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王城に残された者

セラは辛い毎日の中でも、一時もレイの存在を忘れることはなかった。

セラ自身、戦いの合間に何度かエルベラに文を出したが、レイから返事が返って来ることはなかった。


愛する者を置いてきたこと自責感は決して消えることはなかったが、クルート国のどこかで無事に生きてくれることを、毎晩願っていた。



季節は移ろい、長い冬が明け春がやって来ていた。

この短期間の間に、セラ達クルート軍はクルート国からアリセナ国で起きていた戦場の全てを鎮静し、アリセナ国の兵を撤退させることに解決した。


しかしどんなに軍勢がクルート国に傾こうと、アリセナ国の王族からは降参の声はおろか、未だ何も便りがなかった。

セラはカラの軍策の通り、途中で合流した多くの軍勢を携えて、再びアリセナ国の王都リガートへ赴いたのである。


「アリセナ国が滅びるのはもう時間の問題ね。」


リガードの王城を前にし、得意の弓矢で戦争を駆け抜けた、たった一人の女騎士フィンはそう言って高笑った。


そんなフィンに対し、もう一人のセラの片腕のロクは変わらずフィンの自制役を務めた。

ロクはここまで大剣を使い、セラの身を第一に守ってきた。


「フィン。セラはアリセナ国を滅ぼそうとなんてしないはずさ。そうだろう?」

「滅ぼすつもりは…なかったが。」


セラはそう重い口調で言った。

しかしまさに自分らがこれからリガードに斬りかかれば、アリセナ国が滅びるのは確実だった。

それほどアリセナ国は半年の間で多くの兵を失っていた。

そしてアリセナ国の国政が大きく変わっていたのだ。


「王様がいない国など、統率が取れないのは当たり前だ。」


ゼロはそう言い、母国アリセナを卑下した。


二国の戦争が始まって間も無く、オーウェン王様が病に伏せていたのである。

オーウェン王様の代わりに王妃様が国を取り纏め、宰相のカヌイがアリセナ国を指揮してきた。

しかし最近王妃様も倒れたとの噂が、戦場にも聞こえて来ていた。


元々アリセナ国は王権主義であり、国民達は不平不満を内に持っていながらも従っていた。

アリセナ国民は、二国の戦争の中での圧倒的なクルート軍の力を目にして、すっかり戦気を失っていた。

むしろ母国が滅びることを望んでいるアリセナ国民も多かった。


「しかし、ゼロが見込んだ者がこの王城にいるんだろう。」


半年の短い時間を経て、セラはついに大勢の兵を抱えアリセナ国の王城に突入しようとしていたが、決して油断はしていなかった。

アリセナ国の王族にはゼロの生来の希望である、決して一筋縄ではいかないだろう王女様ーマリアがいたからだ。


「マリア王女様…。」


そうマリアの名を呟いたゼロの脳裏には未だ愛する女の幻影が映っていた。

セラは此度の戦争で、マリアの存在だけをただ不安視していた。


アリセナ国で多くの兵力が失われたのにも拘らず、クルート国軍はリガードに辿り着いた。

その理由はオーウェン王様や宰相が愚かに母国を手放さそうとしてるだけではないとセラは感じていた。


しかし一抹の不安を抱きながらも、一刻も早く戦争を終わらせられるよう、最後の戦地となるアリセナ国王城へセラは出陣したのである。



リガードの街は閑散としており、王城内の護衛兵もほとんど手応えがなくすぐにセラ達クルート軍は王宮へと侵略が可能になった。

そして間も無く、セラはロクと多数の護衛を連れて王宮へ入ったが、そこには一人の中年の男性だけが平伏していた。


「とうとう王城を侵略なされましたね。クルート国第一王子、セラ。」


そう言って王宮内に響くように高笑いしたのは、アリセナ国の宰相カヌイだった。


「カヌイ。オーウェン王はどこだ。」


