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重なる悲劇と真実

レイが王城に着き中に入ると、城内がいつもより騒がしく感じられた。

しかしレイは皆王様らの突然の帰還を前にして準備をしてるのだろうと、何も気に留めなかった。


レイが自室の前に着くと、部屋の前に二人の臣下がいた。


「エヴリ王女様。」

「あら、ゼロ。腹痛は治ったのですか?」


跪く二人の臣下は、ゼロとルーエンだった。

しかしレイが気さくに声をかけても顔を上げない二人の様子に戸惑いながらも、レイは自室へと二人を連れ入った。


「エヴリ王女様にお伝えせねばいけない事があります。」

「なんのことでしょう?」

「落ち着いて来ました。先程、急遽帰ってきました王様らの独断により、養母様の死刑が執行されました。」

「えっ…。」


衝撃の事実に、レイは言葉を失い頭が真っ白になった。

そして全身の力が抜けたようにその場に倒れそうになったところを、すかさずゼロが支えた。


部屋にの中にはいつも自分のお世話をしてくれ、秘事からの帰りを待っているはずのアリアの姿がなかった。

束の間の休息は、まるで意図的に図られていたのだったとレイは気付いた。

そして自分を支えるゼロの言動を思い返し、不審な点が浮かび上がってきた。


「ゼロ、ルーエン。部屋から出て行って下さい。」


レイは最後の力を振り絞るかのようにそう言い、ゼロとルーエンが静かに退出すると床の上に倒れ込んだ。


レイは絶望を通り越したのかもはや感情がなくなったかのようで、涙さえ出なかった。


『この王城に自分の味方はいなかった。そしてきっと今すぐ自分の下に来る人も…。』


「エヴリ王女様。お会いできませんか。」


ノックと共に扉の向こうから聞こえたその声の主は、先程まで想いを寄せていたセラ王子だった。


レイは躊躇うことなく、セラが望むように部屋に入ることを許した。

ナタリーの死刑を持って、明らかな敵国同士となったレイとセラだが、禁じられた二人の逢瀬を阻止する側近はもういなかった。


「セラ王子様。」


セラを部屋に連れ、レイがセラの端正な顔を見上げた。

レイの前に佇むセラは一瞬のうちに腰の剣を取り、レイの喉元に突きつけた。

それはレイが即座に予期した展開であった。


冷たい眼差しを向けるセラの目をレイはじっと見つめた。

この状況においてもレイは、セラの碧色の目を強く想い焦がれていた。


「…セラ王子様が私に近づき協力してくれた理由は、私の命を奪うためだったんですね。」

「その通りです。敵国で育ったエヴリ王女様による王様の直訴など戯言でしかやいでしょう。二国の戦争を回避する手段は一つしかありません。アリセナ国唯一の後継者であるエヴリ王女様を暗殺するれば、開戦することなどできない。エヴリ王女様の死が二つの国を救うちのです。」


セラの言う通り、ただ四ヶ月前に敵国の平民から王女様になった自分は、純粋に人を信じる赤子のようなものでだったとレイは思った。

それでもレイは真っ直ぐ、これから罪人になる想い人ーセラを見つめた。


「そうですか。王族というのは何て生きるのが難しいんでしょうか。セラ王子様に殺されるのであれば本望です。」


レイはそう言うと、右目から一筋の涙が落ち、セラの剣先に落ちた。


『今の自分が唯一できることは、ずっと想っていた人の手で死ぬこと。それで多くの人が救われるし、私は大好きな養母の下に行くことができる。』


しかし一つ心残りがあり、レイはセラに懇願した。


「死ぬ前に、願いことをしてもいいですか。」

「分かった。」


レイはそう言うと小物入れから宝物を取り出して、セラを背にし跪いた。

宝物である大切なネックレスを両手に握って合掌し、空に向かって囁くように願った。


「もし私が次に生まれ変わったときは、本当にお母さんの子供になれますように。そしてセラ王子様が幸せになれますように。」


こんな時までこれから自分を殺すだろうセラからもらったネックレスを取り出す自分はなんて未練がましいのだろうとレイは思いながら、最後の最後に涙が込み上げて溢れ、止まらなかった。

