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7/11

遠山しおんは誤解する。


 ⚂⚅



 僕としおんは何度も冒険に出かけた。

 ある時はダンジョンの奥でオークと戦い、ある時は砂漠でサンドワームを討伐する。運悪く飛竜ワイバーンに遭遇して逃げ回ったり、大平原で夜通しゾンビと戦って、勝利の朝焼けを眺めたりもした。

 サイコロとルールブック、それに少しの道具。それだけあれば、僕等はいつでも異世界に旅立つことが出来る。


「想像して。ここは教室ではない。彦星ひこぼし君は今、広い砂浜に立っている。波音がして、綺麗なアクアブルーの海水が、脚に寄せては引く。冷たくて気持ちがいい。感じてみて……」


 ゲームの始まりには、しおんは決まってそんな風に、想像を促した。たちまち教室の景色は滲み、そこは異世界の浜辺の景色へと変わる。僕はしおんの声に従って、異世界へと旅立つのだ。


 ちなみに、しおんのようなT(テーブルトーク)RPGの進行役を、DM(ダンジョンマスター)という。DMの仕事は進行役の他、シナリオの作成やダンジョンのデザイン等、多岐に渡る。簡単に言うと、TRPGにおける神。それがDM(ダンジョンマスター)だ。


 しおんはゲーム中、決まって眼帯と包帯を身に着ける。それはちょっと恥ずかしいので眼帯を取り上げようとした事がある。すると、


「やめなさい! アレを呼び出すわよ。そう、私の左目の奥には盟約の戦乙女がいるの。とっても強いんだから!」


 なんて言いながら抵抗するのだ。アレとか、呼び出すとかは、多分、しおんの中二病設定なのだろう。


 さて、冒険に戻ろう。

 この日の依頼は、サハギンの討伐任務だった。海辺の漁村が度々、サハギンの襲撃を受けているらしい。そこは海賊たちの根城でもある。そんな訳で、ライトとヌルヌルは、海賊たちと共同戦線を張ってサハギンの軍団と戦う事になった。

 ライトはレベル8、ヌルヌルはレベル11になっていた。ライトは「解錠」他、いくつかの魔法を習得して「雷撃魔法ライトニング・ボルト」も使えるようになった。この雷撃魔法は、僕の切り札である。


「『しっかりしなさい。来るわよ! でもその前に……』そう言って、ヌルヌルがライトに絡みついて口づけを──」

「──断固拒否する!」

「『拒否するのを拒否するわ。意地でも濃厚接触を──』」

「しない! 僕はノーマルだ。汚らわしい」

「『あうっ。ハア、ハア……もう一回言って……』」

「男の娘ってだけでキャラ濃いんだから、ドM属性まで追加するんじゃない!」


 ライトとヌルヌルは、いつも通りドタバタなやり取りをしている。一方、浜辺に集う海賊たちの顔には、緊張の色が浮かぶ。


「『呑気に構えてる場合じゃねえ。来やがったぞ!』」


 しおんが、海賊になりきって言う。

 サハギンの軍団が、海岸へと押し寄せてきたのだ。

 僕としおんは海賊と陣形を組み、サハギンの軍団との戦闘を開始した。


「『上陸させないで。極力、この浜辺で抑えるんだよ!』」


 ヌルヌルが指示を飛ばす。

 我が陣営からは、矢が、雨のように放たれて、横一列に上陸したサハギンを貫いてゆく。


「『ギョギョ! やられたギョギョ!』」


 しおんが、サハギンを演じて断末魔の声を上げる。

 まずは作戦通りだ。だが、敵も馬鹿ではない。サハギンはこちらの戦術に対抗して、縦一列の陣形を組み、手に大盾を構えて突進してきた。お陰で、矢の攻撃が当たりにくくなる。

 サハギンの群れが、眼前へと迫る!


「『今よ、スター・ライト!』」

「解ってる。ライトニング・ボルト!」


 ライトは、切り札の雷撃魔法ライトニング・ボルトを発動する。


「ライトニング・ボルトの発動を承認しました。バチリ! と、雷光が光って、敵を貫きます。攻撃は8体のサハギンに命中しました。さあ、サイコロを降って」


 しおんの言葉通り、雷撃は直線に並んだサハギン全てを貫通し、一斉にダメージを与える。

 8個の6面体が振られ、33点を示す。サハギンは電撃に弱いから、ダメージは倍になる。よって、8体のサハギンが全滅した。

 この攻撃が決め手になり、サハギンの軍団は総崩れとなる。散り散りに逃げ出すサハギンを、ライトや海賊が射ち倒しまくる。

 こうして、僕らは防衛戦に勝利した。


「ライトはミッションをクリアーして、レベルが上がりました」


 しおんが告げる。ライトは再びレベルが上がった。しおんとの出会いから2週間。いくつもの冒険を乗り越えて、スター・ライトはそれなりに強くなってきた。

 これならば、僕の密かな計画も、実行できそうだ。


「やったわね、彦星ひこぼし君。だいぶレベルが上がったから、そろそろプラチナを助けに向かっても良いんじゃない?」

「そうだね。僕もピンサローと決着をつける頃だと思ってたんだ」

「じゃあ。次の冒険は、いよいよナーロッパ王国でピンサローと対決ね」

「ああ。決着が付いたら、僕もやっと、一区切りがつけられるよ」


 僕の言葉を聴き、ピタリと、しおんの動きが止まる。


「……え? 一区切りって……」


 しおんがやけに不安な顔をする。


「あ、気にしないで。こっちの話だから」


 僕はそんな風に、胸に秘めた気持ちを誤魔化した。


 ピンサローに勝ったら、しおんに告白する。僕は内心、そう、決意していたのだ。


 だが、僕は馬鹿だった。もっと早く、しおんの誤解を解消しておくべきだったかもしれない……。



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