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王様との謁見

夜会の翌日の早朝、レイはカヌイら重臣に丁重に扱われ、静かに子爵家を後にしアリセナ国への帰路に着いた。


二国の国境を越え、アリセナ国の王宮リガートに着くまで、半月余りの時間が経った。


レイは独り馬車に乗って旅路を過ごしたが、時折宰相であるカヌイが仕え、レイにアリセナ国の国政について話をした。

クルート国の田舎街で育ち外交など学問にはほとんど無縁の時間を過ごしたレイには新鮮な情報であったが、今のレイの頭の中にはほとんど残らなかった。


レイはいつ片時も忘れず、ずっとナタリーの安否を心配していた。

カヌイら臣下は例え相手が王女様だとしても、ナタリーの現状についての詳細は決して口を割らなかった。


絶望と孤独に苛まれていたレイにとって、リガードに着き少しでも愛する母親に近づくことができるのが唯一の救いであり、微かな希望であったため、アリセナ国への帰還を拒むことは絶対にしなかった。


「王女様、本日は自室でお休みになられませ。」


とうとう夕刻過ぎにレイ達がリガートに着き王城に入ると、レイはカヌイからそのまま城の奥の部屋に案内されて入った。

記憶に残る昔から初めて入るアリセナ国の王宮は眩しいほど豪華な造りであったが、自分の部屋と通された広間もレイは想像を絶する衝撃だった。


そこには今まで住んでいた家屋の数十倍はある広い居間と寝室があり、ところかしこに可愛いらしい装飾と家具が揃っていたのだ。

思わず少女の心を擽る様な正しく王女様の部屋に、レイは自分は本当の王女様なのだと受け入れずにはいられなかった。


「エヴリ王女様。こちらはエヴリ王女様が産まれた時から用意されていたお部屋でございます。食事は部屋まで運ばせますし、早朝メイドがお部屋に来て謁見へのお支度の手伝いますので、それまでゆっくりとお休みください。」


