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二度目の別れ

シェリーの葬儀はエルベラで、静かに粛々と行われた。

シェリーがテン王様を想う遺言で、テン王様には病状だけでなくその死を伝えることもなかった。

しかしシェリーの葬儀が終わった翌日、早朝からセラは慌てるようにレイの部屋に来て言った。


「今日、テン王様がエルベラに来られるみたいなんだ。」

「どうして…テン王様が?」

「ミーナがテン王様に、母親のことを手紙で綴って送っていたようなんだ。」


セラはそう言うと、ミーナからの手紙を渡してレイに見せた。

ミーナからセラに綴った手紙には、シェリーの死を偲ぶ言葉とテン王様に母親のことを伝えた内容が書かれていた。


「レイ、父に…」

「セラ、私をこれから下女のように扱ってね。カルメン様に頼んで服も着替えてくるわ。」


レイはセラからの言葉を遮るようにそう言って、部屋を出て行った。

テン王様がエルベラに来ることは、セラとの別れを意味していることをレイはすぐに悟ったからだ。

しかしレイはセラとまだ離れたくない気持ちを持っており、強引にもセラの側にいる方法を考えてしまっていた。



それから間も無く、テン王様は数人の護衛をつけてエルベラに現れた。

テン王様はテティと謁見すると、セラと再会し二人きりでシェリーの墓前へと向かった。

レイは下女に変身した姿で、セラとテン王様を木の影からずっと見守っていた。


テン王様はエルベラに持って来た大量の白百合を、シェリーの墓の周りに添え、一輪の立派な赤い薔薇を墓前に置いた。

後者の花は仏花として相応しくなかったが、テン王様のシェリーへの深い愛が伝わるようだった。


そしてテン王様はシェリーの墓前に跪き、声を出して泣いていた。

レイはふと、育ての父ーリュウがいきなり事故で亡くしてしまった日のことを思い浮かべた。


リュウが事故で突然死した後、ナタリーもレイも数ヶ月は立ち直ることができなかった。

愛する人を突然失うことは深い悲しみを伴うことをレイは身をもって知っていた。


しかし愛する人の病すら詳しく知られされず、亡き後でしか会うことができなかったテン王様の悲しみをレイは計り知れないと思ったり



そしていつの間にかエルベラに夕暮れが訪れ、レイは部屋に戻った。

しばらくしてセラは険しい顔をして、部屋に戻って来た。

レイはセラに会った時、覚悟を決めていた。


「レイ。明日、私は王様とハルクへ戻ろうと思う。」


セラが話したことは、レイが前もって予期していたことだった。


クルート国でも戦火が広まっている中、テン王様のエルベラへの訪問は異例であった。

そして第一王子様のセラも、王都ハルクへ戻ることの一刻の猶予がなかった。


「そうですか。ハルクまでの帰路のご無事を祈っております。」


レイがそう伝えると、悲しい目をしたセラはレイの手を取った。

そしてセラはレイを真っ直ぐ見つめて言った。


「レイ、一緒にハルクに来てくれないか。」


レイの返事は決まっていた。


レイはセラの手を静かに払うと、全身鏡の前に立って被っていたフードを取った。

レイの赤く染めていた髪の根元が、元の亜麻色に戻ってきていた。

自分はいくら変装したところで、敵国の王女様に似た容姿は変えられないのであった。


「セラ。私は、セラと生きる覚悟がないの。」

「レイ。私はもうレイなしで生きていくことはできないんだよ。」


レイの拒絶に、セラは声を震わせながら、俯くレイを後ろから抱きしめた。

レイは抱き寄せるセラの手を掴んだ。

セラの気持ちに対してレイは、胸が苦しくなるほど共感してしまっていた。


「セラ。離してください。これ以上は別れるのが辛くなる。」

「なぜ、愛し合ってるのに別れなければいけないんだ?」

「それは私がセラを…。」


レイの言葉は向かい合ったセラの唇に遮られた。

熱い口付けで全身に熱が迸った。

