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苦渋の決断

エルベラにてレイは身重の身体を自愛しながら、大好きな花に囲まれて穏やかな時間を過ごしていた。

ローレフで培った知識と経験を生かして、レイはレオに手伝ってもらいながら、エルベラの地に花や草木を植えていたのであった。


レイが出産まであと二ヶ月を控えた時、レイはリリィから大祭壇に呼ばれた。

その日のリリィは表情が険しく、レイはなんだか悪い予感がしていた。


「レイ様に伝えなければいけないことがあるのです。」

「リリィ様。なんでしょうか。」


そしてリリィが重い口を開いて話した内容は衝撃的なものだった。


「…私がマリアだったんですか…?」


それは病を患ったアリセナ国の刺青師が、最期にリリィへ懺悔した内容だった。


アリセナ国の刺青師は代々アリセナ国の王族に仕える子孫で、エヴリとマリアの右腕にストックを彫った張本人だった。

マヤ王妃様の命令の下、産まれて間もないエヴリとマリアの右腕に刺青をした刺青師は、やがて二人の名前を逆に彫っていたことに気付き、過ちを犯したことに気付いた。

つまりレイはオーウェン王様の亡きアイナの子供、マリアはオーウェン王様とマヤ王妃様の子供で、マリアこそが本物のアリセナ国の正当な王女様であった。


レイは衝撃の事実に驚愕したが、マヤ王妃の余所余所しく悪意のある態度を思い出すと、しっくりときてしまった。

しかしマリアはマヤ王妃様へ恨しみを込め逆襲を仄めかしていたことを思い返すと、レイの全身に鳥肌が立った。


そんなレイにリリィは後ろから抱き寄せると背中を撫で、もうレイに一つ話さなければいけないことを告げた。


「実はエヴリ王女様に仕えていたエステル様が猛毒を受けエルベラで療養されていたのですが、最期にレイ様とお会いしたいとのことです。レイ様、エステル様とお会いになりますか?」

「はい、分かりました。」


しかしレイは声が震えており、しばらくリリィが側で寄り添ってくれた。

そして気持ちが少し落ち着き呼吸を整えたレイは、リリィの付き添いの下でエステルと再会することとなったのである。


エステルはレイと会わないうちに、すっかり白髪が濃くなり、痩せ細っていて青白い表情をしていた。

ベッドから起き上がることのできないエステルは、自室に訪れたレイの顔を見て、柔らかく微笑んで目配せした。

その隣にはエヴリに仕えていたメイドのアリアがいて、エステルに寄り添っていた。


「お久しぶりでございます。レイ様。」


アリアがそう言うと、エステルはレイの姿を見て一筋の涙を伝わせていた。


「ご無事で何よりです、レイ様。」


そしてエステルは震える声でそう言うと、僅かな力で身体を起こしレイの手を取った。


エステルの隠し子だったというアリアがエステルの代わりに、エステルがレイに向けていた特別な想いを伝えた。

そしてアリアは、エステルがマヤ王妃様へ取り返しのつかないことをしたことをリリィに懺悔した。


「お母様はマヤ王妃の毒殺に失敗し、身体を壊されました。そしてそのことをご存知になったエヴリ王女様は、お母様に代わってマヤ王妃様に少しずつ毒を盛るようになったのです。」


レイは強く衝撃を受け、軽く目眩がしたのをリリィが後ろから支えた。

最も血が濃い片割れーマリアが行なっている、悲劇の連鎖に絶望した。


「マリアはマヤ王妃様を殺そうとしてるのですか?」

「…そうです。私はマヤ王妃様を憎むエヴリ王女様に、マヤ王妃様がエヴリ王女様の本当の母親だと言うことを言えずにここまできてしまいました。」

「マリア…。」


そしてリリィは二国間の戦争の近況をレイに語った。

最早リガードはクルート国に占領され、マリアとマヤ王妃様がアデナ城に兵を集めて籠城しているとのことだった。


しかしどれだけアリセナ国が国中きら兵を集めても、セラ達の率いる屈強なクルート国軍が攻め入れば、アリセナ国が滅びるのはもう時間の問題だった。


レイは血を濃く分けたマリアが、セラの手に失うことを恐れた。

またそれ以上にまたマリアがその手で、本当の母親を殺めようとしている事実に絶望した。


しかし殺伐とした外の世界とは打って変わって、穏やかに過ごしてきたレイは一抹の覚悟をしてリリィに言った。


「私がこれからアデナ城に行くことは可能ですか?」

「レイ様…それは。」



レイは次期大聖女を宿した身重の自分がエルベラを出ることをリリィから反対されるだろうことは重々承知していた。

しかしこれ以上悲劇を繰り返すことを、レイは恐れた。


「…レオ様と共に行ってくれるのであれば許可します。ここからアデナ城へは二日もあれば着くはずです。」

「分かりました。リリィ様は、レオに事情を話せば私がエルベラを少し離れることを許してくださるのですね。」

「はい。これは、アリセナ国とエヴリ王女様の未来に関わる大切なことです。私は、これはレイ様にしかできないことだと…思います。お身体のことは大変不安ですが、私からもよろしく頼みます。」


苦渋の決断をしたレイとリリィを遠目に見ていたエステルは、微笑んでいた。

そしてそのままエステルは息を引き取った。

レイはゆっくりとエステルを見送ることができないまま、旅路の支度をしレオを部屋に呼んだ。



「レイ、どういうことだよ。これらアデナ城へ行くなんて。」

「ごめんなさい…詳しいことは話せないの。でもね、私にしかできないことなの。」


レイがレオにアデナ城へ付いてきてもらうことを頼むと、レオは困惑していた。

間も無く臨月を迎えるレイの身体を考えると、レオはレイの理由がどんなに大切だろうとすぐに首を縦にすることはできなかった。


「レイ。俺はエルベラにいてもレイのことが心配なのに。今、この二国中で一番危険なところにレイを連れて行くなんて…。」

「お願い。レオにしか頼めないし、できないことなの。」


レイは深く頭を下げて、レオが了承するまで顔を上げるつもりはなかった。

直接マリアに会って話をすることが、レイは自分の最期の使命のように感じていた。


「分かったよ…でも。」

「でも?」

「いくら距離が遠くないとはいえ、レイの身体が辛くなったらすぐ引き返すからね。レイがマリアに会う理由は、きっと二国が関係する重要なことなんだろう。でもレイの身体はレイにしか守れないんだよ?」


レオの言葉はレイの胸に突き刺さった。

レイのお腹に宿っている命は、大切な人との子供だ。

レイが向こう見ずに突っ走り焦っていた気持ちが、レオの言葉で少し落ち着いたような気がした。


「…ありがとね。レオ。」

「俺はレイもその子も大切だから。」


レオはそう言うと、レイの頭を優しく撫でた。

レイは自分のせいで優しいレオを縛り付けていると思っていた。

しかしいつまでも自分に着いてきてくれるレオに感謝し、ついその胸の中に飛びこんでしまった。


「レオ、本当にありがとう。」


『私が死んだら、レオは素敵な人に出会って恋をして幸せになれますようにー。だけど、私がこの世を去るその日までは少し甘えさせて欲しい。』


レイは身勝手なことを思いながら、レオの胸の中に顔を埋めた。


一方のレオはきっと一生報われないレイへの想いに覚悟しながら、優しく抱きしめレイに対して愛しさで溢れていた。


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