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レイはセラの問いに答えることなく、溢れる涙を堪えきれず声を上げて泣いた。

恐怖と孤独感が一気にレイの胸に沸いてきてしまっていた。


セラはそんなレイの頭を優しく撫でて、レイの隣に寄り添ってた。

一国の王子様にそんなことをさせてしまっている自分に対して、レイは情けないと思った。

しかしセラはレイが泣き止んで落ち着くまでずっと頭を撫で続け、レイの嗚咽が収まった頃しっかりと目を合わせて言った。


「レイ、大事な話があるんだ。聞いてくれるかい?」

「はい…。」

「ずっと、レイに相談したいことがあったんだ。」


しかしレイはセラの真剣な眼差しについ目を逸らしてしまった。

今のレイには、悪い事しか想像できなかった。

きっと今すぐに旅のお荷物の自分は追い出されるのだとレイは思っていた。


「レイを迎えに行けなかった私は、どうやってレイをお嫁にもらえばいいんだろうか?」

「えっ…。」


そう呟いたセラは恥ずかしそうに俯いては、口元は綻び微笑んでいた。

そしてすっかり薄紅色に色付いたセラの頬を垣間見たレイは、鼓動が高鳴る胸を抑えた。


続けて動揺するレイを隣に、セラは一息つくと、レイに本音を打ち明けたのであった。


「私は幼い時にレイに出会ってからずっと、レイの想っていた。伝えるのが遅くなってしまってすまない。アリセナ国の王城レイの正体をすぐに見破れずむしろ命を狙っていたこんな自分が、自分の本心を明かしてもレイに信用してもらえないと思っていたんだ。」


その言葉を聞いたレイの目頭は熱くなり、また涙が溢れかえってきた。

レイはセラの考える不安なんて、そんなこと考えたこともなかった。

しかしレイはセラの本音に嬉しさが募る反面、不安はついて回って消えなかった。


「セラの気持ちはとても嬉しいけれど、私もどうすればいいか分からないの。せめて私がアリセナ国の王女様でいたならば、セラと結ばれる道もあったのかもしれないと思うことをやめられない。」


それはレイが時折考えてしまう、二人のもう一つの未来だった。

もしセラとの恋を叶えることを一番に考えたら、自分はそのままアリセナ国の王女様であったほうが良かったとレイは思っていた。

例え敵国の王女様の王子様であっても、思いを貫く手段はあったのではないか。


しかし息の詰まる日々から愛する人に着いて行くことで逃げ出すという決断を突然して、行動に移したのはレイ自身だった。

セラと自分の恋の行方は、例え両思いだったとしても、自分が現実から逃げたことで叶わぬものになったこととレイはずっと絶望していた。


「それに私は、セラと出会った頃の強い私ではない。抗えない運命に中途半端に逃げてしまった。」

「レイ、私は今のレイもすごく好きだよ。人間らしいというか。私とのことを一生懸命考えてくれてたんだろう。」


セラはそう言うと、レイの手の上に自分の上に手を重ねた。

逃亡中でもセラは、誰からも許されないだろうレイへの恋心を捨てずに想いを強くし、未来を見据えていた。


「否定しないでほしいんだ。それに逃げ出そうと誘ったのは、私の責任だよ。一緒に考えないか?二人の未来を。少しずつ答えを出していこう。」

「セラ…。私もずっと、セラに初めて会ってから想ってました。貴方に一筋の光が当たり続けるようにと。」


レイは不安感が拭えなかったが、ただセラの気持ちに純粋に答えたいと思うと、胸の奥底に大切に閉まっていたセラへの想いが溢れ出てつい言葉にしてしまった。


セラはレイの気持ちに素直に喜び微笑み、その明るい笑顔はレイの絶望さえも癒していた。

レイはセラの胸の中に飛び込むと、セラは小さなレイの身体を受け止め、優しく頭を撫でて言った。


「私にとっての光はレイだったよ。今まで生きてこれたのは、レイの存在のおかげ。」


レイは囁くように耳元で聞いたその言葉に、歓喜があふれ涙が溢れ落ちた。

優しく自分の頭を撫で続けるセラと、星明かりの下でレイは見つめ合った。


「…セラ、その言葉を信じてもいい?」


レイがそう弱々しく呟いた問いに、セラは頷き強く抱きしめて言った。

まるでやっと手に入れた愛する人を二度と離さないだといわんばかりに。


「愛している。」

「私も…。」


そしてレイとセラは微笑み合い、深い口付けを交わした。

レイはセラの言葉だけを信じて、強く生きていこうと誓った。

例え二人の未来が見えなくとも、その言葉があれば明日は生きていけると思った。


レイはセラの胸から垣間見える満天の星空の下で、一日でも長くセラの側にいられることを祈り、幸福のひと時を堪能したのだった。

そしてレイは安堵感からかセラの胸の中で寝てしまい、セラはレイを抱きしめて横たわり朝を迎えた。




翌朝、まだ眠っているレイを抱えたセラがテントに戻ると、二人の帰りを待ちわびいていた護衛達にセラは叱咤された。


しばらくしてレイが起きると、まるで昨晩何事もなかったかのように旅路は再開した。

レイはレオの背中に乗りながら、レオに話さなければいけないことを伝えた。


「ねぇ、レオ。聞いて欲しいことがあるの。」

「ん?」

「私ね、セラ王子様とのことをレオには話したくなかった。…狡いよね。」


それはまたレイがレオへ隠していた胸の内だった。

レイはずっと変に誤魔化していたが、昨日のセラとの一件もあり、レオとの関係をレイははっきりさせたかった。


「私、本当はレオの気持ちをずっと知ってたの。でもこの関係がずっと続けばいいなんて、自分だけで満足していた。本当にごめんなさい。」

「俺もさ、一つ嘘をついていたよ。」

「え?」

「これからセラ王子様に着いて行きたいなんて、本当は嘘。俺はまだレイに未練タラタラで、あわよくばまたレイを守れたらと思ってた。」

「セラ…。」


そう言うレオの口調は、明るかった。

レイはどこまでも自分を想ってくれるレオに申し訳ない気持ちがあった。


「レイとセラ王子様が離れた場所でも想い合っていた十年の気持ちと、俺が近くでレイを想っていた八年の気持ちはいい勝負だと思うよ。でも俺はレイが幸せになってくれればいいから。レイの中で幼馴染の一人でいいから。変な気を遣わないで、俺に守ってもらって。」

「レオ…。」


レイはまだ涙腺が脆く、レオの言葉に目頭が熱くなった。

レオが自分を想う気持ちの深さと突然失恋した心境を考えると、レオの腰に添えていたレイの手は震えた。


「こんなこと言っておいてあれだけど、気にしないで。昔のままでいつも通りでいいから。俺人に言葉を伝えるの苦手で、すごく支離滅裂なこと言ってるかもしれないけど、本当に俺のことなんてどう扱ってもいいからさ。レイはこれから一人でもう抱え込まないで。」

「レオ、ありがとう。」 


レイはレオの思いやりに感動し、目から一筋の涙が落ち、誰にも見られないようにすぐに拭った。 

お互いちょうど良い距離感で幼馴染として隣にいられることをレイとレオは願ってやまなかった。



しばらくして、セラ達一行は険しいアリセナ国の山間部を抜けることが出来た。

平地に出て間も無く小さな漁村に着き、レオは洞穴にしまっていた五人では少し狭いボートを出して、旅は海へと変わった。


そして航海は予想よりも上手くいき、容易に国境を抜けて亡国することができた。




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