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僕はしおんとゲームする。


 ⚁


 僕としおんは帰り道、公園に立ち寄った。

 公園のすぐ傍にはコンビニと自動販売機があったので、僕としおんは飲み物とおやつを購入した。公園の真ん中には屋根付きの休憩スペースがあり、そこにはテーブルと椅子も備え付けられている。僕と遠山しおんはそこで、腰を下ろして話し始めた。


「じゃ、じゃあ、説明する……ね」


 早速、しおんのレクチャーが開始される。


「TRPGでは、まずはキャラクターを作成するの。サイコロを振って能力値を決めて、種族や職業を選択する。キャラクターの情報は、キャラクターシートに書き込んで管理するの。キャラクターシートには、イメージイラストを書き込んでも良いの、よ……」

「ふうん。世界観は普通のファンタジーRPGと同じなんだね」

「ええ。じゃあ、早速サイコロを振ってみて」


 僕はしおんに言われ、3つのサイコロを数回、振ってみる。

 ルールブックを見ながら数値を確認すると、腕力ストレングスと、知性インテリジェンスが高い。戦士とか魔法使いになれそうだった。


「そ、その能力だったら、魔法使いになれるわ。腕力も高いから、戦士にもなれる。人間の戦士か魔法使い。そうでなければ、エルフの冒険者にもなれる。どうする……?」

「へえ……だったら、エルフの冒険者をやってみようかな。成長は遅いけど、剣も魔法も使えるのは魅力だ」

「じゃあ、エルフで決まり、ね」


 と、しおんは屈託のない微笑を浮かべる、そのあどけない眼差しが、僕の奥に突き刺さる。

 僕はしおんに勧められ、キャラクターのイラストも描いてみた。薄水色の長髪をした、エルフの少年。弓矢を構え、長剣を背負っている。


「わあ。すみ君は絵が上手なのね。凄い……」

「そ、そうかな?」

「ええ。とっても綺麗。それに上手! 凄い、凄い……凄い!」


 しおんは僕の絵を見て、無邪気に笑う。

 ちなみに「すみ」とは、僕の苗字である。本名はすみ彦星ひこぼし。申し遅れて申し訳ない。


「じゃあ、早速始めましょう。ルールは追って説明する。まずは、習うより慣れろ。よ」

「うん。始めよう。どうしたら良いのかな?」


 僕が言うと、しおんはそっと、僕の組んだ手に触れる。しおんの華奢な指から、仄かな温もりが伝わってくる。柔らかく、儚い。そんなかけがえのない質感が、僕の脳幹を貫いた気がした。僕は思わず呼吸を止める。胸が高鳴って、身動き出来ずにいる。

 一方、しおんは不思議そうな面持ちで、僕の眼を覗き込んでいる。綺麗な瞳が夕日を湛え、この時間特有の、魔法の気配を孕んでゆく。


 すう。と、しおんは息を吸う。



 ⚂



「想像して。ここは九月の公園ではない。辺り一面は雪で、すみ君は雪原の真ん中にいる。貴方はそこに一人で立ち尽くしているの。遠くからは、金属を打ち付け合う音がしている。明け方の空は雪雲で覆われて、頬には雪がポツポツ当たる。冷たい? 感じてみて……」


 しおんは真剣な眼差しで言う。

 僕もしおんを見つめ、イメージする。見渡す公園には、ちらほらと雪が降り始め、それは雪原へと変わってゆく。空気が、冷たさを増す。風の音に混ざり、遠くからは剣を撃ちつけ合う音がする。僕は雪に足を取られながら、音へと歩み出す……。

 それは人間誰しもが持つ、想像力という名の魔法だった。そう。僕等は想像力一つで何処へだっていける。それが異世界であっても。


「貴方の名前は スター・ライト。彦星ひこぼし君の名前から星の字を貰って、スター・ライトよ。どうかしら?」

「うん。気に入ったよ」

「じゃあ、行きなさいライト。貴方の集落が襲撃を受けている。両親と、可愛い妹を救うのよ!」


 しおんに言われ、僕は駆け出した。

 雪原の向こうには森があった。森からは煙が上がり、燃え盛る炎も見える。悲鳴に怒号、争いによる破壊音。それらがひと塊となって、冷えた身体に押し寄せる。

 僕、否、ライトは、走りまくってエルフの集落へと辿り着いた。


「ライトは集落へと辿り着き、辺りを見回します。すると家々には火がかけられて、里で一番のご神木も燃えている。ライトは慌てて自宅へと向かい、扉を開けました。すると……」

「すると……?」


 僕は早くも物語にのめり込み、しおんの言葉を待ちわびていた。しおんは続ける。


「家の奥から女の子の悲鳴が聞こえました。妹の『プラチナ』の声です。さあ、スター・ライト。貴方はどうしますか?」


 しおんの瞳が不敵に僕を捉える。


「助けるに決まってる! でも、僕の武装は?」

「ふふ。良い感じね。こほん。では、ライト君は部屋の中を見回しました。すると、暖炉の上部には、ショートソードと狩猟弓がかけられています」

「じゃあ、まずは剣を」

「部屋の隅には皮鎧も置かれているわ」

「着替えている暇はない。手遅れになる!」


 そう言って、僕は剣を引っ掴んで家の奥へと駆け出した。



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