スター・ライトは戦闘する!
「ライトが扉を開くと、そこには一匹の小鬼がいました。小鬼は、妹のプラチナを部屋の隅へと追い詰めて、今にも、襲い掛かろうとしています。どうしますか?」
「勿論、やっつけるに決まってる!」
「じゃあ、イニシアティブの判定……ね」
と、しおんはサイコロを二つ転がす。赤い6面体が敵のサイコロ、青が僕のサイコロを意味している。
数値は、3と5。青が大きい。
「イニシアティブに勝ったわ。先制攻撃が可能よ」
「じゃあ、ショートソードで攻撃だ」
「なら、命中判定ね……」
そう言って、しおんは再びサイコロを振る。
ショートソードの一撃が命中! 僕は、一刀で小鬼を切り捨てた。
「やった。やっつけた!」
僕は少々、上機嫌になる。しおんはそんな僕に、微笑混じりで小さく頷いた。
気がつくと、いつのまにか、しおんの喋り方は流暢で、澱みないものへと変わっていた。どうやら、ゲーム中には緊張が解れ、自然な喋り方になるらしい。
「『お兄ちゃん、怖かったよう』そう言って、プラチナがライト君に泣き縋ります」
しおんが、プラチナになり切って言う。身振りまで交えて、中々、芝居上手である。
「ああ。ここは危険だ。安全なとろころまで逃げよう」
「うん。ありがとうお兄ちゃん。もう、離さないでね」
しおんは軽く上目遣いになる。僕は思わずドキリとして、でも、スター・ライトになりきったまま、ゲームを進行する。
「うん。もう、離さない。さあ、行こう!」
僕はプラチナの手を引いて、家を飛び出した。直後、しおんがサイコロを振り、何かを判定する。
「ライト君が飛び出そうとした瞬間です。外から、一匹の大鬼が家の中に駆け込んで、ライト君を蹴とばしました。ライト君は蹴り飛ばされて壁に叩きつけられ、そこに、大きな衣装棚が倒れ込んで、身動きが出来なくなってしまいました」
「は? いきなり大鬼? 鬼じゃなくて? それに何かな、この展開。家具の下から抜け出せないのか?」
「じゃあ、判定してみる?」
しおんはサイコロを振る。だが、数値は目標値に達しなかった。
「『お兄ちゃん、助けて! お兄ちゃん、お兄ちゃん!』泣き叫ぶプラチナを、赤い眼の大鬼が捕まえて、何処かへと連れ去って行きます。ライト君は追いかけようともがきますが、燃える家の梁が落下して通路を封鎖。妹の姿を見失ってしまいました」
「……くそ!」
「早速、嵌ったわね。でもこれで、オープニングはおしまい、よ」
しおんが悪戯めいた微笑を浮かべる。その言葉通り、僕はいつの間にかゲームの世界に引き込まれ、のめり込んでいた。
僕としおんは、ここでお菓子と飲み物に手を伸ばし、一息吐く。
「これから、どうなるのかな?」
「ここからが本番よ。ライト君は焼け死ぬ寸前で、エルフ仲間に助け出されました。両親は魔物の群れに殺されて、妹のプラチナは攫われてしまいました。ここから、どうしますか?」
「勿論、助け出すよ。プラチナを。こうやって、冒険に出かけるって訳だね。じゃあ、近くに冒険者ギルドでもあるのかな?」
「正解。エルフの集落から徒歩二時間の所には、大きな人間の街があります。そこで装備を整えるも良し、仲間を集めて体制を立て直すも良し。全ては彦星君の判断次第よ」
「ん? 今……」
「え?」
「僕の事、名前で呼んだね。彦星って」
「あ、その、ごめんなさい。馴れ馴れしく、して」
「ううん。良いよ。彦星って呼んで欲しい。だから……」
「だか、ら?」
「君の事も名前で呼んでいいかな? その、しおん。って……」
僕は胸の高鳴りを押し込めて、勇気を出して言う。目の前には、赤面して挙動不審になっているしおんの顔がある。僕から目を背け、脚をパタパタやっている。それがあまりにも可愛らしかったので、僕はもう少しだけ、強気になれた。
「駄目、かな? しおん」
「きゃ。あ、その……駄目じゃない。よ。その、これからもよろしくね。彦星、君……」
「うん。よろしくね。しおん」
言葉を交わして、小指がサイコロに触れる。20面体のサイコロは転がって、20を表示する。
「あ、続き」僕は言う。
「そ、そうね。続けましょう」しおんは照れながら答える。
こうして、僕等は再び異世界へと浸る。
しおんも、再びエルフの族長になりきって、状況説明を開始した。
⚃
しおん、否、族長の話はこうだ。
スター・ライトが暮らすエルフの森には、魔王軍の襲撃があった。
魔王の軍団は、悪い魔法使い、小鬼、鬼、大鬼、暗黒騎士からなり、その頂点には伝説の吸血鬼が君臨している。襲撃の目的は、エルフの至宝、七枝の剣の奪取である。残念ながら、剣は奪われてしまった。
ちなみに、妹のプラチナは特殊な血液型の持ち主であり、剣に次ぐ、第二の侵攻目標だった。このままでは、まず、間違いなくプラチナは魔王ポルノスキーへと差し出され、血を吸われて殺されてしまうだろう。プラチナを攫った大鬼は、魔王軍きっての勇者にして鬼族の英雄、ピンサローだという。
「ん? じゃあ、ピンサローって大鬼が村を襲ったのか。で、魔王は吸血鬼?」
「そう。伝説の吸血鬼ポルノスキーが魔王。で、ピンサローは六大軍団長に次ぐ実力者よ」
「なんとなく、状況は分った。じゃあ、早速装備を整えて、プラチナの救出に向かうよ」
「ええ。それならば、半焼した自宅で装備を整えると良いわ」
「うん。物置小屋が燃えなくて助かった」
僕はしおんと言葉を交わし、キャラクターシートにアイテムを書き込んでゆく。
エルフの里で得た道具は、一振りのショートソード、皮鎧、四日分の保存食、狩猟弓と、20本の矢。それと、120ゴールドのお金。初期装備と必須アイテムが一通り揃った。
あとは、仲間か……。
こうして、スター・ライトは旅立った。
さしあたっての目的地は、近隣の人間の街である。その街の冒険者ギルドで仲間を集め、ピンサローに戦いを挑む算段だ。
そんな風に、僕はいつの間にか、完全にスター・ライトとして考え、行動していた。