第5話 沙耶の初めての任務
女子高生として人生を送っていた、妹の彩華と姉の沙耶が突如として時空の歪みに飲み込まれてしまう。そして、そこで待ち構えていたのは…。
沙耶は、自身の持つ病み気質な性格と自身が抱えてきた闇が、暴走して王座の間を三分の一程度吹き飛ばしてしまう…。
だがしかし、カムイ陛下は王座の間が吹き飛ぶことよりも、沙耶の身を第一に考え沙耶の心配をしていた。
―王座の間―
カムイ陛下自ら、吹き飛んでしまった王座の間を修繕していた。
「まさかな…。沙耶にあれほどの力があるとはな。いやしかし、あの力をコントロールすることができれば、相当な戦力になるな。だが・・・その制御はどうやって身に着けさせた方が、沙耶にとって身のためにになるのだろう?少しの間、訓練は自粛しておるからどうにか、メンタル部分が回復してくれるといいな…。」
カムイ陛下は、そうブツブツと独り言の様に呟きながら淡々と修繕作業を進めていた。
そこへ、執事であるアストがやってくる。
「カムイ陛下…。一つよろしいでしょうか?」
アストがカムイ陛下に問いかけると、カムイ陛下は作業を止めてアストの方を振り向く。
そして、カムイ陛下が振り向いたのを確認してから、話始めるアスト。
「実は、このノーゼンカムイ王国に謎の脅威が迫っているのです。敵の数までは計り知れますが、相当数いると思われ…。しかし、向かった軍隊からの連絡は届いておりません。未だ交戦中かと思われます。」
アストからの報告を受けたカムイ陛下が、悩み悩みで何かいい案がないかと思考を駆け巡らせていたその時だった...。
「それならあたしが、向かいましょうか?カムイ陛下。」
ふたりは声のした方向を見るとそこには…。
なんと、沙耶が立っていたのだ。
立っている沙耶の姿を見たカムイ陛下が、驚きを見せながら話しかける。
「沙耶!君は、休んでいなさい。その精神状態でどう戦うというのだ?軍隊にも連絡が付かないこの状況で沙耶、君を向かわせることはできない。」
カムイ陛下は、沙耶を止めようとするが…。
沙耶は、真剣な表情で答え始める。
「今、動ける人間がどこに居るというのですか?軍隊にすら連絡が付かないのなら、あたしがその脅威を鎮めてきますよ。あたしにだって、この国を護る使命があるのですから。何の為の勇者候補なんですか?国ひとつ護れない勇者がどこに居るんですか?居るのなら、あたしが制裁を下しますよ。」
沙耶の本気の覚悟を目の当たりにしたカムイ陛下は、沙耶のその言葉を信用して沙耶にあるものを渡す。
「沙耶。君の覚悟は素晴らしいものだ。だが・・・そのままで行かせるわけにはいかない…。沙耶には、コレを渡そう。」
そう言って、カムイ陛下は沙耶にあるものを渡すと、沙耶にその物の正体を明かす。
「これは、妖刀村雨だ。この刀は、かつて伝説を残した姉妹のご友人が能力で生み出したものだ。しかし、扱いを一歩間違えれば命が危ぶまれるものでもあるから、気を付けてくれ。そして、自分自身を信じろ!そしてその‘‘やみ‘‘を超えろ!その先に君自身の本当の力が眠っている。それだけは忘れるな。」
そう言うとカムイ陛下は沙耶を抱き寄せて、頭を撫でる。
すると、沙耶は照れくさそうに話始める。
「まるで、陛下は…。あたしの亡くなったお父さんみたいだわ。実はね、あたし小さい頃にお父さんを亡くしているの…。だから、父親と言う存在が凄く尊いものに感じるの…。だけど、ずっとこうしてるわけにはいかないよ。だって、この国を護らなきゃいけない使命があるのだから!」
そう言って沙耶はカムイ陛下に、お辞儀をして王座の間を後にするのであった。
―とある戦地―
ココは、ノーゼンカムイ王国より南に三十㎞行った場所にある寂れた小さな町…。
カムイ陛下と沙耶のやり取りが行われているのと同時刻…。
脅威が迫る戦地では、軍隊VS謎の生物による戦いが行われていた。
「打て―!!大砲発射用意…。ファイアー!!」
軍隊が、大砲を用いて謎の生物との戦いを繰り広げていた。
