですよ。私なんてずっと避難所を張ってただけですし」


 ブライアたちの元へ来たリサとガーベラ。2人はクエスト後の様子を見に来たのだった。


「お前たちはこれからも高難易度クエストをこなして行くのだろう?」

「ええそうね。私たちは強くならなきゃいけないから」

「ツカサもか」

「ツカサとも合流する予定なんですけど、暫くはソニアさんがつきっきりで鍛えるみたいです」


 ブライアはうなだれる。


「ツカサには申し訳ないことをした。あいつやお前の足を引っ張ったのは他でもない俺だ」

「しょうがないわよ。ブライアの戦い方は安定してる分格上相手はきついじゃない」


 単純なパワーで勝負するスタイルは、当然ながら非力な方が負けやすい。


「それでもだ」

「…カンナさんにも何か言われた?」

「当然」

 

 ♢


「なぜ撤退しなかった」

「村民を守りたかった。彼ら村民の日常を、笑顔を知って見捨てられなかった」

「状況を冷静に見るべきだったな。A級格モンスター、それも純粋なパワーが武器の相手ならランク通りの勝敗結果になるのは目に見えていただろう。結局お前は他の冒険者の足を引っ張ったことになる」

「わかっている。奴らには申し訳ないことをした。俺のくだらない我儘に付き合わせてしまった。だから、やってくれ」


 ゴスッ、と撃ち放ったカンナの拳が、ブライアの頬を赤く染めた。


「頬の痛み、胸の怒りを糧にして強くなれ。己の我を好きに通せるくらいにな」

「言われるまでもない」

「次はお前の番だ。マタリーにはすでに話をつけた。お前たち冒険者を管理する者としてケジメをつけさせろ」

「うむ」


 ブライアが拳を打ちつける。倒れた体を勢いよく起き上がらせて、カンナは告げた。 

 

「お前はここで終わるたまじゃないだろう。私もマタリーも、ソニアのギルドもどんどん力をつける。すぐに追いついてこい」

「ああ!」


 ♢

 

「いい激励だったよ」

「そう」


 ソニアたちとはまた違う形のギルドだが、それでも信頼されているのが分かる。


「それじゃ、私たちはこれで。マタリーが復帰したら、一緒に行動することもあるでしょうから、その時はよろしく」

「ああ」

「ブライアさん、また会ったらよろしくどうぞ。マタリーさんにもよろしく言っといてください」


 ガーベラとリサがブライアたちのギルドを後にする。


 ♢


「ガーベラ。私はこれからも奴らを追う。勿論今すぐに倒せるとは思っていないから力はつけるけど…危険な道のりであることには変わらない」


 ガーベラはリサをじっと見つめている。次の言葉は、そう待たずして放たれた。


「それでも、一緒に戦ってほしい」


 「危険だから安全な場所に」そう言っていた自分はもういない。

 

 もうリサはガーベラの気持ちを裏切らない。彼女の言葉と気持ちを信じるのだ。

 ダンジョンで互いに仲直りしてからは、リサもガーベラの冒険者としての力を信じている。逆もまた然り。


「もちろん。あの時言った通りだよ、私は貴方の力になる。だから一緒にもっと強くなろう」


 2人はお互いに拳を合わせ、心を今一度通じ合わせた。


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