叶わぬ恋の先に
セラとレイの出発の準備は早急に行われた。
レイ達は、エルベラから示されたフィッセルから南に進んだ地点で、エルベラからの使者と合流することとなった。
その合流地点へは護衛も連れてはいけないというエルベラからの指示で、レイとセラの短い二人だけの旅が始まろうとしていた。
明日を出立に迎えた夜、レイの部屋に訪問者が来た。
「レイ、ちょっと話ができないか。」
「レオ?」
レオはそう言うと、レイにストールをかけ、静かな街にレイを連れ出した。
「こうやってレイと歩いていると、ローレフで一緒に過ごした日々を思い出すね。」
「私も…。でももう故郷のローレフには一生戻れないだろうから、なんだか悲しくなるよ。」
レイはそう言うと切ない表情になり俯いた。
レオはそんなつもりで言ったわけじゃなかったとショックを受けていたが、レイは直ぐ立ち直り言った。
「レオ、ロイ子爵様によろしくね。」
レイはレオに精一杯微笑んでいた。
そんなレイの頭をレオは撫でて言った。
「レイ…俺、なんだかレイとはしばらく会えなくなるような気がして。だからつい呼び出しちゃった。こんなこと本当はダメだと思うんだけど。でも最後なら、セラ様に許してもらえるかな。」
「レオ?」
辛気臭いレオの様子にレイは戸惑っていた。
「レイ、これだけ伝えたかった。八年間、俺のそばに居てくれてありがとう。セラ様がいるから大丈夫だと思うけど、何かあったらい俺を呼んで欲しい。どこにいても飛んでいくから。」
レオはやっと再会できた想い人との別れに、目頭に涙を溜め震えていた。
そしてレオは胸元から青い花の髪飾りを出し、横に束ねていたレイの髪に付けた。
「レイに再会した時に渡そうと思ってたんだ。一八才の誕生日プレゼント、これが俺が贈る最後のプレゼントね。」
レオからもらった髪飾りの花は、ワスレナグサだった。
レイはワスレナグサに秘められた神話を思い出し、胸が締め付けられた。
恋人のために亡くなった騎士を一生思い遂げるために添えられたのがワスレナグサの花であった。
レイは俯くレオの頭の上に自分のつけていたストールをかけて言った。
「レオ、ありがとう。私、レオに出会えて良かった。レオからもらったたくさんのプレゼント、忘れずに生きていくから。」
レオは堪えていた涙を流し、レイは優しくレオの背中を摩った。
レイの頭の中では走馬灯のようにローレフで過ごした八年が思い出され、レオからもらったワスレナグサの髪飾りを手に、その思い出はずっと忘れないでようとレイは決めた。
「セラお兄様、どうかご無事で。そしてお母様を頼みます。」
「セラ王子様何かありましたら、私を頼ってください。」
そしてついに、フィッセルから出立の日。
実兄と別れの場でも、ミーナは変わらず気丈でただセラの無事を願っていた。
ミーナが寄り添うテレサ侯爵は思いやり溢れ、セラは妹を安心して任せられると安堵していた。
むしろ涙を流してセラとの別れを惜しんでいたのは、フィンだった。
ゼロを含むフィンら護衛の五人は、セラより先にクルート国の王城に戻り、王様に近況を報告をすることになっていた。
「レイ。私は貴方を認めたわけではないからね。セラに何かあったら、絶対に許さないからね。」
最後までフィンは涙を拭いながら、恋敵のレイに憎まれ口をついていた。
レイは、フィンは誰よりもセラを想っているだけで決して悪い人ではないと分かっていたた。
「セラ王子様、レイを頼みます。私はクルート国王城で待っております。」
そう言ってセラの前に跪き深く頭を下げたのは、レオだった。
レイは昨晩のレオの涙を思い出しながら、セラとの恋を応援し新しい道へと向かうレオの強さに心を打たれた。
「さぁ、私達も出発しましょう。」
すっかりクルート国の護衛騎士の型についたゼロの一声で三人は集まった。
「ゼロ、行かないの?」
しかしただ一人、ロクだけがその場に立ち尽くしていた。
ロクは唇を噛みしめており、焦がれるような視線はミーナの先にあった。
何か言いたそうにしていたロクだが、しばらくしてゼロのところに合流し、セラに深く敬礼した。
「セラ、近くで守れないのは不安だが信じているよ。」
「ロク、皆を頼むよ。では行ってきます。」
セラは爽やかにそう言うと、ヘルサ侯爵が用意してくれた芦毛の馬に乗った。
「さぁレイ、行こう。」
レイはその果敢なセラの姿に見惚れながら、セラの手を取った。
レイはセラから誘導されて腰に手をやり、恥ずかしくて紅くなってしまった顔を隠した。
こうして、二人だけの旅が始まったのである。
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話は短くなってしまいました。
改稿するかもしれません。
次回、ミーナとロクに纏わる番外編を掲載します。
作者がとても好きなエピソードです。
ぜひご覧ください☺︎