だが、謎の生物はおよそ三百は居るものと思われる。
軍隊のある一人が、ある言葉を口にする。
「なんて化け物なんだ、こいつ等…。大砲が効かないなんて、本当に勝ち目あるのか?あるとしたら、神に祈るしかないのか…。」
そんな弱音を吐いていた兵士に、軍隊長が喝を入れる。
「馬鹿野郎!カムイ陛下に国を護れと命令された身だぞ。何としてでも、この化け物を倒さねば。王国が危機に晒される。」
そんなやり取りをしている最中に、軍隊は謎の生物による攻撃を受け、皆が地面に倒れこむ…。
「ここまでか…。」
軍隊長が、あきらめかけていたその時だった。
“”ドーン“”と言う音と共に謎の生物の内の一体が地面に倒れる。
「ったく…。国の軍隊がこれじゃあ、どうやって今後国を護るのかしら?」
軍隊長が、顔を上げるとそこにいたのは…。
なんと、沙耶であったのだ。
すると、軍隊長が沙耶に話しかける。
「お嬢さん…。ココは危ないよ!はやく逃げて!」
軍隊長が、慌てふためくが沙耶は、至って冷静に返答する。
「あたしは、カムイ陛下の命令を受けてきた。勇者候補よ。あなたたちと連絡が取れないと陛下が、心配されてるわ。早く連絡を入れてあげてください。そして、こいつらはあたしが倒します。」
沙耶のその言葉を聞いた軍隊長が、沙耶を止めようと声をかける。
「無茶だ。お嬢さん一人の力じゃ、こいつらに勝てない。」
その言葉を聞いた沙耶が、拳にグッと力を込めると…。
“”バチバチ“”と稲妻が走り始める。
そして、沙耶は大きく息を吸い込み叫ぶ。
「ココからは、お前たちとあたしの戦いだ!半端な覚悟であるならば…。命が尽きるものだと思え!!!」
そう叫んだ瞬間、沙耶は勢いよく謎の生物に向かって、突撃していく。
「秘技…。火炎斬り!!!」
沙耶が、村雨に炎を纏わせて謎の生物に切りかかる。
すると、謎の生物は態勢を崩されて、大群で後ずさりをするが…。
沙耶はそれを見逃さずに、追加攻撃を仕掛ける。
「逃がしはしない…。地の果てまで追いかけるわ。喰らいなさい!雷撃!!」
沙耶は、稲妻の如く駆け抜けながら、一体一体に重い一撃を喰らわせていき、謎の生物はバタバタと倒れていく。
そして、謎の生物の親玉と思しき奴が、沙耶に向かって突撃をしてくるが…。
「ふぅ…。落ち着きなさいあたし。」
そう自身に問いかける沙耶。
その間にも謎の生物との距離が縮まっていくが…。
沙耶は、深呼吸をして妖刀村雨に手を掛ける。
「雷の様に、早く。一撃で仕留める…。秘技…雷光一閃!!」
“”ズドーン“”という轟音が響き渡るのと同時に、謎の生物の親玉と思しき存在の身体に切れ目が入る。
そして、沙耶に襲い掛かろうとした時だった。
急に動きが止まり切れ目がずれ始めて、そのまま真っ二つになり地面に倒れる。
「ふぅ…。こんなものね。謎の生物って言っても単なるゴブリンみたいなやつじゃん。ちょっと、派手にやらかしたけど…。まあいいや。」
沙耶が、周りの状況を見てやりすぎたと少し反省をしていた。
その沙耶の活躍ぶりを見ていた軍隊長が沙耶に話しかける。
「お、お嬢さん…。貴女はいったい何者だ?素手とその刀だけで、謎の生物を倒すなんて」
軍隊長のその言葉に反応した沙耶が、口を開く。
「あたし?病み系女子だけど…。まあ、勇者候補ですがね。」
そう沙耶が言うと軍隊長はポカーンとしていたが…。
沙耶が軍隊長に現場の後処理を依頼してその場を去る。
「軍隊長さん。後は、宜しくお願い致します。あたしはこれで…。」
そう言って沙耶はノーゼンカムイ王国の城へと帰っていった。
こうして、ノーゼンカムイ王国に迫る危機を沙耶の手により護られた。
しかも、沙耶は一切能力を使わずに謎の生物に勝利をしたのだ…。
果たして、この先沙耶と妹の彩華は一体どうなっていくのであろうか・・・
日常から急転して、非日常へと落ちていくがふたりは無事に乗り切れることができるのか…。そして、もといた世界に帰ることができるのであろうか。