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本物の王女様

想い人や信頼する僅かな臣下からの裏切りと最愛の養母の死ー。

重なる悲劇にレイは呆然としていたが、今はただ身体を動かし全く未練のない王城から逃げることに必死だった。


レイの部屋のバルコニーにかけられたロープの下には、いつもセラに仕える二人の護衛がた。

そしてレイ達は王女の部屋の火事騒動で警備が薄くなったからか、王城から安易に抜け出すことに成功して近くにあった空き家に裏口から入った。

そこはセラ達がこれまで隠れ家にした場所だった。


セラの行動は全て計画的であり、他方で動いていたゼロとの行動と偶然重なり、迅速な逃亡劇となっていた。


「ちょっとセラ、なんか余計なもの付いてきたけどどついうこと?」


空き家に入り真っ先に不機嫌な口調で声を上げたのは、セラの護衛の一人ー華奢で小柄な者だった。

声の主はそう言うと、茶色の短髪だった鬘を脱ぎ捨て、白い長髪を後ろに靡かせた。


「女の人…?」

「そうなんだ。名前はフィンと言う。レイに目立たない服を貸してくれないか。」

「レイ?ん?エヴリ王女様のこと?」

「そうだ。レイも一緒にクルート国に戻る。」


フィンは翠色の目を大きく開き、セラの前に詰め寄った。

もう一人の護衛も驚き、胸の前に腕組みをして声を低くして言った。


「どういうことだ?セラ。そもそもずっと気になっていたよ。殺すはずだったエヴリ王女様を生かして連れて来るなんてどんな理由があったんだ?」

「話はあとでもいいか、ロク。とりあえず皆、着替えよう。それからゼロ、本物の王女様のところに私達を案内してくれ。」


セラはゼロを真っ直ぐに睨むと、そう言った。

この場でセラとゼロだけが、本物の王女様の存在を知っているようだった。


レイは渋々セラの命令を聞くフィンに連れられ二階に行き、全ての装飾や服を脱ぎ捨て、平民の街娘のような姿に変身した。

そして下階に戻ると、男性陣も軽装な服に着替えており、この場所で一番居心地の悪そうなゼロが小声で言った。


「あの、エヴリ王女様の脱いだものを私に渡してもらえませんか?」

「…そうだな。フィン、取ってきてくれ。」

「へーい。えっ、変態なの?このお兄さん。」


フィンは苦笑しながらそう言うと軽快な足取りで、レイの脱いだ服類をまとめてゼロに渡した。

こうしてセラに背中を小突かれながらゼロが皆を連れて行った先は、城下町の外れにあった小さな呉服店だった。


セラはフィンとゼロに店の周囲の見張りに回るよう命令し、残りの三人は店の裏に回ると、ゼロが裏口の戸を静かにノックした。


「…ゼロ!?無事に戻ってこれたのね。」


ドアの向こうから甲高い声が聞こえると、勢いよくドアが開かれ、声の主はゼロに思い切り抱きついた。

長い粟色の髪を靡かせる少女の姿を見て、レイは息を飲んだ。


「私のお姉さん…なんですか?」


思わず真っ先に口を開いたのはレイだった。

レイと全く瓜二つの容姿をした少女は目を細めて、舌打ちをした。

そして無言のまま、招かれざる客達をそそくさに裏口に通して言った。


「エヴリ王女様とセラ王子様ですか?」

「はい、私、クルート国第一王子のセラと申します。さぁ、お話を聞かせてもらえませんか。アリセナ国の 第一王女、マリア様。」


すぐに名前と本性を当てられたマリアは後ろにいるゼロを睨むと、階段を上って自室へとレイとセラはを連れて行った。


アリセナ国の第一王女様のマリア。

レイがその存在を知ったのは、アリセナ国に到着して間も無くのことだった。


マリアは王様と側室のアイナとの間に産まれた子で、産後間も無く母子共に亡くなったと聞いていたー。



マリアに促され、三人は小さなダイニングテーブルの椅子へ座った。

レイの真正面に座ったマリアは、早速身を乗り出して言った。