そんなレイに対してあることに気付いてしまったセラは、剣を持つ手が震えていた。


「…なぜエヴリ王女様が、そのネックレスを持っているのですか?」

「命乞いをしているわけではありませんが、最後に私の正体を明かさせてください。心も体も強くなりましたね、セラ。私は安心して、故国を貴方に任せられます。」


レイはそう言うと、最後の力を振り絞り微笑んだ。

セラは剣を床に落とし、頭を抱えた。


レイの掌から溢れていたネックレスのアクアマリン石の藍色の光かわ輝き、セラに届いていたのだ。


「そんな…。…私は貴方を、殺すことはできない。」

「セラ王子様。いいんです、このまま再び剣を取ってください。私の死が二つの国のためになるんでしょう。そして何よりそうすることで人質のセラ王子様が死なずにすむのであればむしろ…。」


しかしレイはこの場においてもなお、セラに殺されることを望んだ。

セラはレイの懇願を受け入れず、声を震わせて、そのまま床に手をつき四つ這いに倒れた。


「…私がアリセナ国の王女様を殺して母国に戻れば王位を譲るーそれが私が父とした約束だ。私にはクルート国の王様になって迎えに行きたいただ一人の女の子がいた。私はその日のために今日までずっと生きてきた。」


そしてセラは俯き戸惑いながらも、ずっと強く想っていたレイを後ろから抱きしめ、自分の胸の中に優しく包み込んだ。


「そんなことをしなくても、もうとっくに会えていたんだね。レイ。」

「覚えていてくれていたんですか、セラ?」

「忘れることなんて一度もなかった。まさかエヴリ王女様がレイだったなんて…。」


レイを抱くセラの腕の力は震えながらも、強くなっていた。

自分を抱きしめるセラの手の上から手を重ねたレイの涙は止まらず、胸が強く締め付けられていた。


敵国になってしまった、王子様と王女様。

それは運命に翻弄されたレイとセラの最悪の再会だった。

どちらかが死ななければ大きな犠牲を払う自分たちが、結ばれることは極めて難しい。


切ない気持ちを抱えながらレイとセラが熱い抱擁を交わしていると、部屋の向こうから二人の結末を待っていた者の声が聞こえた。


「セラ王子様、まだいらっしゃいますか?」

「あぁ。」


ゼロは間も無くレイの部屋に入り、レイの姿を見て驚きを隠せない表情をした。


「エヴリ王女様を殺さなかったのですか…。」


そう言い落胆した様子のゼロは、即座に近くに数本の蝋燭に火を灯し、本棚に投げ捨てた。

見る見るうちに本は勢いよく燃え上がり、部屋中に煙が立ち込めた。


「セラ王子様、何度王女の殺害を失敗するおつもりですか?さっきはシーダの邪魔が入ったから仕方ないが、今回は二人きりの二度とないチャンスでしたのに。エヴリ王女様の暗殺は私がします。エヴリ王女様はここで死ななければいけません。セラ王子様がエヴリ王女様を殺さなかったのにはどういう理由か分かりません。セラ王子様もここで私と剣に交えて死ぬか、逃げるかどちらかの選択を与えましょう。」


一番信頼していた臣下の裏切りを前に衝撃を受けるレイを庇い、セラは言い放った。

セラの選択に一抹の迷いはなかった。


「レイ、私と一緒にここから逃げよう。」


セラはそう言うとレイの手を取り、バルコニーに出て口笛を吹いた。

すると近くの木の麓から太いロープが投げられ、バルコニーに落ちた。

セラはローブをバルコニーの柵に結ぶと、剣を向けながら追いかけてきたゼロに意外なことを告げた。


「ゼロ、お前も一緒に逃げてお前の妹の下に私達を連れて行け。」

「なっ…。知っていたのですか。」

「あぁ。これから据えられる本物の王女様に、妹のレイは会うべきだろう。」


顔色を変えたゼロは先に逃げることを選び、セラは次にレイに降りることを促した。

既に燃え上がる部屋を前に戸惑う時間などないのだが、レイはバルコニーの下を見て息を飲んだ。


『私は無事にこの恋を貫けるのであろうか。』


代々アリセナ国の王女様に彫られる花ーストック。

ストックの花にはある言い伝えがあった。


それは敵国の王子様と恋に落ちた王女様がロープを使って、敵国の王子と密かに会っていた。

しかしある時ロープは切れてしまい王女は亡くなり、神様は亡くなった王女をストックの花に変えた。


アリセナ国の王室は、王女様がまるで敵国の王子様との逃避行と悲恋を予知して王女を縛るためにこの花を彫っているのかとレイは不安に思った。


「大丈夫。一緒だから。」


しかし隣に立つセラはレイの震える手を握り、優しく微笑んでいた。

レイはセラとなら運命を変えれるのではないかと信じ、ロープに手を取った。




だんだん怒涛の展開でしたが、間も無く一区切りとなります! 

よろしくお願いします。


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