カヌイはそう告げて深く会釈すると、レイの部屋を後にした。


レイはやっと一人になっだ、結局こんな生活空間はなんだか落ち着かなくて、寝室から広いバルコニーに出た。

高い城の下を覗くと、ローレフの田舎街よりもはるかに多くの街灯の光が輝く城下町が目に入った。


「ここがアリセナ国。私が産まれた国なのね。」


しかし余韻に浸る間はなく故国に戻り自分の立場を最認識したレイは、現実を受け止めなければいけなかった。

早くも明日には自分の両親である王族との謁見を控えており、未知の生活が待っていたのだ。


しばらくして、レイは天幕のある大きなベッドの上に身体を飛び込み朝までぐっすり眠ってしまっていた。



そしてレイは早朝、メイドに声をかけられて起こされた。


「エヴリ王女様。」

「…すみません。おはようございます。」


レイは真正面からメイドに見つめられ囁かれた声で目を覚まし、飛び起きた。

そして産まれて初めてメイドに起こされたことに、レイはどう反応すればいいこか分からなかった。


「エヴリ王女様、ご挨拶遅れました。私、王女様のお世話をさせていただくことになりましたメイドのアリアと申します。」

「よろしくお願いします。」


アリアは色白で茶髪黒目で可愛らしい顔をしており、多分自分と同年代のようだった。


レイはまるで着せ替え人形の様に、アリアによって黄色の丸くふわりと広がるフリルのドレスに着替えをしてもらった。

そして髪を編み込み高く結ってもらい、丁寧に化粧をされた。


小一時間して完成した、鏡の中の自分は子爵家での夜会よりもはるかに豪華な装飾に包まれていたが、レイはあの時のような優雅な気分には乗らなかった。


「素敵な王女様ですね。」


しかしアリアは優しく口元を緩ませ、微笑んだ。

アリアは穏やかな雰囲気の持ち主で、王様との謁見に向けて緊張していたレイの気持ちを和ませてくれた。


「しかしエヴリ王女様、そのネックレスは外せますでしょうか?」

「そうですか、分かりました。」


そう言うとアリアは最後にレイがずっと肩身離さずつけていた藍色のアクアマリン石のネックレスを外し、大粒の真珠のネックレスをレイにつけた。

レイはずっと大切に付けてきたネックレスを小物入れに入れ、しばらくはそこに置いておくことに決めた。



そしてカヌイが再び姿を現し、レイはアリセナ国王らの待つ王室へと向かった。

レイとすれ違った臣下や使用人は皆頭を下げて跪いていた。

王城ではもう既に自分は王女様であることを、レイは受け入れるしかなかった。


王室に入ると、玉座にアリセナ国王ーオーウェンとマヤ王妃様、そして脇には重臣だろう臣下が数名跪き仕えていた。

レイはオーウェン王様らの熱い視線を強く感じながらも、目を合わせず玉座の下に跪いた。


「…顔を上げよ。」


すると、部屋中に重低な声が響いた。

レイはゆっくりと顔を上げ、オーウェン王様の顔を見た。


「長旅でさぞ疲れたことであろう。エヴリ王女様が生きて、アリセナ国に戻って来てくれたこと、父親として嬉しく思っておる。王宮で慣れない生活であろうが、王女として励んでくれ。」

「はい、オーウェン王様。」


そこには愛娘の帰還に笑みが溢れて抑えられない歓喜が感じられる、穏やかな王様がいた。


黒髪茶目でもう直ぐ還暦を迎えるオーウェン王様。

しかしオーウェン王様は大人しく二回りも若いマヤ王妃様や宰相の言いなりで国外からも不評の王様であることを、レイは知っていた。


オーウェン王様の隣には、冷徹な女と噂される若い王妃様ーマヤがいた。

淡い栗色の髪で黒色の切れ目を持うマヤ王妃様は肘掛けについた右肘の上に顔を乗せ、左手で扇を振りながらレイの本当の名前を呼んだ。


「エヴリ」

「はい。」

「いずれあなたは国を背負う女王となります。立場を弁え、王宮で勉に励みなさい。」


マヤ王妃様の強い視線に、レイは思わず顔を俯き頷いた。

オーウェン王様は咳払いをして老いた白髪の女性の臣下に目配せすると、レイの隣へと跪かせた。


「来月にはエヴリ王女を皆に披露させたい。王女の教育係として頼んだぞ、エステル。一ヶ月もあればよかろう。」

「はっ。王様。」

「あら、王様。一ヶ月じゃ足りませんでしょう。この立ち振る舞いから。」


マヤ王妃様は素早く口を挟むと、一人甲高い声で笑った。

オーウェン王様を除く皆は、マヤ王妃様傲慢な態度を見ていられず目を逸らした。


「この子は野蛮な国で育ったのですよ。それも花を売っていたと聞きましたわ。その泥臭い赤切れた手が清められるまで、時間もかかることでしょう。三月待ちましょう、世話が焼ける王女様には。ふふふふっ。」


罵声を浴びせられ、レイは貶された自分の手を力強く握りしめ歯を噛み締めて思った。


『この手は大切な母と共に懸命に働き生きてきた証だ。』



「マヤ王妃は無理はするなと言いたいのだろう?エヴリ王女、三月後を楽しみにしておる。では話は以上だ。」


オーウェン王様は顔を引きつりながら苦笑し、マヤ王妃様の失言を誤魔化した。

そしてレイがエステルに連れられ謁見を終えようとしたその時、レイは大切なことを思い出した。


「すみません。私を育ててくれた養母もこの国に送還されたと聞いています。今はどうしているのでしょうか。」


レイの懇願に、柔らかいオーウェン王の表情が変わったのが分かった。

レイも覚悟をしていたが、敵国であるクルートで判明したエヴリ王女様の誘拐事件は国政的に一大事であった。


「…そなたの養母は、これから裁判にかける。罪状はその時に決まる。」


オーウェン王様が冷静にゆっくりとそう告げ、レイは酷く落胆した。

その様子を見たマヤ王妃様は嘲笑いながら、再びレイを貶した。


「あら、我が国のたった一人の王女を自分を誘拐した女にまだ情があると言うの?愚かな王女だこと。」


マヤ王妃様は椅子から立ち上がり、扇子の先をレイとエステルに交互に向けた。

荒ぶる声に、オーウェン王様は頭を掲げたがまるで見て見ぬふりのように目を逸らしていた。


「貴方が何を言おうと無駄なことはお分かりではない?私、初めに言ったでしょう。王女としての立場を弁えろと。二度も言わせないで。情けないから。エステル!」

「はい。」

「王女教育頼んだわよ。こんな無礼な態度を二度とさせないようにね。この国に相応しい王女にならなかったとき、貴方の生家ノーザンはどうなっているかわかっているかしら?」