「この子、聞いていた通り本当私にそっくり。ゼロ、大丈夫よね?」

「あぁ。ただマリアの方が賢すぎるよ。」

「まぁもしバレたところで私には害はないわ。王も王妃も、せいぜい私が生きていたこと後悔するといいわ。」


明るくはつらつと話しながら紅茶を煎れるマリアの姿を、レイは黙って見つめていた。


レイも自分なりに亡くなっていたマリアがなぜ生きていてゼロと一緒にいたのか考えていたが全く分からなかった。

そしてこの四ヶ月間、自分はなんて周りに踊らされていた偽物の王女様だったんだと思い、複雑な気分だった。


そんなレイの心境を察してか、セラがマリアに向かって真相を聞いた。


「どうして殺されたはずだったマリア王女様が生きているのですか?」

「…それは敵国の王子様に教えなければいけませんか?」

「はい。貴方はエヴリ王女様として王室に戻ることになるんですから。いずれ敵国の王様の座につく可能性がある私が、エヴリ王女様が偽物だということを知っててよろしいんでしょうか?」


そうセラがマリアを脅すかのように冷静に答えると、ゼロが腰に付けた鞘から剣を出そうとする仕草を見せた。

マリアはゼロの行動を即座に制止させた。


「そうですね、戦争が始まりアリセナ国で殺されるはずが逃げてしまった王子様の貴方と、例え本物の血筋でも偽って王女の座につく私達の立場は同じようなものですね。まあセラ王子様は大体予想はついているんでしょうけど。全ては私の母達の出生が始まりになります。」


そうマリアが語り始めた内容に、レイはさらなる追い討ちをかけられることとなる。



アリセナ国で大きな権力を持つルーン公爵家当主と正室の子に、アイナ、マヤという双子の娘がいた。

アイナとマヤは一卵性の双子で瓜二つの麗しい容姿を持っていた。

しかし、明るく愛想の良い妹のアイナとは対照に姉のマヤは産まれた頃から身体が弱く性格も大人しく真逆であった。


そしてアイナは成人になると、公爵家跡継ぎのルーエンとの恋愛結婚を許され、すぐにゼロを出産し幸福な結婚生活を送っていた。


その頃、現在の王様は若くして正妃に先立たれ、側室が後継ぎとなる王子様を数人産んだが皆身体が弱く、幼児のうちに亡くなっていた。

そして後妻の正妃として王様の目に止まったのは、アイナだった。

王様に無理やり離縁を迫られたアイナは、双子の姉のマヤを王妃様とすることを条件に側室となった。


しかし、産まれた頃から両親の一層の愛を受けたアイナをマヤは疎ましく思っていた。

マヤは王妃様という身分でさえアイナの都合で得たことが悔しく、憤りを感じていた。


そしてマヤとアイナは同じ時期に懐妊し、先にマリアが誕生し、数日後にエヴリが誕生した。

予定よりも先に誕生してしまった妹の子がいつか女王になる可能性があることを懸念したマヤは、母子ともに暗殺を企て実行した。

しかしこうしてマリアが密かに生きていたのは、アイナの元夫のルーエンがその命を守り、今まで隠し育てていたからだった。


そこまでマリアは話し合えると、いきなり力強い口調になり言った。


「私は母様を殺めた叔母に復讐するべく、アリセナ国の女王様になりたいのです。そのためには生きているはずの貴方の存在が必要だった。エヴリ王女様が計画通りに戻られたことで、私は安心しました。」

「計画通り!?」


その言葉にレイは驚愕した。

まさかまだ自分は運命に翻弄されていたのかーと。


「そんなことも知らなかったのですか?貴方が攫われたことも意図的なことだったんですよ。全て王妃様がしたことです。」

「どうして…そんなわざわざ娘の私を国外で育させて帰国させるなど、王妃様は煩わしいことを計画したんですか?」

「きっと、貴方も誰かに恨まれ殺されると思ったんでしょう?マヤ王妃様はエヴリ王女様をお産みになった時に、難産が原因で子供はできない身体になりました。そして、クルート国の戦争をする理由が欲しかったんです。」