セラがそう言うと、護衛達が剣を向けながら慎重に王宮内を探った。

しかし王宮内にはどこを探しても、カヌイ以外の誰もいなかった。


そしてロクが捕らえたカヌイの首元に剣先を向け王族の居場所を吐かせようとした時、扉が勢いよく開いた。


「セラ王子様。オーウェン王様は寝所で既に殺されていました。」


そう言ったのは、王城内をよく知っているため別行動させて王族を捜索させていたゼロだった。


しかしアリセナ国の運命を左右する重大で悲惨なオーウェン王様の死にすら、カヌイは顔色を変えなかった。

カヌイはしばらくして、吐露した。


「…私がオーウェン王を殺した。」


そう言ったカヌイはまだ口角が上がり、笑ったままだった。

そんなカヌイの不気味な態度にセラは身震いした。


セラはロクに目配せし、ロクが身につけていた縄でカヌイの四肢を縛り上げさせた。

カヌイは今回の二国の戦争の首謀者であり、戦争のために多くの人を騙し他にも大罪を犯していたことが報告されていた。


「エヴリ王女様が赤子の時にクルート国に攫われたのも、お前の命令だったと聞いている。」

「あぁそうだ。しかしそれはクルート国の王子に責められることではないのではなかろうか?そうか、エヴリ王女への恋慕からか?殺すはずが情が移ってしまった愚かな王子め。」


カヌイはセラの感情を効果覿面に触発して、セラを逆上させていた。

セラは愛するレイの運命を狂わせた当時者に対し怒りを露わにし、つい掌に力を込めていた。


そんなセラの背をゼロが軽く叩くと、セラの冷静さを戻した。


「カヌイ。マヤ王妃様とエヴリ王女様はどこだ。」


しかしセラの問いかけはもうとっくに遅いようだった。

高笑い笑いが止まらないカヌイを前に、ゼロがセラの耳元で呟いた。」


「セラ王子様、王城内を何処を探しても二人の姿はもうありませんでした。」

「マヤ王妃とエヴリ王女様がいないだと!どういうことだ、カヌイ!!」


セラのカヌイに対する憤怒が怒鳴り声として、王宮内に響いた。

その時、王城外で護衛をしていたフィンが軽々と王宮に現れ跪きセラに告げた。


「セラ王子様、アリセナ国とクルート国の国境付近にあるアデヤ城にて戦火ありとの報告が。そこにマヤ王妃様とエヴリ王女様がおられるそうです。そしてリガードよりも多くのアリセナ国の兵が集まっているようです。」

「なんだと…!」


セラは悔しさで叫ぶ姿に、カヌイはにやけていた。

事の顛末をカヌイは知っており、またカヌイがまたもや運命を左右した事をロクは気付いた。


「こやつめ。」


珍しく感情的になったロクは、そのままカヌイを弑殺しようとした。

セラは即座にロクの両腕を掴み、床に平伏すカヌイを見下したまま言った。


「一つ確認したいことがある。お前がこの戦争を始めようとした理由はなんだ。」

「ははははっ、この場においてそんなことを聞くのですか。戦争を起こしたのは、こんな愚かな国をぶち壊してしまいたかったからですよ。」


そしてカヌイはまたセラを見下し、笑いが止まらない姿に憤怒したロクはカヌイを投げ飛ばすと、カヌイは頭を強く打ち気を失ったようでその場に倒れた。

セラは一呼吸吐き、仲間たちに頭を下げて言ったのであった。


「ご足労をかけてすまない。皆、アデヤ城へと急ぐぞ。」


それはセラにとって初めての戦争で、初めての失態であった。

しかしセラを慕いここまで着いてきた仲間たちは、憎まれ口一つ言わずにセラに付き従い、アデヤ城へと着いて行った。


セラは後に、アデナ城で二国の運命が変わることが起きていたことに気付くのであった。



最終幕始まりました。

よろしくお願いします。

最終幕は視点がところどころ変わります。

次回はマリア編になります。


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