「はい、マヤ王妃様。努めます。」


マヤ王妃様は憤慨しており、オーウェン王は呆れながらエステルにレイを連れて早く去るよう相槌をした。

そうして追い出されるかのように、二人は王室を出た。



レイは自室に戻ると、ソファーに座り頬を抑えて深く呼吸をした。

謁見から緊張と動転していた心を落ち着かせようとレイは必死であり、それを見たエステルはレイの足元に跪き背中を摩っていた。


「ありがとうございます。」


レイはか細い声でエステルにそう呟いた。

エステルは背中を摩る力を強くし、優しく話し出した。


「エヴリ王女様、よく堪えましたね。王女様の心情も分かりますが、養母の件はオーウェン王様やマヤ王妃様には二度と言及してはいけません。」

「でも…マヤ王妃様は私が養母が誘拐されたと誤解されてました。」

「誤解…ですか。オーウェン王様達がずっと王女様をお探しに心配されていたご心中も察してください。そしてどうかエヴリ王女様。貴方はこの国の立派な王女様となることを先に考えていただきたい。」

「…そうですよね。」


『私が頑張れば、オーウェン王様達が事件に対する私の意見を聞いてくださる時がくるかもしれない。』


しかしレイにとってオーウェン王様達は血のつながりのある実の肉親であっても、ここまで育ててくれたナタリーを想う気持ちの方がもちろん優っており、ナタリーを救うことが最も大切だと思っていた。

それにマヤ王妃様の自分への態度は明らかに憎悪を持っており、いずれ自分は女王となった時マヤ王妃様の傀儡となるよう仄めかされているようだった。



「…エステルは王室にずっと仕えているのですか?」

「いいえ、私は高位の貴族である王妃様の家に仕う者であり、王妃様と共に王宮におりました。」

「そうですか。」


レイはエステルが自分に仕えることになったとしても、ただ一族としての王族への宿命を果たしていくのだろうとすぐに感じ取った。

そしてエステルは扉の外から一人の青年を呼び、レイに紹介した。


「エヴリ王女様に仕える護衛騎士でございます。」

「エヴリ王女様に仕えさせていただくことになりました、ゼロ・ウィリアムと申します。」


ゼロは背が高く色白に黒髪が映える美少年だった。

しかしすぐさま自分の下に跪くゼロの姿に、慣れたくはない光景だとレイは思いついため息を溢した。


「…よろしくお願いします。顔を上げてください。」

「エヴリ王女様…!」


一見クールのようなゼロだったがレイの顔を見た瞬間声を上げ、両手で自分の口を塞いだ。

エステルは顔をしかめ、ゼロの背中を小突き咳払いをした。


「…私の顔がどうかしました?」

「いや…。」


レイはゼロの思わぬ表情に緊張が解け、表情を緩めてそう聞いた。

エステルはゼロの脇で頭を深く下げ、思いがけない事実を言い放った。


「実はエヴリ王女様にとって、ゼロは従兄弟でございます。」


レイはあまりの驚きに目を丸くし、言葉を失った。

こんなにも早く親戚に会うことになろうとは思っていなかった。


「マヤ王妃様の姉様の息子がゼロでございます。血縁関係もあることで、王女様がゼロを親しみやしく支えになれる存在になれればと思い仕えさせることになりました。」

「エヴリ王女様。最初から無礼な態度をしてしまい申し訳ありません。命をかけて王女様をお守りします。」


エステルに見守られ、レイはゼロの差し出す手を取り、思わず笑みが綻んだ。


『例え過酷な運命になようと、自分に仕える者と共に前に進まなければいけない。』


レイは希望を捨てずに生きていくことを誓ったのであった。

そしてゼロとの出会いが予期せぬ事実へと繋がる意図的なものであったと知るのは、もうしばらく先のことであった。

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