「じゃあお母さんが亡くなったことも全て…範疇だったということ…。」


レイは目の前が真っ暗になり倒れそうになったところを、隣にいたセラが支えた。


『自分だけではなくナタリーも、運命に翻弄され王妃の企ての犠牲になっていたのか。どうして私は気付かなかったのか。どこまでも無知で無力すぎる自分に一番腹が立つ。』


レイは溢れる涙を流すまいと歯を食いしばって俯き、テーブルの下で両手を強く握り閉めた。

そんなレイを隣で支えながら、セラはマリアを真っ直ぐ見て言った。


「そうですか。貴方はいずれアリセナ国の女王になるんですね。でもこれから行われるだろう負け戦で、貴方が即位する前にアリセナ国はなくなるのではないですか?」

「そうでしょうね、むしろ愚王のいるこんな国なんてなくなればいい。しかし私は王女として、アリセナ国民のためにはそんなことは言ってられません。王女として、この国を必ず守ります。」


マリアは落ち着いた口調で言った。

それは王の風格を感じさせるものがあった。


『隠されて育ったマリアはどんなに苦労して、ここまで国のことを考え、他国の正当な王子様と対等に話すことができるよう勉学に努めてきたのだろうか。』


レイはほとんど同じ血が流れるマリアを労い、強い意志に感心した。

それはセラも同様で、これからこの国を背負っていく全うな王女のマリアに対し、敵国の王族として脅威を感じた。


そしてマリアは表情を崩さずに、まるで見据えたかのようにセラに向かって声をかけた。


「私からも一つ、セラ王子様に聞いてもよろしいですか?」

「なんでしょうか。」

「セラ王子様はクルート国に戻ってどうされるんですか?」

「そうですね、私はマリア王女様とは違ってもう王位には固着しません。アリセナ国で、大切な人を見つけましたから。」


そう素直に言い放ちレイを見つめるセラに、レイは燃える自室での再会を思い出し思わず顔を紅らめた。

マリアにとって、セラとレイに本物の恋情があったことは誤算であったが、不利になることではないと感じていた。


「しかし逃げてばかりもいられないでしょう?貴方はクルート国の第一王子様なのですから。」

「そうですね、クルート国の王城にはいずれは戻らなければいけません。そして私も自分の国を守ります。無駄な戦争に大切な国民の犠牲を払いたくない。」


同じく国を想う同士だとーセラが微笑むと、マリアもつい口元を綻ばせた。

そしてセラはレイの顔色が戻ったことを確認すると立ち上がり、レイの手を取った。


「では、私達は行きます。私も含めて臣下達はクルート国一の剣に精鋭な者なのでどうか無駄に私達の跡を追って襲わぬよう頼みます。」

「ふふ。わざわざ敵国の王子様達を狙うほど私は暇ではありません。私は早々に王女様は城に戻らないといけませんからね。永年待ち侘びた日が来ましたから。」


マリアは気を引き締めながら淡々と、ゼロから荷物を受け取った。

その時レイは、マリアが着ていたシフォンのドレスの袖先から、右腕の刺青の跡が見えた。


「マリア王女様…右腕はどうしたんですか?」

「これはさっき、蝋燭のろうで焼きました。私の右腕には、マリアと書いてありましたから。貴方も自分の身のために早々にこの刺青を消した方がいいですよ。ストックの花も、アリセナ国の代々の王族に呪われてますしね。」


レイは赤く腫れて痛々しい火傷の跡を見て、マリアの抱える宿命の重さを感じた。

たった一人の血の繋がった妹であるマリアともう少し話がしたいとレイは思ったが、二人にはそんな時間は残されていなかった。


名残惜しさを隠したレイには、別れと再会が待っていた。


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