そしてそのままレイはセラにベッドの上に押し倒されていた。


セラはレイに覆いかぶさり、首筋に口付けをした。

そのベッドの振動でサイドテーブルに置いていた花瓶が落ちた。


それは一輪の白百合の花で、レイがシェリーを弔い置いていたものだった。

その花を見たセラは理性を取り戻し、レイに頭を深く下げた。


「レイ。すまない…。」


そう言って身体を起こそうとするセラを、今度はレイが隣に押し倒し深い口付けをした。


「私はもう堪えられません。最初で最後の夜にしましょう。」


レイの言葉はセラの理性を崩した。

そしてレイとセラは欲望に溺れ、互いを求め合った。

例え明日一生の別れをしなければいけなくとも、今日だけは愛する人の全てを受け入れることを許してほしいと二人は神様に願った。



翌朝、セラの腕の中で眠っていたレイはセラが起きる前に部屋を出て行こうとした。

しかし二度と自分からセラの前を離れないというフィッセルでの自分の決意を思い出し、ソファーに腰掛けた。

小窓の向こうに見えた寄り添う二羽の鳥が目に入り、羨ましく思った。


「レイ、おはよう。」

「私、セラと別れるのが辛くなって来ました。」


レイは起きて来たセラの姿を見て、これが最後になるのかと思うと涙が溢れて来た。

感情に素直になったレイは、セラの胸の中に飛び込み泣いた。


レイはセラの胸の中で、走馬灯のようにセラと再会した日々を思い返した。

この二ヶ月あまり、レイとセラを取り囲む環境は常に余裕がなく切羽詰まっており、安らいで過ごした時間は一瞬しかなかった。


しかしお互い王族の身分を隠しながらここまで無事に二人で生きてこれたことは奇跡そのものだった。

そして愛する人の隣にいることができた日々は、幸福だった。


「セラが幸せになれますように。」


レイは涙を拭いながらそう言うと、顔を上げた。

そしてリガードを出てからずっと身に付けていた藍色のアクアマリン石のネックレスを外し、セラに返そうとした。

しかしセラはネックレスを受け取らず、レイの両手の中に包み込むようにして渡した。


「それはレイに身に付けていてほしい。」

「…いいんですか?」

「私はまた必ず、レイを探しに行くから。二人で一緒に生きていく夢を諦めていない。待っていて欲しい。」

「セラ…。」


レイはセラの言葉を嬉しく思ったが、返事はしなかった。

ただただ、レイはセラに抱き着く力を込めた。


しばらく抱擁した後、セラは少ない荷物を持ち、部屋を出て行った。


「レイ、行って来ます。」


自分の元を去るセラの大きな背中を見つめて、その姿が目に入らなくなるとレイは立ち上がれないほど胸が苦しくなり、大粒の涙を流した。

こんなに辛い別れになるなら逃げれば良かったと何度も思ったが、レイは最後に交わしたセラとの会話を思い出し、愛を築いた日々を胸の奥に閉まった。



セラは帰路に旅立つ前に、大聖堂の祭壇に行き、リリィから祝福を受けた。

そしてとうとうエルベラから旅立ちの際、テン王様は辺りを見渡し、セラにだけ聞こえるような小声で言った。


「セラ、あの娘は連れて帰らないのか。」


テン王様はミーナからレイの存在を聞いていたようだった。

テン王様のレイの存在を拒絶せず、まるで受け入れてるかのような物言いにセラは驚きながらも唇を噛み締めて言った。


「…はい。しかしまた必ず迎えに行きます。」


『三度目は絶対にこの手から離したりはしないー。』


セラはそう心に固く決め、エルベラを跡にした。

かけがえのない母親や愛する人との別れ、辛いことが重なったエルベラとの別れだった。


しかしいつかレイと再会することを糧に、これから訪れるであろういくつもの苦難を必ず乗り越えていくことをセラは心に誓った。



第二幕も終盤です。

次回からはセラ視点の話が続きます。

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